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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第三章 少年編・生きる
63/113

14 灰色の少女

 口の端が切れた。

 野菜が足りない証拠らしいが、もやしを200g食べれは治るだろうか………

 治ればいいなぁ………


 六十二話、はじまります

 少女は未だ現状をよく理解していなかった。

 襲いくる魔物から逃げろと、数名の召使を連れて逃がされたのに、なぜか首輪をはめられ汚い馬車のような牢屋のようなところに入れられ、ご飯とて出されるのは味もしない干し肉と水のみ。

 おいしい料理と賑やかな喧騒の中にいたはずなのに、なぜかその明るさは木枠の向こうから聞こえてくる。


 「………」


 なぜ私がこんな目に合わなければならないの?

 なぜこんな美味しくない食べ物を食べさせられるの?

 その場所にいていいのは私のはずよ?

 私からその場所を奪ったのは誰?


 「………テ」


 もう頬には涙なんて流れない。

 クタリと力の入らない腕は持ちあがらないし、着ていた重い服は既に脱がされているけど寒さも感じない。

 のどは掠れて、あの頃みたいに話すこともできない。


 「………ケテ」


 厳格だったけどちゃんと褒めてくれた父様。

 いつも笑顔で父様に寄り添っていた母様。

 夢に向かって真っすぐだった一兄様。

 魔術師の才能があるって海を渡った二兄様。

 女の私がうらやましいとぼやいてた三兄様。

 まだ小さくてあまり世話もしてあげられなかった弟妹たち。


 「………ス………ケテ」


 暗くて狭いこんな場所に居るのはもういや。

 私がこんな目に合うのは何のせい?

 私は何もしていない。私はこんな場所に閉じ込められて、こんな目に合うように仕組まれたのは絶対に私のせいじゃない。

 じゃあ、あの夢が悪いのかな。

 白で居続けることも、黒に選ばれなかったことも、灰色になってしまった自分が悪いのかな?

 もういや。

 応えてくれる人がいないのなら、いっそのこと。


 「………タス………ケテ」


 絵具でも混ぜるかのようにだんだん暗く狭くなる視界に、光が差し込む。


 「いいよ、助けてあげる」


 重い首を動かすと、かっこいいと騒がれていた二兄様と同じくらい精悍な顔立ちの青年がこっちを見ていた。

 開けてはならないと、開けたら鞭で打たれる、そんな開けられない扉をあけ放って、青年はこっちに手を伸ばす。

 ゆっくりと手を伸ばすと、はっきりとした、重みのある温かい手に触れて、私の頬は冷たさを感じた。


 「俺の名はタク。君を助けてあげる」


 届いた。

 声が、届いた。

 ぐちゃぐちゃになっていた視界がさあっと晴れて、色が戻る。


 「………ネリー」


 頬は温かくて冷たい。

 ああ、私、まだ泣けたんだ。


 □■□■□


 川で木を焚いた後、近くに洞穴を見つけてエイファとアルテは洞穴の中に逃げ込んだ。

 奥に行くと開けた空間があって、別の方向から風が流れてきていると突き止めたエイファが、とりあえずここで野宿の準備をしようと言ったことで、今アルテは一人でゴザを広げて馬を休ませている。


 「本当、俺って役立たずだよなー」


 馬しかいないが、じゃべりかける相手もいないので、洞窟のちょっとした水たまりを舐めて水分補給をしている馬を撫でながらアルテは独り言をこぼす。


 「タクみたいに山を知ってるわけでも、剣を扱えるわけでもないし、エイファさんみたいに精霊と喋ったり魔術をつかったりもできないし」


 エイファは二人と旅を初めて数日後に、精霊魔術が使えることを話し、自分が半端者であることも、すべて打ち明けていた。


 「俺ができることってなんだろーなー」


 馬は静かにアルテに撫でられている。

 エイファに言われた通り、アルテは外にも出ないし、馬を一歩も動かさずに満足させてる。洞窟の中に反響するはずの呼吸音も、靴の音も、最低限の音しか立てずに一定の場所にとどまれるという能力は、誰しもが持っているものではない。

