表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第四章 状況整理
73/113

02 商業都市国家ディルエバーズⅡ

 Q.本、好きですか?

 A.目を悪くするぐらい大好きです!!

 って話をしたのだよ、と親に言ったら

 「どうせファンタジーと漫画でしょ」

 と言われた。確かにそれが中心で好きだけどさー

 なんだか悔しい今の心境。


 七十一話、はじまります

 最初に寄せられた陥落の報せは、ロルネラからいくつかの村を挟んで西にある、エンシの町だった。


 「報告します!」


 早馬を駆けてきたのがよくわかる、飲み食いも碌にせずここまで懸命に駆けてきたのがわかる恰好で、その身軽な騎士は王座の前で騎士の礼をとり頭を垂れていた。


 「エンシ陥落の詳細だと」

 「そうか………面を上げよ」


 顔はまるで泥池の中に突っ込んだかの様に汚れていた。

 本来なら不敬として、この謁見の間に訪れることができないであろう格好だが、今の状況はそんなことを言っていられる場合じゃない。

 王は玉座から少し身を乗り出し、下から己を見上げるその汚れた騎士の話に耳を傾ける。


 「エンシの民、半数が魔物によって死亡しました。建物の倒壊も多く見られており、町が町として機能を果たすのにはまだだいぶかかるとのこと。領主様より、今季の会議の出席は見送らせていただきたい、との言伝も預かって来ました」


 毎年少なくとも数件は寄せられる魔物による被害。

 しかし今回はその規模が明らかに異なる。

 例年であれば、魔物による被害が出たとしても、建物の倒壊と挑んでいった者数名と一定の冒険者の死亡が届けられると言うのに、今年の魔物は生まれた場所から移動して民の多い場所へと向かう傾向があるようで、その被害は決して軽いとは言えないほど大きいものになっている。


 「会議欠席の件確かに。書類を認める故、客間にて少し休むと良い」

 「はっ」


 騎士は近衛の一人に案内されながらこの場を去る。

 謁見の間の扉が閉じられ、近衛と宰相以外が出て行ったのを確認すると、王は王座の背もたれに深く寄りかかってため息をついた。


 「あの者の部屋にお湯も運んでやれ、まだ謁見が立て込んでいるから書類を認めるのに数刻かかる故客間で寛ぐことをお勧めするとでも伝えてくれんか」


 王の言葉に一番近くに居た近衛が頭を下げてその場を去る。


 「なぁ」

 「何でしょうか?」

 「ギーズは、今日は出てきているのか?」

 「………いえ。まだ休暇中ですから」

 「そうか」


 王の顔に一瞬よぎった悲痛な感情を、宰相は見て見ぬふりをすることにする。近衛たちは身内に不幸があった場合、最高ひと月の休暇を取ることを許可されている。

 何せ王と共にあり、なかなか家族の元に帰ることができない身であるが故与えられた特権だ。身内と言うのが、両親ではなく妻や子供であった場合、大抵の近衛は王宮に帰って来ず辞めることが多かったが、大した戦争もなくなった今であればそれはそれでよかった。

 しかし、今何が敵か分からない状態では、民を自らの意志で殺害している状態では、誰が襲ってきてもおかしくない。


 「ギーズ………」


 一人の被害者として、自らの近くに居た年が近くいつも笑顔で励ましてくれた近衛と言う存在が居ないと言うのは、王の心労を重ねる結果になっている。

 それを知っている宰相は、自らの力不足を悔いるしかない。


 「書類を認める。紙とペンをここへ」

 「王よ、そのような物、私が代筆いたします。少しは休んで下され」

 「いや、私が書かなければ………これでも私は王なのだから」


 宰相は前王から仕えていて、まだ幼い時に即位してしまった今代の王に対して孫をかわいがるような気持ちがあるのと同じように、王は頼ってほしいと言われるとまるで自分が出来損ないだと言われているように感じてしまう。

 貴族にもまれる前に即位してしまった王は本音と建て前を若えて考えるのが大変苦手なのだ。それを分かっていても、宰相は目の下に隈を張り付けるほどに悩み、朝はうなされて泣き腫らした目を治癒術師に治してもらうその姿を見ていては、心配してしまうのも仕方ないと言うのに。


