閑話 想う、後悔しないために
一話で終わらせなきゃって思うと長くなる不思議。
前回の閑話が23.5KBで、今回が18.1KBだから、成長したと信じたい。
ちょっとだけシノ登場。
本当にちょっとだけ。
登場ともいえないちょっとだけ。
私たち夫婦の間に生まれたとは思えぬほど魔力保有量が多く、聡明で快活であったろう娘。
「大丈夫よ、母様」
夫は娘を幼いころから私と引き離し地下牢で育てた。
「私が人柱に選ばれたって父様から聞いたわ」
なるべく関わりあいを持たないように、周囲にばれないように、魔術師になるように師匠を招くわけにも、そういう機関に居れられるようなお金もなかった我が家は、娘を人目のつかぬ所で育てなければならなかった。
「私が役に立てるのはこのくらいのことしかないし」
小さいあの子は、外で駆け回ることを許されず、三人の兄に勉学を教わって産まれた弟妹を羨ましそうに見て育った。
「役に立てるのはうれしいもの!」
他の子が外を駆け回り、家庭教師に勉強を教えてもらい、その世界を町から国へと変えた時も、あの子の世界は地下室と空想でしかなかった。
「一兄様は夢を叶えて騎士様になられたのでしょう?」
一番上の息子は、騎士となったはいいが、貴族社会でうまく生きることができず、同期で騎士になったもっと上の爵位の子供とのいざこざで死んでしまった。
壁の上から滑り落ちた間抜けな男として葬儀を出すしかなく、事件そのものも揉み消されてしまったから、家でも誰にも話せない。当然葬儀に出ない娘が知るはずもない。
「二兄様は海を渡ってフィデリントへ向かって魔術師になるのだし」
二番目の息子は、それなりに魔力保有量があることが分かっていたが、結局のところお金がないからどこにもやることはできず、あの人と大喧嘩をして冒険者になって旅立ってしまった。
ずっと魔術師の仕事がしたいと言って、毎月一応私宛に手紙を書いてくれていたけど、その手紙は最近めっきり届かない。
冒険者となっていたのだから、仕方ないと諦めるしかない。
「三兄様はスコルダスへ学びに行くんだって張り切ってるし」
三番目の息子は、ずっと地下室にこもってる娘のことを羨ましがっていた。スコルダスはここからずっと南にある学園都市国家。そこまで行くお金は出せないけれど、娘を人柱としてささげることでスコルダスへの旅費を領主が代わりに出してくれることになった。
家の外ではそれなりに優秀だったけど、地下室ではどうしても娘と比べられて飲み込みが遅いと上の兄たちに言われていたから、娘が居なくなるのがうれしいのかもしれない。
「弟妹たちの教育費だって、領主様が保障してくれるんでしょう?」
この子の下にも三人子供が居る。
全員確かな教育を受けさせてあげられてない。
私の知識もそれなりだし、貴族のことを学ぶには家庭教師を雇った方が適切だ。なんせ、毎年勢力図が少しずつ変わり、歴史も地理も少しずつ変わるのだから。
「私が行けばそれで良いこと尽くめじゃない!」
両手を広げてみせるこの子は、半年ほど前から考え方が大きく変わった気がする。半年前、なにか不吉にも思える夢を見たと地下室で叫び、始めて寝るのが怖いから寝るまででいいから手を握っていて欲しいと乞われた日から、何かが変わった。
自分で何かできないかと、今までは本を読んだり話を聞いてそとをぼんやりと見るだけだったのに、あの日から私たちに質問し、どうやったらもっと自分の力を生かせるかと問うてきた。
「だから泣かないで? 私は皆の為に死ねて嬉しいの」
死ねて嬉しいなんて言って欲しくはない。
夫みたいに、家名が残るとは喜べない。
そんなに泣くのはおかしいのかしら。周りの者は、娘が死ぬというのに笑ってる。娘が死ぬことを祝福してる。
私には、分からない。分かりたくない。
―――いつかきっと私の気持ちも分かるはずよ
ああ、そうね。
今になって分かったわ。
親は子を愛さずにはいられないのね。
愛していないと思っていても。
□■□■□
その娘は、いつの間にか町の調合師として馴染んでいた。
私より少し若いくらいの娘。
私はその娘が嫌いだった。
薬師と結託して嫌がらせもしてみたけど、結局その娘は何事もなかったかのようにこの町で暮らしていた。
「ねえ、そんな雑草摘んで、何が楽しいの?」