 言われた通りにできるということが、相手の意向を理解できているということが、どれだけすごいことなのか、アルテは知らない。


 「はぁ………俺もタクみたいになりたいなぁ」


 響かない最大音量で愚痴りながら、アルテは一人でエイファとタクがくるのを待つ。

 きっとここに来るのは、それだけではないのだろうと確信しながら。


 □■□■□


 エイファは木に登っていた。

 火を消しても煙が出る木を燃やし、洞窟にアルテと馬を隠し、その入り口を精霊魔術を使って上手く隠し、火を消すと木型で作っておいた馬の足跡でぬかるみに足跡をつけ、乾けば見えなくなるだろう所まで歩き、森へと入り川まで戻る。

 そして木の上で、川の上の橋を通る、エイファたちを尾行していたと分かる一台の馬車を確認した。


 「ふーん、やっぱりそうよね」


 タクがこの状況を確信したのは朝の密会を聞いてしまっていたからだが、エイファは夜の交渉の時点で一方は商人ですらなく、一方は奴隷商の者であると確信していた。


 「頑張ったのは認めるけど、ちょっとお粗末かなー」


 近くの町の現状など、地理的状況はすべて精霊がエイファに伝えてくれる。

 エイファが知りたいと思って知ることができないのは、今起きている出来事と、同じように精霊に愛されている者のこと。

 この川の向こうにある町は、ロルネラの一歩手前、木工の町エンシ。エンシの人々は気性が穏やかで、木の加工に関してどの町よりも一歩以上先を行く町だ。予想していなかった雪の魔物の各地同時出現に大きな被害を被ったが、魔道国家やロルネラの方へ逃げて助かった者も多く、蹂躙するだけ蹂躙して消えてしまった魔物の被害にあったのはほとんど建物だけたった。


 「さて、タク君はどうなってるのかなー?」


 まだ未完成の『精霊の眼』だが、ある程度近場で短時間なら行使できるようになってきている。


 「お、かっこいー! お姫様救出ですね?」


 見る対象が少ない為に、ただの野次馬にしかなっていないが。


 「さて、消えてしまった馬と女性と少年と、居たはずの少年少女の消失。あのごつい穀物男はどうすんのかねー」


 時間切れで除き続けることができなかったことに舌打ちを打ちながら、エイファは揺れる梢に身を任せて、下を通り過ぎて町へと向かう少女の護衛だった者たちを見送る。


 「味方はだーれだ」


 ふふふ、と笑いながら、エイファは森と戯れる。

 眼下で、もう町についてしまうことを焦った護衛だった者たちがおろおろと動き回り、少女の逃亡を知った奴隷商の穀物男が少女の召使にその事実が知られないように喚き散らして少女がまだ居るように見せている。

 あまりにも滑稽な喜劇の幕は、すでに下ろされているとも知らずに演じ続ける。


 「戻って女の子の世話をしないとね」


 良くも悪くも少年と自分しかいないのだ。

 少女の体の世話は、女性である自分にしかできないことだろうと、エイファは入り口を隠した洞窟へと舞い戻る。


 ■□■□■


 少女が目を覚まして最初に見たのは、水が滴る岩のようなごつごつした天井と、茶色い馬面だった。


 「………」

 「あら、起きたのね」


 上げようとした悲鳴のせいで喉が引きつり、上手く息ができずに涙目になっていたのを女性が優しく拭いてくれ、背中をゆっくりと撫でてくれるその温かい手にまだ目の前が歪むのを少女は感じる。


 「もう大丈夫。あなたは助かった」


 優しく微笑むエイファを見つめた少女の目はずっと水が張っていて、瞬きすればするほどその水が下へと流れ落ちる。


 「あらあら。私はエイファ。あなたを助けた男の子の保護者みたいなものかな、よろしくね」


 エイファは、少女が洞窟の壁に背中が付けて自分で座れるように誘導する。

 少女はぎりぎり倒れない程度の食事しか与えられていないことがよく分かる姿だった。足や腕は細くなり、目の下はすこし窪んでいるが、その眼に生気は戻っている。それだけが安心材料だった。


