13 魔導国家フィデリントⅠ
はい、前書きと言う雑談スペースですよ!
興味ない人は飛ばしてください(最初っから書くなって話ですが)
突然思い出したお話。
歳の離れた妹を幼稚園へ迎えに行った時
「お友達できた?」
「できたよ! ――くん、――ちゃん、―――」
そう覚えたばかりの名前をつらつらと述べていく妹をママチャリの後ろに乗せ、とりあえず相槌を打ちながら聞く。
「そっかー、沢山お友達できて良かったね」
「うん! あ、――ちゃんのパパおもしろいんだよ!」
「パパが面白いの?」
「んーん! ――ちゃんはパパとパパが居るんだって」
「お父さんとお母さん………パパとママじゃなくて?」
「うん! パパとパパなんだってー!」
人間、愛があれば性別なんて越えられるんだなとちょっと感動した後、両親をお父さん、お母さん呼びしている妹はパパとママが何か分かっていないから偏見がないのかもしれないとも思いながら、自転車を押して橋を上る。
「-―ちゃんは良い子だった?」
「うん!」
「じゃ、いっぱいお話して明日も沢山遊ぶんだよ」
「うん!!」
そして翌週、――ちゃんが男の子だと知って、唖然として、それは考えつかなかったと爆笑した人がここに。
さて、何の関係もない本編、始まります。
アンクレットは簡単に言うと、シノが体内に保有している魔力を体外に放出させるための媒体であった。
「とりあえずいくつか黒にしておいたんで、それで乗り切ってください」
「ありがとうございますビッツさん」
「いえ………」
シノがギルドーナとシシラギヤの国境の谷の下で安息を取る日々はすでにひと月を超えている。
ビッツはギルドーナにいる知り合いの細工師に同じような文様の描かれた屑魔石を発注し、シノのアンクレットは貰った当初と変わらない黒々としたアンクレットにもどった。
「本当にそれでいいの?」
随分調子の戻ったシノだが、アンクレットがないと魔力放出が上手く行かなかったらしく、アンクレットに屑魔石が戻った今でも少しばかり体調が悪そうである。鍛錬を積もうとするシノをクロが懸命に抑えているが故、未だに洞窟の床に敷いた毛布の上で休んでいる。
「ええ………むしろ過剰ですよ? 白魔石十個と交換って………」
「助けてもらった。金銭を要求されると思った」
むしろ金銭よりも恐ろしく価値のあるものを貰いましたけど、とビッツは口から出そうになった言葉を懸命に飲み込む。ビッツもシノも知らないが、それより高価な苔の薬がカバンの中に眠っているのだが、知らなければただの薬だ。
「もうすぐうちの旅団が来るので、それまで御厄介になります」
「ん」
ビッツが言う通り、一週間ほどで旅一座はギルドーナに到着し、白魔石十個はさすがに不釣り合いだとして金銭での交換といくつか屑魔石を貰うことで双方了承した。
またいつか会おうと話し、体調が復活したシノとスペーラは国境を後にする。
「あ、馬を一頭譲ってもらえばよかったですね」
「すぎたこと。疲れたらクロにのればいい」
「クロに怒られますから遠慮します。久々にゆっくり歩きたいですし」
馬と言う高速の移動手段を失ったことでかなり遅い旅路となるが、近場の村へと二人と一頭は足を進める。
屑魔石に浮かぶ白い文様は、シノの過剰なほど増える魔力をいつも通り順調に吸い取っている。
■□■□■
つばの広い編上げの帽子に縫い付けられた大きなリボンが風に揺れる。
少女の雰囲気にぴったりなその可愛らしい帽子を、まるでお守りのように胸に抱いて少女は一人の従者を従えて大柄な男たちと対面していた。
「あの、その」
目の前の人々が恐ろしいのかなかなか言いたいことが話せない少女は、思いっきり視線を彷徨わせて、助けてほしいと明らかに虚空を眺めている従者に視線を送るがことごとく無視され、泣きそうになりながらも、少女は男たちと目線を合わせて言葉を紡ぐ。
「私、王都に、行きたいんですっ! その、騎獣の購入をっ」
目の前にいる男の眼が細くなり、その横の男の眉間に皺が寄り、さらに隣の男はふいっと少女から目を逸らしてどこかへ行ってしまう。
いくら従者が居ても初めて訪れる国に心細さが隠せず、無く寸前、従者の声で少女は我に返った。
「お嬢様、いくら払えるのか、交渉したいようですよ」
「え?」
目線を上げると、厳つい男が何やら同じような仕草を繰り返していた。
口を何度か閉口しているが、声が出ているわけではないので首を傾げていると、少女の後ろに控えていた従者が意をくんで通訳をする。
