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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第二章 幼少期・放浪開始
45/113

17 狩った者の特権

 今年最後の更新だ!

 とか思ってたらなんだか文字数が伸びてしまった今回。マジすみません。

 さてさて、今年の抱負は叶えられました?

 あと24時間で来年の抱負を考えなければ………

 夜は何ch見よっかなー


 四十三話! はじまります

 スペーラは、土の香りと吹き抜ける風の冷たさに意識が戻り、目を開けた瞬間に降り注いだ太陽の明るさに思わず目を瞬かせた。

 自分はなぜ地面に横たわっているのか。

 その疑問に答えを出すために、朝から何があったかを思い出す。

 日が昇る頃に北門を出発し、それから足腰痛くしながら山を馬で駆け廻り、マメロの大軍を見つけて、その中心に居たのは白磁牛という恐ろしい魔物で………。

 そこまで考えたスペーラは濃い血の匂いにバッと体を持ち上げる。


 「は、白磁牛!」

 「お、目が覚めたか。ホレ、水だ」


 革の水筒が投げ渡され、何とか地面に落とさずに受け取ったスペーラは、からからに乾いていた喉を潤す。


 「僕は………?」

 「横、向いてみろ」


 ヴァルナに言われて横を見ると、きれいな切り口で切られた乳白色の巨大な白磁牛の胴体が。

 あるはずの首がないその胴体に驚き、反対側に居るヴァルナを見ると、そのヴァルナの頭には、乳白色の白磁牛の頭が生えていた。


 「ヴァル、ナ?」

 「ッチ、もっと驚けよ。つまらないな………」


 白磁牛の頭のヴァルナは、その頭をゆっくりと地面に下す。


 「いや、ついにヴァルナが白磁牛になったのかと」

 「違うわ! お前が起きないから遊んでたの!」

 「え? ………寝てた?」

 「ああ、もう昼時だ」


 ヴァルナが空を指して笑う。

 太陽は天頂に達しており、バサルトはその時間ひたすら寝こけていたことを恥じて顔が熱くなる。およそ二刻ばかり寝ていたということになる。

 その間ヴァルナは近くで看病と護衛をしてくれてたのだろう。


 「えっと、ありがとう」

 「別に。暇で遊んでただけだし」


 白磁牛の胴体と首だと思った物は、バサルトが解体して中身をきれいに剥ぎ、他のマメロの骨と皮を詰め込んでそれなりのふくらみを持たせた死骸だったらしい。つまり良く作られた張りぼてだ。

 さらに顔が熱くなるのを感じながら、それをごまかすかのように水を煽るスペーラ。


 「あ」

 「どした?」

 「シノ様は?」

 「………忘れてたな。私はここで白磁牛とマメロの解体をしていたし」


 マメロの死体は全て捌き、ギルドの所有物である『宝物庫』と呼ばれる空間魔術が施された少し大きめのカードにしまってある。冒険者ギルドと、治療院と、領主が一つずつ持っている魔術的な倉庫で、戦争時や緊急時のみ使用が許されるものである。

 使い勝手は悪く、収納と放出をこまめに行うことはできず、大量にしまって少量を出す、ということが出来ない為、本当に緊急時しか使われることはない。ただし、入る量はほぼ無限である為、もしもの時は重宝する。そして、入れたものにしか出すことが出来ず、盗まれて使われる心配はないものの使用者が死亡した場合は使えなくなってしまうというのも難点だ。


 「っ! もしかしたら」

 「見に行くぞ」


 二刻も寝ていたのだ。

 馬を守っていたシノはいったいどのような状況に一人置かれていたのか。

 シノが居るはずの高台にスペーラとヴァナグがたどり着いたとき、シノの姿はそこに無かった。


 「シノ………様?」

 「なんなんだこれは………?」


 その場所は、凄惨、という言葉がしっくりくるような状況だった。

 一本の木に括り付けられている三頭の馬。その一本の周囲の木は伐り倒され、更にその周りの木には、三頭の狼が血を滴らせた状態で縫い付けられている。

 地面はおびただしいほどの血液で赤くそまり、地肌も、生えているはずの草の色も、全てが赤黒く区別がつかない。まるで三頭の馬のいる空間だけ切り取られているかのように感じるその光景。

 しかも、馬の背後では何かが燃えているのか、濃い白煙がもくもくと出ている。風上に居る二人には、その匂いを感じることはできないが、先の森が全く見えないその様子に、森が焼かれているのではないかと、そんな考えに駆られる。


