20 甘えてくれていいんだよ
正月の三箇日も今日で終わりですね………
あいさつ回りに、お年玉に、疲れましたよ。アハハハ
お休みももうすぐ終わるけど、毎日投稿、本当にできるだろうか………
四十六話、始まります
スペーラの試合は、最期まで立っていたスペーラの勝ちだった。
「おつかれ」
「はい………お疲、れ様で、した………」
シノの労いに、息も絶え絶えに応えるスペーラ。
スペーラの周囲では、武器を持った男たちが地面に寝そべっている。
「ふむ。また明日も同じように挑戦が来るだろうが頑張れよ」
「え!?」
「明日も訓練するだろう?」
スペーラの焦り顔ににやりと笑うヴァナグ。
はっと、スペーラが周囲を見渡すと、項垂れていた男共の目にギラギラとした光が戻っている。それを見て避けられないと判断したスペーラができることは。
「はぁ………」
天を仰いでため息をつくこと、だけだろう。
実力が付いている実感が無いから、という理由で受けた対人戦だったが、その戦いの最中ずっと嫉妬を受け続けたのだ。肉体的にも疲れているが、それよりも精神的に疲れている。
「かえろ」
「はい………」
「いや、私が抱えよう」
夕飯の買い出しがあるから帰らなければならないと、シノを抱きかかえようとしたスペーラを止め、ヴァナグがシノをひょいっと抱える。
もう何も言うまいと、微妙な笑顔を浮かべたスペーラは、借りた武器を元の場所に戻し、集会所から出て行くヴァナグの後を追う。
「あら、やっぱりヴァナグが抱えて戻ってきたのね」
宿に帰った三人を、予想通りだわ、とエンゼが迎える。
「こんな可愛い生き物を私が放っておくことはない」
「………予想以上に効果覿面だったようね」
真顔でシノを抱えながらそう言うヴァナグに、笑顔をひきつらせるエンゼ。
「スピィちゃん、お金とメモね。今日の夕飯だけど、ヴァナグも食べていくだろうから少し大目に買ってきて頂戴」
「あ、はい。わかりました」
スペーラは玄関先でお金とメモを受け取ると、部屋に帰って女装を手早く済ませると、外套を着て外へと出て行く。
傘が本来は貴族が持つ物である、ということもあるが、荷物を両手に抱えて戻らなければならないことを分かっているから外套を選んだスペーラである。
スペーラを送り出したエンゼは、食堂でシノにじゃれているヴァナグを見てため息を付く。
「ホント、ここまで気に入るとは思わなかったわ」
「シノが可愛いからな」
「幼女を抱えているのが美丈夫だからって許されないわよ」
食堂では、まだ真っ白いケープコートを着ているシノと、シノを膝の上に乗せて頭を撫でているヴァナグ。
そこにエンゼが三人分の茶と茶菓子を机に持ってきて座る。
通常食堂は朝と夜しか開けていない為、昼過ぎであるこの時間に三人以外の人はいない。
「? 何の話だ」
「ヴァナグが愛を囁いているように見えなくもないってことよ」
デートを持ちかけられても、大抵の場合断るヴァナグが、一応女に分類される幼女を抱えて笑顔で世話をしていたら、そう勘違いする者もいるかもしれない。
「そうだな………私はシノを愛しているかもな」
「………」
「こんなに可愛ければ愛おしくもなるさ」
「はぁ………あんたを好きな女の子たちに聞かせてやりたい台詞だわ」
ヴァナグが可愛いもの好きと知っている人は少ない。
剣を持って集会場で冒険者に剣を教えている、そんな姿しか見たことのない女性からしたら、可愛い物がベッドの上にいくつも置かれ、その中で幸せそうに寝ているヴァナグの様子が思い浮かぶはずもない。
「ヴァナグ」
「なんだい?」
「エンゼとなかいいね」
「そう見えるかな」
「ん」
「そうか………趣味は会わなくても腐れ縁だからな」
「そうね………幼馴染だものね」
雨の日の宿の周囲は、いつも以上に静かだ。
この村において、雨というのは危険な物だ。いくら熱い季節とは言え、雨がいきなり雹に変わることも少なくないのがこの村だ。
