13 おかえりなさいませ、ご主人様
メイド服って、英国系から秋葉系までいろいろあるけど、やっぱり自分は英国風だな。
恥じらいを大切にするかのように素肌を隠した長袖とロングスカート。特にロングスカートは足首がぎりぎり見える長さがいいな。あの長さできびきびと動けるメイドさん尊敬します。
なんでこんな話したかって?
読めば分かるさ(笑)
三十九話! 始まります
シノは目覚めるのを一頭で待っていた待っていたクロをギルドの厩舎で受け取り、手綱を引きながら、ゆっくりと宿へと向かう。
一応従魔として登録しているから、手綱を引くことでクロを恐怖の対象としないように、と配慮した結果故の行動だったのだが、どうやらそんなことはどうでも良かったようだ。
「おお! ちっこい英雄が来たぞ!」
「ホントにちっこいな」
お祭り騒ぎをしている者たちは、村内は馬の上にのって移動することを禁じられていると言うのに、シノをクロの上に乗せ、そのまま歩かせる。
「おお、英雄!」
「英雄ちゃん、これ食べてってー」
「おー、それならこれもやるぞ!」
と言う風に、既に|シノがヴァナグに武功を譲った話は広まっており、クロの上で大人より少し目線が高くなったシノは様々な人に話しかけられ、感謝され、屋台の食事を無料で譲ってもらったりして、居心地が悪くなりながらも宿へと帰りついた。
「おかえりなさいませ………ご主人様!」
「………だれ?」
離れることを寂しがるクロを何とか宿の厩舎につなぎ留め、表から宿に入ったシノを出迎えたのは、銀色の長髪に、金色の大きな目、色白の肌に映える誘うような真っ赤な唇をした、胸の無い女性だった。
その服は黒を基調にした女性用の使用人服で、真っ白いエプロンが彼女の白さを際立させている。
「あんら、お帰りなさいシノちゃん。どうかしら、この子?」
泣きそうな女性とシノの会話に入ってきたのはエンゼだ。
今日も女将らしく、きっちりと化粧で決めている。
「かわいいね」
「良かったじゃなーい! 可愛いって!!」
「嬉しくないっ」
頬を少し染めながら否定する女性。
宿の入り口付近で茶番をしていたせいか、その美貌は通りかかる男たちの心をがっちりつかんだようだ。
「おかみ」
「なあに?」
「ようがおわったら、かいほうしてわたしのへやに」
「分かったわ」
「じゃ、またね」
シノはそう言って、使用人の服を着ている、女装した自分の奴隷に言う。
「なっ気が付い」
「はい。まだお仕事あるわよー」
「えっ。た、ご主人様っ! たすったすけてぇぇええぇぇぇえぇ」
ネヴィが女将の趣味、男に完璧な女装をさせるというもの、からにげられたのは、一刻半程の時間が過ぎていた。
「おつかれさま」
「はい………助けてくれたっていいじゃないですか」
ネヴィは、ヴァナグと一晩飲み明かしたことで、既に振り切れたのか、見た目通りの口調になっていた。
「たのしそうだった」
「………否定できない自分が悔しいです」
「そう」
「そんな冷たい目で見ないでくださいっ!」
ネヴィは、ここまで自分と親しくしてくれる人を知らなかったのだ。例え少々変な趣味に巻き込まれていたのだとしても、打てば響く会話に喜んでいたネヴィには楽しいと思える時間だったのだ。
まだ一日目だし、きっと女装には目覚めないだろう。
「そうだ、更新はいつ行きますか?」
女装から抜け出せないと判断したネヴィは、別の話題をシノに持ちかける。
実の所ネヴィはまだパーガスの奴隷として『所有印』で登録されているのだ。それを反故にするには、奴隷商の元まで出向き書き換えてもらわなければならない。
「これから、いく」
そう言ってシノは立ち上がる。
シノが立っても、椅子に座っているネヴィはシノを見下ろす形になるのだが、ふと、今着ている自分の服が目に入り、今から行く、という言葉に目に見えて青ざめる。
「あの、僕着替えて………」
「いまいこう、すぐいこう」
シノは逃がさないとでも言うようにネヴィの袖を引く。
ボロボロになったシノを見ていたせいもあるのだが、ネヴィが子供に逆らうはずもない。
「う………はい」
「そう、なまえ」
「はい?」
「スペーラ・カプセリス………ダメ?」
「名前ですか?」
「ん」
『所有印』の奴隷は、『所有印』で縛る為に主によって名前が与えられる。