 「おわった? つのは?」


 そんな二人の心配をよそにシノは声をかける。

 青ざめた二人が声を頼りに上を見上げると、そこには一羽の鷹と戯れるシノが居た。


 「ティエリア、ごほうび」


 鷹はシノの手から肉の切れ端をつまむと、嬉しそうにクルクルと喉を鳴らす。

 それを見たスペーラは安堵でため息をこぼし、ヴァナグは頬を引きつらせる。ヴァナグに取ってシノは既に規格外という印象を持っていたのだが、この現状を一人で引き起こすほどだとは思っていなかったのだ。

 『森の探索者』がシノを地底湖の洞窟で保護したと聞いたとき、一番にギルド長にそれは向こうの間者なのかもしれないと意見を出したのはヴァナグだったのだ。子供一人と馬一頭で暮らしていける程森は甘くないと思っているし、冒険者だって森の中であっけない死を迎えることがあるのだ。子供が普通に暮らせると考えること自体甘いとしか言いようが無い。そうヴァナグは思っていた。

 しかし、現状はどうだろうか。

 シノは毎日のように馬と森へと入り、普通の冒険者が挙げる成果を軽く超える結果をたたき出す。朝に村を出て、昼ごろには帰ってきて、夜は宿で寝る。その短時間でその結果をたたき出しているのだ。


 「ふぅ………」


 そして今日。

 馬具をつけない時点で馬に乗り慣れているのが分かるし、魔物を一番に感知したことから感知能力にも優れていることが分かる。山四つ離れたところまで出かけてその時間に帰ってきていたことには少々驚くが、そこは黒曜馬に頼ったものだと言われれば納得がいく。


 「良かった………」


 そこにこの現状。

 ふと横を見ると安堵でため息をついたスペーラが目に入る。

 スペーラはきっと気が付いていない、そうヴァナグは判断する。

 なんせ白磁牛を倒したときにスペーラが使った技。かなり荒削りだったが、あれは剣術の奥義の一つ、『(やいば)』と言われる魔力で剣を覆いその殺傷力を飛躍的に上げる技だ。今は失われてしまった、昔刀と呼ばれていた薄い鉄の剣の恐ろしいほどの切れ味にならって付けられた名前だ。

 いくら魔力をそれなりに操る自信があるヴァナグでも、『刃』を作れるほどの繊細な魔力操作はできないし、訓練はしているができたことはない。


 「まったく………」


 ヴァルナにとって薄い剣と言うのは、簡単に折れるモノでしかない。酒を飲むときにアイスピックを使って氷を砕いたりするものの、あれは剣ではなく鋭い棒だと考えている。細く、貫くことには長けているだろうが、切ることはできない。もし刃が付いていたとしても押し切る(・・・・)ことはできないだろう。

 しかし。

 目の前にいる半分解体されて捨て置かれている狼のは、全て『刃』を使うことによって殺されているのだと判断できる傷口だ。

 スペーラが知っているとは思えない。ならば、シノが教えたものだと考えた方が正しい。

 まったく、驚かせてくれる、と。


 「シノ様、一体この状況は?」

 「? おおかみをくんせいにした。たべる?」

 「あ、はい。いただきます」


 木の後ろ、もくもくと白煙が立ち上るそこにシノの姿が消え、すぐに戻ってきたシノの手には、数枚の干し肉があった。

 悲惨な状態でぶら下がっている狼が目に入って、差し出された干し肉を受け取るか受け取らないかで悩んでいると、上から大きな翼が舞い降りてその干し肉をかっさらっていく。


 「………いらなかった?」


 その鷹は何とも美味しそうに干し肉を食らい、まるで牽制でもするかのように上から二人の男を見やる。


 「あ………」

 「ティエリアはきにしなくていい、あのこのぶんもたくさんある」

 「な、なら。一枚貰います」

 「私も貰おう」


 三人でハムハムと燻製肉を噛みしめる。

 保存食としての干し肉は食べ慣れている男二人だが、ちゃんと味と香りが付いた燻製肉を食べるのは初めてだった。狩人たちが作っている燻製肉は、貧民の食事として嫌悪されている為、市場に出回ることが少ない。なんせ日持ちがするようにかなり強く味を付けるのだ。食事に困っていない物が食べるような味ではない。