その娘があまりも楽しそうに森で草を摘むから、何となく気になって声をかけた。
一人身だと言うこと、もともとシシラギヤの貴族であったということ、家出してなぜ調合師になったのかは分からず仕舞いだったが、調合師としての腕はそこら辺の薬師が遠く及ばないほどいいという話も調べさせて知っていた。
「あれ? 嫌がらせしてきた人? これ雑草じゃないわ、ススルって言う、調味料になる草よ」
黄色い花を籠いっぱいに詰めながらそういうその娘。
そんな黄色い花どこでもある雑草と変わらないように見えた。でもその娘には違うものに見えるのだろう。
「調味料? あなた調合師でしょ。料理人と結婚でもするの?」
私はもう結婚していたし、町民も同じ年ぐらいの娘は結婚している者が多いから、この娘も結婚するのだと思ったのだけれど、一笑された。
「あははは。料理人と結婚!? するわけないじゃない! 結婚したら仕事できなくなっちゃうもん。男女平等参画社会じゃない世界で結婚なんてしませーん」
時々何を言ってるか時々分からなかったけど、その娘は私が思っているよりも賢く聡明で、情に厚かった。
「私の名前? そうね、教えてなかったものね」
知っていたがその娘はリリーと名乗って、初めての貴族のお友達ができちゃったとはしゃいでいた。
貴族社会から出て成功する者は少ないと言うけど、リリーは成功した人なのかもしれない。
「熱の子供なんて放っておけば治る? 本当にそう思ってるならちょっと来なさい」
「はあ? ちょっと、引っ張らないでよ!」
抜け出して森にやって来て、急いで熱冷ましを作らないと、と言って去ろうとしたリリーにそう言ったら、引っ張って貧相な服を着せられ、綺麗に櫛を入れていた髪はぼさぼさにさせられ、私が私と分からないぐらい平民っぽい恰好で付いて行かされた。
「リリーちゃん、熱が下がらないんだっ」
「リリーちゃん、うちの子を助けてくれ」
「大丈夫よ、おじさんおばさん。この薬を布に付けて、わきの下と太ももの内側に張ってね。臭いし、口とか目に入れると大変だから、触ったら絶対手を洗ってちょうだい」
付いて来させられたのは貧相な家。
ちゃんとした薬の代金を払えるのかさえ分からないほど貧相な家庭状況。絶対に服を洗っていないと分かる異臭。比較的きれいなのかもしれないが、貴族が暮らす場所と森しか行き来しなかったから、こんな異臭は鼻が曲がりそうで仕方なかった。
「リリーちゃんありがとね」
「いやいや。ゆっくり養生させてあげて。また明日見に来るから、目が覚めたらこの実を切って食べさせてあげてね。もちろん洗って皮は捨ててよ?」
始終しかめっ面で立っていた私を、熱を出した子供の貧相な親は不思議そうな目で見てきて、貴族である私を指差して、誰かと問うてきた。
その指へし折ってやろうか。
「うーん、私の弟子みたいな? ほら、たまに来てるでしょ、エラ。あの子と同じよ」
「ああ、治療院の娘さんがたまに来てたねぇ」
「あの娘さんはいつ来るんだい?」
「うーん、分からないんだなーそれが。来たら顔出させるね」
エラと言う娘がどういう人かは分からないけど、リリーも若いのに弟子と呼べるような人が居るんだと分かって、何となく嫌な気分になる。
「それじゃ、私は帰るから。もし容態がよくならなかったらいつでも言って。家に居るからね」
帰る私たちに、何度も頭を下げて、貧相な家の中へと入っていく。
「私、あなたの弟子になった覚えはないんですけど」
「うん? だってお友達って言ったら、多分家聞かれてたし、知り合いって言ってもなんでここに来たんだーって言われたでしょ? 弟子以外に良い言い訳あったかな?」
そう言われるとない気がして悩む。
どうやら思ってるよりもリリーは聡明というか、よく考えつくらしい。
「あ、どうだった? 熱の子供を見た感想」
「臭い、汚い、貧相」
「それは家の感想でしょー? 子供を見た感想だよ!」
「さあ? 顔を赤くして寝っころがっていただけでしょ?」
「………もしかして、病気とかなったことなかったり?」
「病気にならないように貴族には専属薬師が居るでしょう。それに風邪などになったら治るまで会うことも許されないわ」
貴族って………と頭を押さえるリリーに、あなたも貴族でしたよね? と言いたくなるが、どこで調べたとかそういうのを言いたくないと思ったので言えなかった。
