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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第二章 幼少期・放浪開始
43/113

15 調合魔術というもの

 あと二日で一年終わっちゃうよ。

 たった二日しかないよ。

 撮り溜めたアニメでも消化するか。

 ………カラオケ行きたいなぁ


 四十一話! 始まります

 カゾス村中央広場は、実際にカゾス村の中央にあるわけではない。

 本当にカゾス村の中央にあるのは、氷で覆われた湖だ。魔力が多く込められた水の塊は簡単に壊れることもなく、湖は一年中氷に閉ざされている。

 この氷、かなりの耐熱性と保冷性を誇る為、なかなか手に入らないガラスよりも重宝されている。

 街中にある魔道ランプにも使われている。

 地下の魔力溜りから魔力を吸い上げて、寒くなると中に込めた術式が書き込まれた魔核が光り輝くと言った仕組みだ。ここまで贅沢に使っているのはどこを探してもこの村だけだが。


 「さて、氷の買い付けに私が引っ張り出されるとはねぇ………」

 「サバガマナ様、氷とは言え魔力が込められた、自然が作り出した一種の間道具の様な物ではありませんか。今回の遠征のついでに、魔道具を生み出すカゾスの氷の湖の観察に来たと思えばいいのではないですか?」


 カゾスへと向かう高級な馬車の中に居るのは三名。

 一人は老人、一人は商人としてはまだ若く、もう一人は奉公を始めたぐらいの年齢の子供だろう。


 「それよりも私にはしなければならないことがあるんですが、ねぇ」


 ちらっと、代わってくれないかとでも言いたげな目を向けた老人に商人らしき若者は苦笑いを返す。


 「我慢してください。本国からの要請なんですから」


 若者の服装はかなり上質であることは分かるが、それはこの馬車の中で揺られているようなものが着るような服ではない。明らかに、何らかの事情で相乗りしている、と言った感じである。

 逆に老人は大して良い服を着ているようには見えないのだが、その身から溢れる威厳という、なんとも言葉にしがたいものが出ていて、この馬車にとても似合っている。


 「上役たちは『夢』を軽視しすぎていると思うんですよ。あれが真実だとすれば、あの夢を見たとされる子供たちの保護を急がなくてはならないのに………」

 「ファベリズ様は、わたくしたちのような子供の発言を信用なさって下さるのですか?」


 もう一人の相乗りである少女が喋る。


 「信用しているよ。だからこうやって様々な国を巡って子供たちを集めているんだ。最悪、使捨てにされるような子も出て来るだろうから、その前に、ね」


 少し悲しそうな顔をしてファベリズは告げる。

 半分とは言え、その身にエルフの血が入っている為、ファベリズも精霊視の能力を保持している。自分の魔術を最大限助けてくれる、そんな精霊たちが伝えてくれた子供たちが見たと言う『夢』の話。

 しかしエルフが中央政権に食い込んでいるフィデリントでも、『夢』を真摯に受け止める声は少ない。


 「あ、だからさっき子供に話しかけたんですか?」

 「子供?」


 商人の言葉に首を傾げたのは少女だ。


 「さっきこの馬車の横を通った馬に子供が乗っていたんですよ。多分狩人の子供かなんかでしょうが、馬が魔物だったらしく、サバガマナ様はクリュエルさんと同じ『夢』の被害者だと考えたんじゃないでしょうか」


 ですよね? と目線を向けてくる若者にファベリズは苦笑で返す。

 ファベリズの目に、あの少女は明らかに異質に映っていた。普通の人ならばその身から魔力を垂れ流しているはずなのに、その少女からは溢れるほどの魔力は見えず、溢れないということは少ないということになるはずなのに、その周囲には様々な精霊が溢れているというありえない光景が起きていたのだ。

 精霊視が無ければ見えない光景だが、見えてしまえば気になって仕方がないと、案内人もいるというのに声をかけてしまったのだ。


 「向かった方向はあの少女もカゾスでしたし、また会えた時にでも確認しますよ」


 名前も知らないですし。

 そう、残念そうに告げるファベリズの声に、同乗者二人は苦笑する。


 「テントの準備が出来ました。馬車の方の警備につくので、皆さまはテントの方でお寛ぎ下さい」

 「ありがとう」


 彼らがカゾスに付くのは翌日になるだろう。

 もう日が暮れる時間になる。街道の途中に設けられている、休憩所と呼ばれる安全地帯でテントを張って彼らはどんどんと下がる気温の中、温かく過ごす。


 □■□■□


 小島に来たシノは、クロの馬具を外し、いつもの定位置に腰掛けると、クロの鼻面を撫でながら言う。


 「クロ、あそんできていいよ」


 話の種になっていたシノは、小島で本を読み進める。

 シノの服装は、いつも通りだ。屋敷で最後に着た格好。その組み合わせが一番温かい為、必然的にそれを毎日選んでしまっている。

 そろそろエンゼに頼んで洗濯してもらわなければならないのだろうが、シノは特に着替える必要もないかと、放置している。血を出すような魔物討伐はしていない為、草と土の臭いがするだけでさほど臭く感じない、というのも別の服を選ばない原因だろう。


 「まほう、つかえるようにならないと」


 今シノが持っているのは、初級魔術教本。

 書いてあるのはごくごく簡単な事ばかりだ。魔力の感じ方や、魔術の基本的な考え方、魔術の基本的な扱い方、初級魔術の詠唱文など、本当に基礎の基礎しか載っていない本である。

 しかしシノにとっては、たったそれだけでも、普通の魔術を学ぶ機会は無かったのでありがたかった。


 ―――シノ、いい?