 しかし、シノが作る燻製肉は趣向が違う。

 少々煙っぽい味だが、肉とよく合っている。しかも全体にまぶされている香草がいい感じに肉の味を引き締めていて、下にピリッと来る感じは、夜の酒場で売ったらきっとかなりいい売れ筋になるのではないかと思わせるその出来。


 「強い酒が欲しくなるな………」

 「もってない………クロのカバンのなか」

 「残念だ」


 ヴァナグの声は本気だ。


 「持って帰って食べればいいじゃないですか」

 「お前、知識も足りなければ想像力も足りないんだな………」

 「これからたくさんべんきょうしないとね」

 「え………?」


 シノの料理には、薬草の知識がふんだんに扱われている。

 つまり、普通の料理人が出せない味を出してしまって居るのだ。自らの足と知識を使って作られているシノの料理の数々は、そのほとんどが薬膳としての効果を持ってしまう。熟練の薬師にしか作れない料理である、とも言えよう。

 魔術によって人を癒す治療院では作れないし、薬屋も治療薬を調合してもそれに本来必要のない香草等の知識を持たない為作れない。事実シノが薬屋で素材を見せた時、そのほとんどをラエナの弟子が知らなかったのがいい例だ。

 村に持って帰って酒と共に食べたとして、燻製肉を誰も作れないのだから、他人にあげるわけにもいかず、無用な争いを引き起こすかもしれない製作者の名前などいえたもんでもなく、たとえ作り方を教えたとしても調合の割合では毒薬となってしまうかもしれないのだから、持って帰って食べるわけにはいかないのだ。


 「つまり、シノ様が作れるということも、この燻製肉も知られるわけにはいかない、と?」

 「そう言うことだ。人気が出れば出るほど人死にが出るかもしれない料理を広めるわけにはいかないし」


 素材が打ってなくて、山狩りなんて行われて草が生えなくなるかも知れないとまで言うヴァナグ。それは流石にないだろうと思うスペーラだが、ヴァナグの顔は決して笑っていない。


 「ちょうごうをまちがえればもうどく」

 「毒………これは平気なんですよね?」

 「へいき。でもたべすぎはだめ」

 「ま、なんでもほどほどが丁度いいってことだ」


 スペーラは新しい主人のあまりの出来のよさに舌を巻く。


 「あ、そうだ。飯にしよう。白磁牛の焼肉だ」


 酒が欲しいと呟きながら、ヴァナグのその声で、シノがコクリと頷く。


 「え? 全部持って帰るんじゃないんですか?」

 「馬鹿か? 白磁牛は討伐したら普通持って帰らねぇ」

 「もってかえったらきぞくにかわれちゃう」

 「え? 魔物なんだから、普通に持って帰れる分を持って食材として売却するんじゃ………」


 魔物とは言え、大抵の魔物は食える。

 普通の獣より硬く味はそこまででもないが、それでも食材として安価で取引されている。魔野菜も含めた魔物の肉は、ギルドで買い取られた後、普通に肉屋や八百屋で売っていたりする。


 「白磁牛はな貴族に売れるんだ」

 「へ?」


 白磁牛もギルドの素材買い取りカウンターで、魔物の肉として買い取ってもらうことが出来る。しかしその肉は直接肉屋へと卸されることはなく、直接貴族や、貴族につながりのある商人の所へと持って行かれるのだ。

 普通、貴族は魔物の肉を食べることを嫌う。金銭的余裕があるのに、なぜマズイ魔物の肉を食わねばならないのか、というのが彼らの基本的な考え方なのだが、それが白磁牛となると対応が大きく変わる。


 ―――白磁牛は魔物に非ず


 そう言ったのは誰だったか。

 少なくとも、身分が高い者が言った言葉で、彼がそう言ったからこそ、白磁牛の肉は肉屋に卸されることのない、庶民が口にできることは無いであろう肉になった。

 もし庶民が食べられる機会が巡ってくるのだとしたら、祭が開かれるということで狩りに出た時に運よく白磁牛に出くわし、運よく狩れたものか、貴族がいらないと言ったおこぼれに与るか、自ら白磁牛を見つけて狩るか。


