19 事後処理は大人の仕事
まさか24時間以上寝続けるとは思わなかった………
「よくねたー」と思って起きてみれば明日ではなく明後日だったという恐怖。
特に何もしてないのに、疲れてたのかな?
しかしながら、よくわからない夢が怖かったー
時計の秒針に括り付けられて十年を過ごす罰ゲームとか、ただの嫌がらせじゃないか。
六十七話、始まります
タクとアルテとテトラが無事友人となり、テトラがタクの実年齢を知って思いっきりへこむ様子をからかってる時にそいつは来た。
「へぇ? 君が教会から指名手配されてるテトラ、ってやつ??」
タクの部屋に勝手に入り込んで、突然のことで動けないテトラに刃物を向けた男は、タクとアルテが目に入っていなかった。
子供二人部屋にその人物ならいますよ、という武骨な宿屋の亭主を信じて入ったため、タクとアルテが目に入ってなかったというのが正しいのかも知れない。それが不幸だったのだろうが。
「っ俺の友人に手を出すな!」
「………アルテ、多分宿のおっさんが扉の外に居るから、殴らなくても大丈夫だったと思うよ?」
綺麗に顎に入ったアルテの拳は振りぬかれ、入ってきた男は扉の外へと弾き飛ばされそれを宿屋の亭主がタクに頭を下げてから引きづり連れて行く。
「え?」
「恥ずかしいやつだなー」
「………ありがと、アルテ」
タクがアルテを指さして笑い、照れくさそうに呟くテトラ。
アルテはぷくぅっと頬を膨らませて、タクに詰め寄る。
「んで? さっきの持ってきた『いい話』って何さ!」
「ん? アルテ気が付いてないの?」
「は?」
ひとしきり笑い終わったタクは、これからの計画について話し出す。
理由も目的も言わず、行動と言動を二人に叩き込む。
「なんでこんなこと言うんだよ、タク」
「うん? それが一番手っ取り早いから」
「タク、本当にこれで教会からの指名手配が消えるんだよな」
「ああ、多分消える。テトラはあんまり気にしなくていいと思うよ?」
昼過ぎ。
すでに冒険者講習会が終わっただろうという時間なのを確かめると、タクはエイファを起こして、四人で冒険者ギルドへと向かう。
道すがら、僧院の正式な僧兵さんと、教会に居る神父を引っ張って連れて行く。
「さて皆さん、話し合いをしましょうか?」
タクは全員を冒険者ギルドの会議室に座らせると、机の上にある花を模った木彫りのボタンを結構な数ばらまく。
それを見ただけで教会の神父は青ざめ、僧兵は軽くだがしっかりと目を見張る。エイファは仕方ないと苦笑し、アルテとテトラはその反応の意味が分からず首を傾げ、本来のこの部屋の管理人であるはずのファメスは足を組んでゆっくりと茶を飲んでいる。
「これは俺が個人的に退治した証拠です。ですので、あまり気にしないでください。ええ、気にする必要はありませんから」
にっこりと笑うタク。
「俺はそこに座るアルテ少年の護衛です。なぜ俺が進行するかとか聞かないでくださいよ? アルテ少年は教会の教えに敬虔な孤児院に住む神父見習いですが、それ故に語気を荒くすることもできないので代わりに喋っています。そうだよね、アルテ」
「うん」
神父が何か言おうと口を開けたところに入ったタクの解説で、黙り込むしかなくなった神父。
タクは、自分に考える頭があることと、教会の教えを知っていること、アルテに本来望まれる性格を目の前の神父に植え付けるために語ったのだ。
「俺たちの目的は、護衛を雇うということです」
「………護衛ですか」
「はい。護衛です」
神父は取り繕った表情で、極めてゆっくりと言葉を紡ぐ。
「護衛なら、既に君が居るから要らないのではないか?」
「いえ。俺はアルテの護衛を務めても孤児院の護衛になることはできませんよ」
子供だから、という面もあるが、それ以前に孤児院の護衛になることができるのは教会の信者か、しっかりとした後ろ盾がある者という制限がかかる。
エビュリーズでは信仰自体そこまでされていない教会だからまず前者がそこまでいない。しかも孤児院はスラム街にある。しっかりとした後ろ盾のある者がわざわざ働きたいと思う職場ですらないのだ。
「なぜ………」
「早く続きを話せ。教会と違って僧院はそう暇ではないのだ」
「はい」
更に話を聞こうとした神父の言葉を遮って僧兵が続きを促す。
「ここに来て、ある話を聞きました。ある僧兵見習いが教会から指名手配されていると」
そうですよね? と確認を取るタクに、神父も僧兵も頷く。
「教会の教義の中には、魔眼を持つ者は魔物の手先であると言っていますよね? 知っているよな、アルテ」
「知ってる」
驚きで目を見開いたのは、テトラただ一人。
アルテと話して、やっと友人ができたと言うのに、神父見習いで教義を信じているなら、アルテも殺しに来るんじゃないか。教会の手先として友人という関係になったのではないのだろうか。