□■□■□
私は四人の子供を産んで、初めて体を壊した。
薬師を呼んでも分からなくて、どうしても原因を突き止めたかった私は、下町からリリーを呼びつけた。
リリーは呼びつけた翌日にやってきた。
「お呼びに参上いたしました。調合師のリリーと申します」
貴族服のようにひらひらしているわけではなかったけど、いつもの小汚い恰好ではないリリーは貴族と言ってもおかしくないほどに美しかった。
そして、私よりも立場を弁えていた。
「初めまして、奥様」
「………ええ、初めまして。下町で有能だとか? 私のこの不調の原因、突き止めて見せてちょうだい」
誰も分からなかった原因。
分からなくて当然だった。
「奥様、特に病気というわけではないようです」
「では、私のこの体調の変化は、私の思い過ごしだとでも?」
「いえ、お子様をお産みになって体調を崩されたのならばこちらをお飲みになってみてください。体が温かくなったのならば、この薬をお渡しいたします」
毒見をすると前へと出てきた執事が薬に口をつける前に、リリーはその行動を止めると、毅然として言い放った。
「体調が悪くない者が飲めば体調を崩すかもしれない薬なので、奥様しか飲めません。毒見を必要とするならば、私は帰ります。その薬は捨ててください」
執事は唖然とした後、不敬だと言ってその場でリリーを切り捨てさせようとしたのだが、夫の登場で有耶無耶になり、その薬を飲んだ私は数日後ちゃんと動けるまでに回復した。
………リリーの手柄ではなく、お抱えの薬師の手柄になってしまったのが残念だけど、それを詫びに行ったら、そんなこと悩んでたの? と笑われてしまった。
「そう言えば、四番目の子、大丈夫?」
「え?」
「え? 多分相当な魔力保有量でしょ? 生まれて一年間は自力で発散させることができないから、発散させてあげなきゃいけないじゃない」
さも当然のように言うリリー。
「そうじゃなきゃ魔力補給薬で体調が治るわけないじゃん」
「え? あの薬って魔力補給薬だったの?」
「そうだよ。一応自作。産むときに魔力が引っ張られちゃったんだね、きっと。魔力保有量が一定を下回ると魔力を温存しようと、母体に体に熱を出させて安静にして使わせないようにするの」
今回は私の魔力と娘の魔力に大きな差があるから、魔力が回復しても体の不調は治らず、魔力補給薬を飲んで許容量を大幅に上回ったことで体が自覚し、体調不良が治ったらしい。
私は初めて知ることを何となく聞いていたのだが、家に帰って、娘の調子が良くならないという話を聞き、改めて魔力保有量を測定すると、私たち夫婦の間に生まれたとは思えないほどの魔力を持った子供だと言うことが分かった。
□■□■□
夫の友人の浮気が発覚したのは、私が何気なく薬屋を訪れた時だった。
「いい加減にしてください」
「いいじゃないか。夫が居ないんだろう? だったらその子供を捨ててうちに来るといい。ここよりも贅沢な暮らしができる」
リリーには子供が一人で来ていて、なかなか森にもいけないとぼやいていたリリーの代わりにその子の世話を引き受けてたりもした。
初めて触る他人の子、しかもやったことのないおしめの代え方やミルクの与え方などを学んでしまい、貴族としておかしい方向に進んで行ってしまっているのではないかとものすごく不安になる。
そんなシノと言うなかなかに手を焼かせない娘を相手していると、表の扉の方で声がしたのだ。
「私は好きでこの仕事をしているんです」
「しかしたまには着飾ったりしたいだろう?」
「娘は私の宝なの、その娘を捨てて来いなんてふざけてでも言わないで」
「なら娘も付いてきていいから………」
「私は好きでもない人の妻になる気はないわ!」
裏から入ってきた私と、表から入ってきた二人と鉢合わせになってしまい、最初は相手も気が付かなかったが、何度か夫の友人夫妻との会食で気が付かれたらしく、どうにか秘密にしてくれるように頼んできた。
話してもリリーが損するだけと分かっていたから言わないと約束したのだが、後援してくれるのだと勘違いしたのか、恋愛相談を受ける羽目になってしまった。
「リリー、あれはしつこい。私に恋愛相談持ちかけてきたわ………」
「はぁ、本当にあの人いなくなってくれないかなー」
「かあさま、あのひといらない?」
