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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第四章 状況整理
93/113

閑話 今日もギルドは騒がしい

さて、閑話ですよ。

それよりまたブクマ増えてますよ。

驚きですよありがとうございます、励みです。

あ、閑話長いです。一万文字普通に超えてます。

平常運転です。


では、閑話へどうぞー!

 冒険者ギルドは、特に夕刻が騒がしい。

 粗野で乱暴で、正直関わりたくないと思わせる冒険者たちの気を張りつめた恐ろしい顔つきが緩められる時間は、この騒がしい夕刻であることが多い。

 依頼を終え、依頼完了報告をし貰う報酬。

 それを一気に使わせてしまう程の魅力を持っている冒険者ギルド付属の酒場は、いつもながら騒がしい彼らの笑い声や怒号で湧き立っていた。


 「あの、武器って何がいいんですかね」


 そんな酒場に訪れるのは何も現役の冒険者ばかりではない。

 将来冒険者になりたいと思っている若者であったり、まだ冒険者として活動はしていない者であったり、現役を退いて冒険者になろうという者であったり、副業として依頼を受けたいと思っている者であったり。

 それぞれ理由は様々だが、冒険者として不安なのが、自らに合う武器とは何であるか、という疑問である。


 「講習、受けたでしょう? どうだったんですか?」


 そんな質問を抱える彼らが時間を気にせず質問できるのが酒場である。

 一仕事終えて気分が紅潮している冒険者のほとんどの口は軽くなっているし、感情が高ぶりやすく煽りるやつらや絡む奴らが大量にいると言うことを除けば、先輩に心配事を相談できるいい機会である。

 本来ならギルド職員に質問するべきなのだろうが、職務としてではなく雑談として話される方が当人も分かりやすいし、ギルドとしても留まってくれる時間が長ければ長いほど稼ぎになる為呼ばれるまで一切口出しはしない。


 「えっと、一応片手剣を………力もあるから腕にはめる形の盾もいいんじゃないかって」


 冒険者として必ず受ける講習で行われる適性検査に置いて、元高ランク冒険者から手ほどきを受けられるいい機会であり、その冒険者が進言する武器とは相性が良いはずなのだが、それを使用した年月が短ければその相性さえ感じ取ることができない。

 もちろん感じ取ることができなければ、不安につながり、自分の実力に不満を持ち、誰かに相談したくなる。


 「ふーん………で、今は弓矢を使ってる、と」


 彼らが質問を投げかけるのは決まって酒場のカウンター席で、対応するのはマスターと呼ばれる酒場管理をしているギルド職員である。

 いきなり冒険者に話しかけるなんて怖いマネができないから、毎度マスターが話に乗り、酒場を見回して話が合いそうな人を見繕ってそっちに話を投げかけ、それ以降の話しはその卓に任せるのだが、武器の質問に関しては、大抵のマスターが同じ行動をする。


 「皆聞いてくれ! この新人君が主要武器に困ってるらしいぞ!!」


 大きな声で喋る彼らの耳に必ず届くマスターの声に、多くの冒険者が話題を持ってきた新人君を見つめる。

 いきなり集まった視線にビクッと肩を震わせながらおずおずと頭を下げる新人君に、得物を見つけたと言わんばかりに酒を飲み料理を喰らっていた冒険者たちの口元が弧を描く。


 「使用してるのは弓矢、ただし推薦は盾持ちの片手剣! さあ、誰が彼に話す?」


 なぜマスターがこの話を全員にするのか、それは、知ってほしいから、と言うのが一番近いかもしれない。

 確かに生存を第一に考えるならば、何が得意で何が苦手で、どうするのが一番楽なのかと言う戦闘方針を打ち立てるのが一般的で、そこに付随する武器の選択は、狩る獲物や行く場所に付けて変えるのが良いと言われている。