 「貴族を狂わせる程上手い食い物だ。食える機会も、白磁牛に会える機会さえ少ないから冒険者の間でも、幻の肉って言われている」


 高ランクの者が狩って来ては、その美味しさを低ランクの者に自慢するから、その強さと希少性はどんな冒険者でも知っている。


 「ま、幻………」

 「どうせ食べたことないだろ、この機会に本物の美味い肉を食うんだな」

 「ちょうりする」

 「ふむ。下で焼いた方が良いかな?」

 「ん」


 三人は馬を連れて草原へと丘を下る。

 もちろん狼の死体はヴァナグが魔術で焼いて処理をし、燻製を作っていた土壁はシノが壊した。


 「あの岩で良いかな?」

 「ん」

 「なら岩を温めてしまおう」

 「岩を温める?」

 「他に肉を大量に薬方法があるかね? 鉄板など持ってきてないんだぞ」

 「え、でも岩を温めるって………」

 「みたほうがはやい」


 シノはマメロの死骸が積もった白磁牛の死体を横目で見て、馬たちの手綱を外すし草原で好きにさせる。一番丈夫な馬具の上に陣取っていたティエリアは白磁牛のしたいの上を飛ぶと、その丈夫に作られた張りぼての上に止まる。

 隠されていた、部分ごとに分けられた肉の包みがヴァナグからシノに渡され、ヴァナグは岩に火の魔術をかけて温めていく。

 役に立たないと判断したスペーラは水汲みだ。自由に草を食んでいる馬をしり目に、水を汲んではヴァナグが岩に開けた穴に注ぎ、また汲みに行く。


 「お前も暇そうだな」


 ジトッとスペーラがティエリアを睨みつけると、ティエリアはその言葉が分かったかのように、大きく翼を広げどこかへと飛び立ち、スペーラが何度目かの水汲みと同時に戻ってきて、肉に香草をまぶすシノに嘴で加えた何かを渡す。


 「ん? ありがとう、ティエリア」


 そのくちばしから黄色い花を受け取ったシノは、お礼にカバンから燻製肉を出して食べさせながらその頭を撫でる。


 「たいへんだったでしょ、ススルをとるのは」


 ススルとは、巨大な黄色い花で、その花弁は顔をしかめる程酸っぱく、蜜は舌が馬鹿になりそうなぐらい辛く、花粉はとろけるような甘さを持つ香草だ。

 その万能性から採取依頼が出されることも稀にあるが、存在している場所が雲を突き抜けるような高山の頂上に稀に生え、三日しか咲かず、それ以外の時期に手折ってもその味は出せないという、なんとも希少性のたかい花である。


 「これでソースがつくれるね、ありがと」


 シノに撫でられるのに満足したティエリアはまた張りぼての上に止まると、フンッとでも言いそうな顔をスペーラに向けて毛繕いをし始める。

 悔しいとは思うが、そんなことが出来るはずもないスペーラは水を汲む事しかできない。


 「鳥よりも役立たずなのか………僕は」


 別に役立たずなのではなく、適材適所なわけで。

 シノの奴隷になって日が浅いスペーラに薬草の知識があるわけでもなく、ティエリアのような機動力もなく、ヴァナグのように得意分野があるわけでもない。

 暫定役立たずなのだろうと気を震わせるが、結局は役立たずなのかと気が沈みながらまた水を汲みに行くスペーラ。


 「よし、シノ、岩の表面を平らにできるかな」

 「できる………まってて」

 「ありがとう」


 シノは、即興で作っていた木製のお椀に水を入れて、ヴァナグに渡すと、ヴァナグが温めた岩に近づき、ナイフを一線して緩やかな傾斜になるように上部を切り落とす。

 さらに傾斜の低い側面から熱い岩を、木のスコップで掘り、地面も少し掘ると、出来た空洞に薪を突っ込む。


 「確かに中に空洞をつくって火をつければ温かさが持続するな」

 「ん」


 また魔術を使うかとシノにお椀を渡そうとしたヴァナグは、目の前で起きた光景に目を見張る。


 「『Ignis.』」

 「!?」

 「あとおねがい、つづきしてる」

 「………あ、ああ。分かった」


 ヴァナグは一言で効果を示すような魔術を知らなかった。

 シノにとって幸運だったのは、そんな魔術をシノが扱える理由が「冒険者見習い」として家を追い出された落胤が唯一使える魔術、なのかもしれないとヴァナグが勝手に勘違いしたことかもしれない。

 魔術師を多く輩出する貴族の中には、伝統的に扱える魔術形態があったりする。それそのものについては、守秘義務が敷かれており、簡単には他人に話すこともできなくなっていることが多い。話したら、見られたということを認識したら、命に係わるような契約術式を刻まれている場合もあるのだ。

