18 起こるべくして起こる騒動
ちょっと閑話っぽくなってしまった………
さてさて。
もう最近布団から出たくない………
PCに向かうためにベッドから降りたくない………
一日中ごろごろして過ごしたい!!
六十六話、始まります
アルテはやっぱりアルテだった。
その一言に尽きる。
□■□■□
少々霧が深い今日は港の船も沈黙していて、街の活気は全くと言っていいほどない。
そんな中央通りを一人の青年にしか見えない少年が、宿へと帰っていく。
「ただいまー」
「お帰り………ってタク!?」
丁度エイファもタクも帰ってこないから、外に行って剣の鍛錬でもしようかと外にでてきたときにエントランスでタクと鉢合わせたたアルテである。
「え? そんなに驚かれること?」
「だって誘拐って、え? え? まだエイファさんも帰って来てないんだよ! だからタクを探しに行ってるもんだとばかり………」
ネリーはアルテにどんな試験が行われたかを聞きちょっとした勉強をし、正午からの新人冒険者講習会の為に、セレシーデと共に最後の確認作業と言う名の惰眠を貪っている。
一応起こしに行ったアルテだったが、睡眠学習という言葉もあるのですからこれで大丈夫です、と言い返されそんな学習の仕方もあるのかと納得してしまったアルテである。
「俺眠いから部屋で寝る。お前の部屋どこ?」
「ああ、一応ツイン取ってるから。はい、鍵。三階の一番奥」
「おー………ふわぁ」
大きな欠伸をしながら、タクはアルテの手から鍵を受け取り、そのまま階段へと足をかける。
「一体何してたのさ………」
「誘拐されて、屋台連れまわされて、看病してきた」
「ナニソレ」
何一つとして嘘は言っていないが、嘘にしか聞こえない不思議。
少なくとも、普通はあり得ないだろうと言う誘拐経験をしたタクである。アルテは理解できずに頭を抱えている。
「うーん、多分友達になったのかな?」
朝熱が下がっても結局ありがとうともお礼を言わなかった青年を思い出して、タクは苦笑する。
まだ自分はこれでも八歳で、相手が二十一歳と聞いて、友達というのは成立するのかな? と悩んでいるが、向こうはタクがその年齢だとは思っていない。少なくとも成人はしているだろうと思っている。
「意味わかんないけど?」
「起きたら紹介するよ。昼にここに来るから」
「へー………は!?」
誘拐犯が来るという事実に目をカッと開くアルテ。
「あー、あとエイファさん、向かいを左に三軒行って、ちょっと奥に入った酒場でつぶれて寝てるから回収よろしく。おやすみー」
話している間も階段を上り続けていたタクの姿は最後のおやすみの一言で掻き消える。
その気配も完全に消えたのをアルテは感じて、一体何をしてきたんだよと突っ込み、タクの発言内容をよくよく考えて青ざめる。
「………ちょっと! え!? 俺一人でやるの? タク! 寝る前に手伝って! タク―!!」
当然宿の亭主より拳骨を食らってすこし涙目になったアルテだったが、奥さんが「お兄ちゃんと喧嘩でもしたの?」と優しく声をかけられて本気で涙したのは仕方ないことなのかもしれない。
その代りにデザートを奢ってもらえたのだから差引ゼロだとは思うが。
「はぁ………」
エイファを起こしに行くのはだいたいタクだった。
なぜなら、酒を飲んだエイファはとてつもなく寝起きが悪い。
寝起きが悪い癖に、絶対に起こしてなどと言ってくる無自覚さがあって、アルテもタクもはっきり言ってエイファを起こすのは罰ゲームだと思っている。
「おはようございまーす………」
「おう、お前があの坊主の代わりか。この姉さん早く連れてってくれよ、掃除ができねぇ」
酒屋の店主が気のいい人で良かったとまずは胸をなで下ろすアルテ。たまに店主が厳しいところだと、エイファが店主に殴り掛かったりして流血沙汰になるのであまりよろしくないのだ。しかも連れて帰ろうとすると殴ってくるものだから、そういう時は問答無用でタクが沈ませている。
「えーっと、すこし机と椅子、動かしていいですか?」
「構わねぇよ」