 しかし、皆そんな簡単に割り切れる訳ではない。

 だからこそ知ってほしいのだ。

 冒険者が自らの得物に対する自慢話を。


 「片手剣かー」

 「盾持ちならおまえじゃね?」

 「じゃあ、俺から話をしようか」


 僅かに囃し立てられながら一人の青年が立ちあがる。

 新人君よりも年上だが、その歳で周囲から推薦されるほどの実力を保持していると考えればだいぶ優秀な方だろう。

 ここで推薦される者は、基本的にその武器で魔物を屠れる実力を持つ者、つまりCランク冒険者なのだから。


 「俺はベル。俺が使ってるのはこの片手剣だ。パーティーは三人。人数が少ないから前面に立って攻撃を受け流しながらこいつらが援護してくれるのをひたすら待ってるのが基本的な戦闘方針だ」


 ■□■□■


 今日も三人で魔物狩りである。

 同じ村出身でここまで三人でランクを上げられたのは、単に実力があったからじゃない。三人の間に確かな信頼が築けていたと言うことだ。


 「いつも悪いな、ベル」

 「良いってことよ。俺はお前らより屈強なんだから」


 男二人に女一人のパーティー編成。

 盾持ちの片手剣であるベルに、補助で短剣を使う弓士であるソラ、罠を仕掛けることが優秀でいくつかの魔術を扱うことができる魔術師のフィオの三人構成。


 「それじゃ、いつも通りに」

 「おう」

 「うん」


 三人で協力して地道に罠を作り、そこにその罠の発動を任意で行えるように魔術をかけたところで作戦は開始される。

 ベルは罠を踏まないように注意しながら獲物が来ると予想ができる場所に駆けて行く。全員が配置についたところで、遠目を見渡すソラが対象の獲物を見つけ、弓を引き絞る。

 そして、対象範囲に入った瞬間、ソラの手から勢いよく矢が飛び出し、獲物が必ず痛いと注意を向ける場所へ突き刺さる。気配を消している他二人にそれが上手く行ったと知らせるために、僅かに細工をした音の出る矢を打ち上げれば、獲物に自分の居場所を教えると同時に仲間に作戦の第一段階が完了したと知らせる合図となる。


 「次ぃ!」


 第一段階が終わり、特定の場所まで引き寄せれば、次はベルが動く。

 迫る獲物の視線をこちらに向けるため、獲物の弱い部分を切り裂き、怒って向かってくる獲物を遮蔽物を使って躱しながら、時にわざと盾で受けて、その衝撃で体勢を変え獲物を特定の位置へ誘導するくらいのことはやってのける。

 そんな状態で小賢しいほどに張られた罠が発動し、罠の発動と共に足を取られて動けなくなった獲物の眼にグサリと矢が突き刺さる。

 そして痛みと混乱で思うように動けない獲物の首をベルが撫で切るのだ。


 「よし、こんなもんか」


 獲物の目の前に立って息が切れたことを確認してから仲間を呼び、そこからは普通に獲物の解体だ。

 場合によっては討伐証明部位のみ切り取って燃やしてしまうが、大抵の場合獲物から採れる副産物は必ず持ち帰るのだ。使える物、売れる物をひたすら剥ぎ取ってから、灰になるまで焼き切り消火する。

 この時周囲へ気を配るのは大抵の場合遠距離を見渡せるソラであり、ベルは解体の手伝い、解体そのものを行うのはフィオだ。もし危険が迫った場合、近接戦闘が得意なベルを解体へ回してしまうと、直に反応できない危険があり、僅かな判断遅れが命の危険に直結するから毎度こういう役回りになっているのだ。

 一番きれいに剥ぎ取れるのがフィオだから、と言う点も無きにしも非ずだが。


 「さて、帰るか」


 彼らが狙う得物は単体で行動するものばかりだ。

 群れで行動する獲物を狙うには、少々構成が悪い。

 一方的に倒せる戦力差があればそんなこと気にしなくてもいいのだが、そんなものばかり相手にしていたら飯も食べていけないだろう。

 弓には矢を使うし、罠にはそれ相応の材料が必要だったりする。一番管理が楽な盾も、毎回わざと攻撃を当てていれば衝撃を受けて戦闘中に真っ二つなんてことも考えられる。

 後ろに頼れる仲間がいるからこその戦闘方法。

 だが、獲物の弱さを数段落とせば、ベルだけで依頼をこなすことも時間はかかるが不可能ではない。そんな攻守に優れているが決定力に僅かに欠けるのが盾持ちの片手剣使いなのである。


