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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第三章 少年編・生きる
67/113

17 信仰と魔眼

 日本人は万華教! って言われるよね。

 (そうじゃない人もかなりいるとは思うけど)

 万華教でいいじゃん、戦争起こらないし。

 そう考えてしまう自分は、ただ単に人を傷つけることを嫌う臆病者なのかもしれないねー。認め合うってことも大事だと思うんだけどなー。

 そんな適当な宗教観で書いてるから、こんな物語になるのかもね。


 六十五話、始まります

 タクは抱えられて運ばれたのは覚えていたが、途中で意識を失ってしまい、目覚めたのは、どこか分からないベッドの上だった。

 体を起こすが、鳩尾に勢いよく食らったせいか鈍痛が続いており顔をしかめるが、眩暈や引きつりなどは起こさないので、まあ動けるだろうとベッドを降りる。

 窓がなく、あるのはベッドと机と、いくつかの本と水が入ったコップ。牢屋のような格子が付けられている扉だった。


 「どこだよ、ここ」


 その声に応える声はなかったので、扉をあけようと試みてみたが、押しても引いても横へ滑らせようとしても、上へ持ち上げようとしても開かない。

 今がどのくらいの時間なのかさっぱりと分からないが、そとからだと思われる喧騒が聞こえるので、きっと夜ではないのだろうと。体内時間からそんなに寝ていたとは思えないから当日の昼か夕方かで悩む。

 動くと鈍痛が走るので、とりあえず考えるのにベッドに座って体感で数十分後、美味そうな匂いと共にあの男が部屋に入ってきた。


 「あれ? 起きたんだ。復活早いんだな、お前」


 閉まってたはずのドアを普通に押して入ってきた男。


 「その扉、どうやって開けたの」

 「うん? ああ、もう逃げようとしてたんだ。ちょっと工夫があってね。内側からだとこの出っ張りに魔力流さないと出られないようにしてあるんだ」


 馬鹿正直に教えてくれる奴だとは思うが、普通は魔力を操るなんて芸当できる人は少ないことを思い出して、確かに人を閉じ込めて置くには最適な仕掛けなのかもしれないと思い直すタク。


 「ってか、お前、俺になんか言いたいこととかないわけ?」

 「は?」

 「いや、一応誘拐した張本人だし?」

 「え、要求とかしていいわけ?」

 「おう。どうぞ」


 男はボサボサで顔の半分は見えないが、口元は笑っているから、きっと面白がっているのだろうと判断したタクは、遠慮なく要求を突き付ける。


 「腹減った。ロルネラは海産物が特産なんだろ? なんか美味しい魚が食べたい」


 悩んでいたタクが切り出したのが、食いもんよこせという内容だったことに呆気にとられた男だったが、何かツボにはまったのか、腹を抱えて笑い出す。


 「おかしいこと言ってないじゃん。………腹減った」


 本心である。


 「誘拐犯に飯寄越せって、胆すわってんなぁ、お前」

 「自分で誘拐犯って言う奴も珍しいと思うんだけど」


 確かに、とまた笑う男。

 男は持っていた石版らしきものを机に置くと、タクに向き直って、手を差し出す。


 「俺はテトラ。お前は?」

 「………タク」


 手を差し出して固まっているその男は、なんとも滑稽でそのままで放置したいと思ったタクだが、無下にするのもなんだか違う気がして、その手を握って名を名乗る。


 「よろしくな、タク。逃げねぇってんなら屋台まで連れてってやんよ」

 「えー………」

 「逃げない、よな?」

 「………分かった逃げない。逃げないから、手を放してくれ。男と手をつないで歩く趣味はない」

 「そうか」


 手を話したテトラからすこし寂しそうな雰囲気が伝わってきた気がしたが、年下の子供と手をつなぐのはまだしも、自分より確実に年上の男に手をつながれて歩くというのは、気分的によろしくない。


 「じゃ、とりあえずコレ被ってくれ」

 「は?」


 どこからか取り出した白い布を頭にかぶせられ、テトラの指導の下その白い布をきちんと着ると、その白い布が目元と口元しか空いていない頭巾のようなものなのだと分かる。


 「俺僧兵見習いなんだ」

 「僧兵見習い?」

 「知らないのか?」

 「知らない」


 その部屋から出ながら、テトラの説明で傭兵の教会版が僧兵なのだな、と何となく理解するタク。教会が信仰しているのは神なのに、僧兵なんだ………と思ったタクだが、それを聞いても絶対にアルテの答えだと理解できないと察したタクは、考えるのを放棄した。

