01 転生なのか召喚なのか
短い。
やばい短い。
新年始まってかなり疲れた。
四十八話、始まります
目の前が赤く染まる。
毒々しい赤。
俺は女性の腕の中で泣いていた。
胸を張り裂けそうな悲しさと、なぜそう思っているか分からない虚しさで、泣き喚いていた。
俺を抱きしめる女性、本能的に母であると分かった女性は、優しい微笑みを浮かべているが、その瞳には光はなく、すでにこと切れているのかがわかる。
―――ゲャアラャアララァアァァ
化け物の声が聞こえて、俺は一層泣く声を強める。
「うあ゛ぁあ゛あぁあぁああぁ」
俺の鳴き声もかき消すような悲痛な叫びが、化け物の声を引き裂いてその場を震わせる。
何度目か分からないヌルッっとした液体を頭から浴び、大きいものが倒れる音がするも、俺は死んでしまった母の腕の中で泣き続ける。
「………良かった。お前だけは、無事で」
俺は、冷たくなった母の腕のから引き抜かれ、力強い男の腕に抱かれる。
「大丈夫だ。………仇は、とったから」
傷だらけの男の腕の中は、なんとも安心できる場所だった。
俺の父親なのだろうと、そう理解したと共に安心感と睡眠欲が襲ってくる。
泣き止んだ俺の意識は、体が温かく包まれると共に俺の意識は深く沈んだ。
□■□■□
その日俺は、大きい友達仲間である友人と、小学生女子向けに作られたのであろうアニメ映画を見に行っていた。
「いやーマジ浄化されたわ」
「泣けた―!」
「もうぬいぐるみが王女を守るシーンとか最高」
「つかさ、恋愛禁止を訴える神がが恋愛していてたとか、もう笑うっきゃねーだろ」
俺はそこまで興味はないが、普通にアニメや映画は好きで、それなりに非日常に憧れている。そんな、どこにでもいる大学生である。
いや、現実にあまりにも大量な情報が溢れすぎていて、取捨選択をすると何も楽しいと思えるものが無くなったから、非現実を求めるようになったのかもしれない。
「なあ、いつもんとこで食ってく?」
「だな」
「ポテトSしかないんだっけ?」
有名なファーストフード店のニュースは、知ろうとしなくてもすぐに俺たちの手元に情報がやってくる。
「あっちの道から行こう」
「えー最近裏道治安よくないじゃん、表通り行こうよ」
「スクランブル交差点のとこ?」
「そうそう」
こうやってバカな話を仲のいい友人と話しているとすごく思うことがある。
アニメや漫画によくあるけど、こんな状況を考えてると思うことがある。
俺たちは、RPGで言うところの、主人公という役を与えられているんじゃないか、と。
「そういやさ、明日の話聞いた?」
「うん。会議場所変更でしょ? LINEで来たし」
「俺ガラケーだからEメールでさ。連絡とか来んの遅いんだよね」
地味に訓練を続けてレベルとスキルを上げて、決められている職業を自らの意思で選んでいるかのように錯覚させられながら一生を終える。
そのPRから逃れられるのは、Gを作っている側に知り合いが居るか、RPから著しく外れたPLをしている者が近くにいるか。
どう足掻いても、普通から抜け出すのには、それ相応の、形にはならないものを犠牲にしなければならない。
「最近さー、面倒臭くね?」
「あー大学も三年目だもんなー」
普通が一番なのだろう。
普通をどこにするかでだいぶ変わってくる話ではあるのだが。
「うわーリア充だ」
「見せつけやがって」
俺ら一行がついたスクランブル交差点の、ちょうど対角線上に目を向ける。
友人のその声の先には、一人のイケメンと美女二人が繰り広げる痴話喧嘩。
なんともうらやましい非現実的な光景だ。
「あれ? 様子おかしくね」
「変………だな」
イケメンはおろおろとして、過激的になった二人の美女は取っ組み合い一歩手前だったのだが、乱闘騒ぎ一歩手前まで進行してしまっている。
男の方も焦っているだけでなく、もう少し甲斐性というか、こんな交差点じゃなくてもっといい場所に連れてってあげればいいのにな………。
「やばくないか」
「え!?」
その場にいた誰もが驚いた。
スクランブル交差点、バンバン車が通り過ぎていくその車道に、こともあろうか片方の女がもう一人を突き飛ばしたのだ。
見ている者は沢山いた。
けれど、誰もその女の元に走り寄れない。
いくら非現実に憧れていても、いざ目の前で起こったことに対応できるかと言われれば、不可能としか言えない。
何せ、反対車線での出来事だ。
こちらから出て言ったら二次被害が起こりかねない。
これは、言い訳になるのかな?