 「分かりました………」


 一礼して宰相は紙を取りに行く。

 手元にある資料には、殺さねばならない(・・・・・・・・)子供たちの名前と出身地と、ガラムで魔物を本当の意味で退治した者たちの詳細が載っている。


 「エドワルは召喚しなければなりませんか………」


 両方に書かれている、エドワルという性。

 クリュエルと言う名の、フィデリントの大魔導師に弟子入りした為エドワルの名を捨てたと言われている十一になろうと言う娘に、分家だが、先代が教育した執事と家政婦と、その家政婦が雇ったと言う元傭兵の料理人。


 「他の(ばしょ)は壊滅したと言うのに………」


 エドワルの先代当主、今の当主の叔父に当たる者は、先代の王の元で働いていた近衛の一人だった。先代崩御と共に商家に戻り、落ちぶれ始めていたエドワルを押し上げ今の地位を不動のものとし、商売をさらに手広くし兄の息子にエドワルを任せて死んでいった。

 彼が近衛で担当していたのは、情報部。

 どんな状況にも対応し、どんな場所からも生還し情報を持ち帰ることを念頭に置いた組織をまとめていた。


 「彼らを引き抜けたら一番いいのですが」


 それは無理だろうと嘆息する。

 幸か不幸か、エドワルに使える者たち、特に本家での教育を受けた者たちは、自らが主人と定めた者を裏切ることをしない。その忠誠心は、主の為に迷いなく命を差し出すほどなのである。

 身を以て経験しているからこそ、引き抜きなどはできない。


 「さて」


 宰相は書類を王の書斎の上に置き、ペンと紙と印、それに封と蝋を持って謁見の間に戻る。

 どうしたら王の心労を和らげることができるだろうかと考えながら。


 □■□■□


 男は粗末な平民服を着て、腐臭を放つ泥だらけの道を歩いていた。


 「俺は………」


 体つきは良く、腰に佩いている剣は粗末な服とは不釣り合いだが、男から滲み出る鬼気としたなにかが、夜盗たちの命を救っていた。


 「なんで………」


 腐臭を放つ泥からはずっと煙が立ち込めており、それに直接触れている頑丈なはずの男の靴はぼろぼろでいつ壊れてもおかしくない。


 「気付いてやれれば………」


 その泥は、最初こそ人ひとり分だったものの、だんだんとその大きさを増して行き、馬よりも馬車よりも、家よりも屋敷よりも、村よりも大きくなった泥の道。


 「俺は………」


 男の服は、あり得ない速さで朽ちて行った。

 泥に覆われ煙を出す沼になってしまった村を通り過ぎ、男がその泥の最終目的地であるガラムの北に位置する山に辿り着いたのは、花の季節も過ぎようとしていた時期だった。


 「お兄ーさん! その泥はいろんなものを溶かしちゃうからお勧めしないよ?」


 来たの山、中腹に差しかかろうとしたあたりで、泥を見つめならがら歩いていた男に、初めて声がかけられた。


 「………誰だ?」


 男は、重い頭を動かして声が聞こえた方を見る。


 「うん? 俺の名前はゾミヤ。まぁ、調査でここに来てたんだけど………お兄ーさんは?」


 その男は、服装は普通の平民と言った感じであったが、鋭く金に光る眼と短く刈り込まれた燃えるような赤い髪とその雰囲気が、普通の平民ではないと語っているようで、男は無意識のうちに腰の剣へと手をかけていた。


 「そんな怖い顔して見つめないで? 俺はそこらへんにいる普通のおっさんなんだから」


 人懐っこい笑顔を浮かべてゾミヤは言う。

 その笑顔を見ていると、ゾミヤが普通の男に見えてきて、剣から手を放し、無意識のうちに剣へと手をかけてしまっていたことを詫びてから名乗る。


 「………ギーズと言う」

 「そっか。ギーズ、もっかい忠告するけど、その泥から少し離れた方がいい」


 笑顔のままだが、その有無を言わさぬ言葉というかその声に、近衛としての危機感が頭の中で大きく警鐘を打ち鳴らす。

 この者をここで放置していたら危ないのではないか、この者は敵なのではないか、そういう思いが湧き立ち混乱する。

 ギーズが近衛へと抜擢されたのは、あり得ないほどの勘の良さだった。悪い勘はほぼ当たる。外れたことは自らが動いてずらした出来事ばかりだ。だからこそ、ここでその勘が働くことに混乱していた。


