16 初戦闘はハードモード
実家に帰ったはいいんだが、床暖が停止して、エアコンが壊れて、給湯(風呂)がシャワー中に止まるという大惨事。
寒い世界に温情は無いのでしょうか。
四十二話! はじまります
日が昇り、朝日で氷の湖がキラキラと照らされている頃、シノ、ヴァルナ、スペーラの三人は、馬を駆って山の中を駆けていた。
シノが乗っている馬はクロではない。
クロに怯えて魔物がよって来ない可能性もあるとヴァルナに言われて、クロは大人しく氷の湖の小島で駆け回っている。
「流石にココまで来て見つからないとは………一体君はいつもどこまで移動して狩ったりして来てるんだい?」
ヴァナグの乗っている馬は、いつぞやもヴァナグの共をしていた栗毛の馬である。
「やまよっつ」
「それでか………こんなに魔物が奥に入ってしまってるのは」
「あのっ、いったいっ、どこまでっ、行くんですっ、かっ!」
「スペーラ、君は帰ったら乗馬の訓練も追加だな」
盗賊として活動するときは、基本荷台に乗っていたので、スペーラは一人で馬に乗って動かすというのは初めての経験だったりする。
「うまにのれないとたびはできない」
「そうだな。シノの旅について行くなら、少々値が張るが軍用馬に君が乗れるようにならなくてはな」
軍用馬は、今三人が乗っているギルドが貸し出している馬の、最低でも十倍以上の値段が付いている馬だ。多少の雑音に惑わされず、主人の言いつけどおりにまっすぐ進める気概を持った馬である。しかし、主人を認めるまでが大変で、主人と認めなければふらふらと勝手にどこかへ行ってしまい、乗り手を見捨てることも多い馬である。
きちんと乗れないと、まず乗せてもらえない。
金銭面では最高にお高いが、現在のシノがギルドに預けている金額からすれば、軍用馬を一頭買うことなど、簡単な事である。
「いる………ひだり」
シノは馬を操りながら左へと目線を向ける。
言われたヴァナグが左を向いて目を凝らすと、確かに魔物の群れがその目に映った。
「おお! 一発で当たるとは。運がいいな君は」
「それって、ふつうっ、運がっ、悪い、んじゃっ、ないですかっ?」
森を歩いていて、獣と遭遇するならばまだしも、魔物と遭遇するのは、まあ、運が悪い方であろう。
「体力無いな………もっとちゃんとした馬具を貸し出した方が良かったかな」
因みに、シノは馬具をつけていない。子供用の馬具がギルドには無かった、と言うのが一番の理由だ。旅に出るまでクロに馬具も着けずに乗っていたシノにとって、普通の馬に乗るのに馬具なんて不必要以外の何者でもなかったから気にしなかったが。
そしてヴァナグは乗り慣れている為、遠乗り用馬具ではなく簡略された馬具をつけてお手、この中で一番いい馬具を付けているスペーラのものは、普通の新人冒険者が扱う馬に初期費用でついて来るそこそこの馬具だ。別にそこまで悪いモノではなく、馬に乗り慣れていない者が使うものだからそれなりに工夫されているのだが、慣れていないせいだろう、スペーラは最初から馬に振り回されていた。
「さてスペーラ、あちらの魔物の集団が見えるかな?」
「あ、はい。見えます」
魔物の群れから少し離れた丘の上で馬を下りた三人は、スペーラの体の痛みがある程度抜けて普通に行動できるようになったところで、敵情視察に移ることにした。
「では、あれを全て私と君で片づけます」
「は………はい!?」
「声が少し大きいな、もう少し小さい声で喋ろうか」
「はい………」
ヴァナグの目線は魔物から動かない。
運のいいことにスペーラの声は魔物に届かなかったようだ。
万が一のことを考えて風下の丘の上で視察を行っていたが、臭いはごまかせても音はごまかせない。
聞こえてしまって、群れごと敵意を向けられたら、一瞬でお陀仏だ。
「あ、あれ全部、二人でですか?」
「そう。シノには馬を守ってもらおうか」
「………」
いくら冒険者として経験のないスペーラでも、使い物にならない馬三頭を守りながら戦うと言うのはかなり難しいことなのだと分かる。だからこそ奇襲が得意なシノが後方支援として馬を守るから、戦闘に加わらないということも分かる。