「ううん、違うよ。あの人が居なくなってほしいと思うのは私だけ。シノはそう思っちゃだめだよ。シノとあの人は関係のない赤の他人なんだから」
「ん」
早く言葉がしゃべれるようになったシノちゃんは、ちょこんとリリーの横に座って、何をするかとか、何をはなすかしっかり聞いてる。
「シノ、ちょっと裏で遊んできて」
「ん」
子供に聞かせられないと判断した時は、そうやって家の裏へと行かせ、独りで遊ばせている。
「普通は子供にあんなこと言わないんじゃないの?」
「何言ってるの、子供は親の鏡だよ? 私はシノに、親が面倒だと思ってるから消えてほしいとか思ってほしくないもの」
子供とあまり接点がない私には分からないけど、町ではそういうものなのかもしれない。
「それに、あの子は私の愛した人との大切な子供だから、間違ったことはして欲しくないし、絶対に自分を見失って欲しくないの!」
歳を取っても、子供を産んでも、最初から全然変わらないリリーの様子がまぶしく見えて、私は笑うしかない。そうなるといいねって、なんとも思ってないけど言葉を飾るしかない。
「とにかくあの男には気を付けるのよ?」
「分かってるって」
「本当に何してくるか、分からないから」
「心配性だなー」
「奥さんもかなり嫉妬深いから、第二婦人になるかもって娘にひどい嫌がらせをさせたこともあったのよ」
調べた事実で少し脅しても堪えた様子もなく、柄にもなく心配してしまったことが少しもったいないと思うほどに笑顔を絶やさなかったリリーだが、私の不安は消えなかった。
数日後、私の元に招待状が届く。
「はぁ、気が重いわ」
私は招待状の詳細は読まなかった。
夫についていくだけで、結局そこは縁を見せなければと付いていくだけの予定だったから気にしなかったのだ。
当日になって、確認しなかったをひどく後悔した。
「え? あれは………」
「俺の友人をたぶらかせた女だと。町民のくせに色目使って金をせびってきたらしい」
そんなことはないと叫びたくなって、リリーとの付き合いがあると知られるのはまずいことだと思い、何も言えなかった。
ひどく甚振られ、うっ血や切り傷でひどいことになっているリリーと目が合ってしまい、青ざめうろたえると、リリーはまるで安心させるかのようにほほ笑む。それが思った以上に恐ろしく思えて、私は座り込んでしまい、処刑というものに恐れたのだと勘違いされて夫に手厚く介抱された。
「決議に反論のある者はいませんね?」
誰にでも、夫の友人が不貞を隠ぺいしようとしていることが分かったが、相手は町人だから、その処刑に不満を言う者はいなかった。
きっとこの中で反論したら、友人の為になるだろうけど、家の為にはならない。私は反論しないのが正解だけれど、反論したいと思ってしまった。
他人の命よりも家の方が大事だと教育されてきたのに、リリーに毒されたのかもしれない。
でも、私の手は上がっていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
「私は反論ではなく、これから死ぬ町人に一つ聞きたいのです」
夫が反論でないことにほっと息をつき、聞きたいことがあると言った私に周囲から好奇の目線が寄せられる。
「家族はいいのですか?」
周囲は、何を言っているんだという顔をする。
当然だ。
ここに上げられた時点で、彼女は一人身で、親も親類もいないただのリリーとして立っているのだから。
リリーは黙るだけで、私の問いに応えなかった。
「最後に、罪人よ。言いたいことがあるかね?」
この処刑は、罪人が最後に這いつくばり許しを願い、絶望しながら死ぬ様子を愉しむというものだ。当然招待されたものは、リリーがどんな恨み言を言うか愉しみにここに来ていた。
「私を殺して」
笑顔で言ったリリーに、周囲は呆気にとられ、直後、轟音と共に魔物が現れた。
ドラゴンと呼ばれるその魔物に皆腰を抜かしていると、ドラゴンの腹がほんのりと赤く染まる。
だれかが「炎をはくぞ!」と言ったのを言ったのが聞こえて、皆が慌てて逃げ出す中、リリーは私に目を合わせてこう言った。
―――いつかきっと私の気持ちも分かるはずよ
言葉にもなっていないその声がなぜ聞こえたのか、喧騒の中でなんでその声だけがきれいに聞こえたのかは分からないけど、それが残したシノちゃんのことを言っているのだとはっきりと分かった。
