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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第三章 少年編・生きる
54/113

05 将来設計

 最近、折り紙にはまった。

 佐藤ローズなら達人折りまでできるようになった!

 でも昼間か風呂直後にしか折れない。カナシス


 五十二話、始まるよー

 シノが町を出て行った翌日。

 アルテのところでシノが出て行ったことを聞いたタクは、孤児院で獣人の女性に突撃されていた。


 「こにゃにゃちわ!」

 「は?」


 頭に揺れるその耳はとがっているが長くなく、猫系の獣人であることが一目でわかった。尻から伸びているその尻尾が際限なく左右に揺れていて、タク以外の全員がその不規則に揺れる尻尾を見て頭を揺らしている。


 「ここに『夢』の子がいるってお告げがあったにゃ」

 「………」

 「そんな怖い目でにらまないで欲しいんだにゃ」

 「………で?」


 『夢』と言われた時点で嫌な予感がしたタクは目を細めて猫人の女性を見るのだが、睨んでいると認識されたらしく、取り合えず真っ直ぐその女性を見つめる。


 「うう。僕ら獣人は『夢』に呼ばれなかったから、人を頼るしかないのにゃ」

 「頼るって何を………」

 「お前『黒』かにゃ? 『白』かにゃ?」

 「………」


 黒か白か聞いてくる時点で、『夢』についてよく知っているということはわかっている。

 タクは、あの『夢』がほぼ真実であることが何となくわかっていた。

 そして、あそこにいるはずのない獣人種がなぜこのことを知っているのかがわからず混乱していたのだ。


 「もうお前が『夢』の住人だったことはわかってるのにゃ。僕も忙しいから早く答えを聞かせて欲しいのにゃ」

 「………『灰』」

 「おお! 好都合にゃ! 傍観者の色を一発で引き当てるなんて僕は運がいいにゃー」


 ヒャッホーウとこの女性が飛び上がったところで、周囲の者が意識を取り戻す。

 気を失っていたわけではないが、一種の洗脳状態といったほうが正しいのだろう。タクは、それが自分にかけられた可能性を考えるとうすら寒くなる。

 もし自分が『黒』で、彼女が『白』だとしたら、さっきの魅了系の術にかかって、首を切られていたに違いない。


 「あんた、何者?」

 「ふふん、あたしはティレー。旅商人のティレー」


 ティレーはにっこりと笑って、タクに手を伸ばす。


 「二年後、あたしに奉公しない? 知りたいこと、教えたげる」

 「その代り、なにか手伝えと?」

 「にゃー」


 タクは少し迷って、その手をぐっと握りしめる。


 「望むところだ」

 「契約成立にゃ。二年後、迎えに来るにゃー」


 そういうと、ティレーは、孤児院を颯爽と抜け出し、負った孤児たちを振り切って、この町から消えた。


 「なんだったんだ…………」

 「タク。あれ、知り合いなのか? ………タク?」

 「ん、ああ、知らない。知らないやつ」


 何がなんだかわからないといった様子のアルテ。

 タクは、アルテに被害が及ばないようにしようと心に決めて、家へと帰る。


 □■□■□


 豪華絢爛といった部屋。

 そこで一人の獣人がくつろいでいた。

 目は両目とも閉じており、その雰囲気は艶めかしい、そんな女性。


 「んぅ………」

 「テルディーレ様、そろそろ、御政務のお時間です」

 「はん………すぐ、行くわぁ………」


 テルディーレと呼ばれた女性は、薄い帳の向こうに立つ、執事服を着た男性にそう告げる。


 「テルディーレ様、お遊びはそこまでになさいませ。すでに閣僚たちは揃っております故」


 執事服を着た男は、帳の向こうの、影として認識できる主を見据えて再度言う。


 「テルディーレ様」

 「んもぅ、分かったわよぉ」


 女性の影は跨っていた男を蹴飛ばすと、横にかけてあったらしき布を体に巻きつけて執事の居る方へと姿を現す。