 「その泥、いろんなものが混じって危ないんだよ。命が大切ならそこから離れた方がいい」


 有無を言わさぬその声。

 泥の道から離れる意思は全くなかったのだが、すっと目を細めたゾミヤから放たれる威圧に本能的に後ろへと飛んで、勘に任せて比較的安全だと思われる場所まで下がる。


 「うん。泥の上に居ると危ないからね」


 威圧が消えたと思い改めてゾミヤの顔を見ると、その顔は普通の笑顔だった。すでに頭の中で鳴り響いていた警鐘はなりを潜め、むしろその泥に対して警鐘を鳴らしている。


 「わざと、か?」

 「何が?」


 ギーズの質問にゾミヤは笑って答え、手に持っている物をギーズに投げる。


 「それ、やるよ。ひと山越えないと町に着かないしな」

 「あ、ありがとう」


 飛んできたものを切りそうになったが、何とかこらえて受け取ると、それがここまで履いてきたような靴であることがわかり、すでにボロボロになっていた靴を履きかえる。

 そこが抜ける寸前だった靴は、足を抜いたとたんにそこが抜け、泥に溶かされて消えてしまったのを見て、目を見開く。

 いままでそんな泥の上を歩いてきたのかと思うと、ギーズは背筋が冷え、首都に残してきた悲嘆にくれる妻を思った。


 「ん?」


 右足を入れて、ギーズは首を傾げる。

 靴の中に違和感があったのだ。

 渡されたときは特に何も気にしなかったが、履いてみて感じたその違和感を探るのに手を入れてみると、確かに中に異物が入っていた。


 「………これは」


 引き出されたのは、すこし溶けてメッキがはがれてしまったロケット。

 どこか懐かしさを感じるそのロケットの横のとっかかりを押し外し中を見たギーズは思わず声を上げた。


 「これをどこでっ………?」


 先ほどまで誰かいた場所には誰もいない。

 ゾミヤと名乗った男は忽然と姿を消していた。

 ギーズは改めて靴を履き、泥を踏まないようにして山を走り回った。

 どこでこれを手に入れたのか、なぜこれを俺に渡すのか。聞きたいことが浮かんで行っては消えていき、また浮かんでくる。


 「いない、のか………」


 日が傾き、もう日が沈む。

 ギーズはロケットを握りしめながら町へと向かって歩いていく。


 ―――お父さんがぼくの誇りだ!


 空けた蓋の裏に書かれていたその言葉。

 がったがたの文字だったが、確かにそれは息子の文字で。

 反対側には近衛服を着てとった家族写真が挟まっていた。そのロケットは、ギーズが息子の誕生日に贈ったはずの、息子が肌身離さず身に着けていた首飾りであった。


 □■□■□


 また町が一つ陥落する。

 『夢』を見たと思われる子供の詳細が宰相の手に集まる。


 「次を」


 泣き叫ぶ子供。

 助けを呼ぶ声。

 何も映さない無感情なその瞳。


 「私は白なのにっ」

 「僕はなにも悪いことしてないよぉー!」

 「やめて! 助けて!! 殺さないでぇ!!」


 叫んでも叫んでも、その声は届かない。

 貴族だろうと平民だろうと、何をしていても、何もしていなくても、ディルエバーズに籍のある『夢』を見たと思われる子供は、王宮に届けられたあと、殺された。


 「王よ」


 国があるのは民がいるから。

 民が居るのは国という落ち着ける場所があるから。

 民の為に国を守るには民を殺さねばならない。

 そんな矛盾に、年若い王は嘆き悲しんだ。


 「なんだ………」


 解決できない問題。

 『夢』を見た子供の魔物化。


 「ギーズが戻りました、明日から職務に復帰するとのこと」


 久しぶりの王の笑顔は影っていた。

 痛ましいその笑顔に宰相はただ、事実を伝えることしかできなくなっていた。

 大人の処刑だったなら、きっと王も耐えることができただろう。それが、まだ成人もしていない幼い子供たちの泣き叫ぶ姿を目の前で見て、忘れまいと心に刻み込んで心をすり減らしていく王の姿は、もう見ていられるようなものではなかった。