エイファが暴れた時に壊すかもしれないので、周囲の机と椅子はなるべく一か所にまとめて置く。
さすがに数か月共に旅をしてきただけあって慣れたものだ。
「エイファさーん、朝ですよー」
机にあるどんだけ飲んだんだよ、と言いたくなるぐらい、埋め尽くす勢いで置いてる瓶を脇へとどけながら、アルテはエイファを揺すり起こそうとする。
タクは大抵エイファから香る酒の匂いで、どの対応をすれば一番早く起きるか分かるが、身近に酒をたしなむ人が居なかったアルテは、一番被害が少ない段階からゆっくりと、でも確実に起きる段階まで引き上げなければならない。
「う、ん………ぅん………」
「駄目か………」
一段階は失敗。
アルテは、店主さんに頼んで金物を持ってきてもらい、騒音を気にせずにエイファの耳の横で叩きまくる。
「ううん………んっ!」
「ぐはっ!!」
一瞬眉をしかめて体勢を変えようとしたのを見て、これならいけると踏んだのだが、近づいた分迫りくる拳を正面から受けてしまって気前よく吹っ飛ぶ。
「坊主! 大丈夫かい!?」
「あーはい。いつものことなんで………」
そういえば、なぜ酒場ではなく酒屋に居るんだろう? と今更ながら思うアルテ。
「あのー」
「なんだい?」
「エイファさん、彼女って、一体どのくらい飲んだんですか?」
エイファとタクがそれぞれ宿泊と食費を稼いで余ったモノを、酒飲み兼情報料と買い食い兼その他必要経費に充てている。
だから基本的にお金のことは気にしていないのだが、酒豪のエイファである。つぶれるが翌日にはきっちりと、二日酔いもせずに復活しているエイファであるから、飲む量を制限しないのだ。、
「連れと、ここにいた常連と一緒に飲んで、何樽開けたかな………」
「樽単位ですか………」
この酒屋の中は対して広くない。
普通の酒場で数樽が完全に空くような時と言うのは、多くの冒険者が集まって祝杯でも上げて全員がつぶれるような時だ。
今ここにいるのはエイファだけであり、他の面々は早々に切り上げて帰ったのか、もう起きて帰ったのかは分からないが、歩いて帰れたということは、そこまで飲んでいないだろうと言うことが分かる。
「ちゃんとお金って払いましたよね………」
「ああもちろん。こんなに貰って生活費は大丈夫かって聞いたら、ちょっとの我慢と別に財布があるから気にしなくて大丈夫なんて言っててな」
別のお財布とはきっとタクの財布だろうし、ちょっとの我慢とは飲酒のことだろうか? 宿の方を我慢させられたらたまったもんじゃないと思うアルテ。
「あれ言わなきゃいけないのかな………」
エイファを一発で起こす一番いい方法がある。
あるのだが、そのあとの被害を考えるとあまりやりたくないと思うアルテ。しかし、やらなければきっと起きることがないので、やるしかないと腹をくくる。
「あの、ここら辺で大量発生してる魔物とかいませんかね。噂だけでいいんですけど………」
ダメもとだ。
それをやると、狩り尽くすまで絶対に正気に戻らないが、その後処理が大変だったりするが、起こすことが最善の目標だ。
「うーん………アリルダって知ってるか?」
「はい。野生のアダラって言われてるやつですよね」
噂があったことに安心する。
「四本の牙が特徴的で、アダラより筋肉質で締まってるが、ちゃんと加工すればそれなりにおいしく食える。その魔物なりかけが最近見つかったと言ってたから、もしかしたら黄橡猪も出てきてるかもしれない」
色つきの黄橡猪は小さい一軒家と同じくらいの大きさのアリルダだ。
普通は隊列を組んで、きっちり防護壁をあったうえで、稼ぎたい冒険者たちによる殺害劇が始まるような怪物であるはずなのだが、この際仕方ない。大きい出費をしたことだし、稼いでもらおう、とちゃくちゃくと準備を進めているだろう冒険者ギルドと兵士たちには悪いことをした、アルテは心の中で謝った。
「エイファさん! 大変です!!」
「ん………」
「シーブさんが浮気しました!!」
「………あ゛ぁ!?」
「ひっ」
いきなり立ち上がって目が座ったエイファは、すこしくらっと来たようだったが、何とかその場に踏みとどまり、発言者のアルテを幽鬼のように顔を動かして見る。
