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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第四章 状況整理
90/113

19 学園都市国家スコルダスⅠ

一応一週間以内に戻ってきましたが連日投稿には程遠い現状。

それなのにブクマが一件増えている奇跡。

ありがたやーありがたや~。

そう言えば、さんぴん茶とジャスミン茶って言葉的にどっちがなじみ深いんでしょうね?個人的にはさんぴん茶なんですが。

沖縄が有名な観光地な分、割と知られているさんぴん茶ですが、最近までジャスミン茶と同じだとは知らなかったと言う友人が居ましてね。


さ、無駄話はここまでにして本編に行きましょう!

 スペーラはあたらしい馬を買おうと思っていたのだが、大抵シノが拒否した。

 機動力が落ちるのは悪いことではないのかと思い、勝手に買おうとしたスペーラは、今現在崖っぷちだった。


 「冒険者登録証でもいいんですよ?」

 「えーと………」

 「馬は町の資産ですから………身分証明を出してもらわないと売れないんで」


 身分証明を出すわけにはいかない。

 スペーラの身分証明証には、Cランク冒険者であることと共に、シノの奴隷であることが書いてある。

 奴隷であることを示す『所有印』は、普通首に刻まれそこから胸へと刻印されるものだが、シノの場合身長と奴隷の使用用途を考えて右手首から胸へと刻印するように変更している。だから馬屋の主人もスペーラが奴隷だとは気が付かなかった。

 それなりに身なりがよく、冒険者ギルドがその身を保障しているCランクの冒険者と自己紹介したスペーラをまさか奴隷だとは思わなかったのだろう。シシラギヤでの奴隷は基本的に農耕奴隷だ。迷宮に潜る探索者たちの荷物持ちをしたりする奴隷もいるが、基本は農耕奴隷。まさかCランクまでこの若さ(外見)で上り詰めたのに奴隷に落ちる(・・・)なんてことは普通ないし、奴隷をそこまで育てる主人もなかなかにいない。


 「あー、主人。彼は僕の奴隷なんだ」

 「………どちら様でしょうか?」

 「こう言うものでね………明日町をでるから急ぐようにと言ったら従者が奴隷に早く買ってくるようにと放り出してしまった次第で………混乱させて申し訳ない」


 言いながら懐から出した紙を見て、顔を引きつらせる馬屋の店主。

 その紙の内容はスペーラから見えない。

 訳も分からず困り顔をしているスペーラを見た店主は、奴隷がこれから先を憂いているのではないかと好意的な解釈をし、信用する。


 「は、はい。只今。馬の種類は何に致しますか?」

 「とりあえず良い物を。まだ別の仕事が残っていてね。後でこの者を使いに寄越すから引き渡してくれ。現金はその時に」

 「分かりました」


 頭を上げる馬屋の店主を尻目に、入ってきた男性に連れられてスペーラは馬屋を後にする。


 「あ、あの………?」


 ありがとうと言うべきか、それとも質問をぶつけるべきか、とりあえず付いていくべきだろうとスペーラは黙って付いて行っていたのだが、その足が明らかに宿泊している宿に向かっていることに気が付いて、口を開く。

 シノに秘密で来ていた以上、知られたくないと言う気持ちが前面に出ての言葉だったのだが。


 「君の主から頼まれてね。全く、こっちは休暇中だってのに」


 もどった宿の待合室には、厳つい傷を体中につけた連中が傅いている。

 傅いている先に居るのはシノ。

 発育不全かと思われるほど年齢に比べると幼く見えるシノの外見。その足のしたに傅いている様子を見ると、あまりに異様………なのだが、これは大抵半月ほど宿生活をしていると大抵見るようになる光景だ。

 シノが選ぶ宿は全て、スラム街に隣接するように建っている。宿を守る護衛は存在せず、宿の主人も誰が中に入ろうが気にせず、防衛は自己判断で自己責任。金を払えば料理は出すし、部屋も貸す、そんな宿。


 「シノちゃん、お礼、くれるんだよね?」

 「後で部屋、行く」

 「………え!? シノ様、どんな契約したんですか?」

 「………いいんだな」

 「別にいい」

 「え、ちょっ、え!?」


 スペーラを連れてきた男性は階段を上って借りた部屋へと向かう。

 どうしようかとスペーラが右往左往している間に、待合室にいるのはシノとスペーラの二人だけになっていた。


 「シノ様、どういうことですかっ」

 「うるさい」


 ジロリと長い前髪の間からシノに睨まれたスペーラは身を竦ませる。

 カゾスで前髪を切りそろえてもらってからシノの前髪は放っておかれている。手持ちのナイフで切りそろえているのでスラムの者よりいくらかましだが、それでも普通に町中に歩いている人からすると、わざと顔を隠しているように見えるくらいには長い。