 テトラの説明は長く、要点がまとまっていない分聞いているのが苦痛に感じるほどだったのだ。


 「でな、俺は僧兵見習いになってー、あ、そこの串焼き旨いぞ。あの魚はきっとさっき揚げたばっかなんだろうな! オヤジ! 一本!!」


 話の途中で屋台にふらふらと行ってしまうため、タクはもう何の話をしていたか覚えるのが億劫になって頷くだけだ。

 ただ、テトラの味覚は本物で、旨くて安くてそんなに並んでいない屋台に突撃しては仲良く店員と話していた。


 「あん? テトラか。ツケは無理だぞー」

 「いつもちゃんと後で払ってんだろ! 今日は財布が居るからなー」

 「あんたもこいつに捕まるなんて災難だね」

 「へ?」


 財布と言われながら背中を叩かれ、咳き込むタクに寄せられる屋台のオヤジの目線は呆れと同情。

 たしかに誘拐されて財布の中の金を使うことを了承させられたが、旨い屋台の情報料だと思えばそんなに出費は痛くない。魔物の素材売買で儲けてるタクにとてて屋台の魚の串焼きをすべて買い占めたとしても、全く痛手にならないほどの金額を所持しているのだ。


 「あ、こいつ最近入った新入りでよくわかってないんだよ。お、この魚うまそう」


 屋台のオヤジが何も言わないタクに不振に思うかそうでないかのタイミングでテトラが説明を入れる。ほぼ嘘でしかないが、そういうことにしといてやるよ、というオヤジの目線に、なんとも言い難いタク。


 「こらこら、それはまだ焼いてるんだ手を出すな。ほれ、串焼き二本」


 まだ焼いている魚に手をだそうとしたテトラの手をかなり強めにオヤジは火の調節をする鉄串で叩き、焼けた魚をテトラとタクに渡す。


 「お! オヤジがサービスするなんて珍しー」

 「新入りさんがお前に金を使われて顧客になってくれないのは残念だからな」


 さっきから何度も聞いているその理由でタクは結局自分の分の金額しか出していないのが、財布を緩めている原因ともいえる。

 むしろいつもなら五人分を出してるから出費がかなり少ない。


 「そう言うオヤジの素直なとこ、俺大好き!」

 「若造に好かれてもどうしようもないわい! とっとと金貯めて払ってくれよ!」

 「頑張るよー、タク行くぞ!」

 「あ、串焼き、ありがとうございます」


 わざわざタクが頭を下げたのを見て、屋台のオヤジが目を見開いて唖然としているのを見て、タクは何かおかしなことをしてしまったのかと目をさまよわせるが、聞く前にテトラに引っ張られてその場を去る。


 「それでー………あれ? どこまで話したっけ。まあいいや、次何食べる?」

 「なんでもいいけど、とりあえずさ」


 タクは手元に溜まった串焼きの一本に噛り付きながら、テトラと空いている場所に座って話そうよと持ちかける。


 「なんで俺を誘拐したのか聞いてないし」

 「えー話したくないんだけど」

 「言ってなかったけど、俺、それなりに強いよ? 少なくともお前から逃げて冒険者ギルドを探し出すことぐらいはできる」


 剣はさすがに奪われて持っていないが、魚の櫛になっている木の棒でも人を切るぐらい簡単にできるタクにとって、かなり有利な状況だ。言葉に嘘偽りなく、テトラに浅くない傷を負わせて冒険者ギルドに駆け込むことができるだろう。


 「………そっかー」

 「で? 話してくれないの? お前の部屋、絶対監視付いてたよな? あれが嫌で俺を外に連れ出したんだと思ってたけど間違い?」


 タクは森で狩人として生きる親方を側で見てきて、気配を消したり察知したりする能力を学んでいる。見よう見まねだが、それは今回の旅で生きているということが証明されているのだ。

 それで気が付いたテトラの部屋での視線。

 タクの一挙手一投足すべて見逃すまいと監視していた視線。気持ち悪かったが、どうやって見ているのかとか、聞こえているのだろうかとかは分からなかった為、完全に視線が離れたと感じた今話すことにしたのだ。