 「さて、少しは喋れるようになった?」

 「………ぅん」


 まだ掠れるが、意思疎通ができないわけではないと、手振り身振りで心配してくるエイファに大丈夫だと伝える頃には、少女の顔に笑顔が出てきていた。


 「改めまして、私はエイファ。彼らの保護者役かな。女同士、気兼ねなく声をかけてくれて構わないから、お話しましょ」


 エイファはそう言って座ると、アルテを促す。


 「え、あ。俺はアルテ。一番頼りないけど、この中でリーダーやってるのかな? 苦情とかあったら言ってくれ」


 アルテは次はお前だと言わんばかりにタクを見る。


 「俺はタク。得意なのは剣と山見」


 ぶすっとしたタクはそれしか言わないが、手元では夕食を作っている。


 「………ネリー。助けて、くれ、て、ありが、とう」


 ふらふらしながらも頭を下げたネリーにアルテは慌てて支える。

 ネリーはこの三人がなぜ一緒に旅をしているのかとかいろいろと気になることは合ったが、初めての人にずかずかと聞くことははしたないと思ったし、聞いている余裕が自分にないとも弁えていた為、エイファとアルテに話しかけられたらそれに応えるということを繰り返していた。


 「できたぞ。特製粥」

 「うわ、すっげー色」


 タクが作った粥の色は、それはもういろんなものを混ぜたと一目で分かる色だった。


 「シノが居れば白にできたけどな」

 「へぇ、シノちゃん、そんなにいろいろできたんだ」


 ネリーの分をよそって、タクはエイファに渡す。

 ネリーに食べさせるのは女性であるエイファの役目だ。すでに話し合ってそう決めていた。


 「君の分。ちゃんと食べて、元気になって」


 家に帰って。という言葉をタクは飲み込んだ。

 まだ奴隷にはなっていなかったが、奴隷一歩手前だったのだ。詳しい状況を知らないタクにとってその言葉を口に出すほど無頓着にはなれなかった。


 「じゃ、食べよっか」


 もちろんネリーと三人は別メニューだ。

 ネリーは吐きそうな色でも美味しくて温かい食べ物を食べて、知らない間に涙を流しながらだされた分を完食して、水を飲んで眠りについた。


 「それじゃ、俺はセレシーデさんを攫って来る」

 「おー、また俺はここで待機だろーわかってるさー」

 「私も監視で外にいるから、何かあったら壁を叩いてね」

 「はーい」


 なんとも気の抜ける返事をアルテがするのに苦笑して、タクとエイファは外へと出る。


 「やっぱエイファさんがセレシーデさん誘拐しませんか?」

 「いやだわーさっきくじ引きで決めたじゃないぐだぐだ言う男はモテないわよ」

 「モテなくていいんで。男装の麗人ですよね、セレシーデさん」

 「よく分かったわね、でも決まったんだから行ってきなさい」


 ため息一つついて森の中に走り去るタクの姿を見て、エイファは背筋が冷える感触に腕をそっと抱きしめる。

 今までシノが居たせいで普通に凄い少年だとしか思えなかったタクだが、妖精族で森に愛されていると言われる森人(エフル)種でも恐れる夜の森を迷いもせずに駆けて行くその姿は普通じゃ考えられないほど凄いことだ。


 「『夢』に関わってる子供が不自然なのかしら?」


 エイファの呟きは森がかき消した。


 「居た居た」


 タクが飛び降りた崖の近くで彼らは野営していた。

 セレシーデは居なかったが、それ以外の人が一つのたき火を囲んで盛り上がっていた。


 「セレシーデはまだお前らが仲間だと信じているのか?」

 「はっ、あの人はなかなか裏切れない人ですからねー」

 「まーったく、これっぽっちも、疑ってませんよー、頭」


 穀物男は頭と呼ばれている。

 タクは周りに人が来ていないことを確認して、その様子をよく聞く為に木に登って上の方に座る。


 「お前らは新参者なんだから働けよ!」

 「わかってますよー先輩」


 穀物男の周りに屯している連中と、セレシーデと一緒にいた連中は少し服装が違う。セレシーデに似た服装は、お嬢様と呼ばれていたネリーを守るためにその両親などの保護者がセレシーデと共につけた護衛だったのかもしれないと、タクは考える。


 「さぁーて、セレシーデのところに行ってくるかな?」

 「頭ー、早く俺らにもおこぼれくださいよー」

 「お前らは男でもイケるようになったら貸してやるよ」

 「男はダメだー」

 「でもセレシーデの顔は好みなんだよねー」


 下品に笑い会う集団にタクは何の感情も抱けなかった。

 今もし地面に居たら全員の首を落としていたかもしれないほど、とても静かに怒り狂っていた。

 もともとネリーが衰弱していただけだったのも不思議だったのだ。ネリーはそれなりの容姿をした女の子だ。まだ体は発達していないが、女を求めるだけならば、別に凌辱されていたとしてもおかしくなかった。