 耳の奥で木霊する、母であろう人の声。


 ―――この術は、調合魔術


 顔が思い出せないその声の人は、薬を使いながら、いつも教えてくれた魔術を使っていた。


 ―――使い勝手が良すぎて禁術………にはなってないけど、使うべきではないって決められてしまった魔術よ


 そう真剣に言いながら、調合魔術を使って薬を作り、その一音一音をシノに覚えさせた母らしき声。


 ―――あまり他人の前で使っちゃダメよ。いつか普通の魔術を勉強して、人の前ではそっちを使いなさい。私は適正が無くて使えなかったけどね


 きっとあなたは大丈夫、そう励ましたその人の顔は、笑っていたのだろうか。


 「―――現れよ、水球」


 詠唱をしたシノは、『Aqua.』と言った時とどう違うのか、検証をする。

 詠唱して現れた水の玉は、『Aqua.』と言った時と同じように現れたが、その形を維持したまま、空中に浮かび続けていた。

 シノは調合魔術で呼び出したのは普通の水で、現代魔術で呼び出した水は水と同じような性質を持つ別のモノと考えることにする。何と言っても、普通の水は空中に浮いたりしない。


 「―――現れよ、火球」


 シノの中で一番違いがあったのは、この火球と土球だった。

 調合魔術は、普通に起こり得ることを補助する類のモノであって、その場で効果を持続させるような効果は一切ない。

 現代魔術では詠唱をして火をその場に止めておくことが出来るが、調合魔法では火を出したとしても、燃えるモノがそこに無ければ火は消えてしまうのだ。


 「えいしょう、めんどくさい」


 調合魔術と現代魔術では詠唱の長さが格段に違う。

 だからこそ、この感想に行きつくのだが、普通詠唱なしに魔術が使うとなると、卓越した想像力と莫大な魔力保有量を必要とする。だからどんな高名な現代魔術師でも詠唱を破棄するなんてことはあまりしない。詠唱破棄というのは一種のステータスのようになっているが、命と引き換えに得るようなものでもないからだ。

 そして、本来調合魔術と言うのは、魔力が少ない者でも扱えるように、と言う思いから開発された古代魔術だ。それが開発されたころには、現在まで伝わっている魔術形式以外にも、沢山の形式が存在し、開発されては淘汰されていたような時代であった。

 調合魔術のメリットは、少ない魔力量で一定の効果が見込める魔術的現象を引き起こせる、という点にある。ただしできることは、何かを何かによって作り替えること、何かを性質の同じ別の状態へと変化させること、何かに別の効果を与えること、の三点しかない。魔術名の通り、調合するということを前面に置いて作られた魔術であるから、戦闘には全くと言っていいほど向いていない。向いていないのだが、この調合魔術を修めれば、必ず一定以上の効果は見込める。それがどれほど戦場で重宝されたかは言うまでもないだろう。


 「土壁」


 シノの言葉に応えるように、一瞬地面がカッと光ると、シノが想像した通りの土壁がその場に出来上がる。

 面相臭いと宣言した通り、詠唱はしていない。

 魔術を扱うのに、一番大切なことは何だろうか?

 その問いに、普通なら「自らの魔力保有量と出力できる総量の限界を知ること」と答えが返ってくるだろう。ある意味では正しい。なんせ詠唱と魔術名を唱えればその現象が現れる現代魔術において、それこそが重要なのだから。しかし、シノが教わった、母親から植え付けられたのは、想像力である。

 調合魔術は、現代魔術と同じように詠唱すれば一定の効果を引き出すことができる。しかし一定の効果でしかないのだ。それ以上を望むとすれば、重ねがけできるほどの魔力と、最後まで想像できる想像力が必要となる。

 シノも、シノの母親も、普通ではない魔力保有量だったから、普通気にするようなことを気にしなかった、という面もある。シノは監督してくれていた母親と離れ、一人で調合魔術を扱うようになってから必要な魔力量について、なんとなく理解出来るようになってきているが、まだまだ細かい調整はできていない。魔力切れを起こして倒れているのは未熟な証だ。


 「硬化」


 一音、水を集める『Aqua.』を実行するのに、魔力を1使うとしよう。すると、その『Aqua.』を別の何かに変化させるのに使う魔力は2であり、『Aqua.』を性質の同じ別の状態へと変化させるのに使う魔力は3であり、物に別の効果を与えることで使う魔力は4となる。