ネヴィと言う名は、パーガスが決めた名前だった為、これから新しい契約を作る上で使用し続けるわけにはいかないのだ。
「スペーラ、カプリセス」
シノは名前しか持っていないが、普通は王侯貴族から奴隷に至るまで、家族の一員であることを示す氏を持っている。
「はい、僕はスペーラ・カプセリスです。今後ともよろしくお願いします」
「ん、きにいってくれたなら、よかった」
シノはカバンを肩にかけ、スペーラと共に宿を出る。
シノに向けられる目線もそれなりにあるのだが、やはりシノと手を繋いで歩く使用人風のスペーラに向けられる視線の方が何かと多い。
シノも屋敷で貰った服に身を包んでいるので、どこかの旅のお嬢様とその使用人に見えなくもない。
「ここ」
「ココですね、すみませーん」
「はいはい。っと、ああ、書き換えでしたね。ギルド長の依頼は承ってますよ」
そう言いながらシノの前に現れたのは、少し太り気味な男性。
だがその顔は厭味ったらしく歪んでいたり、利益をむしり取ってやろうと嗤っているわけでもなく、普通の商人のおじさん、と言った感じだ。
奴隷商人を知らないシノは、これが今後の基準となるのだが、スペーラからすると、この対応はあまりにも不気味に思えた。
「ではこちらへどうぞ」
そう言って奥の扉を開き、自ら案内する奴隷商。
こんな小さな村の奴隷商であれば、コレは別に不思議ではない。町や村などに常駐している奴隷商人というのは、犯罪を犯した者や、食い扶持を稼げなくて奴隷に転落した者を強制的にどこかへ働きに行かせる、という役割を持っているだけだ。
その仕事内容はほぼ役人と同じであり、役場と密接な関係にある為、商人らしい強欲が前面に出ることはない。
逆に、スペーラが売買されていたのは結構な街が中心で、貴族と言う上客に高い値段で売りつけることを主とした、本物の商人たちとスペーラは顔を突き合わせていたのだ。
「さて、で、奴隷は男と聞いていたのですが、女性だったんでしょうか?」
その奴隷商人の言葉に、今の格好を思い出したスペーラは赤面する。
「おとこ。で、たのみがあるの」
シノは『所有印』を、首ではなく心臓の上に描く様に頼む。
前もって知らされていたスペーラは何とも思わないが、その頼みを聞いた奴隷商人は目を見開き、口元を引きつらせた。
首であったら首を絞めたり、頭痛を与えたりといった効果になる『所有印』だが、心臓の上に描くと、命令違反を犯せばすぐに死亡、なんてことも有り得るのだ。それでは奴隷に描く意味がないと、首になったのだが、未だに心臓の上に描くようにする|変態《特殊な性癖を持った主人》はいる。
「こどもでしょ? だから、もしものとき、こまる」
「しかし………」
シノは無いと思っているが、もしスペーラが暴れてシノを殺そうとした場合、首に『所有印』が描かれている場合、シノが先に殺されて『所有印』の効果が切れる可能性があるのだ。呼吸困難と心停止、どちらが長く動けるかと言ったら、前者であろう。
シノが子供である以上、それ相応の枷をスペーラには支払ってもらわなければならないのだ。
「僕もそれで構いません。それで主人が安心して過ごせるのなら、むしろその方がいいのかと」
「………分かりました」
不承不承、と言った感じで奴隷商人は頷く。
「わたしはそとでまってたほうがいい?」
「いえ、血液を落してもらわなければなりませんし、ここに座っていてください」
茶と茶菓子を食べながら待っていてと言う奴隷商人の言葉に頷き、スペーラは奴隷商人と共に、隣の部屋に移動する。
化粧を落としていないスペーラが脱ぎにくい服を一生懸命脱いでいく様は、何とも良かったと、奴隷商人は後に語る。
「では、ここに血を」
戻ってきた上半身裸のスペーラの心臓の上には、『所有印』の術式が描きこまれている。そこからまっすぐ利き手である右手首にも同じ模様が刻まれていて、後は心臓の上の術本体に主人の血を馴染ませれば登録は完了する。
シノは奴隷商人に渡されたナイフで親指を少し切って血をだし、スペーラの胸に付ける。すると、青く刻まれていた『所有印』全体が淡く光ったと思うと、まるで定着したかのように、真っ黒い物になる。
「新しい名を呼べば契約は完了です」
「ん。スペーラ・カプリセス」