「お嬢様、彼らはもともと犯罪奴隷で喉を潰されているようです。声が出ないから、ああやって身振り手振りで意を伝えようとしてくれているのでしょう」
「あ………」
言われてから見てみると、起こっているように見える顔つきの中にある瞳は、同情やら何やらすまなそうな色が浮かんでいるように見えなくもない。
「どこに行くのかで騎獣の種類が変わってくるから、できたらどこに行くのか教えて欲しいそうです」
「あ、でしたら、是非その騎獣を見てみたいです!」
泣きそうな顔と打って変わってきらきらと輝く笑みを向けられた男性は居を付かれたように目を瞬かせたあと、神妙に頷いて歩き出す。
「付いてこい、だそうです」
「はい」
魔導国家フィデリントの海洋交易都市カルフェデシ。
交易相手は商業都市ディルエバースの街ロルネラ。多くの人や物でごったがいするその都市は、大きな平原と山脈、砂漠に海に囲まれた資源たっぷりな都市であり、その発展具合はフィデリントの王都ベルナーディグとほぼ同じくらい発展していると言われている。
機械政策方面で発展したベルナーディグと、資源政策方面で発展したカルフェデシでは、その様相もあり方も大きく変わるが、生活様式とそれによる保証はほぼ同等のものが得られる大分平和な場所なのだ。
「カルフェデシの人々は何だか温かそうですね」
「恐らくこれからお嬢様が行かれる王都ベルナーディグはそんなことないと思いますよ」
同意するように頷く大柄な男。
王都行きならばと案内された獣舎には、様々な獣がいる。
少女が見とれている間に交渉してきたようで、従者はここに居る獣だったら二匹用意することができると言う。
「悩みますね………待ち合わせをしているわけではないですし………この子、いやこっちの方が」
こだわれば当然時間は伸びる。
従者は付き合うことはないから呼びに行くと男に言うが、男の方も一応監視目的でここに居ると伝え、少女の様子をほほえましそうに見る。
「ここは罪人に厳しい国ですから、ね………」
従者の呟きは幸運にも男には届かなかったようで、男は僅かに和らいだ雰囲気をさらにだらけさせて少女が頬を染めて騎獣を選ぶさまを見ている。
男の右目の目じりから首に伸び、おそらくは心臓あたりで蜷局を巻いているその刺青は、フィデリントの犯罪者が決まって刻まれる紋様である。その罪の大きさは異なるが、身分と礼儀の罪以外の罪を冒したと言う判決を受けた者全員に刻まれるその紋様の効果は、視覚共有と心の掌握。
何の罪を犯したのか、それは首に描かれている文様を読み解けば分かるのだろうが生憎従者、セレシーデは事前に情報をかき集めていても、フィデリントの学者が作り出した魔導言語まで読み解けるほど天才ではない。ただ、それとは別に喉元を潰されているのを見ると、不用意な発言、しかも国そのものに政治的な意見を発して罪に問われたのではないかと思われる。それでも普通に生活していることから、端の者だったのか、善であることを認められたのか、分からないところまで妄想で広げて従者は最終的に守るべきお嬢様の障害にならなければいいかと思考全てをバッサリと切り離す。
もともとディルエバースに暮らしていたセレシーデにとっては犯罪者は人間ではなく商品の一つとして考えられ、こうやって普通に暮らしている方が酷い扱いだと感じてしまうのだ。
「あっちも見ていいですか?」
少女の問いに頷く男。
犯罪を犯して、商品へと落ち人間として扱われない代わりに更生期間が設けられ然るべき時を経て人間に戻るのと。犯罪を起こして厳罰を与えられ犯罪者であったことを一目でわかるような状態にされ普通に生きようとするのと。どちらか厳しいだろうか。
国によって、そこで暮らす人の考え方によって、一つの事柄に対する対処も大きく変わる。そこに付随する感情だって大きく変わるだろう。
罪による罰の差よりも、その考え方にまだ幼い主が馴染むことができるかどうか、それだけが気がかりなのである。
「セレシーデ! この仔何てどう?」
「ああ………でしたら専用の荷馬車でも牽かせましょうか」
少女が指を指す先に居るのは硬い甲羅を持つ獣。
雑食であるため、森を行くなら食費について考えなくてもよく、しっかりした足で荷馬車を引くことができる優良種である。欠点としては、歩みが普通の獣と比べて遅いのと、臆病で攻撃に会うと甲羅の中に留まって安全が確認される状態になるまで一歩も歩こうとしないことだろうか。