 執事は予想していたかのように手を鳴らし、服を一式持った侍女たちを部屋の中へと招き入れる。


 「ちっ」


 テルディーレはされるがまま、侍女たちによって服を着せられていく。


 「さて、先ほどティレーから報告が届きました」

 「へぇ。災厄の町(ガラム)で拾い物でもしたのか」

 「『夢』の少年を捉えたと」

 「ふぅーん………少年?」


 執事の報告に、いやいやながら服を着ていたテルディーレが、少年、という言葉に難色を示す。


 「少年だと、報告が来ていますね」

 「あの町で捕えるべきは少女と言ったはずなんだけどぉ?」


 紫色の髪がたなびくほどに怒気を迸らせるテルディーレ。

 兎の耳はピンと天へと伸び、その豊満な肢体には筋肉が盛り上がってしまっている。その変化に侍女たちはタジタジだ。

 主が侍女たちの仕事を妨害していると判断した執事はその怒りが筋違いのものであると告げる。


 「しかし、彼女への命令書には少年と表記されていましたよ」

 「なにっ!?」


 今回ティレーに与えた任務は、ガラムで『夢』を見た少女を連れ帰ることとしていたはずであったのだ。

 怒気が収まったテルディーレの耳は垂れ、筋肉が盛り上がっていた体は、元の豊満な男受けする肢体へと戻っている。


 「予見では、確かに少女だったのですか?」

 「そぉーよ。私の予見が違うはずはないわ」


 テルディーレの頭に思い浮かぶのは、人形のような人間族の少女。

 その身に宿す未来を示す色はわからなかったが、麦畑でたわわに実ったように輝くような茶金の髪と、青空のような海のような吸い込まれそうになった青い瞳。印象的過ぎて、絶対に忘れることはできないその容姿。

 数多くいた人間の『夢』の住人たちの中で、その子供はひときわ大きく輝いていたから覚えている。

 間違えるはずがない。

 間違えるとしたら………。


 「………誰かの【能力】で逸らされた?」

 「テルディーレ様、あなたの予見を覆すほどの【能力】の持ち主などおられるわけがないでしょう」


 執事の意見もっともである。

 【予見】とは、決まっていない未来を受け取るわけで、その時点の結果が違ったとしても、それを伝えるのにおいて同じ視界を共有できるわけでもないのだから、まず結果が出た直後に逸らすという行為は不可能に近い。

 そんなことができるのは同じ【能力】を持つ者で、前世の記憶を保持している者でしかないのだから。


 「一応あなたの【鑑定】で、部下全員視ておきなさい」


 振り返ったテルディーレの美貌は、この国一番であろう。雄でも雌でも強制的に発情させられるだろう容姿を生まれ持つテルディーレ。

 しかしこの執事にとって主の容姿なぞ関係がない。


 「テルディーレ様、私、夜行性なんですが」

 「なによ。私の影なんだから、そのくらいはできるでしょう?」


 夜行性の梟。それが彼の種族なのだから。

 日の光を長時間受けることができないその瞳の周りには布を何重にも巻き、光を完全に遮断している。


 「できないとは言いませんが、せめて寝る時間ぐらいいただきたい。いちいち睦言を囁きにあなたに呼ばれ組み伏せるのは流石に疲れるのですよ」


 この国では強さこそ全て。

 誰よりも強い者が上に立ち、強いもの同士の子を産むことが上には課せられる。


 「疲れるならさっさと後釜を育てるか、あなたより強い奴を連れてきなさいよ」


 至極全うに思える意見なのだが、いかんせん囁きに来なさいと伝えられ、力ずくで組み伏せて快楽を与え眠らせ、翌日は主人よりも早く起きなくてはならないと言うそのあまりにも過酷な予定に最近は薬師を雇ってしまうほどなのである。

 執事からしてみれば、いい加減閨の仕事は後宮の連中に任せたいと思っているのだが、誰しもテルディーレより弱いため、投げ出せないのが現状。通常業務も後任がなかなか育たないのと、テルディーレのわがままを一身に受けて平気な部下がいないため育てることすらできていない始末なのである。