 □■□■□


 「と、言う感じだ。盾の重みと剣の重みに慣れないといけないし、まぁ剣なら大抵同じこと言われるだろうが下半身がかなりしっかりしてないと無理だな。それに目測を誤ると攻撃が当たらないこともある。向こうの攻撃を防ぐ盾が視界の邪魔になってるからな」


 ふむふむと聞いている新人君。

 周囲が冷やかしながらも一応終った冒険譚。

 どの武器にも利点と不利点があり、それをどうやって仲間と相談しながら乗り超えるのか、と言うのが大体の冒険者たちが一流になる壁だと言ってベルの話は終わる。

 周りからの冷やかしは、まだ若いのに人生語っていいのかい? なんて言葉が多いが、気にしていないのか、だったらあなたの冒険譚を語ればいいじゃないですかと笑う。


 「じゃあ、次は僕かな? 僕は採取寄りの依頼を多く熟しているけどね」


 次は誰だと言う声に、また別の卓から名乗りが上がる。

 今度は冷やかしと言うよりも感嘆の声が上がる。彼が妖精族の森人であり、その外見とはかけ離れた年齢分生きていることを知っているからこその反応だ。


 「僕はアウィ。大抵は一人で、たまに大きなパーティーに参加してる。専門は弓だね。小さいものから大きいものまで、場面に合わせていろいろ使ってるよ」


 ■□■□■


 アウィはランクAの妖精族の冒険者として、各地を転々としながら活動をしている。

 ひとところに留まらないのは、各地で生きる同族の現状を確かめる為と、ひとところに精霊が留まって魔力溜まりが作り出されないように適度に発散させるのが目的だ。

 アウィの武器である弓だが、普段アウィが背負っているのは弓ではなく棒だ。

 最初っから弦の張ってある弓を使用する者が多い中、アウィが普段使いにしているのはその場で弦を張る物。武器そのものが痛み難いのと、調節によって射程をわずかに伸ばしたり、少しの調節ができる玄人向けの弓である。

 まぁ、それが普通使いと言う異常性もさることながら、アウィの旅をしながら馬に持ち歩かせている弓の数は十種程度になる。


 「今回狙うのは小さ目でしたよね………ふむ、今回はビビィですし、毛皮も売るとなるとおそらく小さい物の方が良いですかね」


 弓は簡単に言ってしまえばどこまで弦を引けたかが飛距離と威力に大きく関係してくる。

 付随として選ばれる矢の性質も、大きく性能を左右するが。

 今回の獲物であるビビィは、獣であるならば小さい四足獣で、大きな耳と高い索敵能力を持ち、後ろ脚で跳ねるように移動するのが特徴的な獣である。大きさは、小さい物は成獣で人間族の大人の脹脛あたりまでのものから、大きいものになると腰あたりまであるのもいる。

 今回は普通の獣であるビビィを、食料用として取ってくるのがアウィの任務だ。


 「矢尻は………今回は囲い込む形で………うーん」


 需要があるため、ギルドではビビィの狩りを低ランクに設定してあるのだが、ビビィを捕まえるのは相当に難しい。群れで行動するビビィは、その高い索敵能力と群れでの情報共有を怠らない為、まず人の目の前に姿を現さないのだ。

 稀に低ランク冒険者が狩りに成功するが、それは逸れであることが多く、捕まえられるのも精々一、二匹と言ったところだ。

 需要があるのに、それだけしか取れないのでは困る。

 と、言うことで、高ランク冒険者には指名依頼としてビビィの討伐が依頼されることがある。探索能力に優れ、遠距離から気が付かれずに射抜ける弓士はその筆頭だ。


 「曲がる矢で………罠を仕掛けられたら簡単なんだけどなぁ」


 アウィは木を削った弓に頑丈な弦を張り、中で四つに仕切られた矢筒を二つ、腰あたりに下げる。

 パーティーを組まず一人で向かう為、持っていく矢の種類も様々だ。

 矢の本体は木を削ったものだが、矢尻は二種類。何の加工もしていないものと、魔物の甲殻より削り出した値の張るものだが、おいしい食事には代えられない。なんといってもこの依頼、金額を上乗せすることができない代わりに、肉を卸す高級料理店での食事代を一月分ギルドが持ってくれると言うおまけが付いているのだ。