街道沿いに出てくる魔物や獣など恐れることはないとセレシーデは結論を出し、今度は荷馬車を見せてもらおうと男に視線を送る。
「あっちだそうですよ」
「はい!」
パタパタと男に付いていく幼い主を見ながら、積み荷をどうしようかと考えるセレシーデである。
■□■□■
フィデリントに正式な王宮はない。
首都ベルナーディグにあるベルナーディグ魔導学術院と言う場所に所属する学術員、つまりは教授たちがこの国を運営している首脳陣であるからだ。学術院の院長が国王。建国の勇者王の血を引くものがその椅子に座っている。
「サバガマナはまだ帰らないのか」
「あれは放っておいても平気ですよ」
ファベリズ・エル=ジェイク・サバガマナ。
建国を支援した森人の孫であり、現在学術院の魔導部門の教授兼顧問をしているれっきとした貴族であり、王宮となの付いている軍事基地の魔導訓練教官長、つまりは宮廷魔導師長の称号を持つ者であり、今現在国を跨いで放浪している。
「まったく勝手に飛び出して………『夢』が何だって言うんだ。別に気にすることでもないだろう」
「然り」
「子供の戯言に裂く時間などありません」
何人かが王の言葉に同調したところで、そのサバガマナ本人の代理として会議の進行役を買って出ている青年は大きくため息をつく。
「そんなことはどうでもいいじゃないですか。今は予算会議ですよ、我等が王」
フィデリントは、比較的新しい国である。
三代目勇者が建国した国で、人間の国と言うよりは、亜人の国と言った方が近いかもしれない。
建国に関わったのは妖精族や、今でも獣人族として認められていない竜人族などの亜人が多く、国の法も人間寄りではなく亜人よりな法であり、他の国と違い種族による区別はあっても差別はない。
区別をしないと言うのはディルエバースのあり方に似ている。なんと言ってもフィデリントを建国した勇者王はディルエバースの商家の出だったのだ。ある意味ではディルエバーズの考え方が割と強く染みついている国なのかもしれない。
「そう言えば、西の町が甚大な被害を被ったと報告書が上がっていたが、結局どうなったんだ」
「いえ。その報告書はもうありませんよ、王」
「ん?」
「報告書なんてなかったんです」
青年は悲しそうに眼を逸らす。
首を傾げようとした王は、何かを思い出したのか、舌打ちをして、手元の資料に目を落とし該当箇所を探す。
そこに書いてあったのは、大きく分けて二つ。一つは町そのものが忽然と消えてしまったこと。建物も生き物も、森や川でさえ消えた空白地帯になっているとのことが箇条書きで書かれていること。
それともう一つ。
「………サバガマナが訪れていない土地、か」
ファベリズは王都を出て東へと向かい、北のカルフェデシからディルエバーズの街ロルネラへと向かい、ディルエバーズを西に横断し、国境を経てシシラギヤを南下し、ラーデラやギルドーナに寄って、国境を越えフロウェルへと入り東のフィデリントへと戻る計画を立てていたのだ。
行動を監視しようとディルエバーズの氷村カゾスに向かう商人を付けて行かせていて、その商人から後数日でカゾスへと着くと言う連絡が届いている。
「………」
聡明な者、特にこの場に居て軍事に関係している者たちは、今手元にある資料より今回の件に関しては数倍詳しい内容の報告を貰っている。
逆にファベリズの訪れた場所ではそんな不可思議な現象は起きていないと言うことを。
しかしだからこそ不思議なのだ。
訪れたファベリズは一体何をしているのか。当然の疑問だが、それの答えは、いつも通り民と交流を持ち、子供たちに青空教室を開いて遊ばせている、と言うこと。中には王都の学術院に研究員見習いとして送られてくる子供もいないわけではないが、その数はかなり少ない。
「まぁ、いい。放っておけ。原因究明に軍を使用し、ある程度の対抗策を考えること」
「はっ!」
命令された軍事総括は、ファベリズに今回の決定を知らせるべきが迷い、腹心と呼ばれている者が今司会進行を引き受けているからきっと彼が報告をするだろうと考え、誰をこの問題の担当にさせるかと言う考えで頭が埋まる。
手元にある資料を視れば、文字で埋められていても、その言葉の空虚さに眉を寄せるしかない。まるで、原因不明、解決不能、とでも告げるようなその書類の文字列に、一体誰ならば対応出来得るか悩んでいるのだ。軍部の内情は大きく分けて三つの派閥に分かれている。