 そんな顔の前にできた薄い壁を突き破るような、普段の無表情無感情からは考えられない強い視線に身をすくませたのだ。


 「別に今、馬不必要」

 「でもシノ様、追われている身として、旅行きを急いだ方が良いんじゃないんですか?」

 「急いでも意味ない」

 「すぐそこまで来ているじゃないですか。だいぶ前から表通りを歩かなくなりましたし、まだ指名手配にはなっていませんが、要注意人物として似顔絵が配られています」


 子供だけの一人旅は何かと疑われて買い物すら満足にできない可能性があるから、強制的に信用できる奴隷を大人役にしようと買われたのがスペーラだ。

 スペーラ本人からしてみれば、急がないといけないのに、急ぐための足を購入しないのは理解できなかった。

 だからこそ今回の強行に走ったわけなのだが、シノは一つため息をつくと、宿の主人を呼び出して階段を上がって行ってしまう。


 「シノ様っ!」

 「主人に聞け、命令」

 「ぅぐっ!」


 奴隷に対する命令権を持つ主人が、命令を言えば、胸にある刻印が熱を持ち痛みが走る。普通の奴隷堕ちであったならそこまでの痛みではないが、スペーラは犯罪奴隷だ。

 胸が焼け付くように痛み、床に崩れ落ちる。肌にじっとりと浮かぶ脂汗で服がまとわりつく。


 「吐かないでくれよ? 床板の張り替え、したばかりなんだ」

 「………は、い………だ、い丈夫です」

 「で、シノちゃんから代わりに答えておくようにって言われたんだけど、何を答えればいいのかな?」


 スペーラが落ち着くのをまち、あとでお金払ってね! と言いながらよく冷やした水を押し付け、近くの椅子に腰かける。


 「その、実は馬を買おうとして」

 「奴隷だけで馬を買うなんて、馬鹿だな」

 「そ、そうなんですが………お金はあるので何とかなるかなって」

 「金があって身分証明証を出さなかったら要注意人物として似顔絵が各機関に回ってこの町から締め出されることになるけど?」

 「うぐ………」


 シノの役に立ちたい。

 そればかり考えていたスペーラは、町に来て一番必要な情報収集を怠っていたことを突き付けられる。

 町や村によってその統治機構は似ていても何が罪となり問題となるかは少しずつ違ってくる。迷宮がある町で暴動騒ぎがあっても騎士は動かないし、色街がない町で表通りで身売りをしても誰も騒がない。

 唯一同じなのが身分階級化も知れないが、それも国を跨げば言葉の持つ意味が大きく変わってくる。


 「で?」

 「あ、その、以前話したようにひと月で次の町へと移動しているのですけど、僕的には早く隣国へ行った方が良いと思うんです」

 「へぇ」


 この場合の隣国は神聖帝国フロウェルだ。

 一応国として認められているディルエバーズもラーデラもギルドーナも、シシラギヤの属国であり、保護対象。それらの都市国家へ行くのに国越えと言う言葉は適当ではない。


 「でも、シノ様はずっとシシラギヤの各町村巡るばかりで………」

 「それで馬があれば早く国越えができると思ったわけ?」

 「はい………」


 スペーラのその答えに鼻で嗤う宿の主人。


 「情報収集を主に任せている奴隷君、シシラギヤからフロウェルへ行く場合、何が必要かな?」

 「は?」

 「何が必要か言ってみろ」

 「えっと、身分証、ですよね?」


 身分証があれば国越えもできる。

 そのスペーラの常識を宿の主人はまた鼻で嗤う。


 「どんな身分証だ?」

 「え?」

 「どこで手に入る身分証だ?」

 「それは、商会や、国や、冒険者ギルドが発行する身分証で」

 「十点満点だとしたら、二点ぐらいか」

 「え」


 どんな、と言われても身分証は身分証だ。その違いを求められても分からない。

 どれも同じ身分証ではないかと首を傾げるスペーラに、宿の主人はシノから前もって渡された金額分の誠意(・・・・・・)をこめて説明する。


 「神聖帝国は一番入国審査が厳しい国だ。普通この国から向こうに行くには貴族の下働きになって付いていくか、商人として国越えが許されるほどの地位につくか、冒険者としてそれなりの実力がある者しか認められていない」


 シシラギヤとフロウェルの間にある街の名はルイーデ。

 シシラギヤでサデファルと同じかそれ以上にシシラギヤっぽくない街であり、フロウェルに行くことを望む者が必ず通る検問のある街でもある。


 「国越えをするならまずルイーデを通る必要がある。でもね、フロウェル色が強いルイーデでは普通後ろ盾がはっきりしている者にしか宿を与えないんだよ」

 「でも、冒険者なら」

 「今お前は金を払ってベッドに入っているが、それはこの宿だからだ。普通奴隷は納屋か馬小屋。ディルエバーズだったら商品として確約された環境が手に入るかもしれないけど、ここはシシラギヤだからね。ちなみにルイーデだと宿の敷地に入ることすら認められない場合がある。奴隷の寝床は宿の裏道。見目が整ってるわけじゃなくて良かったね?」


