04 初めての友達
あー寒いっ!
近くに温泉あるけど、温泉行って浸かっても冷めるから行きたくないよー
家から出たくないよー
五十一話、始まるよー
あの日話した少年に会いに行く。
シノがまだ治療院に入って動けないから、その間にもう一度あの新しくできた友人のところに行ってみようと思う。
「えっと、孤児院は………」
「お前、どこの?」
親父が簡単に書いてくれた地図に従ってふらふらと通りを歩いていると、俺よりも数段いい服を着た少年が前をふさぐ。
「えっと?」
どこの? と言われても、なんとも言えない。
服が汚いからもしかしたら奴隷かと思われているのだろうか。さすがに遠くまで狩りに行ってきた直後に行くのは流石になかったか。
「どこの奴隷だよ。そんな汚い服着て大通り歩くなよな」
俺よりも背は小さいが、きっと年上なのだろう。
昼過ぎという時間からして、きっと奉公に出ている少年なのだろう。そうでもなければこの時間帯にこんな上等な服を着て町中をうろつかない。
「それはどうも」
その言葉を忠告ととって通り過ぎようとまた視線を手の中のメモに落とした俺だが、その少年は嫌味ととらえらのか、俺の手の中の紙を奪い取り、地面へと投げ捨ててしまった。
「仕事も十分にこなせないなんて残念だったな!」
そんな捨て台詞をはいてその少年は行ってしまう。
いったいなんだったんだ。
意味が分からない。
むしろあれ、誰だよ。
「あれ? タクじゃないか。もしかして孤児院に?」
「おう、アルテ。そ、孤児院に行こうと思って絶賛迷い中」
肩をすくめて見せると苦笑するアルテ。
実はあの倉庫襲撃の後、報奨金を渡した後気を失って親父に担がれていたから孤児院の正確な場所がわからなかったのだ。
しかも残念なことに、俺はかなりの方向音痴らしく、一度言った場所なら何とかなるが、知らない道を目的地に向かって進むときは絶対にたどり着けない。
「俺も今戻るとこだし、一緒に行こうぜ」
「助かる」
シノは友達というよりも妹だから、初めての同年代の友達がアルテだ。
アルテはそんなにいい容姿ってわけではないが、将来有望そうだ。もし孤児ではなく普通の町民だったら女の子に囲まれて育ったに違いない。いや、その精悍な顔の奥には孤児として育ったからこそ得た苦労がにじみ出ているから二割増しにかっこよく見えるのかもしれない。
「なんか失礼なこと考えてねーか?」
「いや? そんなこと考えてないけど?」
「そうか?」
ずいぶんと感がいいことで。
そうそう歩いているうちに俺らはアルテの家である孤児院についた。
「そういやあんなにたくさんの銀貨、ありがとな」
「うん?」
「いや、銀貨三十五枚。冬の準備しなくちゃいけなかったし、病気の子たちも沢山いてどうしようもなかったから助かった」
「へー」
俺が監禁されたあの事件で、ちょっとした報酬が出たことは知っていたが、それが銀貨三十五枚の価値があったなんてことは初めて知った。
親父が冒険者時代に得ていた金額からしたら、それも端金になるのだろうが。
「あ、お茶飲む? 茶菓子もあるんだ」
「なんだ、豪勢なんだな」
「いや、最近教会から降ろされてくるんだよ。材料代はこっちが払ってるけど、おいしくて修道女たちが困ってるんだ。こんなおいしいものを作られちゃ後が怖いって」
「怖いって………」
料理の腕に対してだろうか、それとも………
「それ以上口に出したら頭かち割るわよ? お二人さん?」
背筋が凍るような声で話しかけてきたのは熟れ時な修道服を着た女の人。
「あはは………お茶ありがとー、俺たち裏に行ってるね」
「ええ、二人でお話でもしてらっしゃい」
なんとか抜けだす理由を言い切ったアルテの後ろに続いて部屋を抜け出す。
結局のところ、体重が悲惨な状態になっているのかも。腹回りとか。
そこまで考えたところで後ろから冷徹な雰囲気を感じて、懸命に足を動かしてその場から離れることに徹する。
「ほれ、うまいだろ。なんだっけかなーこのクッキー」
「へぇ………」
出されたクッキーは、町中で売ってるようなどっしりとしたものではなく、噛むとサクッとしていて、口の中でホロッとほぐれるような絶妙な触感を持ちながら、その味は甘さすっきりとした感じで、少し甘い香りの紅茶とよく合っていた。
「子供たち用は甘いのが多いんだけどさ。ちょっと甘すぎて好きじゃないんだ」
「俺もこっちのほうが好きだな」
アルテのは甘ったるいのよりも、すっきりとした甘さのクッキーのほうが好きらしい。
俺と同じが少し年上なのだろうと思っていたが、予想よりも上の年齢なのかもしれない。こんな世界じゃ年功序列なんてあんまり関係ないのかもしれないけど。