最後にリリーは微笑んで、ドラゴンの放った炎に巻き込まれて、塵も残さずこの世から消えた。ドラゴンはリリーを燃やした後、悠々と町から去って行った。
「リリー………」
その後シノちゃんの行方を調べてみたりしたけれど、町人の家に避難していたということしか分からなかった。
もしかしたらドラゴンが連れて行ったのかもしれない。
生きていてくれればいいのだけど。
そこまで考えて私は不思議に思う。
なぜ生きていて欲しいと思ったのか分からないことを。
■□■□■
娘を名乗る子供と、その娘に付けた召使に似た人が居ると聞いて、私は表の門に駆け付けた。
「お母様!」
娘はだいぶ痩せていて、貧相な服を着ていたけれど、私にははっきりと娘なのだと分かった。
「私、なんでこうなっているのかよくわからないんですけど、戻ってこれました!」
今この子に戻られてしまったら、領主の機嫌を損ねることになる。
それに、皆に疫病神と呼ばれていたこの子は、皆の目の前で死を選んだのだ。もう一度殺されるのは目に見えていた。
「わが娘は死にました! もう二度と虚言で私を悲しませないで!!」
手は熱く、初めて娘を叩いてしまったという後悔が湧いてきた。
急いで門の中に入った私は、いつの間にか頬に流れていた涙をぬぐい、どうしようと考える。
生きていたのは嬉しいけど、ここにはあの子の不幸しかない。
私が選んだのは、あの子をこの町に帰らせないこと。
「俺は別に連れて行っていいと思うけど………」
そういう少年は、きっと娘と同じかそれより幼い少年でしょう。
娘よりも年上らしいリリーのように何となく気品が漂う凛々しい青年と、若そうだがおそらく若くないのだろう女性が渋面を作っていたけれど、なんとか娘をロルネラまで連れて行ってくれると言う話になりました。
「急いで準備をしなければね」
旅人が何を使うかなんて分からない。
リリーが死ぬ前ぶりに町民用の服に着替えて町へと出てみると、町民に歓迎されリリーの墓を教えてもらった。
どうしても流れてしまう涙をぬぐいながら、私は娘を逃がすための準備をする。私が旅にでるのだと勘違いされてしまったけど、町民は明るく私を迎えてくれた。最近は特に貴族にたいして冷たかった町人が、こんなにも優しくしてくれるのは、リリーを見殺しにした私への罰なのだと分かっているけど、リリーの話ができてものすごく嬉しかった。
「おや、久しぶり! リリーちゃんのお墓には行ったかい?」
酒場には、まだ私の席がとってあったことに驚く。
いつもリリーの座っていた席は空席。
リリー専用テーブルと名付けられたその場所に座るのは、リリーが弟子として周囲に紹介していた者と、薬師と、その弟子一人だけ。一度もほかのお弟子さんと出くわしたことはないのだけれど、私を含めそのテーブルには七つの椅子が置いてある。
私専用の席に座って、一杯だけ酒を飲むことに決めた。
「行ったわ。………残念、ね」
「そうさな………」
リリーの娘は元気にしているだろうか。
リリーの輝く黒い瞳ではなく、透き通るような青い瞳を持ったリリーの娘。
ここにいるだれも知らなかったが、リリーの弟子は様々なところにいて、この町を訪ねてくるらしい。少しずつ情報が寄せられるかもしれないから、またここに来てみるのもいいのかもしれない。
酒場から出てみると、すでに暗くなっていて、空には星がきらきらと輝いていた。
「リリー、あなたの娘もきっと生きているわ」
まるでリリーの瞳のように輝く雲一つない空につぶやく。
気恥ずかしくなって空から目を逸らした私だったが、帰ったら帰ったらで涙が出てきてしまった。
もう二度と会わないだろう娘は、いくら消そうと思っても、私の記憶から一片たりとも消えてくれない。
名前なんて考えてない。
リリーさんとシノしか名前が出てこないけど、一人称の物語としては完結できてるはず。きっとできてるはず!
あ、次はちゃんとタク方面に戻ります。
リリーさんの弟子は、ネリーの母と、エイファ、他にも三名ほどいらっしゃいます。出てくるかは知らんけど。
薬師はリリーさんの後見だったりしたこともあって、その弟子は基本的に師匠が酒を飲みすぎないための監視と、リリーの弟子たちへの顔合わせの為に来ていたり。
設定ばかり作ってしまってるリリー側w