分かるのだが、目の前に広がる、魔物と獣の集団を目にすると、恐怖が勝る。
食肉として幅広く用いられ、その乳は獣臭さがあまり感じられないことで慣れ親しまれているマメロの大軍。それが目の前にいる獣の正体だ。そういった獣の状態でも怖いのに、魔力を吸い過ぎて魔物と化しているマメロが一頭いて、それに率いられている魔物になりかけのマメロと普通のマメロ。
「あそこの、一番でかい白いの、見えるか?」
「はい………」
「あれは白磁牛。マメロっぽい魔物だ。大きさは格段に違うが」
群れの真ん中にいる、どの個体よりも大きいマメロ。
普通のマメロが額に二本の角を生やしているのに対して、白磁牛は額の角と、鋭い牙が特徴的だ。すこしくすんだような白い巨体の周りに集まっているマメロ達も、なりかけのモノは色が薄く、普通のは色が濃い。ものすごく分かりやすくて助かるが、できれば今すぐ目の前から消えてほしいと思うスペーラ。
「………シノ様の黒曜馬と同じですか?」
「似て非なるモノ、だな。黒曜馬は子孫を残さないが、白磁牛はマメロの集団を集めて子孫を残そうとするんだ。はた迷惑なことにな」
普通の獣でも、魔物になり得る。魔力に抵抗がない獣が多くの魔力を定期的に大量に浴び続けると、魔力を溜められる魔核を体内に作り出し、それによって体を変質させることで魔物となる。魔核が体内に作り出された状態の獣と、魔核によって体が作り替えられた魔物では、在り方が大きく異なるようになる。
まず、魔核が体内に生成させると、性格が凶暴化し、何物にも恐れなくなる。幼生体の状態でそうなると、ほぼ全ての個体が死に至るのだが。なぜか。それは。体内に魔核と言う強い魔力を生み出し続ける帰還が生成されたことに体が追い付かないからだと言われている。さらに魔核が体が馴染むと、低確率で魔物へと変貌する。
魔核が馴染むと、魔核が生成される前の性質が受け継がれたり、新しい性質が生まれたりと著しい変化が見られる。絶対に変わらないのが凶暴性だが、ただまっすぐ向かってくる魔核持ちのなりかけと違うのは、思考力を持っているということだろう。
「白磁牛については知ってるか?」
「弱点とかですか?」
「いや、攻め方」
「すみません、勉強不足です」
いつもシノが本と睨めっこをしているのだから、少し貸してもらって読めば良かったと思ったスペーラはいつか騙されてひどい状況に陥りそうである。
「わたしがせつめい、する?」
いつの間にかシノが二人の間にぶら下がり、群れを観察していた。
驚いて叫びそうになったスペーラの口を押えて、ヴァナグは木の枝からぶら下がっているシノを見る。
立っている二人と目線を同じくする為には木の上から見るしかなく、丁度二人の上に枝があったからぶら下がったにすぎないのだが。
「馬は?」
「つないできた」
「それは危なくないかな?」
いくら人がいて、それが抑止力となっていたのだとしても、森には様々な獣がいる。盗賊は討伐したばかりだから寄ってこないだろうが、それでも十分とは言えない。
「わなはってきたから、だいじょーぶっ」
「罠?」
「そ、わな」
枝から危なげなく地面に飛び降りるシノに、まだ口を押えられているスペーラは目を丸くするばかりだ。
そして、馬三頭を木につないで、それの安全が絶対保証できる罠なんてもの、ヴァナグは知らない。
「もしものこともあるだろうし、とりあえず馬たりを安心させておいてくれるかな?」
「ん。スペーラ、がんばってね」
「あ、はい」
ヴァナグはシノが立ち去るのをじっと見るのだが、見ようとすればするほど、そこにシノがいないような感覚に襲われる。
こんな子供が、ここまで気配を薄くすることが出来るなんてありえない。そう思い直したヴァナグは、白磁牛の群れについての説明をしていく。スペーラは「白磁牛はお前に任せる」と言われた時点で顔がいつも以上に白くなっている。
「じゃあ、行ってきますっ」
「おう。周りの魔核持ちは押えとくから」
安心して行って来い、と笑顔で送りだすヴァナグに全く安心感が湧かないスペーラ。
手に持った片手剣を強く握るスペーラ。