 見目が整っていたら、宿の裏でそう言う行為をされても文句を言えない、ということだ。

 フロウェル色が強い、という言葉に今になって身が震えてくる。シシラギヤ国内だからこそ、問題にはならなくても問題として受け止めてもらえる。ならば、本当にフロウェルに行けば、問題にすらならないのではないか。


 「女には突っ込める穴が三つ、男なら二つだが、頭を擦り付けるのは固い男の方が人気あるようだよ?」


 嘲笑しながらそう言う宿の主人の言葉に真っ青になるスペーラ。

 暗がりで行為に及ぶなら顔など関係ない。

 宿を取れないのなら、毎回お金を工面して色街へと泊まろうかと今から考え始めるスペーラ。


 「冗談はさておき、まだ十歳にもなっていないだろう? シノちゃんは」

 「そうですね」

 「国越えには、最低でもDランクの冒険者の身分証が必要になるな。冒険者として国越えするなら」

 「あ………」


 十歳に満たない者はDランクを得られない。

 Cランクを得ているスペーラの数倍稼いでいるシノだが、それは依頼によって稼いでいるわけではなく、素材買取、しかも依頼補正が掛からない金額での取引で稼いでいる。実力はスペーラ以上だとしても、年齢が邪魔をしてシノがそれ以上の対外的評価を得ることはできないのだ。


 「さ、料金分は話したけど、何か聞きたいことはあるかな?」

 「あ、じゃあ………あの人、何者ですか?」


 もっと町について聞かれるだろうと予想していた主人は呆ける。

 スペーラには料金分と言ったが、この質問までを含めて料金分だ。料金分ペラペラと喋って、はい終り、と話を打ち切るのは三流のすることだ。少なくとも利益がなくては意味がない。

 ここでこれ以上質問はないと答えるのも三流だが、町について聞くのは自らの手腕の悪さを認めることになるので二流。それ以上の質問をぶつけるのが彼らの中では一流とされているのだが、スペーラが無意識で問うたその内容に対する評価は、紛うことなく一流だった。


 「彼は、ここのスラム街のトップだよ。表にも顔が効く、優秀な取りまとめ役さ」


 スペーラは一つ喉を鳴らして黙り込んだ。

 その瞳には、まだまだ先を見つめる優秀な部下の光が宿っていて、宿の主人は面白いモノを見たと口元を歪ませていた。


 ■□■□■


 学園都市国家スコルダス。

 その名の通り、土地全て学園である。

 三国からの資金提供がされ、そこで生み出される魔術の多くは人々に無償で提供されていたり、一部の者に高値で取引されていたりと様々だが、確かな知識を得られる場所として様々な国の者を受け入れている、一番出入りの激しい国である。

 魔導に関しては確かにフィデリントが一歩も二歩も先を進んでいるが、こと研究に関して規制と言うモノがほぼ形骸化しているスコルダスの研究機関の方がだいぶ先を進んでいる。


 「やらせてくださいよ!」

 「しかし規則では………」

 「形骸化している規則など、今更守る必要すらないでしょう」

 「しかしですね。これを発表するとなると一応存在している規則を破っての研究成果となります。それだけは止めてください」

 「何故です? これが一番わかりやすい方法でしょう! 物には一定の法則があるんだ。同じ条件で並べないときちんとした結果は得られない!」


 学舎であると共に、研究機関であるこの国でこのような諍いは毎度あることだ。

 しかし、今回の諍いは少し趣が違っていた。


 「だからと言って、これは過激すぎます!」

 「別にいいではないですか! この前、帝国の地下研究機関では小規模ながら行われていることです」

 「口を慎みなさい。どこに耳があり目があるか分かりませんよ。その手足が縫い付けられても文句は言えませんからね!」

 「僕は研究者だ。あそこでしていたのも研究だ。奴隷を、しかも犯罪奴隷ですよ? 使い潰すだけじゃないですか。問題することなどないでしょう!」


 スコルダスはフロウェルと地続きで、フロウェルの影響を大きく受けている国であり、教育者となっている者の約半分がフロウェルの者であったりする。

 人間ではなく、ただの物として奴隷が扱われるフロウェル生まれの研究者と、研究管理責任者であるシシラギヤ生まれの研究者との考え方による対立は当然のようにあるし、それぞれの国で決めた規制や規則が形骸化した主な原因も、この国同士の擦れ違いから来る摩擦によるものだ。