 自分で製作できるとはいえ、矢は基本的に消耗品だ。

 保有魔力が無限にあれば魔導弓を使って事故魔力で矢を精製してもいいのだが、無限にあるわけがないので依頼をこなせば熟すほど金額は手ですくった水のように次から次へとこぼれて行ってしまう。


 「よし、これでいいだろう。………百羽程度仕留めれば文句は言われまい」


 馬を一頭借り受け、その馬の背に縄のついた特製の木枠を付け、森へと行く。

 そこからは木々と語らいながらの仕事だ。

 精霊を通してビビィが大量発生している場所を教えてもらい、全滅しない程度に狩っていく。

 まだ低木の多い場所では木の上に昇り上から額に一発。腰あたりまでの草が多い場所では精霊魔術を使って地面を掘り返し一網打尽に。あたりが見渡せる高木の森では、撹乱させるために軌道が湾曲するように風切り羽を付けた矢を使って追い込みながら。

 日が暮れるまで狩り続け、馬の背に付けた木枠から垂れる縄に首を落としたものを括り付け血抜きをし、寄ってきた獣や魔物を狩りながら町へと帰る。


 「ほら、これでいいだろう?」

 「………は、はい。依頼、完了です。報酬を―――」


 木枠の上に付けてある籠いっぱいに入ったビビィをギルド職員に渡せばそれで依頼は完遂。

 後は料理店に行って料理に舌鼓を打つだけだ。

 久々に食べる高級料理の数々を思い浮かべて内心涎を垂らしながらギルドを後にした。


 □■□■□


 「と、言う訳でね。熟練の者に成ればなるほど、弓矢は金がかかると思うよ。遠くを見渡せる目がないと辛いだろうし、一人で挑むなら不利な足場でも踏ん張りが付かないといけないし、弓を引く腕力も必要だ。もし弓を続けるのなら、良い仲間を見つけることをオススメするよ」


 そう言ってほほ笑むアウィに新人君はこくこくと頭を縦に振る。

 やはり現在弓を扱っている分、弓を使い続ける理由が欲しいのだろう。同じ弓を扱う者として、弓だけでAランクまで上り詰めたアウィに憧憬の念でもあるのかもしれない。


 「さて、どうですか? 参考になりましたか」

 「あ、多分?」

 「おい。多分とははっきりしねーなぁ」


 新人君の隣にドカッと腰を下ろした男性は、悪辣な顔でにやりと笑い、それを見たマスターは大きくため息を吐く。

 新人好きの玄人(お節介焼き)は多くいるが、その大抵がこうも悪辣顔なのがやはり冒険者は野蛮だと言う噂を広めてしまうのではないかと思っているマスター。なかなか否定できないのが悲しいが。