恐る恐る一歩目を踏み出し、強く踏みしめ、体を前に倒すようにしてまた一歩を踏み出す。怖くない、そう言い聞かせながら、どんどん早く足を回転させて速力を上げていく。見えているのは一番巨大な白磁牛のみ。それ以外を視界に入れないようにしながら、まっすぐ化物に向かって足を動かす。
牛が気付いて睨みつけるが、スペーラの足は止まらない。
―――ンモオォオォオオオオォォォォ
白磁牛の声が、草原に響き渡る。
一斉に全ての牛の目がスペーラへと向けられるが、漢発入れずにヴァナグが声を上げる。
「マメロォオォ! 手前ェの敵はこっちだぁおらぁああぁああぁ!!」
スペーラは、後ろから聞こえたその声に少し安心する。
周囲のマメロは一瞬体を硬直させると、声の主であるヴァナグへと視線を向け、何かに駆り立てられるかのようにヴァナグへと駆けだす。近くにいるはずのスペーラの脇を通り過ぎ、遠くのヴァナグへと一直線に向かっていくマメロの群れ。
その声に唯一反応を示さなかった白磁牛は、警戒心丸出しでヴァナグを睨みつけ、そのヴァナグが遠くにいることを確認すると、迫ってくるスペーラに向き直る。
―――いいか、私が全てのマメロを引き受ける。その間に白磁牛を一息にヤッてしまえ
ニヤッと笑って、無理だというスペーラに、そう言い退けたヴァナグの顔がスペーラの脳裏に浮かぶ。
後ろに信用している人がいるという状況は、スペーラにとって初めての体験だった。スペーラにとって、他人とは騙し合うものでしかなく、盗賊のなかまになってもそれは変わらなかった。むしろ、いつ後ろから刺されるかひやひやしながら暮らしていたと言ってもいい。
もちろん、話を聞いてくれる人が近くにいると言う体験も、ここ半月の初体験だ。
―――白磁牛はな、目が退化した分、耳と鼻、つまりはかなり五感が鋭くなってる。特に鼻は絶対に攻撃するな。吃驚して暴れ出すからな。
スペーラは目の前に迫った白磁牛を見据える。
倒さなければならない相手。
ヴァナグとシノが言うには、今のスペーラでも一対一なら倒せるだろう相手。
白磁牛は興奮したように足を二、三度地面にこすり付け、頭を低くしてこちらに突撃してくる構えをしてみせる。
―――つの、くすりにできるから、ちゃんとかいしゅうしてね。きりはなしたらやわらかくなるの。なくしやすいから、きをつけてね
シノの、スペーラなら絶対失敗しないと分かっているかのような発言に顔を引きつらせ、その後もらった瓶の中に入ってる紙に「頑張って」と書いてあるのに苦笑したのを思い出す。
「僕はやるんだっ!!」
スペーラが空中に乗り出す為に地を蹴ったのと、白磁牛が突撃する為に大地を蹴ったのは同時だった。
スペーラは体が宙に浮いた状態で、白磁牛がさっきまでスペーラがいた場所に突っ込んでいく様子を見る。そのまま流れで剣を横に薙いで、刃を角に当てる。
しかし角は切れず、返ってきたのは固い物に弾かれた反動である腕の痺れと、周りに響くまるで金属同士がぶつかりあったかのような甲高い反響音。
「うっそぉおおおぉ!?」
「バカッ! 固いって説明したろうが!!」
マメロの大軍に囲まれて見えないヴァナグの声が聞こえる。
固い固いとは言われていたが、まさかそれがどれくらいかは聞かされていなかったのだから分かるはずはない、と言い訳を脳内で繰り返すが、過ぎてしまったことは仕方がない。
五感が鋭い白磁牛が混乱状態になるのが、その角を切られた時。そう聞いたからこそ最初に角を狙ったのだ。別に間違った対応ではない。想定が甘かっただけである。
因みにCランクパーティー推奨の白磁牛討伐は、普通白磁牛が一頭になったときを狙い、武器持ちが白磁牛の怒りを集め、遠くから魔術師が体力を削り、動けなくなったところで止めを刺す、と言うのがお決まりだ。
臨時パーティーの場合はリーダのランクの一つ下の依頼が受けられるようになる。つまり、Cランクパーティー推奨と言うのは、少なくともBランクが一人以上いないと倒せないはず、と考えられている依頼なのだ。
□■□■□
夜の仕事まで終わってふらふらになりながらシノに「おやすみなさい」と告げに来たスペーラは、本を読んでいたシノに問うたのだ。