「はい。シノ様」
無事、『所有印』の書き換えは終わった。
奴隷商を後にした二人は、宿に戻って、スペーラは私服に着替え、シノが借りている部屋で膝を付き合わせていた。
「では、約束通り、自己紹介ですね」
スペーラは、魔族であること、オーガと呼ばれる、強靭な肉体を持ち、魔術を苦手とする一族に生まれたのにも関わらず、そのような姿形を持って産まれなかったこと。物心の付く、オーガにおいて成人とされる年齢になったときには、集落から追い出され、色々あって奴隷になって今に至ると、全てを話した。
「ほんとに、オーガ?」
「そうです。父も母もオーガです」
「ことば、は?」
「あはは、人間の町に隠れ住むことになったときに必死で練習したんですよ」
「ふーん………なら、しってる?」
シノは、メティオノーラに読んでもらっていた本の内容を思い出す。
魔族の中の鬼の系譜。ゴブリンやオーガなどがその中に含まれ、人と同じような形質を持つその系統の弱い者たちは、魔物として扱われることも少なくない。集団で生活し、その生活様式は住む場所によって大きく異なるが、ほぼ人と変わらない。その系譜の始祖と言われるのが鬼神で、人間と同じ容姿を持ち、額に角が生えていたらしい。
「ええ、僕らオーガが神と崇め奉っていたのは鬼神様です。なんでも刀と呼ばれる特殊な形をした剣を振り、海や大地、空まで割って見せたと言われている武の神ですね」
その伝説は多岐にわたる。
系譜の話に戻るが、鬼神とは物理攻撃も魔術攻撃も聞かない霊体化した存在であり、実体を持ち劣化した存在を妖鬼と呼び、半霊体化という劣化をしたものを悪鬼と呼ぶ。その下で人の姿を保っている存在を鬼人と呼び、その遥か下にはオーガ、ゴブリンと続くようになる。
「自分の両親が魔物って言われるのはアレですけど、そうですね。繁殖期になると爆発的に増えますから、ほぼ獣と同じ、討伐対象になってもおかしくありませんね」
「でね」
しかしながら、鬼と言う存在は鬼神から派生した立派な魔人である。先祖返りをして下位種族から生まれることも稀にだがある。
先祖返りをした場合、集落に馴染めず、自らの力も分からず、野垂れ死にしてしまう個体が殊の外多く、鬼の下位種族では先祖の魂を受け継がなかったはぐれ者として扱われることが多いとされている。
「え?」
「って、ほんにかいてあった」
なぜそんな本をメティオノーラが持っていたのかは、シノの与り知らぬことである。
「じゃあ、僕は先祖返りかも知れないってことですか?」
「かもね」
「でも、僕は人間と同程度の能力しか持ってませんよ」
いきなり先祖返りかも知れないと言われて混乱するスペーラ。
「なにか、くんれんとか、した?」
「あ………」
オーガである両親や兄弟たちと訓練などしたら、体のつくりからして全く違う自分は肉の塊であっただろうことを思い出す。
「弱い子は外に出るなって………」
両親のオーガがその時何を考えていたのかは分からない。
しかし、気味悪がりながらも成人までは集落において育ててくれたのも事実だ。
「くんれんすればつよくなるかも。じゅみょうはながいんでしょ」
「そうですね。少なくとも人間よりは長いです。妖精族からすると少し短いかも知れませんが」
「ならがんばって、ひとつきごにはこのまちをでるから」
「え!?」
シノは慌てるスペーラを置いておいて、今後のスペーラ強化計画を考える。今のスペーラはシノにでさえ完膚なきまで叩きのめされるであろう弱さだ。
どうやって自分は強くなっていったっけと、屋敷での訓練を思い出すシノ。
「そう言えば、シノ様の名前を聞いてもいいですか?」
思考の渦から復活したスペーラは、未だ聞いていなかった、主人の本名を尋ねる。
「………シノ。シノ・エル=サ・カーヴァン」
「え………」
「でも、ひみつ」
「あ、はい」
シノが部屋から出て行ったところで、スペーラは名前の意味を考える。
人間に飼われていたからこそ人間の知識は多く持っている。
その名前が、シノが本来こんな場所に居るような人ではないのだと、スペーラは青ざめる。そんな大層な名前を持つ人が何で冒険者となってボロボロになっていたのだろうかと。
「あ、きょうかくんれん、あしたからまいにち。がんばって」
