02 箱庭という場所
お初の人、初めまして。
久しぶりの人、こんにちわ―!!
われは返ってきた!(データ全部吹き飛んでた)
何が一番つらいって? iThunesのデータ消失が一番辛いッ
と、言うわけで、毎日更新予定は未定になりました
ってか寒すぎてキーボード打てないんですが!?
こたつが欲しいなぁ………
四十九話、始まるよー
魂を送り出した後、僕はため息をついて、部屋の内装を変更する。
神らしくと思って真っ白くしたが、神様だとか思ってくれただろうか?
「………おい、今いいか?」
「先輩ですか? いいですよ」
半開きになっていた扉をわざわざノックし入ってくる先輩。
僕がここで働くようになって、指導員として付けられた先輩でもある。可愛いとよく言われる僕の容姿とは違ってかっこいい。
細いのに、その体には余すことなく筋肉がついていて、この前一緒に風呂に行ったときは、その腹筋をほれぼれと眺めてしまった。
「あれ? お前送還の役割受け持ってたのか」
「はい! 先日このレポートと案件をもらったんです!」
得意げにさっき送り出した魂のレポートを先輩に渡す。
煉獄にある大図書館には、あらゆる生命の記録がおかれている。善か悪か、それを判断せずに魂をとどめて置いたり、魂そのものの研究を行っている場所が煉獄。
本来は煉獄で魂と情報に差異がないか確かめられて、その魂がいた世界での善悪の天秤にかけられ、天に昇るか地に堕ちるかを決定させる。
「お前、ちゃんとこれ読んだか?」
「え? はい! 読みましたよ」
魂の記録の中から、個人の簡単な経歴と、死んだ原因のみを抽出したレポート。
その表の右上には、処理不可と書かれた判子が押されている。
「本当に読んでたら、こんな場所で送還しないと思うんだが?」
「え?」
先輩から渡されたレポートをもう一度ゆっくりと読み直す。
初めて送還を許されるとあって、送還士に許される少しの対話を望んだのだが、それがダメな理由でもあったのだろうか?
「何も変なところはないじゃないですか」
あの魂は、至って普通を真っ直ぐ歩いてきたような人生だった。確かに近くにいた【強運】の持ち主の死にたくないという願いによって身代りになって肉体が死んでしまった、ある意味哀れな人生だった。
魂は魄がないと世界に存在できない。
まだ魂が活気に満ち溢れている状態で身体に重大な欠陥を生じると、その世界から死んだとされはじき出される場合がある。
かなり低い確率ではあるが、世界が誤認識するのはまれにある出来事だ。
「そのレポート、誰から受け取ったんだ?」
「えっと、長官の秘書さんがくれました」
初めての仕事を長官本人から下賜されなかったのはかなり残念なことだけど、それでも仕事を承れたこと自体が喜ばしい。
「あいつか………」
「先輩?」
先輩と秘書さんはなぜか仲が悪い。
同期だったらしいから何かあったのかもしれない。
「とにかく、長官のところに行かないと」
「え………はい」
任されたはずの仕事なのに、お前は頼りないと言われているようで、泣きそう。
「おい、問題はお前の能力じゃないんだ」
「………慰めは無用ですよ」
「違う。あの魂の問題を誰も注視できないのが問題なんだ」
「………はい?」
なんとなくかっこつけて言ってみたのに、普通に正論で返されてかなり恥ずかしい。
でも、問題を注視できないって、どういうこと?