 「あー、うん、間違いじゃ、ない」

 「じゃ話せ。俺を誘拐した理由を」

 「そうだなー、じゃあまず俺の目の話になるんだけど」


 道端に座り込んだ二人の前を、街の活気が行きかう。

 二人の会話を聞こうとするならば、雑踏の中から音を拾わなくてはいけないという、とんでもない労力を使うことになるだろう。


 □■□■□


 エイファとファメスは、ギルド長室で向かい合ってお茶と茶菓子を食べていた。随分前に茶菓子を持ってきた職員が去ってからずっと無言で、エイファのお茶が切れると、甲斐甲斐しくファメスがお茶をコップに継ぎ足す、という作業をこなしていた。


 「さて、私が聞きたいのは」

 「まずあの男だろう」

 「そうね」


 ファメスは一枚の紙をエイファに渡す。


 「その紙に書いてある通りの人物さ」


 紙には、僧兵見習いの二十一歳、名前はテトラ、性別は男、とずらずらと男の詳細が書き連ねられている。

 その一部にエイファは目を留める。


 「この、ただし作られた情報である可能性が高い、ってのは何?」


 ずらずらと書いてある経歴の下に、たった一言だが、全ては嘘ですよ、とでもいいかねない一文が足されているのだ。


 「この男はね、強力な魔眼の持ち主なんだよ」


 魔眼というのは、その名の通り、一定の魔術を封じ込めた眼のことだ。主に先天的で、生まれた瞬間からその眼を持っていることが多く、そんなに数が多いわけでもないため、捨てられたり、親から愛情を受けられない子供が多いのが冒険者ギルドの上層部では保護案も出ているほどには問題視されている。

 本来ならば教会が保護して孤児院に居れるべきなのだろうが、教会では魔に侵された体を持つ者として、異端の扱いを受けるので保護しようとすらしない。


 「へぇ………代償持ちで過去の記憶がないとかそんな感じ?」

 「そんな感じだね」


 調べたはずの過去を調べても、絶対に痕跡が出てこない。

 この男が居たという証拠が文章では上がっているが、誰の記憶にも残っていないというのを聞いて、確実に魔眼を持ってるんだな、とエイファは頷く。

 魔眼を持っている子供は、確実に人から拒否されることを幼いころに学び、魔眼自体が目を逸らせる力があるので、人の記憶に残ることがほとんどないのだ。


 「魔眼の能力は?」

 「相手の魂の強さを見れるとか、真偽を見極めることができるとか、見た相手の記憶を改ざんできるとか、噂はいろいろあるけど、どれも信憑性が低くてね」


 魂の強さなんて、どんな方法でも調べることはできないし、真偽を見極めるということも、それが真実かどうかなど簡単にゆがめられるからそう簡単には確かめられない。見た相手の記憶を改ざんできるかなんてことはさらに調べることができないだろう。最初から見たら記憶が薄れるようになっている魔眼である故、記憶の改ざんが成されているかどうかも怪しい。


 「それがなんでファメスに面会を申し込んで、ファメスが逃げるようなことになってるの?」


 ファメスはため息を一つついて、テトラが中央の神官の虚偽をぽろっと口にしてしまったことが原因だと告げて話を始める。

 町の教会は治療院と一体化していて、そこに常駐しているのは神父だが、街では教会と治療院は分かれていてそれぞれに神父と院長が存在する。

 もちろん神官というのは、教会の大元である神聖帝国フロウェルにある総本山に居る者たちだ。ディルエバーズとはあまり仲良くないが、それでも治療院という生活に絶対に必要となる施設を管理している者たちであることには変わりないのでないがしろにもできないのが現状だ。


 「その虚偽ってのが、お布施を着服してたことでね。その神官、責任を取るって言って自殺させられた(・・・・・・・)んだよ」


 教会の運営は信徒によるお布施によって行われる。

 信徒たちはそのお布施によって、治療院での治療を優先してもらえたり、帝国への入国審査が甘くなったり、それなりにいくつかの見返りを求めることができる。

 金額次第ではあるのだが。


 「それがこの国でってとこが問題視されたんだ」


 その神官の暮らしは、とても質素で堅実であると言われるような暮らしぶりではなかったらしい。肥え太ったその神官が死ぬ理由は一つもなく、実際テトラがそれを言った直後、本人は彼の住処を訪ねて「魔眼は滅びるべき」と言って放火させた(・・・)ことも知られている。