「んでー? 今日は何の用だったんだ?」
「あー、いや、ちょっと妹が怪我してさ。厄介な連中に目を付けられたかもしれないから森に来ないほうがいいかもって伝えに」
あのアキとか言う少年、明らかにやばい。
できることなら一生あんな奴に会いたくないが、多分この町の領主の息子というからには何かしら難癖付けて会いに来るだろう。
せっかくできたこの世界での初の友人なんだから、あんな危険な奴には会わせたくない。
「へー。妹とかいたんだ」
「義兄妹? 剣の妹弟子っていうか」
「剣の弟子?」
俺の親父が剣を教えられることを知ると、アルテは思ったより食いついてきた。
どうやら俺が監禁されて終わった件で、孤児院の皆を守れるくらいの強さが欲しいと願ったらしい。
「そしたら今度来いよ。早くても二週間後だけど」
「ん? 二週間って、その妹弟子の怪我となんか関係あんの?」
「あーうん。今ちょっと治療院に入ってて」
「もしかしなくても、お前シーブさんと知り合い?」
「あ、やっぱこのクッキーシーブさん作なんだ」
なんか微妙に気になっていたことがわかってすっきりとするが、町の人間関係ってなんでこうも狭いかな。
「いやー、あの人すごいよな。もう魔術でも使うかのように料理を作ってくじゃん。俺は直接話したことはねーけど、人付き合いもいいらしくて、最近じゃ神父様と一緒に夜は酒飲んでるよ」
シーブは屋敷の料理人と言っていたが、本当にそれだけなのだろうか。
一度聞いてみたほうがいいのかもしれない。
片足義足で、クロの最速にも追いつくほどの脚力を発揮して、体への負担も考えず突っ走って、仕事道具ともいえる素手で人を殴り飛ばせるほどの料理人なんて、俺は知らない。なにその武闘派の料理人。絶対要らないスキルでしょ。
「ってか、マジでお前家に来んなって言いに来ただけ?」
「ああ」
「何もそこまで気遣わなくて大丈夫だぜ?」
「いや、本当にやばい奴だったからな」
「そんなにか」
「そんなにだ」
こんな風に気兼ねなく話したのも久しぶりで、俺たちは孤児院の裏手の芝生の上に寝っころがりながら、いろんな話をした。
本当に友達してて面白い。
前世では知り合いと友達と親友と、その線引きにばかり気を付けていたけど、こっちに来てからはつながる媒体もなければ、知り合う機会さえないから考えてなかった。
「また一週間後に来るよ」
「おう。今度は土産の一つでももってこい」
「はは。じゃあ、兎でも狩ってきてやるさ」
その一週間、何度かアキという少年が家を訪ねてきた。
絶対にその後ろに髪の長い、若い女性を連れて。魔術の師匠と自己紹介された。
ふーん、としか思わなかったが、後で、すっごいファンタジックな世界に来たんだなーと再認識した。まあ、最初っから化け物に襲われるっているファンタジックな事件に遭遇してますけど、あんまり自覚なかったんだよね。
しかもストーキング宣言されました。
俺を追って何が楽しいんだあの餓鬼。
「親父」
「なんだ」
「シーブさんからなんか聞いてない?」
「起きたとは聞いた」
「マジか!! アルテからいろいろ聞けるかな」
シノが目覚めたと聞いて俺は舞い上がって、親父が作っていた木彫りを床に落としてしまい、いくつかダメにしてしまった。その時の親父の顔が怖いのなんのって。涙目で土下座して許してもらいました。
すぐに謝らないと家に入れてもらえなくなるしね。
「来たよー、アルテいる?」
一週間後、孤児院を訪れると、顔を青くしたアルテが迎えてくれた。
「どうした?」
「お前、歳、八歳なんだって?」
「え? あ、うん」
話を聞くと、シノと年齢のことで話したらしく、俺の年齢についても聞いたらしい。
「じゃあ逆に聞くけど、アルテは何歳?」
「俺は………十三だ」
「あんまかわんないじゃん」
「いや。変わる。五歳も違うんだぞ?」
「同い年かそれよりちょい上なのかなーって考えてたからまあ、予想通り」
「同い年か年上っておもってたんだよぉー!」
そう言われて、改めて五歳差というのを考えてみる。
俺が小二でアルテが中一か………兄弟レベルで年が離れてるな。
ふと不安になる。
友達解消とか言われたら、今泣く自信があるぞこれ。
「ちょ! おまっ、なんで泣きそうなの!?」
「いや、アルテに友達解消とか言われたらと思うとちょっと涙腺が」
「るいせん? まあ、友達解消とか言わねーよ。俺にとってもお前が初めての友達だからな。二人目はシノだし」
俺の友達年下ばかりだ………と肩を落として落ち込むアルテの肩を慰めるようにたたく。
□■□■□
そんな会話をする俺らの後ろでは。
