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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第四章 状況整理
81/113

10 鉱床都市国家ギルドーナⅠ

連続投稿。

しかしながらそれが続くと楽観視できない現実。

ケトルでお湯が沸くように、簡単に言葉が湧き出てくれればいいのに……

電気で金属板を熱するケトルと同じように、心を熱する興味の湧くものが出てこないものか……


さて、前書きもここまでで本編に行きましょ!

 馬は移動の手段としてかなり有能である。


 「シノ様………」

 「ここでくようするしかない」

 「せめて……せめて埋めてあげることはできませんかね」

 「好きにすればいい」


 そしてその馬を、スペーラは潰してしまった。


 「ぐすっ………」


 鉱床都市国家ギルドーナに向かう道は険しい。

 本来の街道を行けばそんなことはないのだが、街道は一本しか存在しない。

 そんな場所を通るわけにいかないとシノが難色を示した為、切り立った崖の横を馬で駆けていたのだが、偵察に出かけていたスペーラは悪天候の中そこを駆けた。


 「ゴメンな。ここまで一緒に来てくれてありがとう」


 冒険者の馬として、大抵の悪天候には慣らされていた。

 だから、冒険者であるスペーラの指示にその馬は応えた。十全に。


 「お前が死んだこと、無駄になんかしないから」


 時期になれば水が流れているのだろう岩ばかりある崖の下。

 一頭の馬は赤い絨毯が敷かれたような岩肌の上でこと切れている。


 「お前の毛、貰ってく。これからも一緒に旅しよう」


 元々馬に付けていたのは手綱と鞍だけだ。旅に必要な荷物などはすべてシノが乗る馬、クロに付けられている。

 その手綱は崖から落ちた衝撃で切れ、鞍も修理不可能なほど裂けてしまっている。

 本来なら、死んでしまった相棒の手向けとして、食ってやるのが一番の手向けになるのだが、それをスペーラが選択することはない。


 「後でシノ様に結って貰うから……だから、今度はいい人生、送ってくれよ」


 馬の尻尾と鬣から毛を刈り取ると、スペーラは一度だけ聞いたことがある葬送の歌を歌う。

 スペーラが居た集落では、死んだ者の一部を切り取り、その一部を加工してその者を知る者が持ち歩くことで、死んでしまった者の思い出共に生きると言う誓いを立てたことになる。葬送の歌は、その誓いを先祖へと述べる歌だ。

 幼い頃のスペーラは一度も顔を見たことがない祖父が死んだとき、そう言うことをしているのだと言うことを兄弟が話しているのを聞き、両親が歌を歌っていたことをおぼろげに覚えているだけ。家族に愛されていなかったスペーラは、「家族として、友人として、相手との繋がりである絆や愛を謳っているのよ」と教えられていた兄弟たちの後ろで、いつか自分も誰かの為に歌うことができるだろうかと懸命に練習したことがあった為覚えていた。


 「この歌、歌う相手ができて、本当に良かった………一生歌うことないんじゃないかって怖かったんだ」


 家族から嫌われ、いない者として扱われ、集落から出たところで売られ。シノの側にたどり着くまで、スペーラにとって愛は決して自分が望んではいけないものだった。

 シノに出会い、ヴァナグに出会い、人と関わることをこの年になって初めて学んだ。普段していた行為が無関心か媚び諂うという言葉に当たる行為だったのだと知ったのも、シノに出会ってから。出会わなければ何も知らなかった。


