19 結論:羨ましい
初夢見ました?
一富士、ニ鷹、三なすび、出てきましたか?
寒い中神社に正装で御参り行きました。寒いです。
四十五話! はじまります
スペーラは、シノとヴァナグが楽しそうにしているのを横目で見ながら、襲い掛かってくる男たちをいなしていた。
「もう、なんなんですか!? すっごい殺気がこもってるんですけど!」
練習用の、刃の付いていない武器を使っているとは言え、当たったらそれなりに痛い。骨折まではいかずとも、打ち身にはなる。
しかし、そんな声も届かず、相手の剣は止まらない。
「お前に勝てばヴァナグと死合えるんだっ! かなりのハンデ付きでなっ!!」
「仕合ですよね!? 今意味合いが違ってませんでした? しかも望みがしょぼい!」
「お前には分かるまいっ! 幼女趣味のお前などに!!」
「ちょっ!? 僕は幼女趣味なんて持ってません!」
「ああ、すまん。女装趣味だったな」
「………違いますっ」
なんとも気の抜けた話をしながら剣を打ち合っていくスペーラと挑戦者の男。周囲では順番待ちの男たちが観戦している。
そしてヴァナグが女性にかなりの人気を誇っているという話を聞いて納得しながらも、女性たちの無理難題を聞かされて呆れるスペーラ。
「それ、勝てた人、居るんですか?」
「いない」
「ですよねー」
スペーラが白磁牛一頭で手一杯だったと言うのに、ヴァナグはたった一人で取り巻き全てと対峙して勝っているのだ。返り血で濡れていたものの、無傷で。
「だが、我々は諦めないっ! 意中のあの娘に振り向いてもらうために!」
「むしろ普通にデートした方が報われる気がするんですけど」
「はっ、デートする以前の問題なのだよ」
「えー………」
なんでも告白すると、その時点で「ヴァナグに勝てたら」という条件を出され、その条件を満たさない状態で話しかけると、虫を見るような目で見られるとか。
それに快感を覚えてしまって、逆にヴァナグのストーカーを始める男もいるらしく、変質者を半殺しにするヴァナグを見て、憧れる女性が増えることも。
「なら、ヴァナグと仲良くなればいいじゃないですか」
「ふんっ、簡単になれるようなものならなっているさ!」
「いや、だって僕、毎日手ほどき受けてますよ?」
スペーラは、シノに修業方針を提案された翌日からヴァナグの戦闘訓練を受けている。気安く話しかけてきて、スペーラが女装をする原因になったのも、ヴァナグがエンゼに何も知らない状態で引き合わせたからだ。
こんなことをされても、スペーラにとってヴァナグは気のいいお兄さん、と言った立場にいるのは、スペーラが優しいのか、ヴァナグが上手いのか。
「ヴァナグのお気に入りのお気に入りだからこその特権だろうが!」
「お気に入りのお気に入り?」
「そうだ! ヴァナグさんの趣味はな、あの宿の女将に似てるんだよっ!!」
「え………」
ヴァナグがヒラヒラの服を着るようにと追いかけてくる図を思い浮かべてしまって、何とも言えない表情になるスペーラ。
そして、いつものようにエンゼが化粧をしている様子をヴァナグに変換して吐きそうになるスペーラ。
「そっちじゃない! ヴァナグでそんな気持ちの悪い想像をするなっ!!」
「じゃあなんだって………」
「可愛いモノが好きなんだよあの人は! 愛でるだけだがな!!」
「へー」
そう言えば甘味も好きそうだったな、とスペーラはヴァナグの嗜好を思い出す。
小さくて可愛いもの。
今ヴァナグの近くにいる者で真っ先に思い当たるのはシノである。シノを気に入っているのだとしたら、シノから頼まれたことを断れないというのも頷ける。
ちらっとヴァナグの方を見ると、シノを膝の上に乗せて何か話しているではないか。しかも丁度いい感じにすっぽりとシノはヴァナグの腕の中に納まっている。胸に当たる頭を撫でながら微笑んでいるヴァナグの顔が見えて、なぜかイラッとする。
「にして随分余裕だな、お前っ」
「スペーラです。ここ半月ずーっと鍛えられてましたからね、ヴァナグに」