そんな日に外を出歩くのは冒険者だったり、それに準じた強さを持つ者たちだけだ。非常時に動けるような屈強な者以外が雨の日に出歩くことはない。
「さて、本題よ………シノちゃん」
「なに?」
いきなり真顔になったエンゼにシノは首を傾げる。
ガラムに居た頃は、それなりにエイファやシーブから臭わされていたが、気付かないふりをしてきたその言葉。カゾスに来てからは、ヴァナグから何度か茶化すような雰囲気と共に言われたその言葉。
両方とも、シノからしてみればシノが本気になってもそれを実行できるほどの権力が無いだろう、と諦めていたからこそ否定していたのである。本人たちからしてみたら、枷があろうがなかろうがシノが肯定すれば実行したであろうが、他人を理解出来るほどの人生経験は、シノにあるはずもない。
「その体の傷を見てから言うのは卑怯かも知れないのだけど、ずっと見てて、貴女さえ良ければうちの娘にならないかなって思ってたの」
「私はその相談を受けていたんだよ」
シノが膝の上で身を固くしたのを感じて、ヴァナグはゆっくりと頭を撫でる。
「あなたの年で旅なんて本来は無謀もいいとこ。それができるような年になるまでも、うちで暮らさない? シノちゃんに、スピィちゃんもね。死んでほしくないのよ」
目を細めるシノ。
旅をしたい理由があるのかも知れないのかも知れないけれど、と続けるエンゼの言葉に心の中で首を傾げる。
シノに、旅をする理由は無い。
ただその場所から早く離れたい、そう思って旅を始めただけである。ガラムでは、監獄のような屋敷から出て行けるなら出て行きたいと思っていたし、それが最善なのだと親しくあろうとしていた者たちに言われていたからである。
「うちの客層、冒険者が多いでしょ。だから、冒険してきた場所や魔物の話とか、中には仲間の話とか、ここではしていくわけよ」
仲間の話。
それは、もう共に旅ができない仲間の話だろうと、シノはあたりをつける。もう戻れない、先に逝ってしまった仲間の話を知っている人に話しているのだ。客との会話を楽しむ女将だ、客たちの心を軽くしようと話しかけてはその心の内を聞いているのだろう。
冒険者は、ランクが上がるごとに人が少なくなっていく。ランクを上げられる人数が少ないわけではなく、その命を軽く散らすものが多いのだ。村を守るため、金を稼ぐため、依頼をうけたから、その理由は様々だが、命は簡単に散る。
それを近くで見てきたから、それを身近に聞いてきたからこその、その言葉だった。
「シノ、この服な」
「………」
「エンゼが、お前が話すのを決心した証として着せてみせることになってたんだ。お前を家族の一員にしたいという思いを伝える気になったら、この服を贈るってな」
シノはヴァナグを見上げる。
見上げたヴァナグの顔に、明確な表情はない。
「シノがかわいいから付いてきた、というのも本当だが、私がいると安心するからともにいてくれとも言われていたんだ」
「………シノちゃんが着た姿を見たいって必死に頼むから呼んだのよ」
「私は君の置かれている状況を知らない。なんと言っても「冒険者見習い」になるくらいだから、そう簡単に言えない事情があるんだろうとも思っている。いろいろ疑問に思うこともあるだろうからな」
ヴァナグの手はあやすようにシノの頭をなで続ける。
シノはその言葉にうつむく。
「私は、こう言ってはなんだが、村長の義息子であり、冒険者ギルドの実力者だ。君の後ろ盾になるには十分だろうと思う。少なくともこの村で困ることはない。私の権力は、君とスペーラを守るくらいならできるだろう」
シノはこの優しい大人たちになんと答えれば良いのかわからない。
ふと頭によぎるのは、先日ティエリアが持ってきた伝言。
―――捜索隊が出た。簡単に見つかるような場所にいるとは思えないが気を付けてくれ