 「それはまだ無理でしょうね」

 「ふん。今夜も待ってるわ」


 前が開き、胸の谷間を強調した服装で段を降りるテルディーレ。

 全員が頭を下げる中、執事の男の前で立ち止まり、その耳元に顔を近づけると囁くようにして言う。


 「熱い夜を期待してるわ、セイ」

 「………」


 クスリと笑って、テルディーレはその場を優雅に立ち去る。

 もう聞こえない位置へとテルディーレが移動したのを感じとり、セイは体を起こす。


 「女王様は我儘でいらっしゃる」


 しゅるりと目元の布を引っ張りその眼を開くセイ。

 洞のように真っ黒なその瞳に宿すのは、使命感。

 その背中にある翼を広げ、その場から飛び立つセイ。

 侍女は瞬きの間に消えたセイに驚き、その場に残された一枚のきれいな灰色の羽に見惚れた。

 ここは農耕国家シシラギヤ王国の属国、獣人都市国家ラーデラをまとめる四族の一つ、メディガルディナ。テルディーレ・メディガルディナが纏める、生粋の武闘派集団である。


 ■□■□■


 行商人に奉公しようと決心したタクだが、残念ながら行商人の仕事内容が全く分からない。

 いや、前世の頃の記憶を頼りにしても、まず前世において行商人という職業自体触れていなかったジャンルだ。むしろ迷惑な訪ね売りという印象しかなかったのである。

 知りたいタクが訪ねる先など決まっているようなもので。


 「行商人?」

 「そうです。シーブさん、知ってること、教えてください」


 親方がいないということで、帰ってくるまで待つことを了承したシーブを何とか引き留めたタクは、剣の修行に付き合ってもらいながら、雑談を交わしていた。


 「そうだなぁ………」

 「一つの町で仕入れをして、次の町でその商品を売り捌く、という感じでしか、行商人という職業を、理解してないんです」

 「そのものだな………うーん」


 シーブは片足だというのに、タクの剣を受け止めては流し、さやで的確にタクへとダメージを与えていく。

 器用だなーと思いながら、受け流せないその威力に身を竦めながら精一杯捌いていく。


 「ああ、商人は商人ギルドがあるだろ? 行商人はその下部組織にあたる行商人ギルドに加盟が義務付けられていたはずだ」

 「行商人、ギルド?」


 冒険者ギルドがあるように、それぞれの大元の職業には大きなギルドが存在する。冒険者、鍛冶、商人、農耕、などなど。その本部が置かれている街では、下部組織にあたる小さいギルドも存在し、商人ギルドの下に行商人ギルドなるものもある。


 「ただし加盟するにはすでに加盟している行商人の商人が必要らしい。普通でいう師匠や後見人にあたる人だな」

 「そうなん、ですか」


 ティレーが行商人なのだとしたら、普通隊列を組んでいるはずだし、組んでいないとしたらそれなりに経験のある行商人ということになる。

 加盟すること自体はそんなに問題はないだろう。


 「後はそうだな、旅人の扱いになるか、冒険者の扱いになるか、商人の扱いになるかは個人の実力次第だな」

 「その、違いは、どこにあるんです、か?」

 「冒険者ギルドに二重登録するかどうかと、頭角を示せるかどうかだな」

 「二重登録は、行商人も、許されているんですか?」


 職業の二重登録が許されている職業は、基本的に冒険者だけとなっている。

 冒険者の仕事は、定住しない何でも屋のようなもの。解決してほしい問題がなくなる、という場合もあり、定期的に一定以上の収入を得られない冒険者は定住する者に限り二重登録をすることができるのだ。