「そうか、怪しからんな」
「そう………って、はい?」
「お前の街中での様子、ちゃんと俺らも見てたんだぞ」
「街中って………」
目の前の男たちが総じて変質者に見えてきたスペーラ。
今の所エンゼのおかげで被害にはあっていないが、すらっとした美人に変身していることもあってか、尻を追い回してくる男どもは何人か存在している。この対人戦の成果は、直にその男どもにももたらされることになるだろう。
「この前、八百屋の一人娘と楽しそうにお喋りしてたな」
「お野菜買うついでにヴァナグのことを聞かれたんですよ」
野菜を買に行くと、いつも決まった時間にいくせいか、その娘さんとよくかち合うのだ。
集会場で見かけた、という話から始まり、ヴァナグに稽古をつけてもらっていることがばれると、普段はどんな人なのか、とか。どんな風な会話をしているのか、とか、喋り方はいつもとちがうのか、など娘さんはヴァナグの話を聞きたがるのだ。
別に買い物を早く済ませなければならない理由も無い為、割と長く八百屋では話し込んだりもしている。本当なら早く済ませて早く着替えたいのだが、夕食が終わって朝食の仕込みまで終わらせて初めて制服である女装を止めていいよ、と言われているので、女性と話している方が気が楽なのだ。
娘さんはヴァナグのようなカッコいい人をそばで見ているのが好きらしい。将来はエビュリーズに出て、舞台女優になりたいと話していた。
「鍛冶屋の娘とも楽しそうに喋っていただろう」
「あれは押し売りまがいのことをされただけです」
あれは宿のお客が酔った拍子に曲げてしまった食器や、修理に出して居た金物を受け取りに行ったときに出会った娘さんである。
豊満な胸を持つその娘さんは、男の客だと分かると、その驚異的な胸元を見せびらかしながらワンランク上の物を買わせようとして来るのだ。なんとも強かな娘さんである。
最初は女性だと思われていたらしいが、事情を説明すると、笑って同情してくれた。別に同情されたかった訳ではないのだが、娘さんも自分の胸に少しコンプレックスを抱いていたようで、最近ではいい話し相手になっている。シノのことも知っており、あんな子が妹に欲しいという話で先日は盛り上がった。
「服屋の娘が頬を染めながらお前の体を触っていたのは?」
「エンゼさんの裁縫技術に感動していただけですよ」
服屋の娘さんは、普段表に出てこないおしとやかな人、と思われているのだが、実はかなりの赤面症らしく、人と話すのが苦手でいつも奥に籠っているらしい。実際話してみると、おしとやかなんて逃げ出すような性格で、快活で話しやすい人である。
感情が顔に出やすいらしく、エンゼさんの作った服を見つめてはうっとりしている。「男らしい体のラインにあった服なのに、女性らしさを醸し出すなんて。やはり女将さんは侮れないわ」などと言っていたが、どこに感動しているのかさっぱり分からない。
両親と共に服を作っていて、既に売れ筋の商品も作れているのだから、赤面症が治れば両親は引退して娘さんに店を渡すつもりだとも言っていた。その時初めて両親の想いを聞いたらしい娘さんは、思いっきり顔を赤くして部屋に駆け込んで行ったが。
とにかく感情が高ぶると顔が赤くなる、というのが治らないと、あの娘さんに恋する男は報われないと思う。
「他にもいろいろあったろっ!」
「そりゃ、宿で下働きの真似事させてもらってますし。いろんな人と喋らなきゃなりませんから………」
男性の冒険者がほとんどだった宿の客層にも最近変化が見られていて、女性の客もそれなりに入るようになって来たのだ。
受付も任されるようになり、近所の御婦人方とも井戸端会議ができるようになったのだから、どの女性と話したのかなんていちいち覚えていない。
「最初はヴァナグの腰巾着なんて呼ばれていたが、最近じゃお前の評価もかなり上がってるんだぞ!」
「へー」
「「へー」じゃない! 俺たちが勝ち得なかった者を持っていながら、なぜそこまで無頓着でいられるんだ!!」