 「あいつ、どこいった」


 セレシーデがネリーの代わりに抱かれることで、ネリーの体は守られていたのだろう。簡単に想像できてしまったその行為に、タクは剣を持ってこないで本当によかったと安堵していた。

 穀物男はすぐに見つかり、セレシーデが驚きで目を見開いているのを恐怖と勘違いした穀物男を力いっぱい殴って昏倒させ、セレシーデに適当な服を着せると、タクは街道に沿って洞窟まで帰る。

 タクが来たことで最初は抵抗を見せたが、お嬢様はすでに助けたと耳元でささやけばセレシーデはおとなしく付いて来た。


 「ただいまー」

 「早かったじゃない」

 「エイファさんが苦手になりそうですよ」

 「あら、いいじゃないまだ行為前だったんでしょ」

 「………」

 「私だったら自分の身の安全を優先して行為中を叩くから。保護対象からしたらタク君が行ってくれた方がいいと思っただけだものー」


 悪びれもせずそういうエイファに、セレシーデがタクの手を掴む強さは強くなり、タクは頭を押さえて洞窟の中に戻る。

 すやすやと眠るネリーと、船をこぐアルテが居て、タクとエイファはさっきまでの険悪なムードなど無かったかのようにくすくすと笑い合い、セレシーデはネリーの側に座り込むと、ぽろぽろと涙を零した。


 「とりあえず飯でも食えば? 消えちゃうわけでもないんだし」


 ありがとうと泣きながら食べるセレシーデに、どんなひどい生活をしていたんだと引いてしまったタクとエイファである。


 「んで、あんたと同じ服を着てたのはあんたの仲間?」

 「いえ、お嬢さまを安全な場所に逃がすために雇った男たちだったはずです。全てはお嬢様のお父上が用意したので………」


 落ち着いたセレシーデにエイファが弱い治癒魔術をかけながら、タクが質問する。


 「あんたはあいつらを仲間だと思ってる?」

 「………お嬢様を守る意思が彼らにあるのなら」

 「そう。じゃあ………家があるのはエンシ?」

 「はい。お嬢様はエンシの貴族の娘です」

 「エンシは、雪の魔物でやられたの?」

 「いえ、エンシは新芽の魔物に蹂躙されました………」


 セレシーデは一瞬で人を殺せそうな顔になると、手をぎゅっと握りしめて目を伏せ深呼吸する。


 「大丈夫か」

 「はい………大丈夫です」


 何があったかは、個を知ることができないエイファに知ることはできないが、全を知るからにはきっと魔物に蹂躙されたときに家族か、それと同じ位大事なものを失ったのだろうと考える。


 「俺たちはこれからロルネラに向かうけど、どうする」

 「どうする、とは?」


 考えていなかったかのように首をかしげるセレシーデは、付いてきたいなら連れてくし、ここで別れたいなら放っておくけど? と言う涙を浮かべて連れて行ってくれるという選択肢があるのですね、と微笑む。


 「で、どうする? 来る? 来ない?」

 「できるならば、お嬢様と共に、エンシまでお願いします。宿の手配で恩が返せるかは分かりませんが、エンシでの雑用はお任せください」

 「ふん」


 頭を下げるセレシーデに、もう興味はないと言わんばかりにタクはアルテの横に横になると、毛布をかぶって眠りにつく。


 「私は、ここにいていいのでしょうか………」


 横になったセレシーデは、隣に横たわったエイファに話しかける。


 「いいんじゃない? 実質リーダーが決めたんだし」


 クスクスと笑うエイファに小首を傾げながら、温かさに重くなってきた瞼を閉じる瞬間、おやすみなさいという優しい声が聞こえた気がした。

 欝な子供多いな、コレ。

 文章でわかるか分かりませんが、ネリーちゃんは白→灰の子です。


行為を受けそうになっている方を攫う場合、

 大人組なら堅実に行為中を狙うでしょう。

 タクとシノだったら、襲いかかる瞬間を狙うでしょう。

 アルテだったら賢者タイム中を狙うでしょう。

 アキだったら素通りするでしょう。

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