そんな思いがテトラの中に渦巻く。
「ここで問題が生じたんですよ」
「ほう、問題ですか」
僧兵が相槌を打つ。
心配そうに見てくる愛弟子の今後を決めるだろう会議だ。
もともと僧院側としては、教会ともめ事を起こすのを良しとしていない。
今回の事件の裏金を受け取っていたのがお偉いさんだということを隠すためにアルテを利用した、ということは、アルテら見習い以外周知の事実だ。
それがうまく行ったのかそうでないのかは、結局のところ僧院側にとってもどうでもいいことだったのだが、僧院の教えの中に、僧となった者は家族であり、何においても優先するべき、という心得があるため、教会の過激な対応に相応の対応をしていたらここまでことが大きくなってしまったのだ。
「ええ。アルテ、思ったことを正直に答えてくれよ」
「ああ、なんだよタク?」
「テトラの目を見た、正直な感想をこの場で言って」
ビクッと横で震えたテトラを不思議に思いながら、アルテは一言、全員に聞こえる声で言い切った。
「綺麗だった。まるで教義に出てくる、透明の背教者みたいな、きれいな虹色の瞳だった」
恋する乙女のように頬を染めて言い切ったアルテ。
背教者という言葉にさらに顔を青くするテトラ。
驚きながら顔を青くする神父。
綺麗と言う言葉に同意するように頷く僧兵。
満足そうに口の端を吊り上げるタク。
そんなタクを呆れたように見るエイファ。
「透明の背教者というのは、どんな話なんだい?」
全員の表情があまりにも面白かったファメスはアルテに聞く。
アルテはどう話していいか分からず、タクに目線を送るが、タクは好きなように話せばいいと見返してきて、目の前に教義を知っている神父が居ることに緊張しながら、言葉を発する。
「神を信じながら、教義を最期まで守らなかった神父の話です」
「教義を守る者が神父だろ? 背教者以前に、信徒ですらないじゃないか」
ファメスは、自分を困らせた神父がさらに白くなるのを見て、鬱憤晴らしをかねて、アルテに先を続けさせる。
「それは………」
「もういいだろう! だからなんだと言いたいのだね?」
声を荒げた神父に、周りがそんな神父を見るのが初めてだと目を丸くしたのを見て、笑みを深めたタクが続ける。
「つまるところ、アルテの目的は町の孤児院を守ってくれる護衛を得ることなんですけどね?」
ファメスとテトラとアルテ以外は、タクの言いたいことが分かったのか、頷いて顔をしかめた。
「丁度いいですから、テトラを下さいな」
「馬鹿を言うな!」
食ってかかったのは神父だ。
「なんでです? 神父様」
「教義に反するではないか!」
「教義では無為の殺生を禁じてるでしょ」
「そ」
それはそれ、これはこれ。
そう言いたかった神父の言葉は遮られ、すでに話を通されていた僧兵が言葉を紡ぐ。
「私たちはすでに了承している。テトラ、私も共に行くことになるが、このアルテ少年の町で護衛をしてみないかい?」
「なっ」
「え、アルテの町に?」
テトラはアルテを見て、タクを見る。
アルテはやっとわかったようで、笑顔でテトラに頷き、タクは好きにしたらいいと笑顔で言う。
「できるなら行きたい! です」
「ならば決定だな」
「はい。議会は終わり―」
エイファの声で、神父とタク以外が立ち去る。
「待ちなさい! まだ終わっていない!! 教会は何の許可も出していないじゃないか!」
神父が止めるが、他の全員は、まるで催眠術でもかかったかのように会議室の外へと出て行ってしまう。
ドアを閉めた音が二人だけになった会議室に響く。
「アルテは俺らが連れて行く。いいじゃないか、教会でうそつきの真相を見張れるんだ。しかも孤児院の護衛とでもなれば、今噂されてる教会と僧院の不仲も、取り繕えるんじゃないの?」
ゆっくりとタクは立ち上がり、作った笑顔で告げる。
「早く神官様に伝えてあげなよ。身柄を確保しようとした魔眼の持ち主は、ガラムの孤児院にとられましたって、ね」
言われた神父は砂のように白くなって、椅子へと崩れ落ちる。
タクは、背伸びをすると、神父一人を残して会議室から去った。
□■□■□
僧院で、神父とギルド長以外の面子はくつろいでいた。
「なあ、タク」
「何? アルテ」
「タクが教えてくれた、透明の背教者って結局どういうお話なの?」
アルテが聞いたことに、驚いたのは他の面々だ。
「アルテ君、あんなに堂々と話してたじゃない」
「少年、知らないのに言い切っていたのか?」
「え? だってタクに聞かれたらそう言えって言われたから………」
どう言うことなんだとアルテがタクを睨みつける。タクはその睨みがあまりにも可愛くてこみ上げてきた笑いを止められてない。
「文字を読む練習をしてたろ?」
「ああ、神父様にも読み物として教典を見せてもらってたな」
