21 世界を見に
毎日投稿………
仕方ないじゃん! PCがエラー起こして、全てリセットかけることになったのだよ………
なんだろ、PCに嫌われたかな………
四十七話、始まります
ひと月。
その期間は、流れるように過ぎて行った。
「もう行くのか」
「ん」
「いつでも、帰ってきてくれていいんだからね?」
「ありがとう」
エンゼはシノを抱きしめて言う。
その後ろでヴァナグが残念そうに眉根を寄せている。
「シノ、私は君が十歳になるまで後見人としてギルドに登録されている」
「ん」
「もし何かあったら私の名を出せ。大抵の場所で私の名は使える、それで乗り切れ」
「わかった」
まだ日も昇らない村の、門を外れた場所で四人と一頭は別れを交わしていた。
「奴隷の印があるからといっても、スピィちゃんがシノちゃんを守るのよ」
「分かってますよ」
シノを抱きしめたままのエンゼがスペーラに顔だけを向けて言う。
受けたスペーラは苦笑で返すしかない。
「新人とは言え、冒険者なのだからそれなりの貢献をしろよ? スペーラ」
「大丈夫さ」
ヴァナグの男らしい激励に、スペーラも同じように答える。
二人の握り拳が合わさり、二人で笑う。
「そうだ、スペーラに言ってなかったことがある」
「そうね。伝える講習会が終わってすぐ出るっていうから、伝え忘れるところだったわ」
「ん」
「はい?」
いきなり集まった視線にスペーラは身を竦める。
「あのな、半月ほどした頃からお前を魔人と言われてただろう? 陰でこそこそと」
「………はい」
魔王、魔族、魔獣、魔物、魔と呼ばれるもののほとんどが別称であり、人間社会において排除すべきものとして神聖帝国フロフェルから他の国へと伝えられている。
魔王は人々の生活に害をなし、魔族は魔王を称え人を殺す、魔獣や魔物は人々の脅威となりえるから、そう伝えられるのは仕方ないことと言えばそれまでだろう。
「フロフェルは知っているだろ?」
「はい」
「確かにそこだったら陰口だったかもしれない」
「はい?」
スペーラはヴァナグと戦闘訓練をしてその実力がめきめきと上がり、苦手にしていた魔術まで、初級までとは言え扱えるようになり、周囲から奇異の目で見られていたのだ。
自分が鬼、魔獣であると知っているスペーラは、陰で魔人と言われ、またこの村でも独りになるのかと、シノが設けた一ヶ月という期間にすがっていた節があった。
女装も、扱きにも等しい戦闘訓練も、空いた時間を潰すにはもってこいだった。人に関わらないように、そういうことを心のうちでスペーラは考えていた。
「魔獣とされる魔術を扱うことのできる、人種以外の言葉を理解し話す生物を魔人と呼びフロウェルでは軽蔑している。人の癖に魔物に組する者としてな」
「………」
「でも、な」
白い顔をさらに白くさせているスペーラに笑い顔のまま話続けるヴァナグ。
「魔人なんて、物語に出てくるようなもんだろ? 冒険者たちの中ではその意味は大きく異なるんだ」
「………」
「冒険者は、魔術と剣術を扱える者を魔剣士と呼ぶが、同じように魔術と剣術を高い水準で修めた者を魔人と尊敬の念を込めて言う」
「………え?」
スペーラの顔が不安をかたどった表情から、意味が分からない、という顔に変わる。
「お前が魔の系統だと罵っていたわけでも軽蔑していたわけでもない。まあ、尊敬からくる畏怖、と言ったのが一番近いかもな」
「ちなみに、ヴァナグもシノちゃんも魔人って呼ばれてるわよ。ヴァナグはだいぶ昔だけど」
「まだ私は若い。そんな年寄みたいな言い方はやめてもらおうか」
「あら、ごめんなさい」
笑い合うヴァナグとエンゼ。
冒険者にとって、魔人と言うのは憧れの対象なのである。『勇者物語』には書かれていないが、一代目の『勇者』と、三代目の『勇者』には、魔人と呼ばれる者たちが共に旅をしていたと言う話が残っている。
魔力の扱いに長け、魔術を手足のように操り、人種と同じように生きる彼ら魔人は、強さを求める冒険者にとって憧れになり続けているのである。
「まあいい。………魔人とは褒め言葉みたいなものだ。胸を張れ」
「………ありがとう」
スペーラの頬に朱が差す。
「さて、もうすぐ日が昇る。行くんだろ?」
「ん、おせわになった」
「お世話だなんて。いつでも着て頂戴。この村で帰りを待ってるわ」
「ありがとうございました。ヴァナグ、エンゼさん」
シノはクロに跨り、スペーラは新しく買った馬に跨り、上から二人を見下ろす。
「行ってらっしゃい、シノ。スペーラ」
シノは、この村で人にと関わるうちに、一つ、母の言葉を思い出した。
―――シノ、迷ったらね?