 「ひぃ」

 「怖がってますよ。そう言えばBランク昇格おめでとうございます」

 「おうよ! そう言えばな、俺は最初両手斧を推薦されたんだがな、今使ってるのは弓なんだぜ」

 「………え?」


 そう言う悪辣な顔の男性に称賛を贈る声と、冷やかす声が同じくらい酒場に降り注ぐ。


 「ズィー! 昇格おめでとう!」

 「その体格で弓はねーよ!」

 「まだ弓やってたのかよ! お前なら近接武器でイケるって!!」

 「昇格おめでとう! 今度一緒に依頼行こうぜ!!」


 ズィーは酒場の面々に悪辣な笑みで微笑み、新人君に向き直る。

 ズィーの体格は、確かに両手剣など重い武器を扱っているようにごつごつとしていて、どこもかしこもがっしりとしている。とてもじゃないが弓を扱っている者とは思えない。


 「いいか、俺が使ってるのは魔導弓なんだ。魔導弓と言っても、矢を魔力で作って打ち出すわけじゃねーけどな」


 ■□■□■


 仲間うちじゃ破壊弓士なんて言われてるズィー。

 彼が矢を売った場所は地面がひっくり返り、あった物を全て破壊してしまうからそう言われるのだが、それと同時に彼の外見的印象もそう言われる由縁である。


 「ズィー、どうする?」

 「あん? 俺が吹っ飛ばして吹っ飛ばせば何とかなるだろ」

 「お前は………ホント作戦会議に向かないやつだよ」


 ズィーの外見は、一言で言ってしまえば恐ろしい。

 弓士として軽い装備を心掛けている為、軽金属で要所のみを守る鎧という服装なのだが、その恰好で魔導弓を背中に付けて狩場へ行こうとすれば、心優しいおばあ様方からもっと安全な装備で、ちゃんと武器も持って行けと注意される始末。

 普通よりも大きい体格、服の下でも分かるほど盛り上がった筋肉、それに見えている肌に付いている数々の傷。

 それは近接武器を扱って、後方支援を期待する前衛そのものの外見だ。弓士だからこれでいいと言うズィーの発言に呆然とする様子は、彼と依頼をこなしたことのある者であれば誰でも見たことがあるだろう。なんせ初めて会ったときは必ず皆そう言う顔でズィーを見るのだから。


 「あ、そうそう、俺の弓、近接にも対応できるようになったぜ」

 「は!?」

 「ま、受け止めることはしたくないけどなー」


 ズィーの魔導弓は金属製である。

 魔導弓とは、弓そのものに魔術陣が刻まれていて、魔力を流すとその陣の効果が表れる物全般のことを指す。

 ズィーの魔導弓は、金属製である弓や弦が折れないように補強をする魔術陣が刻み込まれていて、弓に魔力を流すことで普通の弓のようにしなるようになる。まぁ、補強するだけなので、金属そのものの抵抗を無に帰しているのはひとえに彼の腕力の成せる荒業なので、仲間内では魔導弓とは呼びたくないと一致団結している。

 その魔導弓を腰から取り外して仲間うちに見せるズィーだが、二つ折になっているそれはどう見ても両刃の剣にしか見えなくなっている。


 「………お前、前衛に来いよ」

 「やだよ。目の前で攻撃されるとか怖いし」

 「………その外見で子供みたいなこと言うなよ」

 「怖いし」

 「こっちが怖いわ」


 ズィーの外見から察することのできない、弓士でいる理由。

 もともと両手斧を推薦されたのも、その有り余る力を一点に集中して使い切る力を考慮しての物だったのだが、目の前で相手と打ち合うことに恐怖を感じるのか、ある意味弓へと逃げたらそれにはまってしまったと言うのが真実だ。


 「んじゃ、今回もズィーの矢で地面吹っ飛ばして、相手が怯んだところに攻撃。なるべく手足から攻撃するから、ズィーは頭を狙ってくれ」

 「了解、俺は足やるよ」

 「うん、わかったよ、僕も足行こうかな」

 「おう………頭だな。分かった」

 「手か………ズィー間違ってもこっちに撃ってくれるなよ」


 冗談を言って励ましあいながら六人パーティー現地へと進む。

 二足歩行の大型魔物が、町付近の崖近くで出たと言う話を受けて、その調査とできるならば撃退すると言うのが、彼らのランク上昇試験であり、ここに集まった全員が、Cランクでも名を馳せてBランクでもやっていけるだろうとギルドに判断された者たちである。


 「これだな」


 町を出て、すぐにその痕跡は見つかった。

 巨大な足跡と、なぎ倒された木の道。

 獣道とは言えぬほど荒々しいその道の木々はまだ新しく、その道が作られたのが最近であることを告げている。


 「このまま進もう」

 「おい、コレ………」


 足跡を辿ってみれば、何かを追いかけていたのがよく分かる。

 そして、踏みつぶされたように地面に深く刺さった両手剣。錆びてはいるが、柄に巻きつけられた布はしっかりと結ばれていて、これがここに埋まったのは最近なのだと分かってしまう。