「事前知識として説明してやろう」
「あ、はい。お願いします」
素直なのはいいことだと言って頭を撫でてくれる先輩の手が優しい。
「まず普通お前のような送還士が魂を扱うのは珍しいことだということは理解しているな?」
「はい」
輪廻を管理している先輩の方であれば魂を日常的に扱っているが、その下部組織にあたる送還係は普通に輪廻に戻せない魂を扱う部署である。世界の数が多いから稀によくある状態になっているが、役員の数も少なくそれで回る程度の仕事しか回ってこない、そんな場所だ。
「送還士の元にくる魂のほとんどには【能力】が付与されていることも知っているな?」
「はい」
魂を輪廻に戻すときに、大きく疲弊してしまって普通に魂を世界に定着させようとすると反発しそうな魂には先輩の管理する部署で【能力】という魂魄を強く結びつける潜在的な力を魂に付与することがある。
世界の歪みによって稀に単独で【能力】を後天的に得るような魂もあるが、それはほとんどない。それを成し遂げた魂は輪廻にあてはめることができなくなるから、煉獄の研究室に送られるか、地獄や天国の監獄の中に投げ入れられるから会う機会などない。
「その【能力】だが、【運】の系統が多いのも知っているな」
「もちろんです」
【運】という能力は、【悪運】【強運】という【運】の強さを示すものから、【運命】【天運】という定めを得ているものだったり、【金運】【恋愛運】という具体的な成り行きを示しているものなど、様々な形が存在する。
そして、送還対象になるような魂には、たいていの場合この【運】系統の【能力】が付与されている。
「じゃあ送還の際、魂に付与されている【能力】はどうする?」
「えっと、魂から【能力】を抽出して、その代わりとなる【能力】を付与します」
「正解だ」
先輩が頭をぐしゃぐしゃと撫でてくる。
「なら、なぜわざわざ新しい【能力】を付与する必要があるか答えてみろ」
「えっと、【能力】をむやみやたらに使われると、他を洗脳できるほど強いものになってしまい、世界の均衡をたやすく崩してしまう可能性があるから」
「そうだな」
実際【能力】が使われたことで滅びてしまった世界はいくつもある。
過ぎたる力は毒にしかならない。
それを薬とするには、毒にするよりも難しく長い時を必要とするため、普通の者は持っているということが耐えられない苦痛となり得る。
「他は?」
「えっと………あ! 与えられていると思わせないため」
「それも確かだ」
傲慢も、その者の魂を大きく疲弊させる。
もともと煉獄の大図書館の要請で、特殊な魂に対してはその機能が十全に発揮されるように自らの向上を促す能力を付与するのだ。
「他は?」
「えーっと………先輩ぃ………」
「ははは。じゃあ、なんで【能力】の付与で一番多いのが【ステータス】や【鑑定】なのか考えてみろ」
「えーっと………あ! 監視目的!」
「正解だ」
【運】系の【能力】は常時発動系だから使われた瞬間をとらえることはなかなかできないが、【ステータス】や【鑑定】といった能力を常時発動するものは基本的にいない。【能力】の発動によって、見たものやその魂の現状を知ることができるため、こちらから勧める【能力】になっている。
記憶を持ち越すことが多い魂に、うまく生きてもらうために渡す選別でもあるが、その対価にちゃんと生きているかを見させてもらうのだ。
「あともう一つ」
「ありましたっけ?」
「世界に定着させるため、というのを忘れてはいけないよ?」
「そうでした」
その世界で与えられる身体になじむために【能力】を渡すのだ。
元いた世界と行った世界が大きくかけ離れる場合や、与えられた身体の機能が魂を抑えられない場合に備えて渡す。元の成長速度で成長してしまったら、死期が早まったり、なかなか成長できなかったりするからだ。
「さて、ここまでだらだらと話していたわけだが」
「はい」
「さっきお前が送り出した魂なんだがな、特筆欄に【運】系の能力が書いてあったんだよ」
「え!?」
手に持っているレポートを見返すが、特筆欄そのものが見つからない。
でも先輩が嘘をつくとは思えない。
「せんぱい? 特筆欄なんて見つかりません、よ?」
「それはお前がその魂に関わっているからだ」
「関わっているから?」
「そいつの【能力】は【豪運】だ。しかも魂の疲弊はほとんど見受けられない」
「【豪運】………確かに魂はまるで補完でもされたかのように疲弊が見られませんでした」
【運】系でも珍しい【豪運】。
普通の【運】系が当たり障りのない不確定な幸運を指しているのに対し、【豪運】はその者が望む運を引き寄せる【能力】だ。
「レポートを見る限り、この魂は普通であることに満足し、奇異な非日常を少しばかり望んでいた、だろ」
「はい。走馬灯を一緒に見たんで間違いないです」
普通が一番と言いながら、普通ではない非日常を望んで暮らしていた魂だ。
あの部屋に召喚して送還するまでに見た走馬灯は僕も一緒に見ている。
「そして、彼が死んだのは、近くにいた【強運】を持つ魂の願いが大きい」
「そうですね。本来は手を振り切って女性を助けに車道に入ったイケメン君が死ぬはずでした」
【強運】が「なぜ死ななければならないのか」と世界を恨んだところで、世界そのものが均衡をとるために、ちょうど非現実に思いを馳せた【豪運】に白羽の矢を立てたのだ。