「アルテェ~………不貞の亭主はどこ行った? どっちに行ったんだ?」
「山です! 西の山の盆地のところで、いい場所があるから誘ったんだって」
山か海か、海岸沿いしか道がないのだが、腰を抜かした店主に、酒がうまかったと礼を言って、外に出た途端山に向けて走り出す。
「えーっと、お片付け手伝うんで、できればアレは忘れてあげてください」
「あ、あぁ」
「ありがとうございました」
「あ、はぁ………」
頭を下げたアルテが向かうのは宿の厩舎。
タクに必要経費として買ってもらった短剣とナイフを腰に下げ、馬に丈夫な袋を括り付けて、馬に乗ってまだ霧の濃い表通りを走り抜ける。
「タク、起こして来れば良かったかなぁ………」
騎乗したままそうつぶやくアルテは、昼までに片づけなければと大きくため息を付くのだった。
□■□■□
漁師は顔を青ざめて言った。
「こんなしけは始めてだ」
貿易商はため息交じりに言う。
「商売にならないな」
冒険者は実入りがなくて残念そうに、しかし楽しそうに言い合う。
「今日はおとなしくするしかないか」
「酒飲む?」
「いや、講習会覗いてみよう」
「ああ、そういえば今日だったか」
冒険者ギルドの三階、ギルド長の執務室では、ファメス・エルマールが優雅に椅子に腰かけながら、笑みを張り付けた顔で空を見て言うだろう。
「私の聖女」
その嵐は、いきなり現れたのだ。
いつも海と山を見て暮らしている漁師でさえ、波を読む船乗りでさえ、その嵐の兆候を見逃した。
いや、見逃さざる得なかったという方が正しいのかもしれない。
その嵐は、普通訪れるような嵐ではなく、魔術的に生み出された嵐なのだから。
「うわっ!」
誰もが室内から外を見て、今日外に居るような奴は馬鹿だけだろうと思っている頃、山の中では荒れ狂う嵐の中心にいる人物に一生懸命近づこうと動いている少年が居たりする。
「どこだあぁあぁあああ!!」
そして嵐の中心には、鬼のように髪を振り乱して、手に持つ杖を振り回しながら思うままに魔力を発散させる女性が居る。
「―――穿て、轟雷!」
瞬間、周りを明るく照らし出した雲。
少しも遅れずに追ってきた轟音が、タクをベッドから叩き落とした。
「うおっ! え!? は?」
タクの目に映るのは宿屋の一室。
窓を打ち付ける雨と風で宿屋自体が少し揺れている。
「おい、君、大丈夫かい?」
「あー、はい。わざわざありがとうございます」
「いや、さっきの雷で受付に皆が来てね。それでも来ない部屋でもしものことが起きてたら嫌だから確認してるんだ」
大丈夫ならいいんだ、と宿の亭主はタクを残して部屋を去っていく。
こんな嵐の兆候なかったんだけど、とタクは首をかしげるが、この嵐が昼までに止めばいいなぁ、と思うしかない。
「アルテ? ………タク様!」
「ネリー? ああ、講習会今日だっけ。雨の中大変だろうと思うけど、頑張ってね」
「は、はい! セレシーデと共に頑張ってきますわ!」
アルテに一言言ってから宿をでようとしていたのだろうネリーは、居なくなっていたタクがそこにいたことで顔をほんのりと赤く染めながら、パタパタと扉の前を通り過ぎる。
後にやってきたセレシーデはネリーの様子に首をかしげてから、タクの恰好を見て苦笑すると、一礼してネリーを追う。
「なんで笑われたんだ………?」
よくよく自分の恰好を見直したタクは、頭を抱える。
帰ってきてろくに着替えずにそのまま寝てしまったので、ズボンしか身に着けていなかったのだ。
短い髪には癖が付き、まだぼーっとしている半裸の男の姿を見たら、そりゃ顔を赤く染めるわ、と思いながら、適当な服を羽織って宿の亭主にお湯を用意してもらって沐浴する。
「さて………起きちゃったし」
もうすぐ昼だから良いけど、ぎりぎりまで寝たかったとぼやくタクは一階へと降り、奥の食堂で追加料金を支払いながら遅い朝食を食べる。
魚をふんだんに使った食事だったが、朝漁に出ていないせいか、干物ばかりの食事だ。前日に、釣れたて焼きたての串焼きを食べてしまっている分、なんだか物足りないタクだか、これもこれでおいしいと完食して宿のエントランスの長椅子に寝っころがって目当ての客を待つ。