 そこから少し周囲を詳しく観察してみれば見つかる馬の足跡や焦っているのだと思わる靴の跡。


 「これ、盗賊じゃないか?」

 「運悪く見つかったのか………」

 「町にとっては幸運だろうな」


 見つかった痕跡が、武器や防具であることが多く、死体がないことから食べられたのだと推測できる。

 地面に落ちているのは、布に巻かれた高級そうなものや、普段身に着けている雑多な物、簡易食料など様々だが、魔物に追われたのが商人であった場合、荷物は捨てて護衛が人質となってひきつけ、あとで荷物を取りに来る作戦を取ることが多い。まずは命なのだ。物を持って逃げるのは、強欲な商人であるか、その商品がないと食いつなげない盗賊しかいない。


 「おい、いたぞ。どうやら考える頭があるようだ」

 「ちっ。面倒な………」

 「どうする」

 「一旦出直すか? 討伐できないと踏んで援護を呼ぶのも場合によっては良しとされてるだろ」


 ランク昇格試験の内容はある程度決まっているが、CランクからBランクへの昇格は敵と自らの力量差を推し量ることを念頭に置かれた依頼の達成だ。

 すでに依頼の達成目標の一つである調査は、巨大な魔物を視認しそれによって引き起こされた現状を理解しているから達成している。ここからはあれが自らの手に負える化け物であるか、他人の手を借りなければならない怪物なのかを見極めなければならない。


 「なぁ、確か、あの崖の下の川って枯れてたよな」

 「ん? ああ。数年前の日照りで完全に枯れたはずだ」

 「来年の雨期あたりで向こうの湖が溢れるんじゃないかって言われているから、今年いっぱいは水なんてないだろう」


 川がどちらから流れているのかを確認したズィーは悪辣な微笑みで仲間を見回す。


 「お前、まさか」

 「ああ。あれ、落そうぜ」


 そう決めてからは早かった。

 六人を対岸に向かう四人とこちらに残る二人に分け、向こうで木を切り倒す音を立ててもらうのを合図にこちらで崖近くに寄った魔物の足場ごと下へと突き落とす作戦は決行される。


 「ズィー、合図だ」

 「ああ。派手に行こうぜッ」


 足を地面にめり込ませ物理的に動けないように固定してもらったズィーは、もう一人に視覚補助の付与魔術をかけてもらい、派手に同時に番えていた三本の鉄の矢を解き放つ。

 ふらふらと対岸へと手をかけようとしていた魔物。

 しかし、地面へと落着したズィーの放った矢が、その行動を阻害する。突き刺さった三つの遺物は地面深くへ潜り込み、大地へと吸収されなかった衝撃は徐々に地面に亀裂を入れていく。

 魔物がこちらを認識する暇はなかったはずだ。

 ゆっくりと過ぎていく時間、魔物が後ろを振り返って異常を確認しようとした時すでに遅し。魔物の足元まで広がったひび割れは、魔物の自重によって崖の下へと魔物を誘うきっかけになる。

 もし魔物がこちらに気が付いていたらこんなにうまくはいかなかっただろう。もしズィーが外見に似合った殺気を放つ男だったら明らかに失敗していた。外見に似合わず臆病なズィーだからこそ、大人しく魔物は崖の下へ落ちてくれたのだ。


 「落ちたか」

 「落ちただろ」

 「確認行くか」

 「行こう」


 落したとは言え安心はできない。

 崖の途中に出っ張りがあるかもしれないのだ。

 崖がどのようになっているのかなんて、ここ数年枯れているから確認の情報も入っていないし、昇格試験は下見も行えないほど急な要件なので下調べも十分ではない。そんなところで行った即興の作戦だ。成功しているかはきちんと目で見るまで分からない。