「いら、それ僕、関係ないですよね?」
剣戟の合間に交わされる言葉の応酬はまだまだ続く。
嫉妬に駆られた男たちの八つ当たりに懸命に応えるスペーラである。
□■□■□
胡坐をかいたヴァナグの膝の上に座らされたシノは、集まってきた職員に、疑問を投げかけていた。
「詠唱が必要な理由?」
「そう」
ヴァナグの同僚たちは答えを探すのに議論を始める。
「うーん、俺は考えたこと無かったなー」
「習ったからそうしてきたって感じかな?」
「詠唱短縮はできても、一定の効果が得られないことも多いんだよね。だから詠唱した方が効率よくて詠唱してるよ」
「無詠唱できる人も聞いたことある、けど、皆宮廷魔術師とか、かなり魔術に慣れ親しんでる人しかいない、と思うよ」
それぞれの意見が出され、ならば少しやってみようか、という話になる。
ギルドの職員のほとんどは、特に戦闘指南なんてやっている職員は、元冒険者であることが多く、自らの力を強める為ならばどんな努力も惜しまないような人が多い。
「あーそうね、結果が分からないから、とにかく詠唱してみて結果を出してから短縮をするのかな?」
詠唱破棄状態で成功させた例を見たことがない、ということで、詠唱短縮の方法について話が進む。
「そういえばー、詠唱短縮ができるのって、小さい頃から魔術を見てきた子に多くなーい?」
「あー、貴族の坊ちゃんとかそうだったな。パーティーの時は魔術師は大抵元貴族だった、はず」
彼らの記憶を頼りにして出てきた言葉はそんな感じだった。
冒険者となり生き残るのは、圧倒的な実力者か、金銭をおしみなく使える地位か、その地位に伝手がある者だけであり、魔術師は貴族の後ろ盾があることが多い。むしろ、元貴族であることが多い。
幼い頃から魔術師としての訓練を良い環境で受けられると言うのは、かなり有利な状況であろう。
「言われてみれば。なら、シノちゃんの為にいろんな魔術を披露しようじゃないか。さすがに上級はダメでも、中級くらいなら問題ないだろ、だよな、ヴァナグ」
初級、下級、中級、上級、災害級、特級、と言う風にランク分けされていく魔術。生活魔法は初級から下級の魔術ばかりで、治癒魔術はどんなに低くても中級からしか術式が存在しない。
魔術教本か存在するのは上級までであり、それ以上は一子相伝であったり、師匠から弟子に一人前の証として贈られることが普通だ。上級までの魔術教本にある詠唱文だけでなく、詠唱自体は沢山の種類が存在している。
「んあ? いいんじゃないか? もともと集会場はどんな訓練でもできるようにって作られてる………ハズだし。多分」
「そこは言いきろうよー。ま、これだけ冒険者が居ればもしもの時何かあっても、何とかなるでしょー」
「もちろん無属性の詠唱はなしよ」
「わかってるさ」
実際、集会場で上級の魔術を発動させた例はかなり少なく、ここカゾスでは一度もない。訓練すると言っても、大抵は土属性の魔術で作られた的を壊したりして、技の精度や威力の調整、自分の限界を知る為に訓練するのであって、わざわざ上級の魔法を使うことはない、というのが一つ。
上級の魔術を知る為には、それなりの金額を支払って上級魔術教本を買うか、魔術師の師匠に魔術を習うかのどちらかであるから、村の集会場なんかで上級魔術を「試しに使ってみよう」なんて考える者はいない。
上級魔術教本は金貨三十枚という大金なのだ。そうそう払える金額でもない。ためしに使った時点で、奢らされるか、盗まれるか、誘拐されるか、そういう結末しか見えないからわざわざ使わないのだ。
「よし、一番手、いっきまーす」
同僚の一人がぶつぶつと呟き始める。
「―――惑わせ、花火」
「幻惑系か~、いい趣味してんじゃん」
火属性の花火を幻惑系で出すと、触れても熱くない、という現象が現れる。
お祭りなどでは火属性のままの花火を連発するという人気の催しもあるのだが、幻惑系は花火は子供たちに人気の魔術である。
シノを中心として様々な色の光が弾け、徐々に薄くなって最後には消える。それが沢山現れている。