 「しかも、それが総本山に伝わって、国あてに抗議文が来た」


 その内容が、「神より金を大事にするお国柄であるそちらで神に仕える神官が民の諫言によって亡くなりましたが、その犯人である魔眼によって邪な感情を植え付けられていたのだと思われるので、さっさと引き渡してください」という内容の、長く嫌味たっぷりの文章が王宮に届いたのだという。

 王宮でも賛否両論されたのだが、結局のところ「そんなことに使う金はないから行動の許可は出すから勝手にやって」と返答し、総本山をさらに怒らせるという結果になった。


 「まあ、最終的にギルドに依頼が来たんだけど」


 総本山の依頼では動くような冒険者が居ないため、なぜか帝国の依頼に格上げされ、宗教的なしがらみが多い帝国の依頼を受けたいものが存在せず、魔眼とあって尻込みする者も多く、その依頼を受けるのが、暗殺関連の腕を磨いた者たちになってしまった。

 しかし、僧兵という、神は信じているわけではないけれど、人の為に戦うと云う、人同士の戦争以外にその身を捧げるという対魔物特化の傭兵集団にテトラが入っていることが災いした。 


 「僧兵は自由が認められているからね。ギルドでもそう簡単には手が出せない」


 だと言うのに、テトラは毎回の如くギルドに現れては喧嘩を売って帰っていく。これを報告されるギルドは職務怠慢で白い眼で見られることになり、今現在、ロルネラではテトラを中心に、教会と僧兵と冒険者ギルドでにらみ合いの状態になってしまった。


 「それで手を拱いているのが今現在といったとこかな」

 「ファメスはどうしたいの?」

 「私かい?」

 「ええ、どういう風に結果を持っていきたいの?」

 「そうだねぇ………」


 答えを聞いたエイファはただ一言、それなら大丈夫と言って席を立つ。


 「宿は取らないんだろ? これからどうするんだい?」

 「あら、悪魔(ファメス)さんは昔の馴染みに酒も奢ってくれないの?」

 「じゃあ、早く仕事を終わらせないとな」


 昔馴染みは昔馴染みらしく酒場へと行くことになる。


 ■□■□■


 タクは話を聞き終わって、そろそろ沈む太陽を見ながら、一番太陽が長いこと出てる季節になったなぁと思い、話終わったテトラに向き直って一言。


 「テトラ、あんたバカだろ」

 「なっ」


 呆れて物が言えないというタクの目を見て、面白いくらいテトラが動揺する。この人十以上も年上なんだなー残念な人なんだなーと思いながら、タクはテトラをさらに馬鹿にする。


 「馬鹿は馬鹿でもあれだな、脳まで筋肉が詰まっちゃったぜって人だ」

 「なんでっ」


 脳筋って、こういうやつのことを言うのかー初めて見たなーと、タクは心の中でさらに馬鹿にする。


 「いや、今の話聞いて、ギルドに特攻かましても絶対に取り合ってくれないに決まってるじゃん」


 本来は教会がテトラ個人を取り押さえればいいものの、テトラがそれなりに強かったから教会の手の者がことごとく失敗した。僧兵の方は教会が目の敵にする魔眼の持ち主で、テトラは保護するべき対象だから手放すことができず、ギルドははっきり言って関わりたくないのに、テトラが毎回支部に特攻かまして来るからギルド長が何とか外の用事を作って逃げている。