「今の泣きそうな将来美丈夫な顔! 唾付けたほうがいいかしら」
「あれはそそるわね」
「ちょっと待ちなさい、あなたたち」
少年二人の様子を陰から覗き見る少女二人。
その少女の背後から食って掛かる声がかかる。
「なによ」
「あの子は今まであの少女を側においてたのよ」
シノの顔は、すでに孤児院の誰もが知っている。
儚げで、薄い色の肌と茶金の髪、青空の瞳に桃色の唇。そのどれもがきれいで、将来は絶対に美女になるだろうと予想されるその顔立ち。少女たちが敵いっこないと思うのも当然なほどの外見だったのだから。
「あ………」
「あの美貌には敵わないわ………」
「でも諦めるのはまだ早いわよ」
あきらめたところにさらにかかる声。
「なにかあるの?」
「ふふふ、情報料頂戴」
「じゃあ要らない」
「私は払うわ」
「ちょっ」
「毎度あり」
最初からいた二人の少女は、そんなもったいなさそうなことに金は払わないと決めていたのだが、後からやってきた少女が躊躇いなく貨幣を支払う。
払った金額がいくらか、二人の少女にはちょうど見えなかったのだが、払ったことで得た情報が、払った少女の意にかなったものなのは情報を聞いたその表情でわかる。
「うん。払った価値あったわ。じゃ、行ってくる」
「いてらー。んで? 二人は要らないんだよね?」
「うう」
「っ、私買うわ、その情報!」
「じゃ、じゃあ私も」
「毎度あり―」
情報を得て離れていく二人の少女。
そして情報を売った少女と、いつの間にか戻ってきた少女がにやりと笑みを深める。
「いい稼ぎになったね」
「ね」
二人の顔には笑みが浮かんでいる。
その手に持つのは銅貨二枚と賤貨一枚。
こうして幼い頃から子供たちは、情報の大切さとその価値に見合う金額を失敗を繰り返しながら学んでいく。
「お礼にアルテとタク君さそってあの喫茶店に行く?」
「それは妬かれるからもう少し待とうよ」
二人の手にはあかぎれがなく、髪には艶が出ていた。
手と髪の効果が完全に表れるだろう日は数日後。数日したら周りと比べものにならないほどの髪の輝きとすべすべな肌を手に入れるだろう。
「いい宣伝になるよね?」
「いい宣伝にしなくちゃね」
クスクスと笑い会う少女。
情報を作って売る側の二人には、物も情報も、いい稼ぎにしかならない。
■□■□■
戻ってタクとアルテ。
「そういや、シノってどうしてる?」
「ん? ああ、そっか。面会謝絶状態だもんな」
シノはシーブとエイファにしか会えていない。それでも朝と夜の食事だけは孤児院のみんなと食べているらしいから、タクにとってはうらやましい限りである。
「元気だよ。普通あの結界に入ったらぎりぎりまで寝続けるのが常だって言うのに、シノは途中で起きて普通に飯食ってるから。早々に回復すんじゃない?」
「それはよかった」
「つかさ、マジ何があったの?」
「………まあ、いつか話すさ」
「それでもいいけどさ。お前がつらそうにしてんのはちょっと見てられないから、なんかあったら話せよ? 友達なんだし」
「ああ、よろしく」
久々に、友達がいてよかったと思う。
義理だけど、妹ができて、年上の友達ができて、変な奴には割とからまれるけど、それなりに充実した毎日を過ごせてる。
「そうだ! 剣教えて! 振るい方だけでいいからさ」
「うん? いいけど。剣は?」
「じゃじゃーん! 裏通りで見つけたんだ」
「ボロいな」
「言うなよ! ゴミでも俺の役に立ってくれる相棒なんだから!」
アルテが脇から引っ張り出したのは、一振りの剣。
刃があり得ないほどにぼろぼろで、使えなくなったから捨てた、という感じなのだが、磨けばそれなりの殺傷能力を持つのではないかと思えるほどつくりがいい短剣だ。
「んじゃ、刃が揺れないように振り下ろしたところで止めるってのやってみれば? 割と難しいから」
「ん? こんな感じ?」
「あー違う違う。振り上げて、振り下ろすんだけど、臍の下あたりに来たらピタッと止める感じで」
「んん? 割と難しいな」
「また一週間ぐらいしたら遊びに来るし、それまでにできるようになってたらいいんじゃない?」
「お、おう。頑張る」
そう簡単にできるようにはならないだろうけど。
走ることと腕立てや腹筋についても教えて、帰路に就く。
またなんか奴隷だとか言ってからんできた奴がいたけど、それはもうどうでもいいや。俺よりちっこいくせにかまってくんな。
まだシノは闘病中。病気じゃなくて刺し傷だけど。
ほんと、シノはよく頑張った。
タクはいつ活躍するんだろうね?
ちなみにぼろい剣、親方がよく利用してる鍛冶屋の、駆け出しの頃友人に制作した剣だったりする。すごくいらない裏設定。