 「よし、お前覗けよ」

 「いや、どうせ死体だとしてもお前は試しに撃つんだからお前が見ろよ」


 なんて不毛な掛け合いをしてから、結局賭けに負けたズィーは弓を全力で引き絞って崖の下へと視線を落とす。


 「っ!!」


 意識する前に手から力が抜けていた。

 目があったのだ。

 やはり枯れていた川の周囲の崖には出っ張りがあったようで、完全に下まで落ちていなかった魔物は鈍く光る双眸でズィーを睨んだのだ。

 恐ろしい瞬間、自らが死んでしまうと錯覚してしまうような殺気はなかなか目を閉じても、既に頭部を失くし谷底で転がっている魔物だったものを見ても、消えてくれない。


 「あ、やっぱり生きてたのか」

 「やっぱりってなんだよ!」 

 「いじゃんか。これでヤれたんだし」

 「良くない! 心構えとか、いろいろあるだろう!?」

 「あーあー。じゃ、俺は町まで行ってギルドの連中呼んでくる。一応来年には復活するかもしれない川だからな。あの死体はどうにかして運び出さなきゃ」


 去っていく仲間の後ろ姿に、まだ緊張の解けきらないズィーは弓に矢を番えたまま辺りを警戒し、訪れた仲間に撃ちそうになり、呼ばれてきたギルド職員に撃ちそうになり、惨状を見た職員に引かれながらもまだズィーは警戒していた。

 何とか魔物の素材を回収し、他を丁寧に焼却してやっとズィーの緊張は解けた。

 身長と同じくらいの魔導弓を操るズィーの、Bランク認定として周囲から呼ばれるようになる二つ名前には、必ず破壊の二文字が入るだろうことは、その場にいる本人以外全員が予想している。


 □■□■□


 「ま、近接でも遠距離でも、鍛えた体は無敵と言う訳だ!」

 「は、はぁ………」


 お前は特殊だと言わんばかりに周りから声が上がるが、どこ吹く風とズィーは聞き流す。

 やがてアウィを酒場の中に見つけたズィーは少年のように目を輝かせてアウィの元へと行き、いまどんな弓を使っていて矢尻は何がおすすめなのだとか語りだす。


 「ああやって、自らの武器の現状を知るいい機会を逃さないのは、自らの武器を愛している傾向ですよ」


 細見のアウィとごつごつしたズィーが、くくりとしては同じ弓を扱う冒険者だと言われても納得しかねるが、それが現実なのである。


 「そう言えば、講習会ではいろんな武器が置いてありましたけど、何種類くらいあるんですか?」


 やはり推薦されていても弓を手放したくないが、アウィのような圧倒的な力量も、ズィーのような物理的な破壊力も、持っていないからこそ新人君は弓への憧憬も諦めも付かないのだろう。


 「そうですね。あれは魔術以外の近接格闘に関して量るものですし、短剣、片手剣、両手剣、斧、槍、あとは盾や拳ですかね。試験官本人が過去相対したことのある最高の使い手たちと見比べて、どれに適性があるか判断しているんです」


 盾持ちの片手剣であるベルは、もともと両手剣を愛用していて、重さに慣れていたが防御面が疎かになりがちだった。それをどうにかできれば更に才能は伸びるんではないかと思った試験官は彼に今の形態を進言し、それは確かに彼の力になった。

 補助で短剣を使う弓士であるソラは、元々短剣を使用する近接戦闘型だったが、もともとパーティーを組むことがはっきりしていたので、その俯瞰能力をしっかりさせた方がいいと判断した試験官は弓士を進言した。身軽な彼は近接も遠距離もこなる万能型に育っている。

 罠を仕掛けることが優秀でいくつかの魔術を扱うことができる魔術師のフィオは、講習会で初めて魔術について詳しく知り、いくつかの簡単な魔術を身に着けることで、もともとあった罠士としての才能を引き上げている。ただし近接戦闘に関しては壊滅的なので、ソラに護衛をしてもらうことが多い。

 様々な弓と矢を使い分けるアウィは、出身地でも弓の名手と名高く、もともと弓を扱うためだけに訓練を重ねてきただけあって、試験官もアウィの弓には一目置いたほどだった。自他認める弓矢の使い分けができる才能の持ち主だ。

