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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第三章 少年編・生きる
52/113

03 本当の天才

 天才って書いてて思った。

 鬼才>天才≧奇才>秀才≧凡才

 鬼才って、人間離れしてるっていうけど、それ図るの人間じゃん………


 五十話、始まるよー

 ガラムという町で暮らし始めて四年。

 変な夢を週一ぐらいで見るようになって、最近ずっとイライラしている。

 それはどうでもいいことだ。それよりも、どうも俺は普通の子供よりも成長が早いらしい。

 最近分かったのは、一年が六百日もあり、ひと月が三十日、一週間が十日、五日に一回休みが存在し、一日は十二刻と呼び二十四時間であるということ。

 本来なら七歳である俺の身体は、明らかに七歳の身体能力ではない。

 この体自体のスペックが高いのかもしれないが、成長速度が異常なことに変わりはない。


 「親父、薪割り終わったよ」

 「そうか」


 狩人の息子として暮らすのにも慣れてきた。

 この体になった初日は理解できたはずの言葉をなぜか理解できなくなっていた俺はそれなりに必死に言葉を覚えた。残念ながら文字がある生活から離れてしまったから、冒険者に最低限必要な知識や文字しか知らないけど、それでもその記憶力と応用力は周りの大人狩人たちよりは上だ。

 俺の生活圏にいるのは狩人の兄さんたちだけど、すっごく優しくて、すっごく楽しい。少なくとも、新しい経験に俺の心は毎日のように踊っている。あの糞詰まらん夢さえなければ、もっと面白いと思えると思えるんだけど。


 「親父! 夕食どうする?」

 「頼む」

 「りょーかい!」


 前世の記憶を引き継いでいる俺だけど、最近その記憶が薄れてきている気がする。前の世界で見たこと、聞いたこと、友人や家族、などなど、俺の中から零れ落ちていくのだ。ただ知識だけはまだギリギリ残っているけど、もう前世の両親の顔を思い出せない。


 「そうだ親父、俺もそろそろ一緒に狩り行っていいだろ?」

 「………ダメだ」

 「なんでだよ! 親父にかなわなくてもそれなりに武器を扱えるようになったじゃんか!」

 「………」


 俺の言葉に渋面を作る親父。


 「親父!」

 「もう寝ろ」

 「―――っ!」


 その日俺は食器の片づけをしないで布団にもぐりこんだ。

 俺の感情の振れ幅はこの体の年齢に沿っているようで、前世を過ごしたはずの精神年齢は関係なくなっているようだ。むしろ感情的に物事を突っ走ってからそうなったことを後で後悔することがほとんどなのだ。

 それはそれとして、親父が認めてくれないのには納得がいかない。

 親父はそれなりに強い冒険者だった。

 それはこの体を殺したあの化け物を、何度も何度も切り付けて最終的に倒した壁にかかってるハルバートが証明してくれている。


 「寝たか?」

 「………」

 「………」


 布団にもぐって身じろぎをしない俺を見て、親父は静かに扉を閉める。

 その先ではコンコンと、親父が作った木の食器を片づける音が響いている。

 そして俺に罪悪感が襲ってくるんだ。


 「………ぐすっ」


 俺はなんでもできる。

 勉強だってできるし、親父に一撃食らわせることはできないけど、それなりに強い一撃をかませるようになってきたし、料理だって、少なくとも親父よりはできる。

 なんで俺を狩りに連れて行ってくれないの?

 俺のことを嫌いになったから?

 本当の息子じゃないって知ったのかな。

 こんなに頑張ってるのに、こんなに強くなったのに、周りの狩人たちは褒めてくれるのに、親父はそれでも山に一緒に行くのはダメだって言う。

 なんで?


 「おやすみ、タク」


 親父は俺の頭を優しくなでて、俺の横で寝っころがった。

 親父が寝てからも悪態をついていた俺だったが、そのまま寝てしまい起きた時には隣に親父は居なくて、居間の机の上には一人分の、あまり食べたいとは思えない食事が並んでいる。

 それでも懸命に作ってくれたのは知っているから、食べているうちに笑顔がこぼれてきてしまう。


 「ただいま」

 「おかえり………?」


 そんな親父が家に帰ってきたのは昼過ぎ。

 いつも狩りで使っている斧がなかったけど、狩りに行くときは必ず持って行く弓矢を持っていってなかったから早めに帰ってくるだろうとは思っていたけど、いくらなんでも早すぎる。