 と、言うことを細かく砕いて説明するタク。


 「そう言うことだったのか」

 「おい」


 一回り以上年上だと言うのに、これでいいのだろうかとテトラの今後が心配になってしまうタクである。


 「まあ解決策ならあるんだけどな」

 「え?」

 「ってかさ、その魔眼、何の効果あんの?」

 「あ、ああ、そうだな、その人がどんな人間であるかが見えるって感じかな」


 目を見たいというタクの言葉に、少し迷ってからテトラは前髪を書き上げる。


 「へー綺麗な目だな………晒しとけば? 目が悪くなってその光とやらしか見えなくなったら、それはそれでなんかいやじゃん?」

 「………」


 テトラは前髪でサッと目元を隠して下を向く。


 「あ、気を悪くしたらゴメン」

 「いや」


 タクはなかなか俯いたままで顔を上げないテトラを放って、山肌に消える太陽を見つめる。

 まるで燃えるように山を照らして沈んでいくその輝きを見つめて立ち上がるが、テトラがしゃがんで下を向いたままなのに嘆息し、手を伸ばす。


 「でも綺麗なのは本当だし。多分俺の友人も同じこと言うと思うぞ」

 「………」

 「はい。手」

 「………」

 「帰ろうよ。俺、どうやってここに来たか覚えてないから、テトラが先行してくれないと困るんだけど」


 タクの手を取って立ち上がったテトラは、タクの手を握ったまま歩き出す。


 「おい」

 「これからもっと人増えるし、はぐれたらもう一回会える自信ないし」

 「そ」


 タクが離そうと広げた手をしっかりと握る。

 テトラの口元に浮かんだ自然な笑みは、タクの目には入らない。


 ―――俺と友達になってくれないか?


 たったそれだけの言葉がテトラの胸の中で渦巻続ける。

 今まで魔眼のせいにして諦めていた者が目の前にあると言う希望と興奮と、もし断られたらどうしようと言う不安と待っているだろう絶望が、相反してせめぎ合う。

 たった一言。

 そのたった一言があまりにも重すぎて、テトラは知恵熱を出してタクがため息をこぼしながら夜の間看病することになる。


 □■□■□


 お話があるんです。

 そう切り出された僧兵は、目の前にいるのに、目の前にいるとは思えない青年を見つめた。


 「何か用かな? 確かテトラが連れ込んだ者だな」

 「こんばんわ、ターキュギレム・ガランデナーグと言います」


 タクは目の前の僧兵の前に、自分の気配を叩き付ける。

 一瞬目を見開いた僧兵は、目を細めて、タクを見定めるように、先を続けるように促す。


 「一つ、俺たちの提案を聞いてはくれませんか?」


 指を一本立てたタク。

 たった一つの動きがあまりにもなめらかで、僧兵は目の前にいる青年がまるで季節の魔物のような絶望的な存在に見えて、急いでその考えを消す。

 人間が魔物になるなどあり得ない、と。


 「提案、とは?」


 僧兵は、なるべく平坦になるように、動揺を示さぬように、タクに言葉に応える。

 ざあっと風が吹き、部屋の蝋燭が掻き消え、室内を満月が照らす。

 タクが立つ窓の後ろから照らす、雲から突き出た満月が、タクの顔を隠し、僧兵の顔を照らす。


 「損にはならない賭け、ですかね」


 歴戦の僧兵だった。

 冒険者よりも、ただひたすら魔物から人を守るために鍛え上げた体には、どんな魔物でも果敢に挑める精神も鍛え上げたが備わっているはずだった。


 「協力、してくれますよね?」


 笑った。

 ただそれだけなのに、僧兵は動けなくなった。

 歪められた口元が、僧兵の脳裏に焼き付く。

 背筋に這い上がるものを恐怖だと認めるには、僧兵は少々経験を積みすぎた。認められない思いは、ぐるぐると頭をめぐり続け、最終的には体に直接出る。


 ―――いい答え、待ってます。


 いつの間にかタクはその場を去っていた。

 満月は雲に隠れ、辺りは暗闇に閉ざされる。

 僧兵は、震える指で蝋燭に火をつけ、自らの長の元へと向かう。

 足が笑って動けなくなる前に、あれには絶対に敵わないと認めてしまう前に。どうしても伝えなければならなかった。

 初めて感じる暗闇の恐ろしさを僧兵は奥歯を噛みしめて耐えるしかなかった。


 「あー疲れた」


 狩人の新価は暗闇での行動可能範囲の広さだ。

 真っ暗闇の森で、月の明かりだけで行動し、月の明かりがない時でも音で周囲を把握し素早い状況判断を求められる狩人。


 「獲物を狩る時は静かに、ね」


 タクの周りには、タクから放たれた殺気で倒れた、本職が積み上げられた。これでもう、テトラが監視に悩まされることはないだろう。 

 いまだに魔術が使えない、と言うか、魔術の存在を知らないタクですが、魔術を使わない戦闘能力は、夜で奇襲を仕掛けられるという条件下ならばシーブを超えます。

 それはもう簡単に。

 ただ、気配は消せても、まだ魔力を潜めたり周囲に同化させたりってことはできないので、気づかれる可能性は大。

 いつ剣と魔法の世界だってタクは知るんだろうか………

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