 「次歌うのはいつだろうね。不謹慎だけどさ、僕はこの歌が好きなんだ」


 刈り取った毛をポケットに無造作につっこみ、ナイフを元合った位置へと入れる。

 スペーラの手は、雨が降っているせいでなかなか固まらない馬の血で赤く濡れている。


 「その人を愛していたって証拠になるでしょ?」


 馬に一度礼をして、スペーラは踵を返す。

 向かう先はシノが待っている洞窟だ。

 前を見るスペーラは空から降り注ぐ雨で濡れていた。

 その頬に滑り落ちる透明な液体は、地面へと消えていった。


 □■□■□


 鉱床都市国家ギルドーナ。

 その名前の通り、鉱物に恵まれている都市国家である。

 しかし入国するのはものすごく困難だ。

 ギルドーナで暮らすのは基本的に妖精族である。

 妖精族とは、空中に漂っている妖精と会話をし魔術的な現象を起こせるもの達を指し、有名な種は森と共に暮らす森人族や山の恵みを得て物を作り出す山人族などだろうか。

 森人族は木のような細い凹凸の少ない体躯で、緑と言えるような髪色をしているし、山人族は岩のような硬い肌をと小さいながらも強靭な筋力を持ち、土色の髪色をしている。


 「鍛冶屋よぉ! こんだけ人間様が頼んでんだから武器の一本ぐらい作ってくれよぉ~。タ・ダ・で!」

 「ぎゃははは」


 そんな妖精族だが、ギルドーナに押し込められるまで魔族として貶されていた。

 もともと外へと放出する魔術の殆どを人は得意としないのだ。自らの使えない技術を恐れる人間が、使いまわしのきく奴隷として利用していたのが、今でいう妖精族である。

 当然簡単にその意識が払拭できるわけでもなく、今でも人間による搾取は平然と行われている場所もある。

 しかし、当然そう言うことが起こらないように、起こさせないように作られた妖精族の安息の地がここギルドーナ。


 「お客さん、ギルドーナでそれをしちゃあならのよ」

 「あん?」


 難癖付ける集団に近づいていく一人の優男。

 地下に造られた山人族が中心となって鉱床運営しているそんな場所。周囲は岩に囲まれ、至る所で熱気が立ち込める。壁の横穴からは一定のリズムで何かを叩く音が聞こえ、様々な音が反響しているこの地下都市では喋るにも一定以上の大声を出さなければ通じない。


 「お客さん、冒険者かな?」


 優男は張り付いた笑顔をその集団に向ける。

 彼が現れたことで店頭に立っていた山人族の男はホッと息を付き、店の奥へと入っていく。

 店の奥や、店の前の大通りには多くの人が集まりだしていて、冷やかしの声もわずかに聞こえる。


 「これ以上鍛冶屋に難癖付けると冒険者資格剥奪か、ギルドーナへの入国禁止になるけど、どうしたい?」

 「っせーな。部外者は黙ってろよ」

 「部外者だったら黙ってるよ?」


 部外者ではないから出てきたのだろう、と嘲笑する様を見て、その集団は顔を真っ赤にして腰元の武器を構える。

 それに対して何の構えも見せない優男に、わずかに残っていた冷静さで冒険者は魔術使いである可能性を見出し、ならば直接的な物理攻撃を防ぐ手段を持っていないのだろうと考える。

 そう、わずかにしか冷静さが残っていなかったからその判断を下した。


 「相手は一人の森人だ! 奴隷は奴隷らしく俺らの下に這いつくばらせろ!」

 「おお!」


 狭い出入口付近に優男が居ることも、片手で歪んでしまう口元を抑え逆の手を肘に添えているとしても、周りが煽りと言うよりも驚愕に近い野次になっていても、わずかな冷静さではそれを感じ取ることはできなかった。

 少し冷静になって考えれば分かること。


 「うっらぁああぁぁあ!」

 「ふふ」


 槍と剣の中間のような武器を突き出して先陣を切った男の攻撃を、優男は出入口の壁に足を引っ掛けるようにして遠心力でのみ躱す。

 追うように出てきた人の足元に足を突出し、一人が転べば後続もそれに足を取られ転倒するか体制を崩す。


 「ぐあっ」

 「なっ」

 「卑怯なっ!」

 「卑怯じゃないでしょ。君らの視野狭窄、状況判断の致命的なミスじゃない?」

 「て、手前ぇ!!」


 煽る煽る。

 森人である優男は、若芽のような色の髪を揺らし笑う。

 群れていた冒険者たちよりかっちりとした服ではないが、優男が着ている服も動きやすさを追求した服である。

 そして、誰にでも見えるようにはめられている金色の、細かい装飾が成された腕輪と、胸に飾られている大きい徽章。徽章の大きさは、行動を阻害しない程度の大きさだが、動き回る場合邪魔になるのは簡単に考えられる。