【豪運】を持つ魂魄の死因は、動かない女性を避けようとしたトラックが横にすべり、後続のタクシーと向かいの乗用車がトラックに激突、乗用車は縁石に乗り上げ電柱にぶつかり、サイドミラーが折れ、回転を付けながらとがって割れた鏡の部分が車線を挟んだ歩道にいた【豪運】の目に刺さり即死。
世界もずいぶん無理をしたものだ。
「それでな………」
「どうしたんだ? 呼び出して」
「まだ仕事あるんだけど………」
先輩の声に重ねるようにして、長官とムスッとした秘書さんが現れる。
「こいつが送還した魂についてなんだが」
「それは俺が十分監査したものを渡したはずだ。いまさら話すような不具合でも起きたのか?」
秘書さんの睨みが怖い。
責任は俺にないとでも言いそうなその瞳に、僕は顔を青くして先輩の後ろに半身を隠すしかない。
「お前の責任でもある」
「んだと?」
「このレポート、読んでみろ」
「私も読んだほうがいいよね?」
「そうですね、長官も読んでください」
長官と秘書さんがレポートを隅から隅まで読む。
読み終わった二人は、なぜ読ませたのかわからないというけげんな表情で先輩にレポートを手渡す。
「どうでした?」
「普通に生きようとした凡庸な魂じゃないのか?」
「経歴は至って普通だったね………ちょっと普通過ぎると思うけど」
先輩はその答えを聞いて、ため息をつく。
思っていた答えが返ってきて、思っていたよりも状況は悪い方向に偏っているという先輩。
「なんでだよ。普通過ぎるだけじゃねーか」
「なにか変わったことでもあったのかい? 特筆欄も存在しないみたいだし………」
「そこなんですよ。このレポートには特筆欄が存在するんです」
「はぁ?」
先輩は、ちょうど通りかかった警備の者にレポートを渡して読み上げるように言う。
「もう消えてしまうレポートなんだけど、ちょっと読み合わせをしていてね。かの子の勉強のために君も朗読に協力してもらえないかな?」
「は、はいっ。承ります」
本来は機密となる魂の情報であるため警備の者も恐縮していたが、この場にいるのがそれなりに上位の権力者であることを見て朗々と読み上げていく。
「………最後に特筆欄、【能力】所持。能力名【豪運】」
「なっ!」
秘書さんが目を見開く。
当然だ。
この警備の者は、ここにいる四人が見れない特筆欄について発言したのだから。
輪廻に関する者たちがレポートの内容を見れないという現象は普通起きない。起きてはならない出来事なのだ。
「えっと、よろしいでしょうか?」
「うん、ありがとう。仕事に戻ってくれ」
「はっ!」
先輩は警備の者からレポートを受け取り、もう一度レポートを読み返していたのだが、横から秘書さんがそのレポートを奪い取り、隅から隅まで読み返す。
「特筆欄なんて無いじゃないか!」
「その魂の【豪運】は、管理者をも巻き込む強さのものなのかな」
長官の目は少しだけ面白そうに光っている。
実際面白いと思っているのかもしれない。なんたって、始めて起きた世界をごまかせるほど強い【能力】を持って送還した魂なのだ。今後の期待ができる。
「でも【豪運】が見えなかったってことは抽出してないんだよね?」
「は、はい」
やれたことと言えば、走馬灯を共に見て、少しだけ話して、新しい世界に送り出したことだけだ。
「なにか付与した?」
「それも」
「うーん、してないのか………君がおっちょこちょいなのか、この魂の【能力】が強かったのか判断がつかないけど、これは煉獄から抗議文が来そうだねぇ………」
【能力】を付与していれば、逐一上がっていたはずの経過観察書が、付与しなかったことにより死亡時のみ図書館に情報が加わるということになる。
経過を追って今の魂に反映させたい煉獄側からしてみれば、抗議ものなのである。
「最悪魂の回収を行いますか?」
「そうだねー………煉獄からの申請を待ったほうが正確だから待とうね? この件に関しては公然の秘密にします」
「………長官、開き直らないでください」
「あはは、仕方ないよ。もう過ぎたことだし」
長官が能天気に笑うことで、少しだけ空気が和らぐ。
「そういえばこの魂、どこに送ったんだい?」
「えっと、箱庭に………」
「箱庭か………いま選定祭真っ最中だったよな」
「選定祭か………選ばれているんだろうな」
「今回の選定祭はかなり荒れるでしょうね」
僕の知る箱庭と呼ばれる世界は、明確な管理者がいない、狭く簡単に操れる実験農場のようなものだ。
選定祭というものは聞いたことがない。
「選定祭ってなんですか?」
「今回は調停者ガルドが運営している、上位管理者と明確な敵を厳選する行いだ。定期的に開かれているんだよ。基本は魔王の魂を量産するための場所だな」
「へぇ………」
「詳しいことはガルドに聞け」
今回のレポートに関しては不問。
選定祭に選ばれているだろうから、生きていればその記録を取ることが可能であるはずなのでなんとかなるだろうとのことだった。
新しく【能力】を付与しなかったことについては、秘書さんにしこたま怒られたけど、次は必ず成功させたい。
「【豪運】は灰色になってくれた方がいいな。もし黒か白で定着したら、箱庭が消滅しかねない」
数年後、【豪運】は灰色が定着し、選定祭の傍観者となった。
僕が胸をなでおろした様子を運営責任者であるガルドさんが薄い笑みを浮かべながら見ていただなんて、知らなかったんだ。
さて、以前の話を読んでくださっている方はわかったかと。
タク君、異世界で憑依しちゃったよw
なんか能力もちだったよw
いや、もうどうなるんだろうね?
とりあえず、ガルドは要注意人物で違いない。