 だから、ヴァナグはシノに聞かなかった。


 「―――熱せよ、炎」


 ヴァナグは、詠唱と共に岩を溶かさない程度の炎を出すことで表面をさらに温める。

 ヴァナグの詠唱で出来上がった炎は燃やすものを必要としない。火の魔術など、魔力があればほぼ誰でもできる初級魔術であった為、ヴァナグはシノの使った魔術を気にしなかったのだ。気にするようなこととして意識に上がらなかったと言うのが正しいのかも知れない。

 彼にとって、燃やすものが存在しないと使うことができない魔術が存在するなんて、まったく考えたことのない現象なのだから。


 「ん」

 「おう、待たなくていいのか?」

 「すぐかえってくる」

 「そうか」


 受け取った味の付けた肉を炎を消して岩に並べるヴァナグ。

 ジュワーっと肉の焼ける臭いがし、続けて香草の匂いが鼻をくすぐる。

 肉を焼くヴァナグの口には唾液が溢れ、倒したスペーラが一番最初に食べるべきだと考えるも、その葛藤は肉の匂いでどんどんと先に食べてしまえばいいのではないかという考えに傾く。


 「水汲んできましたっ! って、いい匂い!!」


 肉が丁度良く焼ける、という時にスペーラは帰ってきた。

 シノは嬉々としてお椀に肉を取り分けるヴァナグをしり目に、ずっと練っていた白いものをある程度の大きさに引き延ばして、薪が入っている窯となっている部分の岩に貼り付ける。


 「何してるんですか? シノ様」

 「パンのかわり」

 「代わり? そんな平べったい物が代わりになるんですか?」

 「………いらないならあげない」

 「いらないなんて言ってませんよ」


 首を傾げるシノに、苦笑で返すスペーラ。


 「肉焼けたぞ。フォークもあるから、早く食え、功労者」

 「何で押し付けるんですかっ」

 「一番の功労者が一番に口を付ける、それが冒険者の掟だ。さあ、早く食え! 私も早く食べたいんだ!!」

 「目が、目が怖いですよっ!」


 スペーラは何も最初は何もつけずに肉をかじる。

 最初は香草の清涼な香りが鼻を突きぬけ、遅れて肉汁が口の中に広がる。噛めば噛むほどに甘くなるその肉に、気が付けば一枚をぺろりと食べつくしてしまっていた。


 「どうだ、美味いだろう」

 「すごく」

 「ん、これもつけるといい」

 「はい」


 シノが作ったソースは三種類。

 黒っぽいさらさらとしたソース。それに肉を付けて食べると、酸っぱいと感じるものの、口の中に残る肉の脂っぽさが消え、すっきりとした後味が。

 青っぽいどろっとしたソース。それを肉にかけて食べると、辛みが増して舌がひりひりするが、同時に体の底から熱が上がってくるような感覚がする。

 白っぽい粉上になっているソースとは言えない粉末。甘くなるのかと想像していたスペーラだが、その粉末が付いている場所は爆ぜるような感覚がして、爆ぜたところから甘辛い液体になって肉と合わさり様々な味となる。


 「美味い………」

 「君は調理の才能もあるのか………」

 「よかった」


 余りの美味しさに、割と本気で妹にならないかとシノに言ったヴァナグに、スペーラがドン引き、おおむね楽しく焼肉会が続いた。

 あまりの美味しさに、もう他の肉を食いたくないと言ったスペーラに、普通はもう少し美味しくないと苦々しそうに言ったヴァナグ。結論としては、シノの調理技術を恨むしかない、ということになるのだが、それもそれでどうなのかとスペーラを悩ませた。


 「帰るか」

 「ん」


 行きと同じように足腰立たなくなったスペーラは村のヴァナグに背負われて冒険者ギルドに帰る。

 討伐報告と、大量に出されたマメロの肉は直ぐに肉やに卸され、住民たちは久々にマメロの肉に舌鼓を打つ日々が続くことになる。


 「あ、そう言えば自信ついた?」

 「はい? ………あーそういう理由でしたね、今回の遠征」

 「そうだ。んで? 自信は付いたのか?」

 「………あまり」

 「付いてないと。ふむ。なら明日からのメニューに対人戦も組み込まねばな」


 そんな会話が、シノの構い倒すエンゼの側で行われていた。

 何のためにお前ら行ったんだよ!

 結局行楽(ピクニック)じゃなねーか!

 それは置いておいて、勿論のこりの白磁牛の行先は分かりましたよね?


 それではまた来年にお会いしましょう!

 更新は来年です(笑)

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