 ならば、なぜそれをつけているのか。


 「おい、あの徽章………」

 「あいつら、終わったな」

 「牢行きは免れないだろうね」

 「いや、むしろ国外追放になるんじゃないか?」

 「指名手配になる可能性だってあるぜ」


 それが、冷静さをもってその場を俯瞰する人々の考え。

 ギルドーナでは六議会と呼ばれる意思決定機関がある。国家と呼ばれている為、国王と呼ばれる外交をする者が居るが、国内のことに関してまとめるのは六議会を取り仕切る六人の議会長たちである。

 そして各議会長の補佐役に議会長補佐が二人つく。

 ギルドーナの首都にあるのは議会室のみであり、そこを中心として各議会長が纏める土地がある。首都の議会室を使用するのは一年に一度。それ以外は各議会長が纏める土地で会議は行われる。


 「あの若さで議会長補佐か……」

 「森人の議会長補佐なんかいたか?」

 「今年選任されたのかもしれないぞ」


 月に一度行われる議会。

 議会長が他の土地へと行ってしまった場合、土地に残る片方の議会長補佐がその土地の運営を任される。


 「さて、そろそろ飽きましたね………」

 「ふざけんじゃねーよっ!」


 優男はため息をついて、勇猛果敢にから回る冒険者たちを撫でていく。

 冒険者たちの装備は、鉱山に出てくる外敵を討ち滅ぼすものであるが故、僅かな隙を狙う刺突(しとつ)系か、殻ごと叩き割る過重系の武器が多い。


 「対人用の武器ではないんですから、そんなに振り回しても当たるわけないでしょう?」

 「っせえ!」


 大きく振りかぶって、勢いよく振り下ろされた大槌が、優男の立っていた場所にあった岩を打ち砕く。大きく散る破片で怪我をする野次馬も出るが、それも味として周囲は笑い楽しむ。

 もしそこに生身の者が立っていたら、大抵のものは一瞬でひき肉に変わっていただろうその威力。それをぎりぎりまで避けずにその場に留まり、寸でのところで破片もすべて躱し切る優男。圧倒的な力量差がそこにある。


 「危ないなぁ」

 「手前ぇが避けなきゃいい話っだぁ!」

 「おっと」


 真後ろから迫る細剣をそのままの体勢で首を動かすだけで躱し、細剣使いが避けられたと驚愕で目を見開いた瞬間にはその体は宙に浮いている。


 「体術使いかっ」

 「ちゃんと受け身とらないと首、折れるから」


 また別の細剣使いが目の前から迫り、今度は間合いに踏み込むように避ると、首元の布をグイッとつかみ、微笑む。


 「ひっ」


 悲鳴にもならない叫びを笑顔で受け流すと、そのまま弧を描くように地面に叩き付けられる。

 地面に伸びる細剣使い二人。どうやら首は折れていないようだが、その手に持っていた細剣は使い物にならないだろう。方や中心からポッキリと半分に折れ、方やささくれたように裂け倒れる男の腕を貫いている。


 「はい。まだやる?」

 「んのやろっ」


 ニコニコと笑みを張り付けた優男に、いくばかの冷静さを取り戻した冒険者たちは油断しないようにと気を引き締める。


 「そこまでぇえええ!」


 そんな集団を、さらに取り囲む後ろから、甲高いそんな声が聞こえてきた。


 「なんだ?」

 「誰だ?」


 こえの主を知らない者は新しい乱入者かと喜色ばんだ声でその声の主を探す。


 「………お早いお帰りですね。もう少し議会長引かせてくれればよかったのに」


 優男が張り付けていた笑みは崩れ、なんとも残念そうな顔に変わる。そう、どう見ても残念そうだと全員が思う顔に変わる(・・・)