 「おーここが親方の家か! いい家じゃん」

 「えっと、いらっしゃい………」

 「おう。俺はお前の親父さんの友達のシーブって言うもんだ。よろしくな」


 親父と同い年か少し若いくらいの男が家に入ってきた。

 親父は俺よりも警戒心が強いから普通この家に人を入れることはしない。今までこの家に入ってきたのだって、この町の村長とそのとき狩人をまとめていた男だけだ。

 ある意味初めて親父が連れてきた友達というやつだろうか。


 「お前の名前は………」

 「タク」

 「そーかそーか! あのな、俺は今日お前の親父さんに頼みに来たんだ」

 「………何を?」


 片足義足のその男は、親父の横をすり抜けて、俺の前にしゃがみ込む。


 「俺の姪で、シノっていう子がいるんだけど、その子の遊び相手になってくれないかな?」

 「………は?」

 「いやー俺も妻も仕事で忙しくてさ。嬢ちゃんをかまってる時間ないんだけど、町中で変な連中にさらわれるってのも嫌だしさ。この南の森なら狩人たちばかりだし、安心できるなーって親方と話しててね」


 姪のシノっていう子の子守りを任されたらしい。


 「君もそれなりに腕に自信があるようだし、できたら嬢ちゃんと一緒に遊んでくれないか? 暇な時間だけでいいからさ」


 暇な時間って、俺はほとんど毎日家で手仕事をするしかないから毎日が暇だ。

 暇な時間の消化のために親父が了承したのかな?

 ふと目を向けると親父が頷く。

 まあ、断る気もないけど。


 「いいよ」

 「お! ありがとう! じゃあ、明日連れてくるよ。ちょっと気難しいかもしれないけど、遊んでやってね」

 「………え」

 「あ、そうだお近づきの印に。これ、俺の仕事は料理人でね。夕食にでも食べてくれ。じゃー!」


 珍客はすぐに帰って行った。

 俺の手に持たされたのは鍋。

 蓋をずらすと、いつも食べている料理よりもかなり複雑でいい香りが鼻をくすぐる。


 「食べるか」

 「うん!」


 暖炉に火をともして、鍋を火にかける。

 あったまった鍋の中に入っていたのは、普通食べられないほどの沢山の野菜と肉が煮詰められたシチューだった。


 「親父」

 「うん?」

 「町の中ではこういう料理を食べるのが普通なの?」

 「いや………あいつはお屋敷の料理長をしている」

 「ふーん………ん!?」


 お屋敷ってことは、南の住宅街にある商人の家か、北の貴族街にあるお屋敷だよな? ってことは、あの人は上級町民にあたるのか?

 この、実力主義の国では、最終的に就いた職業によって階級分けされるようで、俺たち狩人は奴隷と同じ最下層で扱われる。町や村によって差異はあるらしいけど、大抵は奴隷と同じように扱われる。貴族や商人は支配階級で、それに直接仕えるような有能な人材は上級民、支配階級に関わらずに生活する職の者は下級市民と呼ばれている。