「~~っ!」
「ーー!」
イケメン君が駆けだそうとし、歩道に残った女がイケメン君の腕をつかんで必死に引き留めている。
道路に転がっていた女はゆっくりと立ち上がり、横から迫るトラックに顔を青くして固まっている。
避けようとして盛大にスリップするトラック。
そのトラックに突っ込んでしまう乗用車とタクシー。そして衝撃で外れたサイドミラーが俺の目映す。
「ねえ、ごめんってば。起きなきゃ」
瞬間、俺の意識は暗転した。
「走馬灯から戻ってくるの、遅くない?」
どうやら俺は死んでしまったらしい。
「本来は死ぬはずじゃなかったんだけど、あのイケメン君、【強運】の持ち主でね、身代りに君が死んじゃったんだよね」
五体満足、とは言っても手足も口も目も鼻もない状態の俺の前で説明を続ける、真っ白い服を着た少年。
身代りになって死んだと頭で理解しているというのに、それに対して何の感情も浮かんでこないのは、やはり死んだ故にたどり着いた境地なのだろうか。
「疑問とかは後にしてね」
そうなのか。
「まあ、死んだら普通煉獄に連れてかれて、その魂に刻まれた罪を調べて、疲弊した魂にエネルギーを継ぎ足して魄から記憶を切り離すんだけどね」
ふーん
「んで、君の場合は魂が疲弊していないから、地獄や天国に送ることもできないんだよ」
俺はどうやら特殊? な状態らしい。
「もー、何冷静に分析してるのさー。普通もうちょっと驚かない?」
臨死体験ができてちょっと得かと思ってるかもしれない。
「………もーいーや。とりあえず説明するねー」
呆れられたよ。
まあ、いいけど。
「本当はー、君のいた世界に戻してあげたかったけど、無理なんだよねー」
輪廻の輪に戻すには、魂があまりにも大きすぎるとのこと。
地獄に送る理由もなく、その有り余る魂の使い方を覚えてしまったら、厄災呼ぶものになるかもしれないのだから、送るわけにもいかない。
ということらしい。
「でー、話をもとに戻すんだけどー」
話が長かったのでまとめると。
その一、俺は本来死ぬはずもない事故で死亡
その二、輪廻転生にあてはめようとしたが、魂が元気すぎて難しい
その三、俺が死んだ瞬間、別の空間、いわるゆる異世界から償還がかかっていた
その四、召喚者が死に、術が暴走
その五、召喚対象だった赤ん坊に憑依することに
「うーん、まああってるよー。でも、最後のところが違うかも」
違う?
召喚されて、そのものの守護に憑くなら、憑依という表現があっているのでは?
「いやね、召喚主さんが必死に守ってた赤ん坊、もう死んじゃってるんだよ」
それは何とも。
「成り代わりに近いかも」
ふーん。
「………絶対理解してないよね」
とりあえず異世界で成り代わり、なんだろ?
「なんでこう地球の人たちはあっさりと決めちゃうかなー。楽だから良いんだけどさー、ほかの世界の人だったら絶対に拒否するんだよ?」
地球は、ってか多分日本は娯楽に関して特殊だから。
自分に否定的な人が多くて、他人として新しい人生をもらえることを心の底で望んでいるような人ばかりだし。
むしろそういう娯楽本が流行っているし。
「うん。僕の知り合いも喜んで読んでたよ。日本って、変に特化してるよねー」
で、こんなにグダグダしてていいのか?
「あーうん、ダメだけど。もう行きたいの?」
ああ。
「もう少し危機感もちなよ。異世界の情報とか聞かないと」
いや、赤ん坊からやり直すなら要らないだろ? へんな知識を入れて怪しまれるのも嫌だしさ。
「………君は考えてるんだか、そうでないのかわからないねー?」
大学生なんて、考えているようで考えていない、そんな連中ばかりさ。ぎりぎり理想に走れる、そんな余裕を持つ人がいる場所で俺は三年間を過ごしていたのだから。
「分かった。じゃあ、送るねー」
俺の意識は、そこでまた暗転する。
■□■□■
目が覚めると、俺の体はやはり小さくなり、熊のような男、父親が俺手を握って寝ていた。
とても狭い部屋の中。
ゆっくりと首を動かすと、壁には血糊がべったりと付いた中世でいう槍と斧が一体化された、ハルバートという武器が立てかかっている。
それが、顔にかかった生暖かい血が、事実であったのだと、そう告げている。
「おや、タク。起きたのか………これからギルドに行こうかと思ってる。一緒に行こうか」
「だーあー?」
「分からないよな………行こうか」
歴戦の戦士とでも言わんばかりの傷が刻まれた自分の父の顔を見上げ、その腕に抱かれる。
温かいその腕の中で寝そうになるが、懸命に堪えて腕の中でうつらうつらと周りの話を聞く。
「俺はこの依頼で冒険者をやめる」
「なっ!?」
「俺に残ったのは息子のタクだけだ。これ以上もう失いたくないんだ」
「………確かに、それは。残念だとしか言えない」
俺の親父となった人は、どうやら冒険者という身分を捨てるらしい。
眠すぎてうまく聞き取れないが、妻を失い、仲間を失い、瀕死の重傷から奇跡的に生き返った息子だけが残った。
そんな状況で、命を賭ける職業にいることはできなくなったのだろう。なんとも納得ができる理由だ。
「タク、旅をするぞ。定住できる土地を探さなきゃな」
「うー?」
俺はどうやら一歳あたりらしい。
「この町に住むか」
二年。
それが親父と共に旅をした期間だ。
どんどん口数が少なくなっていく親父の代わりに俺はしゃべれるように頑張った。
「おやじ! おれにもおしえて!!」
「ああ」
定住した町の名前はガラム。
町の中で暮らすことはできないが、それでも、俺はほぼ幸せに生きていた。
異世界に来たという高揚は、消えることもなく俺の中にうずき続けていた。
幼い頃から経験していたサバイバルの体験は、いかんなく親父との二人暮らしにその知識が生きていた。
「親父? 俺も山についてく!」
「ああ」
本来は天才として言われるところだったのだろう。
しかし、俺は天才といわれることはなかった。
なぜなら、この町には、本物の天才がいたのだから。
タクは現代人でしたー
三章はほぼネタ晴らし回になるのかな?
更新は明日っ! だと思う。




