01 商業都市国家ディルエバーズⅠ
短っ!
プロローグ以来の短さですよ!
次の話の引きはここでないと困るんで短いのは我慢願いたいです………
七十話、始まります
シノとスペーラは、ディルエバースの国境付近に来ていた。
ディルエバースは農耕国家シシラギヤの属国扱いであるため、その国境を守る警備もかなり緩い。
街道には検問があるが、少し険しい山を突っ切ってしまえば検問すら通れずに国越えできるほどには緩い。
それが旅をする者たちにとっての常識で、知らない者は生粋の街の者ぐらいといえるぐらいの常識だった。
「シノ様、本当に山を越えるんですか?」
「ん………不安?」
「まあ………シシラギヤとディルエバースの国境付近はかなり高い崖だから、安全に下れるのは検問のある街道の道だけって聞いたじゃないですか」
野営の準備をしているシノとスペーラ。話し込んでいるが、その目と意識は周囲をくまなく見渡していて、もしものことに対応できるように一定の緊張を保っている。
「検問は危険」
「へ? シシラギヤとディルエバースの検問なんて、目視で安全かそうでないかを確認するぐらいですよ? どこも危険なんてないじゃないですか」
スペーラが何と言おうと、シノは検問を通ることに頷かなかった。
この洞窟で過ごしたあと、一体どうやって崖を降りることになるのだろうか、とスペーラは馬の世話をしがら危険な旅にため息を付いていた。
□■□■□
時間はさかのぼる。
国境の、検問を行う騎士団には、一つの勅命が届けられていた。
「なんだかなー」
「絶対おかしいよな。わざわざ水晶まで送ってきてさ」
警備についている騎士たちは揃って首をかしげる。
「未成年の人間の子供は全員水晶を触らせろって………」
彼らに渡された勅命に書いてあった作業の内容は、未成年、十五歳以下の子供が国境を越えようとしたとき、必ず水晶を触らせて、水晶が紫色に光った場合、近くの領主に引き渡すべし、というものだった。
しかも、未成年であったらどんな身分の者だとしても例外なく実行し遂行せよと来たものだ。普通では考えられない勅命に騎士たちは首をかしげる。
「あと『夢』って単語をだすんだっけ?」
たとえ水晶が光らずとも、『夢』と言う単語を出して、もし怯えたり過剰な反応を示すようだったらそれらも身分に例外なく連行せよと書いてある。
「一体なんなんだろうな………」
「お、来たぞ。子供乗ってるな」
「はいはい。水晶の出番ですよー」
騎士たちは淡々と仕事をこなす。
検問から一つの季節の間動かない騎士たちは、なぜこういう者が発布されたか知ることはない。
逃げるように来た『夢』に反応した子供たちを連行する間、あまりの喜色悪いその反応に首をかしげるだけだ。
■□■□■
ディルエバーズの首都、エビュリーズでは、今日も闘技場は処刑場と化し、その地面は洗浄なぞされず、血でどす黒く染まっていた。
「王よ、本当にっ」
「言うな! 国のため、こうするしかっ」
見た目は普通の優男だが、その目に湛えた知性とあふれ出る存在感が普通と形容するのを否定する。
「我が国だけではない。こうするしか、この世界はまた戦禍に………」
王と言う敬称で呼ばれた男は、悔しそうにぎりぎりと歯を軋ませながら、どす黒い処刑場を眺める。
「しかし、『夢』などという不確かなものに………」
「言うな」
「子供ですよ! 子供が………」
「言うなっ!」
王のそばで沈痛な表情でいたのは一人だけで、それ以外の王に意見を述べていた者たちは、王の一喝で押し黙る。
肩を怒らせ、額に青筋を浮かべ、普段は見せない激昂を体現する王のただならぬ様子に囲んでいたものたちは、数歩後ろに下がってしまう。
「皆、『夢』を見た子供の一人に、ギーズの一人息子を知ってるな」
今まで王の元で静かに目を伏せていた男が、周囲の者たちの視線から王の姿を隠すように立ちふさがり、静かに口を開く。
「その倅は『夢』の中で『黒』い姿だったらしい」
ギーズというのは、近衛隊隊員で、それなりに頭角を示していたそれなりに若いのに優秀な、まだまだ伸び代がありそうな男だ。王の近辺を護衛する近衛隊内部でもその優秀さはかなりの物とみられていて、優秀なのに驕らないから人望もある、そんなやつだ。
家族仲も良く、優しい妻とまだ幼い倅に囲まれて、同じ近衛隊の者たちが羨むような生活を送っていた。
最近は休暇届を出していて王宮へと足を運んでいないため、ギースの姿を見た者はいない。
「雪の季節、町を破壊した魔物が居たな」
その場の全員が頷く。
突然街中で発生した雪の魔物はそのまま町から離れて南下して行ったのだ。現れた時は小さかったと言うのに、現れた場所がスラム街だったのが悪かったのか、そこにある死体を飲み込んで徐々に大きさを増し、南へとゆっくり進んでいった腐った魔物。
討伐しようと人を向けたが、その殆どが戻ってくることなく、現れてから街を去っていくまでの間、ものすごい吹雪が街を襲い、魔物の被害ではなく吹雪の被害でかなりのけが人が出た。
「あの魔物は、そのギーズの倅が変化した姿なんだ」
意味が分からないと顔を首を傾げるその場の者たち。
「あの日、ギーズの倅は―――」
友人と遊んでいるときその場に居合わせた年上の連中に何かを言われ、てちょうどそれが誇れる親父のことだったらしく、父親を侮辱され、怒った倅は立ち向かうが歳には敵わずぼこぼこにされてしまう。
それでも立ち上がる倅を貶した年上の連中に何を言われたかは分からないが、その連中は倅が真っ青になるようなことを言って去った。
友人たちが駆け寄ると、呆然自失としたその倅が、小さな声で一言呟いたらしい。
―――それなら、いっそ
その後にも何かを呟いていたらしいが、倅を中心に風が吹き荒れ、空が曇って雪が降りだしたところでその友人たちは恐ろしくなってその場を離れる。
そのあとは近くで座り込んでしまった男の証言になるが、その男曰く、空に吠えたらしい。
―――吹雪っ!?