そういえばと頷くアルテ。
「俺、教義の原典を見せてもらったんだよ」
ふーん、という反応を示すアルテは、だからどうしたと言いたげだが、それを遮って、エイファと僧兵が身を乗り出す。
「原典って発禁になった、あの原典!?」
「全て焚かれたはずではなかったのか!」
「いや? ガラムはなんか賢者様の出身地らしいじゃないですか、その賢者様が作った地下の書庫にいろんな本が並んでましたよ」
ガラムの神父は二人いる。
地下で昔の本を写本し続ける者と、地上で教会を仕切る者。普通は地上の者しか知ることはないのだが、タクは何とか神父様に頼み込み、地下の方へと案内してもらっていたのだ。
「あー、だから古い本ばっかり読んでたの?」
「まあね」
「俺、本が好きじゃなかったから、あそこで勉強するのやめたんだよね」
地下の蔵書について、エイファはもう口がふさがらないのではないかと思うほどにあっけにとられていたし、教義に反する教典として燃やしたはずの教典をいまだに伝えていることに顎が外れそうになる僧兵。
「もったいない。昔の剣術書とかもあったのに………」
「なにそれ! 知らないよそれ!!」
「ほら、奥のー、五番目ぐらいの棚? だったかな。そこに置いてあった。少しかびてたけど、挿絵も付いた分かりやすい本だったはず」
帰ったら絶対読もうと決心するアルテ。
もし教会にこの地下書庫にある本の数々がばれてしまうと大変なことになるのだが、そんなことまで気づくような子ではない。
「ま、まぁ? それは置いておきましょう。これ以上話を聞くと私、戻れないかもしれないから」
然り、と頷く僧兵に、アルテとテトラは首を傾げ、タクは苦笑する。
「とりあえず、教会からなんかの通達が来ると思うんで、それまではテトラはここに。ガラムに帰る数日前には迎えに来るので、来てくれる方がいらっしゃれば準備しておいてください」
タクはそう言ってしめくくり、テトラとアルテの手を引いて外へと駆けていく。
中でその様子を見守っていたエイファと僧兵は、音が聞こえなくなったところで息を吐き切る。
「本当にうちの子がすみませんでした」
「ああ………いいんですよ………」
頭を下げるエイファに、遠い目をする僧兵。
エイファは精霊に何があったのかを一部始終聞いていたのだ。僧院の中でタクが教会から送られた暗殺者を全員伸し、向ってくる僧兵をなぎ倒した上、目の前の僧兵に、自分が暗殺者以上の実力があることを知ら示したうえで、今回の話を必ず明日までに上に通して許可を貰えと脅していたこと全てを知っていたのだ。
「昨日の夜はお騒がせしたでしょう」
「流石は精霊使い殿、よく御存じだ」
「院長………」
部屋に入ってきたのは、立派な白い髭を蓄えた今にも死にそうな老人。老人の後ろには僧兵たちが控えていて、動きが少しぎこちない老人の補助をしている。
「タク君、と言ったかな」
「はい。元々僧院で護衛を募集しようと言ったのは横に居たアルテという少年の方ですが、ここにきて、全てを利用して引き込もうという案に変えたのはタク君の方です」
エイファは頭を上げようとして、首元に突き付けられているナイフに気が付く。頭を下げたままで居ろという、言外の指示に従う。
「テトラに、タクという青年の話を聞いたのだがね」
「はい」
青年ってことは、昨日の時点でテトラに自分の年齢を話していなかったのかと納得し、あんまり僧院を信用していなかったのかな? と心の中で疑問に思う。
「まるでむき出しであるかのように輝いてるのだそうだ」
「はい?」
テトラが魔眼であると、タクから聞いていたエイファだが、その能力を知らないエイファには、何を言っているのかまったくわからない。
「タクという少年の魂は、嘘を真にしてしまう力があるらしい」
「嘘を、真に?」
「そう。まるで望むがままに全てを書き換えてしまえるような魂を持っているらしい」
嘘だろう、と言うのは簡単だが、エイファは、これまでのタクの言動を見てきて、そう言うのもあるのかもしれないと思ってしまう自分に混乱する。
「もしかしたら、それが彼の固有魔術なのかもしれませんが、我々は彼を脅威として監視対象に置くことにしました」
「なっ」
ナイフを気にせずに頭を上げたエイファは、目の前で目を光らせる老獪に剣を突き立てられている気がしてならない。
首に刺さっていたのは、ナイフではなく、ナイフのように研ぎ澄まされた視線だと気が付いた時には、もう遅い。
「さて、あの青年について、知ってること全て話していただけますね? 精霊使い殿」
まだ子供である二人をちょっと恨みながら、知っていることを吐かされるエイファ。
こんな人が一番上に立っているのだから、自分の年齢を告げなかったのだな、とエイファは納得する。
―――大人は事故処理お願いしますね?