 「私は子供殺しの王と呼ばれるようになるのだろうな」


 呟いた王の顔はあきらめたように微笑んでいる。

 周囲の者はそれを聞いて悲痛に顔をゆがませる。

 すでに王の元に来た暗殺者は二桁に昇っている。

 それ(殺す)以外にやりようがないという思いが、王直下の者たちを焦らせ、それが伝わった民はの間で虐殺王というあだ名が広まっていた。

 半年前であれば誇れる職であった近衛騎士は、街の端に追いやられ、子供に石を投げられる、そんな職になってしまった。


 「あなた………」

 「もし辛いなら、別の町に行こう」


 家に帰ったギーズは妻を抱きしめる。

 息子が消えてしまった、魔物に食われてしまったと憐れまれていた周囲の視線はいつの間にか、王の護衛である近衛の息子だったのだから当然の仕打ち、むしろ神が王に示す為に子供を魔物に食わせたのではないのか、という侮蔑の視線に変わっていた。


 「お前の中には新しい子供もいるんだ。このロケットをあの子は私たちに残してくれたんだから、新しいこの子を懸命に育てよう」


 窓は割れ、家の壁には糞尿が巻き散らかせ、虐殺者の仲間よ出て行けとギーズの家への行為は止むことがなく、夫妻は寄り添って泣いた。

 近衛で唯一下街に住んでいたギーズは、王に召喚され、貴族街で暮らすことになる。


 □■□■□


 ガラムの北の山。

 泥が山に吸収され、山が元のように緑を称えるようになった頃、灰色狼と、赤髪の男は山頂で町を見下ろしながらゆったりとした風に吹かれていた。


 『ゾミヤ殿、なぜわざわざあの者に?』

 「うん? あー、あのロケットか………」


 なんでだろーねー、と言うゾミヤの顔は笑っていて、灰色狼は黙って続きを待つ。


 「別に俺たちは人間が嫌いなわけじゃないから」

 『………』

 「いや、そりゃ君たちは嫌いかもしれないけどさ。別に殺したいとか、滅ぼしたいとか、消したいとか、そこまで嫌ってないってこと」


 灰色狼から出た怒気に、慌ててそう付け加えるゾミヤ。

 できるけどしない。それは灰色狼も知っている。


 「無駄に殺しに来なければ別にどうでもいい存在だもの。ま、俺らの中でも意見は分かれるけどね」


 人間が出す毒をずっと吸ってきたお前には共感できないことかもしれないけどなー、と言って灰色狼を撫でる。

 気持ちよさそうに灰色狼は目を細め、ゾミヤの人間としては大きい武骨な手にすり寄る。


 『その体は誰の複写なのですか?』

 「これ? この町に居るはずなんだ。それなりに強かったから多分君も見てるんじゃないかな?」


 そう笑って、何もない空中を足場にしてゾミヤは真っ直ぐ空中を歩いていく。


 「そうだ。たしか今は片足が義足なはずだよ。彼は面白かったなー」


 くすくすと笑いながら、ゾミヤは歩く。

 後ろで山に座る灰色狼は、ただただそれを見る。


 「そうそう、今度集まる時はさ、昔みたいに白銀の姿になってよ」

 『この老体では白銀に戻るほどの力などありません』

 「ならほら、俺が宝珠でもとってくるし。あと老体とか言うなよ。お前より俺の方が長いこと生きてるんだから」


 ゾミヤの体は、足からぼこぼこと泡だったかと思うと透明になって空に同化していく。


 「またな。力が弱まったら連絡しろよー」

 『御意に』


 ゾミヤという人間の姿は、空に消えた。

 灰色狼は少しだけその空を眺めた後、手を振るかのように尻尾を振り、その姿をかき消した。

 ガラムの北の山はいつも通りの静寂に包まれる。

 よくわからないゾミヤさんの登場。

 これ以降はもっと先に登場予定。

 四章は国名がサブタイで内容は国の対応が中心ですねー。

 (ほぼ)毎日更新がんばるぞー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