シノがあの屋敷にいるということは明かされていなかったが、拾った奴隷が逃げ出したとかなんとか言って捜索隊を出すことになったのだろう。いないことになっているシノを探し出すことは難しいかもしれないが、できないことではないとも分かっている。
―――再会を夢見て、エヴァンス。
シノは知っている。善意によって今現在生かされているのだと。
好意を善意にするしか思えないシノは、好意をそのまま受け取ることはできない。そういう生き方しか知らないのだから。
「別に今すぐ答えを聞きたいわけじゃないの。あと十日ばかりだけれど、考えてみれくれないかしら」
「…………できない」
「シノ、子供にできることに限界はある。………わがままを、もう少し、言ってくれても」
「もし」
シノは、優しい大人とそうでない大人しか知らない。
目の前にいる二人が信用に足るのだろうか、シノは迷っていた。
「もし、そうなれたら………うれしい、とおもう」
「ならできないなんて言わなくても」
「………ヴァナグのけんりょくじゃ、むり」
「………」
「ころされる、かも」
母の妹だと言った女も、その夫であった屋敷の主人も、その二人の息子も、シノは汚いものだと罵り足蹴にし、地に叩き付けた。そんな彼らの権力はこの国ではかなり高い方にあるのである。
たかが商人、されどこの国においては貴族と同等の扱いをうける商人である。宿の主人が、冒険者ギルドの職員が後ろ盾になったとして、生き残れるとは思えない。
「ふたりに、しんでほしくない」
さらに思い出してしまう顔。
シノの腹にナイフを刺して笑った少年の顔を。
商人よりも上の身分、貴族位を持つ親を持つ少年。その顔を思い出すと吐き気がしてくるシノ。
「………ここにのこることは、できない」
シノは苦しい、と感じる。
息がし辛い。まるで小さいころ母に怒られたときに味わったような感じ。でも、それがどういう気持ちにあたるのかがわからない。
「そっか………なら、仕方ない。だったら残り半月、甘えて頂戴」
「………あまえる?」
「そう。そうね………ヴァナグとわたしを両親だと思ってくれていいわ」
「………とうさまが、ふたり?」
「わたしは母親よ? ヴァナグは父親」
「まぁ、構わないが」
笑うエンゼと頷くヴァナグ。
シノは目線をさまよわせて一言。
「がんばる」
それ以外に言える言葉もない。
二人にとって、シノは異常だ。
存在も、あり方も、その考え方も。
だから旅に出て、もう味わうことのないだろう生活をもう少ない時間になったとはいえ、味あわせてやりたい、そう思ったのだ。
甘えたことを全く言わずに半月以上を過ごしたシノという少女を好きになって、精一杯甘やかしてやろうと、二人は考えたのだ。
「さて、じゃあ甘えてもらおうか?」
ヴァナグはシノを持ち上げて机の上に立たせる。
食事を食べる場所、という意識のあったシノは戸惑ったが、ヴァナグとエンゼも立ち上がり、シノが少しだけ二人を見下ろす形になる。
「さぁ。なんでも言ってくれていいのよ」
期待する二人の視線にシノは必至で考える。
何をしたら甘えたことになるのかわからない。
シノが母と過ごした期間の記憶はそんなにない。本当の親の顔でさえ曖昧になってしまっている中で、家族らしい経験といえば、シーブとエイファとともに過ごしていたあの時間だけだ。
「………いっしょに、ねて?」
コテンと首を傾げていうシノ。
「ああ、もちろん」
「わたしも一緒に………」
「お前は朝早くて夜遅いんだから、ある程度時間調整できる私が適任だろう」
「くっ………反論できないわ」
二人の思っていたものとは大きく違っていたが、それがシノなのだろうと、少しばかり不満に感じながらも軽口をたたき合う。
普通の子供がいうように、何かを「欲しい」という甘え方をするのだと考えていた二人だったが、シノがそんな甘え方をするはずもないのだ。