 「いいですか? これが立証されれば、各国の治療院で新たな治療法が確立されるかもしれないんです。らやない手はないでしょう!」

 「しかしだな、同族を殺すなんてことはしてはならないだろう!」

 「同族ではありません、奴隷です。犯罪奴隷はもともと使い潰す為にあるものでしょう。別に軽犯罪奴隷やそれに準じて元の生活に戻れるかもしれない奴隷を潰すつもりはないですよ………今のところは」


 まだ若いフロウェルの孤児院出身の研究者は、多くの人との関わりで、奴隷にも差があるのだと知った。だからこその発言だったのだが、研究管理責任者としては頭が痛くなるばかりだ。

 規制にははっきりと、同族の研究をする場合その生命の保全を一番に考え、危険な研究には関わらせないこと、と言う一文がある。同族、と言う範疇を広くとるか狭くとるかで判断が大きく変わるが、言っている意味としては動物や魔物ならば自己責任で研究対象物にしても良い、と言うことだ。


 「奴隷を一つ潰してもそれで治療院で多くの人々を助けることができるんですよ!? むしろ奴隷を使い潰すのを推奨するべきでしょう!」


 なかなか頷かない研究管理責任者に怒りを煮えたぎらせて机に研究資料物請求書を叩き付けて去っていく。

 国家間を繋ぐ魔導回線より数段落ちるが、通話用魔術回線機器という物が各研究管理塔をつないでいて、研究管理責任者同士やそれ以上の権限を持つ者同士の間をつないでいる。


 「治療研究塔より、研究塔管理官殿」

 『こちら研究塔管理官、何用か』


 僅かにまだ明るいと言うのに手袋の中が光る。

 魔術陣の形をしたそれは、声に反応するように光る強さの強弱が変化する。

 もし部屋が暗かったのなら、この変化は確実に見えるだろう。


 「規定に反する研究が表に出ることになる危険性があります」

 『処理にこちらの手を貸すべきか?』

 「いえ、処理する許可をいただければ」

 『良い。治療研究塔研究管理責任者として規定違反者の処罰を執行せよ』

 「はい。こちらで執行します」


 通話用魔術回線の使用者は、魔術陣を手の甲に直接刻んでいる。このスコルダスの地下深くに多く眠っている魔導鉱石と呼ばれる迷宮の壁になるものがこの回線を維持している。スコルダス国内でさえこの回線が安定して使えない場所があるが、基本的に研究塔や各学園の敷地は迷宮の上に建っている為逸れなりの権限を持つ者にはほぼ必ず繋がるようになっている。

 通話状態になると手の甲の魔法陣が浮かびあがり、通話終了と同時に腫れる。その腫れが収まり次第別の者との通話が可能になる。掛かってきた人の方が腫れが収まるのが早く、腫れが収まらないうちに通話状態になると皮膚が裂けることもある、少々危険なものだが、その便利性は片手の機能を失うだけで得られるもの、十分だ。


 「さて、彼は魔力保有量が多かったですね………でしたら魔術研究塔の方へ出向させましょうか」


 治療研究塔研究管理責任者として、彼はある書類に印を押す。


 「さて、彼が居なくなった穴を誰かに埋めてもらわねば………」


 魔術研究塔より、治療研究塔へ。

 われらが実験している魔術利用に対する治癒能力の個体差に対する調査に関して、そちらで余っている奴隷が居たらぜひ言い値で買わせて欲しい。

 もちろん基礎研究であり、これは資料となる予定なので公開はされない。できた資料はそちらにも流そう。規定には触れないことを約束する。

 いい返事を待っている。


 「すまないが、彼を拘束してくれ。彼の罪状は故意的な規定違反。精神的に高揚しているようなので薬をかがせ捕まえたのち、犯罪奴隷の印を刻み魔術研究塔へと護送せよ」

 「はい。分かりました」


 部屋で雑務をしていた、首に奴隷の証がある少女が部屋を出ていく。

 本当に一人きりになった研究管理責任者は椅子に深く腰掛けながら、頭の中で金銭取引の算段を立てていた。

 彼の生まれはディルエバーズ。

 命だとか、尊厳だとか、規定だとか。そんなことよりも自らの懐に入る金銭を計算することに長けた、立派な研究者である。

下種以下の匂いがプンプンするぜッ―――!

と、言った感じの学園都市スコルダス編開始です。

どの国にも属さないのに属国として認知されている学園都市国家スコルダスには様々な人がいます。何に対して何を思うか、その秤は個人的裁量によるものなので………スコルダス編は漢字が増えるかと思います。

うわー画面が文字で真っ黒だー(棒)


また次回お会いしましょう!

一週間以内に投稿できたらいいな(儚い希望)

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