「わたしのけんのつかいかた?」
「はい」
どんな魔物が相手になるか分からないから、とせめてシノの剣技について聞いておきたいと思ったからである。
「シノ様の剣は何でああも切れ味がいいんですか?」
「きれあじ?」
「ほら、今日ギルドに持ち込んだ魔物いたじゃないですか」
シノが持ち込んだ魔野菜のことである。
「ヴァナグから聞いたんですけど、真っ二つになっても爆発しないのは、死ぬと認識する前に一息に切られたからだって」
「ん」
魔野菜には目も耳も鼻もない。
それでも周囲を認識して、襲い掛かってくる。しかも、敵と認識した瞬間には、自らの死と共に魔核を爆発させて殺した者を巻き込むという置き土産をする準備が完全に整っているという鬼畜具合。
「シノ様の持っているナイフじゃ、普通あんな風に切れないですよね? 少なくともあれだけの切れ味を出すには何かわけがあるんだと踏んだんです」
話が長くなるかもしれないと、スペーラはシノの部屋にある湯沸かし器でお湯を沸かし、お茶を淹れ、エンゼに駄賃代わりに貰っている甘味を添える。
シノは一瞬眉を寄せると、手に持った机の上に置かれた甘味に添えられたフォークを手に持ち、スペーラに向き直る。
「じゃあ、みてて」
シノは、スペーラに木製のお盆を縦に持たせその縁にフォークの先を添える。
スペーラは一体何をするんだろうと、シノとフお盆に添えられたォークを交互に見る。
そしてシノは、フォークをまるで|空気でも切るかのように《・・・・・・・・・・・》そのまま下へと滑らせた。
「え?」
シノはフォークで半分ほどお盆を裂いた所でフォークから手を放す。
お盆は半分まで裂け、フォークはそのまま突き刺さっている。
「え?」
フォークを触ってもピクリとも動かず、木製のお盆に深々と食い込んでいる。
そのうち、真ん中まで綺麗に切り裂かれたお盆はみしみしと音を発してぱっくりと半分に折れてしまう。途中までの綺麗な切り口と、ささくれた切れ目が何とも印象的だ。
「フォークをからだのいちぶとしてかんがえただけ」
「へ?」
「まりょくをやいばのようにはわせた」
「体の一部で、魔力を、這わせる………?」
「それだけ」
それ以上をシノは話さなかった。
話さないというより、それ以上話すことがない、と言った感じだったのでバサルトはベッドに入ってからも悩むことになる。
■□■□■
絶体絶命。
失敗したら絶対に死ぬ。
だからこそ、夜に教えてもらったあの技を試すしかない。
スペーラはそう考えた。
「剣は体の一部。魔力を這わっ」
スペーラが体勢を整え終わる前に、二度目の白磁牛の突進が襲い掛かる。
今度の突撃はスペーラの体を直撃するが、角に貫かれる前に何とか剣を白磁牛と自分の体の間に入れることに成功し、後ろに跳んだことで何とか大部分の衝撃を殺し、少し遠くまで吹き飛ばされながらも何とか白磁牛から目を離さずにいる。
「ぐっ、う………魔力を………ッ!」
体の中から何かをひねり出すような感覚。
詠唱するときは簡単に出て行った魔力は、意識的に外へ出そうとしてもうまく出て行かない。それでも、手から放出するが、それがちゃんと剣に這わされているかは分からない。
白磁牛の下へと向かい、その巨体に剣を這わせるが、巨体が倒れるほどの傷を負わせることはできでいない。
―――てくびはひじとおなじ。けんのさきがゆびさき、だよ
スペーラは思考の中に割り込んできた声に従う。
手首が肘。
剣先は指先。
彼がその声に何の疑いもなく従ったのは、視野狭窄によるものだったのか、信頼することが出来ると本能的に感じたのか。
「これでっ! どうだあぁあぁぁああぁぁぁああ!!」
最初に飛びかかったのと同じ光景。
勢いをつけて飛び上ったスペーラ剣が振り下ろした先は角ではなく、白磁牛の首。
体重を乗せた剣は、白磁牛の首に吸い込まれ、スペーラの意識はそこで途切れた。
もしもこの世界がスキル制とかだったら、ヴァナグのは挑発とかになるのかね。
最後の声ですが、シノが呟いた言葉です。
なんで届いたんでしょーかねー(白目)
もちろんシノは魔術なんて使ってませんよ?
明日は今年最後の更新だ!