■□■□■
冒険者ギルドの一階では少しの騒ぎが起きていた。
装飾品としても、武器の材料としても有用できる黄橡猪の牙が完全な状態で八本も届けられ、大量のアリルダの牙が二人の冒険者と一人の僧兵見習いの手によって届けられたからだ。
「エイファさん、もういいでしょ?」
「うぅ………」
「もう一眠りでもしましょうよ、せっかく宿があるんですし」
雨水で流されているとは言え、それなりに様々な液体に塗れて淀れているエイファに、雨水と泥で汚れたアルテが宿へと引っ張る。
「アルテ君だっけ。偉いね、お姉さんのお世話してあげるなんて」
「あはは………エイファさんは、僕らの保護者ですから」
「それでもさ」
「でも、テトラさん、本当にありがとうございました」
「いやいや。別にそんなお礼を言われるようなことしてないよ」
アルテがエイファを引っ張る分、馬を引っ張っているのはテトラだ。
「でも、宿まで送ってもらうなんて、本当にありがとうございます」
「いいんだ。俺もそこの宿には用事があるから」
エイファが荒れ狂い過ぎて、アルテが手を出せなくなってしまったとき、颯爽と現れたテトラが手に持っていた長い棒を振るって物理的にエイファを止めたのだ。
だから今エイファは後頭部を押さえて唸っているし、仕方なかったとは言え、女性を殴ってしまったと後悔するテトラは少し離れて馬を引きながらアルテたちを追う。
「あ、厩舎に………」
「知ってるからやっとく。そのお姉さんを部屋まで連れて行くといいよ」
「ありがとうございます」
テトラは馬を引きつれ厩舎に。アルテはエイファを連れて宿の中へと入り、もともととってある部屋にエイファを押し込むと、タクを探す。
「タク!」
「タク!」
アルテがエントランスでタクを上から見つけたのと、テトラが入り口からタクを見つけたのはほぼ同時だったのだろう。
うまく重なった二人の声で起きたタクは、少しぼんやりとしながら、目の前にアルテとテトラが居るのを見て、頷く。
「アルテ、紹介しよう」
「へ?」
「こちら、俺を誘拐した張本人で、きっと脳みそまで筋肉で構成されているテトラ、二十一歳」
「改めてよろしく」
「テトラ、これがお人よし過ぎて騙されては泣きかえるアルテ、十四歳」
「よ、よろしくお願いします………うん? 誘拐犯?」
こうして二人は改めて挨拶を交わして、お互いがお互いに目当ての人物だと言うこと知る。
「さて、部屋に戻ろうか」
男部屋に入った三人は椅子に座ったり、ベッドに腰掛けてもう一度自己紹介をし、テトラは前髪を掻きあげなよ、と言うタクの声に、少し顔をしかめながら、アルテに自らの魔眼をさらす。
「うっわぁああ!」
「!?」
その眼を見たアルテは頬を紅潮させて、椅子に座るテトラの顔をぐっと近づいて覗き込む。
「な、なんだよ」
そんな至近距離で見られたことは初めてで、昔のように殴られるのではないかと、やられる前にやってしまおうと振り上げた手を、タクが目に入ったことでなんとか振り下ろす前に止め、アルテを見返す。
「テトラさんの目って」
「………」
「すっごい綺麗な色をしてるんだね!」
これでもかと見開かれたテトラの姿を、晴れ渡った空が照らす。
タクはテトラに困ったような目線を向けられて肩をすくめて見せ、窓を開いて燦々と照りつける太陽の温かさを部屋の中に引き入れる。
「な? 俺の友人も同じこと言うって言ったろ」
テトラが見方によって色を変える目のまわりを袖でこすって、真っ赤にしてしまうまであと少し。
魔眼は、見方(見る方向や他の要因)によって色を変える不思議な目です。決して、「俺の目がぁあぁあ!」って人種ではありません。
二十数話で切りをつけたいのに、これ、絶対終わらないでしょ………
タク君! 想像の中で暴れないで! 長くなるから!!
※この作品はA4一枚の殴り書きメモ構成から成り立つ、ちゃんとしたプロットが存在しない所謂行き当たりばったりの作品です。