一つは、物理武器推奨派。魔導武器の使用が当たり前になっている今のこの国を憂い、肉体でのみ扱える武器の開発研究を行った方がいいと考える派閥。
一つは、魔道研究推奨派。物理派との仲は最悪で、この国の長所であり存在意義である魔導の研究をもっと盛んに行うべきだと考える派閥。
そして、ファベリズを頭とした和平推進派。一番煙たがられている連中なのだが、国民からの信用が厚い者たちが居る派閥である。
戦時であればかなりの戦力になるが、普段では研究論議に過激に華を咲かせる軍部連中を纏める軍部統括が頭を抱えたくなるのも致し方ない。
「とにかく、サバガマナに頼らないことを念頭に置いて行動してみてはいかがか?軍部統括殿」
下種な笑みを浮かべながらそう言うのは宰相補佐。国王やファベリズと同様に建国から中央に関わる血筋の者。ファベリズが実力でその立場に立っているのを認められない器の小さい男である。
「いえ。私統括としては彼に頼ったことなどないのですが………今も私に何の話もなく自由に歩き回っていますからね」
苦い顔をする宰相補佐を見て、心の中でひとしきり嗤ってから宰相へと目線を向ける。
「サバガマナが必要であれば帰らせますが」
「いや、必要はない。そちらの采配に任せよう」
采配、の言葉にリズムを付けるように机を指ではじく宰相。
「………御意」
応じる統括の声は、僅かな呆れを含んでいる。
腐れ縁でしか分からないわずかなその差に気が付くものは誰もいなかった。もちろん当時者である宰相はなかなか変わることのない表情をほんの少し、満足そうに、それも誰にもわからないくらいわずかに、ほほ笑んだ。
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セレシーデとその主のネリーは、騎獣に引かせる荷馬車を選び、荷馬車の中に備え付けた棚に何を乗せるか、割と真剣に店頭で悩んでいた。
「ねぇ、これ何てどう?」
「いえ、お嬢様。こちらの方が………」
その後ろにいるのは、騎獣の管理者であり、保証人として同行している男性。細かいことに女性が気になるのは当たり前なのかと少々疲れた顔で見守っている。
そんな彼に、疲れていないかどうかとか通行人が声をかけて、それに対して頭を下げている男の様子を見る限り、元犯罪者であってもそこまで苦な生活を強いられているわけではないのだと分かる。
「ねぇセレシーデ、なんでこんなにたくさん布を買うの? こんなに薄い布だと体を拭くこともできないんじゃ………」
「いいんです。今は使わなくともこれから使う可能性はあります」
「だったら使うときになってから買えばいいじゃない」
「お嬢様、ここまで薄くて手触りの良い布を手に入れるのは難しいのですよ」
「へぇ~………でも無駄遣いよくないってよくセレシーデが言うじゃない」
大きめの帽子を深くかぶり、強い日差しから白い肌を守るネリーが首を傾げると、セレシーデは少し逡巡し、未だ伝えるべきではないと判断したのか、別の理由を話す。
「今回護衛を雇うつもりもないので二人旅になるわけですが。もし怪我をした場合、普通の布だと動きが遅くなります。その状態で逃げなければならなくなった時、薄い布で傷を圧迫していた方が動きやすいとは思いませんか?」
「でも、それなら薬屋さんで売ってる包帯を買えばいいんじゃないの?」
「………あれは細いじゃないですか。こうやって一巻きで買った方が安いんですよ」
「ふーん………分かった」
微妙に納得していないネリー。
セレシーデとしては説明せずにいづれそうなった時に慌てふためくネリーの様子を見たいと言う加虐心もあって言わないのだが、これは言わないと罪悪感で押しつぶされそうだと思いながら薄く肌触りの良い布を会計へと持っていく。
実際、セレシーデも月に何度か使用する為、どう反対されても購入する予定でいたのだが。
久々なお二方の登場。
ネリーとセレシーデは、タクらと分かれたすぐ後のお話で、フィデリントの上層部のお話はちょっとさかのぼってシノが森の探索者にあった頃ですかね。(ものすごく懐かしい)
魔導国家フィデリントについては一章でほんの少し出てきたんですが、覚えている方はいらっしゃるんですかね。
国として認められたのはギルドーナやラーデラより古いですが、あれらはフィデリントよりも古くからまとまった土地で集落をつくり人間の差別を受けていたから国として認知されなかっただけです。
なので、ただ単に国と言うまとまり付いて考えると、フィデリントが一番新しい国になります。