閉まった扉をもう一度開け、シノはそう告げ、下階へ降り、協力者に頼む。
そして翌日。
「お、おはようございます。シノ様」
「おはよ」
朝は誰よりも早く起き、シノに挨拶をし、宿の裏手の空き地で木剣を振る。
「ひと月、雑用として扱わせてもらうわ」
「ん」
「よろしくお願いします」
日が昇れば宿のお手伝い。
仕込みは無いが、注文された料理の配膳や、机の清掃など。
「だめよおー? 女の子はそんな大股で歩かないわ」
「僕男です………」
もちろん制服は女装で、化粧もばっちりキメている。
朝食の皿洗いが終われば、服を着替え村の集会場で武器の鍛錬。
「ああ、スペーラって名前もらったのか、改めてよろしく」
「うげぇ………」
「君のご主人様にビシバシ鍛えてくれって言われたから。私もがんばるよ」
「………お手柔らかにお願いします」
集会場での訓練の合間に、軽食を食べながら読み書きの勉強。
「なになに、早見表? わかりやすいな、コレ」
「シノ様が作ってくれました」
それらがひと段落すると、宿へと帰り、着替えさせられた後翌日分の買い出し。
「何下向いてるの? ほら、私が一緒に行くのは最初だけよ」
「うぇえ………拷問だ………」
夕食の配膳と翌日の朝食の仕込みも忘れずに。
「スピィちゃーん! こっち向いてー!!」
「うぅ………」
「あんらあ? あんまりしつこいと、もいじゃうわよ?」
「ひぃっ、スピィちゃん頑張ってっ!」
配膳をすれば尻を触られ、一日目が終わるころにはスピィと愛称もつけられ、宿の愛されキャラになっていた。
そんな暮らしが続けられ、バサルトの趣味が女装がなりそうな頃、シノはクロと共に山を駆け回り、毎日コツコツギルドの依頼をこなしていた。
「クロ、つぎはきたのやま」
採集が中心となるが、別に上位の魔物を倒してはいけないと言う決まりも無かったので、シノは生態系が変わらない程度に魔物を倒しギルドに売り、その買い取り金額でかなりのお金を稼いでいた。
しかも、薬屋のラエナから入る指名依頼が入り、最初の五日でランクがEへと上がり、一週間もすれば、基準年齢さえ過ぎていればすぐにDへと上げるべきという考査が出るまでになっていた。
「あ、シノちゃん! この前の大猪、鍋にしたから寄っといで!」
「シノちゃん、新しい革製品が入ったんだ。見ていかない?」
「シノちゃん! この前欲しいって言ってた本、手に入ったよ! 今度寄りにきな!!」
と言う感じで、村の人々にも完全に好かれ、シノの冒険者生活の滑り出しは順風満帆といった感じに進んでいた。
そんな状態でいると、当然突っかかってくる駆け出しの冒険者や他の土地から来た冒険者がいたのだが。
「あ? シノちゃんに何言ってんの、お前」
「新人か? それでも子供貶すなんて最悪だな」
「お前のランクいくつだよ。は? C? だったらせめてヴァナグさんに勝ってから出直して来い」
「ん? 誰か私を呼んだかい?」
と言う具合で、直接シノに届く前に全てが叩き潰された。
人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、パーガスを一騎打ちで倒したのがシノだということは、村の中では公然の秘密状態になっていた。しかも、それをギルドが発表しなかった理由も、まだ幼い子がそれほどまでに腕が立つという情報をあまり広めない為に考えた結果とみられていて、ギルドが不興を買うことは無い。
シノはひと月の間、感謝や妬まれたりすることにはなるだろうが、気概を与えられることも無く、至って平穏な採収生活を送ることになるだろう。
「はぁ、腰が痛くなってきましたね」
滞在期間が残り半月を切った頃。
一人の老人がカゾスを訪れるという報せを聞き、村は再度歓喜の渦に巻き込まれる。
その老人の名は、ファベリズ・エル=ジェイク・サバガマナ。魔道国家フィデリントに仕える、貴族の位を持つ宮廷魔道師長その人なのだ。
人に愛されるが、そこに利益があるのではないのかと邪推するのでなかなか人に近寄らないシノ。
それを知らない周囲は、シノに敵対的な意識を向ける者を強制的に排除してしまうから、シノは邪推が邪推だとは思わない。
いつになったらシノから話しかけるようになるのだろうか。
更新は明日かな