 こういう風に考えると極端に魔力使用量が少なく感じるが、コレは詠唱の段階で使用する魔力であり、魔術名が加わると極端に増えていく。魔術名の音節が一つで1、二つで2と言う具合に、詠唱の時に使用する魔力に乗算させて増えていくのだ。

 例えば、カゾスに来る前に暮らしていた洞窟で使用した、『Aqua manera apparet mutari mea. Nam umor retentione. 』という調合魔術。コレは、水のあり方を変化させる物で、瓶の中で恒久的に保湿状態にする、という術式だった。

 この時使った魔力を計算してみよう。

 まず『Aqua.』を性質の同じ別の状態へと変化させるということをしているので、3の魔力を使用している。そして効果を指定した言葉は三節。つまり、詠唱3に効果を3回重ねがけするので、27の魔力消費が求められる。


 「軟化」


 まだ魔力の流れを、正確に意識できていないシノにとって、いくら大量の魔力を保有していても、一瞬でその量を体外に放出しようとすれば、かなりの体の負担となる。だから二節で殆どの体力を消費してしまうし、三節では体がその負担に耐えられず、気絶と言う緊急回避を本能的に選択するのだ。

 なら魔力消費が調合魔術より多い現代魔術はどうなのか、と言うと、詠唱の段階で魔力を少しずつ流し込み発動する為、魔力が体から失われたという倦怠感はあっても、体力が奪われるなどという変化は訪れない。

 今シノがやっているのは初級の現代魔術。

 初級であるが故に、シノが毎日のように感じていたほどの負担は訪れない。調合魔術の、ある意味異常な魔力消費方法で慣れているが故に負担を感じていない、と言った方が正しい。


 「なんで、えいしょうするんだろ?」


 詠唱は、開始地点から終了地点まで、かなり詳しく明記してある、魔術を使用する上での決められた道のようなものだ。生憎シノが借りている初級魔術教本にはそれに付いて詳しく載っていないのだが、師匠の下で教わったり、中級以上の魔術教本には、誰の魔力を使用して、どのような経緯を経て、どんな効果を、その場所に示すのか、どのようになればその効果を終了させるのか、など事細かく詠唱する。その詠唱の細かさで、少々魔力の使用は多いが、その効果を限定することで絶対に求める効果をだすことができる。

 限定しない、普通以上の威力を出したければ詠唱破棄をして、莫大な魔力を一瞬で消費しなければならないのだが、その時に求める現象をはっきりと想像できていなければ魔力は消費されても現象は現れず、現象が不完全な形を伴って現れても、術者に反動が帰ってくる。詠唱をしておけば、途中でその詠唱を止めても、唱えた分の魔力は消費されるが反動が帰ってくることは無い。


 「まあ、いいや」


 知ったとしても、シノにとってはどうでもいいことだろう。


 「えいしょう、いらない」


 シノは初級魔術でできると書いてある出来事を、想像できる範囲で創造し始め、クロが帰ってくる間に、全ての詠唱文を覚えてしまうのだった。

 覚えたと言っても、全文を丸暗記したのは、空中浮遊という魔術だけだ。どうしても空中に浮く、という想像が出来なかったシノは、詠唱に頼ることにしたのだ。

 その代り、空中に透明な板があったら浮遊しているように見えるのではないか、とか、背中に翼が生えて飛べたら浮遊になるのでないか、などなど考え、その考えが今後に生きてくることを期待したい。


 「おかえり、クロ」


 嘶くクロに、シノは前に見た魔物を思いだす。

 天駆系の魔物で、馬の形をしたのが二種類ほどいたのだ。

 一つは有翼馬(ペガソス)。翼をもつ馬で、その多くが白い体表と青い目を持ち、その純白の翼をはためかせて空を舞うように駆けるらしい。図鑑を筆記した者は、最初馬の背が異様に膨れているのかと思ったと書いてある。実はそれが翼であることを知ったときは腰を抜かしたとも、書いてあった。

 もう一つは天斑馬(あまのふちこま)。翼を持たないのだが、天を駆けることが出来、その体表には斑点があり、空を踏みしめるとその場所には炎の足跡が残るらしい。筆記者曰く、見た目が普通の馬と変わらない為判断し辛いが、体に斑点がある馬がいたら、その可能性があるから逃げた方がいい、らしい。

 両方とも討伐推奨ランクはA。

 風を操る有翼馬(ペガソス)と火を操る天斑馬(あまのふちこま)は、方や群れで行動し害が無ければ襲って来ない馬で、方や一頭で行動し好戦的で得物とみると襲い掛かってくる馬である為、討伐の難しさは同程度とされている。


 「かえろっか」


 そうクロに話しかけると、クロは喜んでシノを背に乗せる。

 村の中だから背に乗るといろいろとマズイのだが、湖の上は村の中とは言えないかもしれないとシノは思い直し、宿の方へと戻る。

 シノが、いつかクロが飛べるようにならないかな、と考えていたのは、クロも知らない事実である。

 ヤバい。超説明的文章だった。

 しかも文字列に目が痛む。

 絶対途中で致命的なミスしてそう………

 ↑それでもあげるという奇行


 更新は明日!

 あ、年始までにお話終わらない………

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