 「聞こえてるんだからね! せっかく副徽章を付けること認めてあげるんだから問題行動起こさないでよ!」

 「私は問題行動なんて起こしていませんよ? 問題行動を起こしていた人をもう二度とここに来れない体にしようと画策していた所です」

 「それ大問題だから止めて!」


 人ごみをかき分けて出てきたのは、小人と言ってもおかしくないサイズの男。


 「何だ? あいつ」

 「ちっせ」

 「誰だよ」


 問題行動を起こしていた冒険者たちも、その周囲に屯っているこの土地の者ではない野次馬たちは、その姿を見て、面白い闖入者だと目を光らせるが、この土地の者は出てきた者を目の端で捕えた瞬間、その場から逃げ出し、建物の中へと非難する。

 周囲の店は慌てて扉を閉め、中へと引きこもり、扉が設置されていないところでも外に置いてあった立て看板などをいそいそと室内へと運び入れる。


 「まったく! こんど問題起こしたら謹慎処分って言ったでしょ!!」

 「ええ、問題行動を起こしたと証明されたら謹慎処分ですよね? ちゃんと分かってますって」

 「それ絶対分かってない!」


 問題行動がばれなければ大丈夫何て事はないんだからね! と怒鳴り続ける小さい男に、残念だと言う顔を張り付けた優男がばれなきゃ問題になりませんと答える。

 それはまるで曲芸のような会話で、その場に残っている者たちはそれを唖然としたように見ていた。


 「………手前ぇも、()られたいのか」


 地の底を這うような、大槌を持つ男の声でハッとしたように迷走していた雰囲気は張りつめたものへと変化する。

 しかし、その場に残っている異色の二人にその脅しは通用しない。


 「それ以前に、徽章の意味も分からないような奴が何の用なのさ! 休憩時間はもう終わりだからさっさと戻るよ!!」

 「そうですね。では先輩、彼らの相手お願いします」


 よくよく見てみれば優男と小人の胸に付いている徽章は全く同じに見える。

 細かい装飾が少々違うかもしれないが、六角形の中にある文様は同じ図柄だ。


 「はぁ? 問題行動は自分で片づけるの!」

 「ええ、ですから、問題行動は全て、貴方に贈ります」

 「嫌なんだからって言い終わる前に消えるな馬鹿ぁあああぁあぁあああ!」


 一瞬で消える優男。

 別に瞬間移動したとか転移したとかではない。

 地面にある穴の一つに飛び込んだだけ。


 「うう………で、お前たちはどんな問題行動を起こしたのさ」

 「俺ら………?」

 「一応僕も副議会長だからね。問題発言や問題行動を起こした連中から直接話を聞く権利と義務があるの」


 だから早く答えてと言う小人に答えたのは、優男と敵対していた冒険者たちではなく、野次馬として残っていたよそ者たちだった。

 ここで残っている彼らに選択肢があって選ぶとするならば、「逃げる」のみであっただろう。


 「奴隷が奴隷と言われて逆らう方がおかしいだろうよー!」

 「やっちまえー! ちっこい方が勝つのに銀一枚!」

 「ちっこいのに賭けるのか? なら逆に銀二枚!」


 目の前にいた冒険者たちは嫌が応にでも気が付いてしまった。

 優男が仕事を理由にこの場から逃げ出したのだと言うことに。

 競りを始めた者たちは気が付く前に意識を刈り取られてしまう。なぜ意識が刈り取られた分からずに、大抵の者は賭けで勝ち負けを予想する楽しそうな笑みで気を失っていたことが良かったのか悪かったのか………。


 「極小(チビ)? 負ける? それに、下等種族(どれい)だと?」


 ただの威圧。

 しかしそれは、感情と魔術が共振する精霊魔術師の威圧。

 にっこりと微笑んだ小人の周囲に風が渦巻き、気温が上がる。どんどんと威力を増していくそれらに、その場に残っていた冒険者たちは、自らの尺度で測れない何かを見て背筋が凍る。


 「それ、十分問題だね?」


 小人の笑顔の前に、通りに居た者は地面へと倒れ伏した。

森人のイメージは当然エルフ。

山人のイメージは鍛冶師のドワーフや細工師のノーム。

他にもいろいろいますが、そこら辺がやはり人間たちと関わることが大いのとしっかりとした生活の基盤を築けているのでこの世界でも有名どころですね。


なんか久々にあとがきで本文の解説みたいなことした気がする(感動)

また次回お会いしましょー!

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