顔はわからないけれど、聞いたその声。
―――世界を見に行きなさい。あなたの知らないことであふれているこの世界はとても素晴らしい物が多く待っているのだから、ね。
優しそう、というような声を思い出したシノ。
この村で過ごすうちに思い出したその声。
シノは、旅をすることを、その声で決めた。ガラムから離れるように、目的なき旅をすることに決めた。
だから、そんな目的無い旅をする話を思い出させてくれたこの村の人にかける言葉は別れではない。
「いってきます」
また帰ってくることができるかどうかさえ分からないけれど、必ず帰る、その思いを胸に抱いて。
シノとスペーラは日が昇り始めた街道を進んでいく。
ヴァナグとエンゼが見つめる先で、二頭は街道を外れ、山の中を駆けて行く。
「行ったな」
「そうね」
「次はいつ会えるだろうな」
「また帰ってきてくれるわ」
「そうだな」
「ええ、人が生きられる大陸は、ここだけなのだから」
□■□■□
結局シノは、ヴァナグとエンゼに、元いた町でのことは少しだけしか話さなかった。話された話は、大まかで、ほとんどはエンゼがシノの体についた傷の話だったため、刺された話と、山の中を自由に駆け回っていた話に限定されていた。
日々の暮らしについては、顔も思い出せない母の言葉に従いあまり話せることもなく、森での話ばかりになってしまったのである。
そして村が静寂を取り戻した頃、ヴァナグとエンゼはシノが遠慮した理由を知ることになる。
「下賤なる魔女の子供、あれは殺さなきゃならないんだ」
「そうですね」
カゾスを訪れた、貴族の少年とその少年と行動を共にする商人見習いの御三家出身の少年。
「あいつは『魔王』になる黒の子。俺はあいつを殺さなきゃならない、なんたって『勇者』なんだから」
「そうです! アキ様に同行できて僕は幸せ者です」
「そうだろ! 行くぞ、カール!!」
彼らは村に訪れ、村の中をかき回した。
貴族である権力を振りかざし、少年は純粋な目で人々を見下ろした。
エンゼは直接かかわることはなかったため、人伝で悪印象を持ったのだが、ヴァナグはお偉いさんの護衛として関わったため、ものすごくシノを心配することになる。
「あら、カール従兄様ではないですか」
「ん? クリュエルじゃないか。本家の娘がどうしてこんな辺鄙な村に?」
「わたくし、正式にフィデリントの国民になったので、この村にいる在住大使兼商人見習いとして仕事を任されているんですの」
ヴァナグが護衛を引き受ける一室で交わされる会話。
その場にいたのは、エドワル本家の娘クリュエルと、エドワル分家の息子カール、そしてカールと共にやってきた少年と数人のお付き。
そのまま食事という流れになり、急遽場のセッティングが成される。
「ふーん。そうだ、紹介するよ。うちの町の領主様のご子息で、魔術師見習いをなされているアキ様だ」
「アキだ! よろしくな!!」
「クリュエルと申します。よろしくお願いしますわ」
「俺はアキ様と共に見分の旅をしているところなんだ」
そんな会話がなされ、料理が運ばれ、アキの連れて来た護衛の準備が整ったということでヴァナグは退場した。
その先の会話はヴァナグも知らない、アキの連れとクリュエルしか知らない会話である。
「そうだ、お前『夢』って知ってるか?」
「『夢』ですか?」
アキが話し始めた『夢』。
その言葉に一瞬身を固くするクリュエルだったが、まるで初めて聞いたかのように小首を傾げて先を促す。
食べ物に夢中になっているカールがクリュエルの細かい動作に気づくはずもなく、得意げになったアキの話は続く。
「そう。俺、今探してるんだ。黒い奴らを」
アキの言葉に、クリュエルは懐かしい『夢』を思い出す。
黒に白に灰色。
他人の夢を覗くことなどできないというのに、なぜか共有していたらしいその『夢』を。
「探して、どうするんです?」
「そんなの決まってるじゃないか!」
『夢』の説明も何もかもすっ飛ばして、しごく当然のことなのになぜ分からないのか、そんな顔をするアキ。その様子にクリュエルは本気で首を傾げ、お供であるカールに目を向けるが、カールもその結果は当然だといわんばかりに頷いている。
「黒いのは全部『勇者』足る俺に殺されるべきなんだ」
「え?」
その言葉をにっこり笑いながら言い放ったアキに、クリュエルは戦慄した。
なまじ顔がいいから、余計に怖い。
「この村で黒の奴とかいない?」
「大抵、魔力保有量が多かったり、ちょっと頭が良かったり、他の奴らとなじめなかったりしてる、こそこそした連中なんだが」
殺す。
その言葉に瞠目していたクリュエルは、親族で一番歳が近かったカールの口からその意思を感じられて、一気に冷静になった。
思い出すようなそぶりを見せながら深呼吸をして、精一杯顔を作る。
「残念ながら、この村で長い時間を過ごしているわけではありませんの。だから、『夢』とか黒い奴ら? とか、わたくしにはわかりませんわ」
「そうか………」
「お役に立てず、申し訳ありません」