 それはそれとして。

 そんな上級市民らしき人が連れてくる気難しい子って、いったいどんな子だよ。

 騒がしい子とか、言うことを全く聞かない子だったら、俺、何するか分からない。


 「悪い子ではない」

 「親父はその子にあったことがあるの?」

 「ああ」

 「………どんな子だった?」

 「女の子だった」

 「………」

 「………」

 「………親父、それは感想じゃない」


 どう悪い子じゃないと判断したのか聞きたかったのだが、親父は自分で見て決めろと言ってそれ以上話してくれることはなかった。

 そして翌日訪れたその子は、予想を裏切ってくれた。


 「嬢ちゃん、夕方に迎えに来るからな」

 「………ん」

 「タク君、嬢ちゃんをよろしく頼むよ」


 可愛い顔をしている少女だったのだが、その顔は人形のように表情がなく、長い袖の上下の服から除く肌にはところどころ、明らかな虐待である痕が見受けられたのだ。


 「えっと、シノちゃん? 俺はタク。よろしく」


 握手をしようと伸ばした手。

 一瞬。

 本当に一瞬だったが、シノの瞳の中に驚きという感情が垣間見えた気がして、俺は首を傾げた。

 俺はまだ四歳だと言う少女を連れまわした。

 あまりにもしゃべらない子だったので、とりあえず町の近場の森を連れまわしたのだ。


 「そういや、あのシーブって人の料理おいしいな」

 「………」


 俺の一人語りも板についてきた頃、シノは木の下にしゃがみ込んでしまった。


 「どうした?」


 あんだけ暴力を振るわれたような痕があるくらいだ、体が悲鳴を上げていてもおかしくない。

 体調でも崩したのかと思って近寄った俺が見たのは、木の下に生える草を摘む少女の姿だった。


 「えっと?」

 「………こうそう」

 「こうそう?」


 ぐいっとその草を突き出すシノ。

 こうそう………構想? 草を思ってどうする。高層? いや、こんな中世っぽい世界に高層なもんはないだろう、草だし。


 「こうそう、りょうりにつかう」

 「香草か!」


 初めての文章はそんな会話だった。


 「ほして、つかう」

 「へー。雑草にそんな使い道があったとは………」

 「………」

 「香草って、臭み消しとか、味付けや香り付なんかにも使えたよな」

 「ん」

 「教えてくれないか? もっとうまくなるだろ? 使えば」

 「ん」


 夕方、シーブが迎えに来た頃には、俺とシノはちょっと仲良くなっていた。


 「じゃあ、また明日な。シノちゃん」

 「ん」


 その翌日もシノは森に来て、香草を探しながら森を歩いた。

 かなり体力がある俺と同じだけの距離をその短い脚で駆けるようについてくるシノの様子は、なんとも苛めがいがありそうだったが、速度を落とさずついてくる忍耐力と体力は素直に驚いた。

 数日後、親父が早めに帰ってきたので、俺の剣術の稽古にシノも付き合うことになった。


 「ほぉ………」

 「へぇ………」


 親父が感嘆を漏らすほどに、シノは剣の才能があった。

 最初は及び腰で、振るう剣の軌道もぶれぶれの見れたものではなかったが、一刻もしないうちにその剣筋は素直な真っ直ぐとしたものになっていた。

 さすがに親父にはかなわなかったけど、俺と同じくらいにはうまい気がする。


 「凄いな、シノちゃん!」


 俺のその声に、親父に瞬殺されて地面に転がっていたシノは眉根を寄せる。

 その瞳に感情が宿っていないのが不気味だが、倒されて褒められるというのに疑問を感じているのだろうことはよくわかる。


 「俺も一撃入れられるかどうかまだ五分ってことなんだ。一日でそこまで昇華させちゃうなんて、すごいよ!」


 俺は前世の知識で、授業にやっていた剣道を剣術に昇華させただけだ。何も知らない少女が一日で剣をふれるようになって、親父に一撃かませるなんて、信じられない。

 シーブが迎えに来るまで、俺とシノは剣を振るい、魔力を這わせると切れ味が格段に増すことをシノに教えた。

 帰るころには魔力を剣の周りにとどめておけるようになってたから、こちらの上達も早いことだろう。


 「ばいばい」

 「おう。またな、シノちゃん」


 面倒くさいと思っていた子守りだったが、なんだかんだで楽しかった。

 また明日も来ると思っていたのだが、次にシノが森を訪れたのは半年後。俺の感覚だと一年後だった。


 「きた」

 「おう。いらっしゃい!」


 周りが一つ歳をとると、俺の体は二つばかり歳をとる。

 まだ年齢通りに見られていた俺の体は急激に伸び、もう絶対年齢通りに見られやしないだろう。

 半年ぶりに訪れたシノの傷は多くなっているようで、寒くなっていたこの時期にはかなり似合っているが、裾がかなり長い。

 そんな長い裾をはためかせて親父に勝つ姿はかっこいいというか、なんとも俺には悔しく思えたが。

 それからも過ごしていくうちに、シノの規格外さを知らしめられ、嫉妬に駆られることすらなくなった。


 「そうだ、シノちゃん。シノちゃんは俺の妹弟子だろ?」

 「いもうとでし?」

 「そう。師匠を同じくする兄妹だ!」

 「きょうだい………」


 どうやら兄妹関係というのは気に入ってくれたらしい。

 兄弟子と言っても、俺のほうが実力的には下になってしまったから、なんとも言えないのだけど。


 「だから、お前のことはシノって呼ぶ」

 「ん」

 「んで、俺のことは名前で呼べ」

 「タク………にいちゃん」


 舌足らずな口調で、兄ちゃんだなんて。


 「ダメ?」


 首をかしげるシノがあまりにも可愛くて。


 「い、いや。よろしくな、シノ」

 「ん。タクにいちゃん」


 兄妹になったからには、もっと甘えてほしいと言ったところ、迷惑なのではないかと返され、四歳でそんなことまで考えているのかと頭を抱えたくなった。

 そのあとシーブとその奥さんに感謝され、シノが五歳になったということでお小遣いで買った小剣をあげた。クロという馬と共に南の森の奥深くまで行くピクニックでは弓の練習なんてさせてもらって、新しくできた妹と楽しい時間を過ごす。

 料理と文字を教えてもらい、狩りの基本と剣術を教える。

 たまにしか訪れないがその時間はとても楽しかった。

 五十話かー。

 つまり最低でも50×5000文字は書いているんだな………

 よくやった自分。三日坊主がよくぞここまで来た(感涙)


 それはそれとして。


 妹って思った設定弱いかな?

 異世界酔いしてる状態でシノみたいな慕ってくれる子ができたら、もう妹のように可愛がれる自信があるのだが。

 「Yes! ロリータ No! タッチ」

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