 金属製の魔導弓を己の肉体で使いこなすズィーは、両手斧を振るう、防御を捨てて攻撃にのみ前進する方がその肉体的能力を如何なく発揮できると試験官に考えられたが本人が臆病なため弓へ。しかし自らの性質に合った得物を手に入れたことで、弓も選択肢の一つとなった。


 「ま、結局は自らの心の持ちようなんですよ」

 「やっぱりそう言う結論になりますよね………」

 「あの講習の実技を行った会場では定期的に戦闘系ギルド職員による講習や実演がありますから、そこで教えてもらったり、今回話を聞けた彼らと共に依頼に行かせてもらったり、道は広がったでしょう」

 「………そうですね。っし、聞いてみます!」


 新人君は、酒を飲み交わす冒険者たちの間に飛び込んでいく。


 「おいマスター」

 「なんですか?」

 「あんたも人が悪いよな」

 「おや、言いがかりは止してください」


 カウンターに座っている冒険者が、新人君に聞こえないように小さな声でマスターへとお言葉をかける。

 対するマスターも肩をすくめて、彼が出してきたジョッキに酒を継ぎ足す。


 「あの『黄昏の翼』で弓士だったんだろ」

 「………」

 「元冒険者ランクAのマスターさん?」

 「………古い、過去の話ですよ。今じゃ同胞がどこにいるかも分からない」


 マスターの表情が少し曇る。

 『黄昏の翼』は先の大戦で裏切り者を仲間に抱えて、頭を失ったことで自然消滅した時の傭兵団だった。

 解散した後は誰にも会っていないマスターにとって、いい思い出もあり、思い出したくもない悲惨な出来事もあったあの傭兵団は、人生の最高潮だったんじゃないかと思っている。噂で聞く知り合いたちは、皆出世して良い給料と幸せな家族を築いているらしい。

 マスターは傭兵団を離脱した後、冒険者となりAランクになったは良い者の、目標がなくギルドの職員となった。今では酒場の管理人だが、数年前までは戦闘系ギルド職員として冒険者の手ほどきをしていたのだ。

 今、彼の目の前でジョッキに入った酒を飲み干している冒険者も、彼が弓士として育てたと言っても過言ではない冒険者だ。


 「あいつが、それでも弓が良いって言ったら、教えてあげれば」

 「………考えておきましょう」


 そう言って、グラスを磨き、カウンターの注文を取っていくマスター。

 酒場の卓で、多くの冒険者に囲まれながら笑顔を絶やさずに各々の武器自慢を大人しく聞いている新人君の様子に、知らずと口元が緩む。


 「弓を知りたいと言われたら、教えてあげたいと思えるほどに、私はもう冒険者(お節介)なのですね」


 黄色い灯りに照らされて、茶色い木目が綺麗に映るギルドの酒場。

 依頼の終えた冒険者たちの交流の場であり、悩みや相談、冒険者に寄り添って話を聞くのが酒場管理人(マスター)の仕事。

 酒を飲み、言葉を交わし、拳を交わしながらも少しずつ繋がりを増やしていくそんな一見ぎすぎすしてそうに見えるが実は温かいそんな場所。


 「よし、こいつの未来に」

 「俺らの自由に」

 「乾杯!」

 「かんぱーいっ!!」


 酒が飛び散り、唾がこちらに着いたとつかみ合う冒険者。

 後で掃除が大変そうだとため息を付くマスターは笑っている。

 ああ、今日もギルドは騒がしい。

恐らくシシラギヤのどこかの冒険者ギルド。

多種族が多く入り混じっているのは基本的にシシラギヤ。

ギルドは、基本的に家族から放逐された者が最終的にたどり着く何でも屋なので、酒場の雰囲気はマスターを家長にした家族みたいなもの。

事務的な受付とは違った、他愛のない酒場の話を書きたくて。

イメージは末っ子が進路に悩んで兄姉やその友人に進学先でのことを尋ねる感じ。え? 全然違う? 


さて。次回も閑話です。

どんな話を書こうか………活動報告にて募集中w

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