好意に応えるという意味で、かなりずれている思考を持つシノは、甘えるという行動が、強請という発言につながらない。無形の厚意には相手が同等の価値を持つだろう物や行動で示さなければならないと、そう思っている。
「ただいま帰りましたー………どういう状況ですか? これ」
帰ってきたスペーラが見たのは、ヴァナグがシノを持ち上げてぐるぐる振り回し、それを笑顔で見つめるエンゼの姿。
「スピィちゃん、お帰りなさい」
「あ、はい。多めに買ってきました」
まるで人が変わったかのようにエンゼはスペーラとともに厨房へと向かう。
時間が過ぎて食堂には冒険者たちが戻ってくる。
戻ってきた冒険者のほとんどは、スペーラと戦った男どもと、その様子を眺めていたスペーラの健闘を称える者たちであり、ヴァナグがシノにべたべたしている様子よりもスペーラの完璧な女装姿に感嘆を漏らしていたため、そんなに注目を集めることはなかった。
そして翌日。
朝の鍛錬をこなし、ばっちりと女装をしたスペーラはいつものようにシノの部屋の扉を開ける。
「おはようございます、シノさ、ま?」
最近はシノがゆっくり起きるということが増えていて、早起きに慣れたスペーラがシノを起こすという風になっていたため、スペーラはシノの部屋のドアをノックしたりすることもなかったのだが、その日ばかりはノックしない習慣を恨んだ。
「ん………」
シノはかなり寝相がいい。
死んだように眠るシノの様子に、スペーラは毎日息があるか確認しないと安心できないほどには寝相がいい。
しかしその日、布団は床に落ち、脱ぎ捨てられた服が床へ無造作に投げ捨てられ、いつもの生活感のないシノの部屋らしくない空間が広がっていた。
「な、な、な」
スペーラが部屋を開けたことでシノは寒さを感じたのだろう。
半裸のヴァナグの胸にすり寄るシノ。
「何してんだあんたは!?」
スペーラの顔は真っ赤である。
いくら年齢が違うとわかっていても、半裸の剣の師匠である獣人が、寝間着姿のご主人様を抱き寄せて南無っているその姿にあらぬ妄想をしてしまったからに違いない。
獣人であるヴァナグは基礎体温が高く、普段から上着を着ることはない。しかし、かわいいもの好きのヴァナグはぬいぐるみを抱いて寝る癖がある。一緒に眠る約束をしていたシノを抱き寄せて眠ってしまう、というのは必然だったのだろう。
「んー、もう朝か?」
「おはようございます。本当に幼女趣味という噂、広がりますよ」
心の中で、広げますよ、という語尾に変えるスペーラ。
「ふむ………特に恋愛なぞしようとも思ってないからどんな噂が広まろうといいんだが?」
「シノ様が困ります」
「そうか、それは少しばかり自重するしかないかな」
スペーラのため息が白く染まる。
「エンゼさん、止めてくださいよ、あれ」
「うん? シノちゃんにこの服に合うと思うんだけど、どうかしら。それとも最近作ったこっちのほうがいいかしらね?」
「こっちもか………」
親ばか状態に変わっている二人を変えることはできなさそうだ。
「二人ともしっかりしてくださいよ………」
「しっかりしてるぞ?」
「どこが………」
「そろそろ仕事に行ってくる。シノ、三日間山の魔物が活性化する。気を付けてくれ」
「わかった」
「いってらっしゃい。今日もいつもの時間にくるでしょう?」
「ああ。いってくる。またな、シノ」
宿屋の前で、繰り広げられるホームドラマ。
「夫婦かよ………ってぇ!」
「無駄口たたいてる元気があるなら、今日の対戦は倍だな」
「はぁ!?」
スペーラはシノの兄姉という風にみられるようになっていた。
「あまえるってむずかしい………」
そう呟いた愛娘役のシノの声は、その場に霧散した。
戦いも、大した変化もなく、割と静かに終わったこの回。
個人的に一番書く内容に困る回。毎日投稿っていう目標なかったらぜったい半月ほど考えてそうな回。
あれかも、ここは書き換える可能性大。
次話、明日投稿?