獣の血と雨で濡れたエイファにそう言ったタク。
―――そうね、大人の仕事は子供の事後処理もあるんだし、まっかせなさーい!
そう言った、半日前の自分を責めたかったエイファである。
■□■□■
暗い部屋の中からは何の音もしない。
誰も訪れないその部屋を開けたのは、一人の男。
「あの、もう直ぐ祭典が………ひぃっ!」
男は扉にかけていた手を思わず放し、後ろに後ずさり、元来た方向へと走り出す。
「誰かっ! 誰か来てくれっ!!」
開け放たれた扉の奥は、扉から入る光しか入らない。
床には一枚の紙。
「どうした」
「部屋で! 部屋の中っ」
紙に書かれた文はただ一つ。
「何だこれは!?」
「おい、いつからこうだった!」
「知りません! 密会の報せは私たちにも知らされませんからっ」
「ちっ」
「おい、他に知る者はいないのか!」
丸く円のように並ぶ椅子。
一つは倒れ、一つには血に濡れた剣が刺さり、あと三つには。
「三日前に五人訪れてから、この階に登った方も、下った方もいらっしゃいません!」
「名簿はどうした!」
「本山の総会の方々ですよ! 密会に名簿なんてありません!」
銀色に輝く鎧を身にまとった騎士は、部屋の惨状に口元を覆う。
ついてきた若い騎士は床に吐いた。
しかし、誰もそれについて物を言わない。吐くのが当然、そんな光景がその場に広がっていたのだから。
「顔は見ていないのか!」
「皆さ深いフードをかぶっていらっしゃるんです! 声だって知りません!!」
なんとも言い難い死体。
首を大事そうに抱え嗤う、三つの死体が三つの椅子に座っていた。
「………三人の神官は行方不明」
「えっ」
「いいな、三人の神官は行方不明、ここでは何も起きていないし、何もなかった」
後から来た騎士は全員にそう言って、顔色を変えずに部屋の中へと入り、床で綺麗な状態を保っている紙を拾う。
―――あなたは神を信じますか?
紙をその手で握りつぶした騎士は、窓にかかっていたカーテンを引きちぎり、床に広げたカーテンにゴミでも詰めるかのように死体を投げ入れ、全部収めてからきれいに結ぶ。
「ゴミだ」
鋭利な刃物のようなその視線は、その場にいる者を凍えさせた。
「そうだな、ここは一時間後に火事にあうだろう」
「へ?」
「火事になったら騎士団を呼ぶと良い」
「あ、はいっ」
「そうだな。きっと慈悲深い教会からその慈悲に見舞う金を貰うことができるだろう」
騎士は、他の騎士と床でまだ吐き続けている騎士の首を掴んで階段を下って行く。
建物の管理人は、凄惨な現場に残された腐臭と、うごめく大量の虫に吐き気をもよおしながら、カーテンに包まれた死体によく燃える油をかける。
「火を、持ってきました!」
「貸せ」
こんなものは見せたくないと、管理人は人を追い出し、油に火をつける。
よく染み込んだ油は、嬉しそうに死体を飲み込んでいく。
黒煙が部屋の中に充満し、咳をしながら、吐き気をこらえながら、通りに面した窓をゆっくりと開け、黒い煙を外へと出す。
すぐに外で悲鳴が聞こえる。
管理人は、部屋そのものが燃えにくい材質でできているのがせめてもの救いだと思いながら、部屋から出て扉を閉める。
中では三つの死体が嗤っている。
焼かれながらも、いつまでもその顔は嗤っていた。
アルテはテトラの瞳を見たけど、テトラが魔眼の保有者だとは知りません。
今回の途中でぶった切られる話し合いという名の何かで出てきた「透明の背教者」というお話、考えてみたんですよ。それを簡略化したものを載っけようとしたんですよ。
自分の文才では短縮できませんでしたねー。
3章12話の一番最後にあった話のちょっとした続きみたいな文章が今回付属されてます。
この最後の奴は、これからもちょびちょび出てくるかもしれませんが、今のところ大筋と関わる予定は不明です。