「なら」
「ん? 水桶?」
「水属性の魔術使うの?」
「―――光り舞え、輝く水球」
水桶の中の水が球体の形を維持して、ふわっと浮かぶと、シノの周りに浮かび、一つ一つに光が灯り、空中を舞う。
「ちょっ、魔力大丈夫!?」
「こ、このくらい、余裕だぜ」
「脂汗掻きながら言う言葉じゃないぞ」
水属性と光属性の複合魔術である。
複合魔術はその威力や効果範囲と比例して使用する魔力量が大幅に変化する。本来こんな遊びのような魔術に使われるような魔術ではない、とだけ言えばいいだろうか。
「だいじょうぶ?」
「んー、頑張る」
寒いのに汗を掻きながら、それでも魔術の行使を止めないヴァナグの同僚に、シノは声をかけるが、浮かばせ光り続けている。
「ならもうひと手間、加えようじゃない」
「うわ、まじか」
「―――輝け、虹色」
今田に空中を舞っていた単色で輝いていた水球に色が付く。
その色は水球の中から発せられているようで、丸く維持できなくなったためにできた波が周囲の壁や地面に反射して、水中に居るような感覚を引き起こす。
しかしその現象が続いたのはごく短時間で、水球を維持できなくなった同僚が桶に水を戻したところで光も収まった。
「いいこいいこ」
「!? ………ありがとー」
魔力の大量消費で座り込んだ同僚の頭を撫でるシノ。他の同僚からの無言の圧力に喉を震わせるが、そこにヴァナグが参加していないだけで圧力のかかり方は大分違う。
それからもそんな魔術自慢によってシノの周りでは幻想的な光景が拡がり、全員がほとんどの魔力を消費したところで、シノが気になっていたことを切りだした。
「なんできょうはせいそう?」
「あはは、勤務中は本当はこの制服なんだよ」
「ま、戦闘指導員は事務職ほとんどしないし、肩っ苦しいこの服を着てない人が多いけどね」
そう。ここにいる全員が、ヴァナグと同じような服を着ているのだ。
中には新人冒険者講習会で見た顔もいるが、見なかった顔もいる。その全員が同じような格好をしているとなればきになるだろう。
「今日は氷の買い付けに商人さんと一緒に偉い人が来てたんだよ」
「俺らは護衛として雇われたのだー」
いきなりお偉いさんが来たとき、当然警備隊も騎士団も簡単には動かすことはできない為、冒険者ギルドに護衛依頼として持ち込まれることも多い。受けられるランクの者が居なければ、それは全て職員が肩代わりすることになるのだ。
今日はいきなり受けられるようなものが居なかった為に、ヴァナグ達が護衛として駆り出されたのである。
「あーでもあの子は無いわ」
「ん? あのお嬢ちゃん? いいとこのお嬢様なんでしょ」
「優しそうな顔しておきながらあの発言はきつかったなぁ」
「護衛に向かって普通に頼りないとか言っちゃう子だったものね」
「ってか~、ヴァナグのことかなり気にしてなかった?」
「獣人が珍しいんだろ」
「かなー?」
商人と老人についてきた子供が、あまりにも横柄な態度だったとご立腹の職員たち。偉い人の前で愚痴るわけにもいかず。今発散している、と言ったところだろうか。
ずいぶんな言われ様に、シノは首を傾げるのだが、その姿で職員たちの心は癒されていく。
「シノちゃんみたいな子だったら良かったのに」
「確かに。顔は将来期待できるってかんじだったが。あの性格はな」
「シノのような子はあまりいないと思うけどね」
今度はシノを褒める貝になってしまい、ヴァナグはシノの頭を撫でながら、シノは気持ちよさそうに目を細めて、話の終着点を待っていた。
スペーラが無事すべての人を打ちのめす頃にやってきたギルド長に、職員たちのほとんどは連れて行かれ、ヴァナグとシノは、スペーラの最後の試合を見ながら、雑談に花を咲かせていくのだった。
ぎりぎり毎回ファベリズさんとすれ違うシノ。
ファベリズさんってファ○リーズに似てるよねって言われたときに作った渋面顔をわらったあいつ許さぬ。
似てるとは自分でも思ってるがなっ!
明日も更新!