男の背後から吹き付ける風は、その少年の声に合わせるかのように集まり、大きな竜巻となると、その中心の少年はゆらりと立ち上がり、どんどんとその大きさを大きくしたらしい。
竜巻の中に太陽でもあるかのように、竜巻に映し出されたのは、一つの影が、大きく膨らんでいく様。
一瞬止んだ風。
次の瞬間、竜巻があった場所から大きく雪と風が街に吹き付ける。
―――があぁあぁぁあぁぁあああ!!!
男曰く、その声は、野太いが、まるで涙を流す子供の癇癪のようにも聞こえたのだと言う。
「その後はお前たちも知っての通りだ」
町の中央部に突如発生した竜巻、それが通った場所には建物しか残っていなかった。
まるで一掃されたかのように、生き物がその姿を消していた。ただ、地面に残った、どんどん大きくなる泥のような何かが、確かにここに何か変なモノが居たと言うことを示していた。
その足跡ともいえない腐臭をはなつ泥は、首都を南へと下り、いくつかの村を飲み込んで、南のガラムという町まで行き、その場で退治されたと言う。
「他にも、いくつかの町で大きな魔物が現れたから救援を要請されているのだ。ガラムは早期解決したが、その被害は大層なものだったと早馬が知らせてくれた」
そして全て、魔物が現れたところには子供が、よくよく調べてみればその子供は皆そろってあの『夢』を見ていたのだと言う。
「だから、子供を集めるんだ」
「しかし、いくらなんでも」
「ならば、お前に国への責任が取れるのか?」
「え?」
「お前は、この国を滅亡に導こうと旗を立てるのか?」
男たちは、この場で行われる惨劇を肯定することはできなかったが、目を瞑ることを承諾した。
「王よ」
「ああ」
「………次の子供がここに来ます」
「………そうだな」
処刑場となった闘技場には、子供が運び込まれる。
「たすけて! いやだ! なんで!」
首をちぎれそうに横に振りながら、子供が騎士に引っ張られて入ってくる。懸命に抵抗するが、所詮は子供、子供の力では騎士に敵うはずもなく、その体はずるずると黒く染まった処刑台へと連行されていく。
「おとうさん! おかあさん! やーー!!」
子供は、両手を引っ張られ、足を折り曲げた状態で踏まれ、一切動けないように固定される。
「いやっ! やだ! やだー!!」
涙を流し、泣き続ける子供。
それを見る大人の顔はみな無表情だ。
「いやーーーあ゛、が」
その子供が、叫んでいた子供が、後ろから来ていた騎士の大剣によって真っ二つになる。
騎士の銀の鎧は飛んできた血で汚れ、地面には新たな赤が染み込んでいく。
「これで、十人。これからもまだ増えるでしょう」
感情の抜け落ちた瞳で、地方の騎士団から寄せられた報告書をにらみながら、そう王に告げる。
「そうか………次を」
「王よ、私が見ておきますから………」
「ならん。対策がとれなかったとは言え、私が殺すのはこの国の民なのだ。私はそれを目に焼き付けておかなければならない」
これは義務なのだ。
そう続ける王の握りしめられた白い手からは、目の前で切られた子供から噴き出た赤いものと同じものが滲む。
「次を」
もうすぐ雪は溶けるだろう。
雪が解けたらこの問題も同じようにすっかり溶けてしまっているかもしれない。
そんな楽観的な希望が粉々に打ち砕かれたのは、続々と寄せられる町陥落の報せだった。
久々に出てきたシノとスピィ。
次回は出てこないのではないかな。
ディルエバース編がいくつで終わるかは分からないですが、終わる時にもう一回出てくるかと思いますよー
そこまで行くのにきっと三日はかかると思われ。
久々にCoCやって面白かったー!!