 もちろん定住しない場合は掛け持ちなど、普通はできないとされているのだが。


 「ああ、行商人は、隊商までいけば職業として認められるんだが、普通の行商人の場合は職業として認められていないから二重登録ができるんだ」


 商品の売り買いを町や村において認められる資格のようなものらしい。


 「ありがとう、ございます」

 「おう。行商人の失敗する理由の一つが力不足だ。今のうちに見聞きと剣捌きは覚えておけ」

 「うわっ」


 ためを作ったシーブの剣にはじかれて飛ばされる。


 「よー! 親方、お帰りー。待ってたぜ」

 「………おう」


 親方は吹っ飛ばされたタクを心配そうに見る。

 タクはシノのアクロバティックな動きを思い出しながら、木に叩き付けられないように細心の注意を払って、幹に着地し、そのまま空中で何回転かして地面に降りる。


 「シーブさん! いくらなんでもかっ飛ばすなんて」

 「なに。嬢ちゃんは馬にのって壁を越えて、屋根で勢いを殺して狙ったところに飛び降りることができたからな。兄貴分ならそのくらいできるだろ?」


 シノのもう武勇伝と言ってもおかしくない行動に、ひくっと頬を引きつらせながら、手にしていた木剣を家の壁に立てかける。


 「そう言えばシーブさんは、親父に何の用があったんですか?」


 少し見上げてそう聞けば、親父とシーブは目を交わして一度頷く。


 「雪の魔物がお出ましになるんでな」


 ウソだろ? という思いを込めて親方を見るタクだが、親方が大きく頷いたことで顔を一層青くさせる。


 「そういや、お前の母親も冬の魔物にやられたってな。大丈夫だ。今この町には過剰なほどの戦力が集まってる」


 シーブが優しくタクの頭をなでる。


 「外部から何らかの力が加わらなければ、余裕をもって倒せる相手にすぎないから安心しとけ」


 それってフラグですよね?

 思ったタクだが、それを口にすることははばかられた。口に出したら、本当にフラグになりそうだったからである。


 「中で話をするが、どうする? タク君も聞いてくか?」

 「………聞く。俺にもなんかできることがあるかもしれないから」

 「タク、お前はここに居ろ」

 「っ! 俺だって強くなった!」

 「はいはい。親子喧嘩は後でしてくれ。俺も暇じゃないからなー」


 そういって、主にタクが食ってかかっていた親子喧嘩らしきものは勃発せずに終わった。


 「まず偵察隊が領主命令で出された。あの領主は息子が関わらなければそれなりに優秀らしい」

 「偵察隊って、領主保有の騎士団ですよね?」

 「そうだ。借り物ではなく自身の騎士団を使っていたのが功を相し、領外から援軍を得ることができた」

 「援軍って………」

 「全滅か?」


 タクがすがるようにシーブを見るが、シーブは首を横に振る。


 「半分が死亡、もう半分が欠損でもう騎士として生活するのは無理だろう。さらにもう半分は部分欠損で立ち向かうことはできるだろうが心が折れてるだろうな」

 「そうなんだ………」

 「さらにもう半分、と言うか残り数人なんだが、ベッキベキに心が折られてるだろうよ」


 仲間を目の前で殺され、食いちぎられ、圧倒的な力によって千切られ捨てられた様を助けも求めることもできずに逃げ帰ることしかできなかったのであれば、騎士団はもう駄目になっていてもおかしくはない。


 「うちは旦那様が避難なされるし、お迎えが来るから俺ら全員出ることができるな」

 「俺も出よう」

 「お、俺もっ」

 「留守番だ」

 「なんでっ」

 「親子喧嘩はやめてくれよー」


 すぐそこまで魔物の脅威は迫っていた。

 タクと親方はちゃんと親子喧嘩をします。

 ちょっとした裏設定ー!!

 魂魄はつがいとなることで世界に居ることを許される。

 魂に直接刻まれた記憶というのは基本的に感情がない知識のみで、情緒的なものはすべて魄の方に刻まれる。

 タクにとって、前世の父親は父親という意識があるだけで、そこに懐かしいなどという感情はなく、親方は親父という認識と共に知識が魄の年齢分積み重なっているので、完全に親だと認識している。


 まとめると、面倒だから魂だけで召喚されんなバカ。

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