「いいんだ! 俺が頑張って見つければいいだけの話だし」
その発言にサッと周りを見回したクリュエルは、少し顔を青くする。
誰も、アキの発言に異を唱えないばかりか、不思議とさえ思っていないのだ。
「さて、頑張るぞー!」
「アキ様、今日は宿で休みましょう」
「そうだな! 先に行ってるからな」
「はい」
護衛を引き連れて出て行ったアキ。
カールが残ったことにクリュエルは眉を寄せる。
「まだ何か用がおありですか? カール従兄様」
「………アキには言わないでおいてやるよ」
「何を」
「お前、『夢』の子供だろ」
カールは、先ほどまでアキの前で見せていた、どうしようもない放蕩野郎の顔ではなく、エドワルの一角を担う子供としての顔になっていた。
「ま、どれなのかは知らないけどな」
「………」
「それと、貴族席を蹴ったお前はもうエドワルの人間じゃない。軽々しく従妹を名乗られては困るな?」
「………申し訳ございません、カール様」
「ふん、それでいい」
厭味ったらしい不気味な笑顔を浮かべて去っていくカール。クリュエルは言葉に出せない罵りを心に浮かべる。
家の当主が貴族の位を持っている場合、その子供たちと分家の子供たちは貴族席と呼ばれる、貴族候補になることができる。もちろん家を出れば貴族席は剥奪され、下の貴族席は一つ順番が繰り上がることになっている。
―――お前は、どこに行こうとも私の娘だ。
クリュエルは体面的に貴族席を抜けたことになっているが、本当は貴族席を抜けていない。名目上そうしなければ、もしもの時エドワル家に何かあっては困ると話し合った結果、貴族席を抜けたと周りに示すことにしたのだ。
有り余る力の制御を隣国フィデリントで学び、修得したらこの国へと帰ってくることが決定しているのである。
―――どこにいても、お前に届くように、これからもっとエドワルを大きくしていかないとな
エドワル本家と分家は最近かなり仲が悪い。
笑顔で送り出してくれた家族の弱みである自分の現状を分家の息子に知られてはならないと、クリュエルは心の中で怒り狂い、外へ出さないように抑え込んだ。
その怒りが、クリュエルに行動させなかった。
「うそ………なんで………」
翌日、クリュエルの考案した魔力濾過水路で、一人の少女が浮かび上がる。
死んだ後も何度もナイフで突き刺され、何もかも諦めたような顔を浮かべる少女の死体が。
「クリュエル、大丈夫か?」
「え………えぇ」
泣き崩れそうになりながらも必死でこらえるクリュエル。
その娘は、クリュエルが保護を申し出ていた元黒の灰色の娘だったのだ。
そんなクリュエルを姿を見て、残忍にほほ笑むカールと、心配そうに見つめながらも水から上げられた少女を塵芥のようにみるアキ。
村長の息子として駆り出されていたヴァナグは、その純粋な異常さに恐怖を感じた。その異常性をしっかりと目に焼き付け、冒険者ギルドに、父である村長に直接報告する。
―――最悪、殺される………二人をそんな目に合わせたくない
前にいた町でのことを話したシノが言った現実離れしていたその言葉が妙に真実味を帯びてきたのだ。
ヴァナグが知るガラムは、かなり平穏で住み分けがかなりはっきりしている町であるということだけだ。ガラムからカゾスまでは、シノがたどったように、道なき道を来るか、街道に沿って首都エビュリーズをから来る遠回りの道を選ぶしかない。どんな場所で何があったのか、それを正確に知るには、あまりにも遠すぎた。
「速報だ!」
さらに通ヶ月後、国から『夢』という異常が子供たちに現れているという文が回ってくる。
―――『夢』の子供たちは感情が不安定であるため、それが知れたら国へと引き渡すこと。そこに庶民も貴族も、例外は存在しない。
白も黒も灰色も、国の決定だから、多くの子供が差し出され、二度とその子供たちはかえって来なかった。
危険因子は排除する。
それが、このディルエバースちという国が出した結論であった。
「シノがどうか無事でありますように」
ヴァナグとエンゼの声は、直接シノに届くわけではない。
その祈るような声に応える声もない。
しかし、祈る二人には確信がある。シノは決して簡単にあきらめるような子供ではないと。シノよりも的確に、シノがどのような子供であるかを知っている二人は、次合うときはどんな娘に成長しているだろうかと話し合いながら酒を飲み夜を明かす。
シノが置いて行った大量の燻製肉を肴に飲む酒は、二人にとって最高の時間を演出するとともに、盛大に周りに不本意な勘違いを誘発させていた。
旅開始編とか言いながら、一つの村で話が終わるという変な感じ。
さらに最後はシノがいない状態のカゾスのちょっと先の未来の話。
しかも次の章はシノから大きく離れてタクの話になるというさらに変な感じ。
見放されないかすごく不安になる新章に入りますよー
更新は明日を目指す。
PCよ、頑張ってくれ。頼むから。
それと!
評価とかブクマとか感想とか!
マジ嬉しいです!ありがとうございます!!




