12 冒険者ギルドのギルド長
メモ帳で書いてるんだが、初めてメモ帳のサイズの所が小数点切り上げで書いてあるのに気が付いたよ。
どうでもいいことだよね。
今回ほぼ七千文字。
ドウシテコウナッタ………
三十八話! 始まります
朝のまるで葬式のような恐慌としていた雰囲気はどこかへと飛んでいき、盗賊を滅ぼしたという吉報が村中に駆けめぐり、お祭り騒ぎが決行されている。
そしてお祭り騒ぎ二日目、シノが起き、改めてネヴィが無罪放免となり、シノに話を聞く為にネヴィはヴァナグと共にギルドを追い出されていた。
「で、一体どこへ連れて行く気ですか………」
「ん? 一応シノちゃんが起きて、無罪放免になったんだからさ連れ出しただけが? 君の主人も遊んで来いって言ったじゃないか」
当日は少しぎすぎすしながらも、酒を飲み明かしたネヴィとヴァナグ。二人の間には奇妙な友情らしきものが芽生えていた。
「いえ、だからと言っても変でしょ!? 目的地も告げずに連れ出すなんて………」
「いや、君みたいな優男だったらあいつも気に入るって。私みたいな屈強な男を捕まえては耳元で囁くんだぜ?」
「は?」
ヴァナグをとっ捕まえて耳元で囁く、そういう光景を思い浮かべて、ネヴィは背筋が冷える。
「もっと柔らかかったら………って」
「え? 可笑しくないですか? え?」
その光景はどう考えても考えてはいけない方向へと持って行かれそうになって、ネヴィはその光景を頭から追い払おうと必死になる。
「大丈夫だって、君の主人の泊まってる宿でもあるんだから」
「は? え?」
宿の前では女将のエンゼが掃き掃除をしながら、近所の奥様方と雑談に励んでいる。
「あんらーヴァナグじゃない。ん? こっちの、いい感じの青年はだあれ?」
「よぉ、エンゼ。こいつ、新しいシノの奴隷。やるよ」
「あ、どうも。ってやるって僕は物じゃない!」
「ふぅん? あら、いい体してるじゃない………貰い受けるわ」
一瞬きらりと光った目に後ずさりたくなったネヴィだが、背中を押され、エンゼに腕を掴まれる。
「なっ! え、放しって力強ぉ!?」
「んじゃ、頑張れよ。私はギルドに戻るから」
「うっうわああぁぁあぁぁああああぁぁぁぁぁぁ」
ヴァナグがネヴィを女将に献上したその頃、シノはギルド長との面談を行っていた。
「君がFランク冒険者のシノで間違いないね?」
「ん」
居るのは応接室。
まだシノが完全に回復したわけではないと、言うことでソファーに座っての面談になっている。
「今回の件先に謝罪させて欲しい。君が盗賊と繋がっていることも考えて、囮のような真似事をさせてしまったことを謝ろう。申し訳なかった」
深く頭を下げるギルド長。
「一応、ここで一番腕の立つヴァナグを何かあったときの為に監視として付けたんだが、何か不満な点はなかっただろうか」
「………ない」
不満というか、いろいろと教えてもらってないこととか、来るのが遅かったこととか本人を前にして言いたいことはいくつか浮かぶシノだが、別にその上司に言いつける程のことでもないと、すこし沈黙したもののそう返す。
「そうか、今回の報酬の件なんだが、なぜあの男を欲しいのか、聞かせてもらっても構わないかな?」
「ほうしゅうにえいきょうする?」
シノはわざわざ話すのが面倒でそう聞いたのだが、ギルド長はそうではなく、そのままの意味で捕えたようだ。
「場合によっては影響するかもしれない。何せ彼は直接人を殺すということに関与したことは無いらしいが、魔物を呼び寄せ自らの支配下に置くことで間接的に大量の人間を殺している。いくら奴隷とは言え、それを償わせたいから、なんて言われたりしたら流石に止めるよ」
ギルド長は既にヴァナグからの報告を受けていたし、幼馴染と言っても過言ではない薬屋のラエナからもシノのことは聞いていた。だから、シノをただの子供として見るのを止め、一人の冒険者として話をしていた。
言質を取られて、何かされたら堪らないから、本来なら副ギルド長が行うはずだったこの面談を、ギルド長が行うというのは普通じゃ考えられないことだった。
既に他の冒険者たちは成功報酬を貰い受け、村の祭りの方に出向き、思い思いに過ごしていることだろう。今冒険者ギルドに残っているのは、応接間にいるシノと、その面談を行うギルド長、副ギルド長、書き取りを行っている秘書、後は一階で祭に参加することなくもくもくと仕事に励む幾人かの者たちだけだ。
「りゆうはひとつ。たびにつれてく」
「ふむ。君が速度重視の戦闘方針であることは聞いている。彼を盾にする為に連れて行きたいのかい?」
普通冒険者のパーティーと言えば、前衛、中衛、後衛をそれぞれ務められる人員で構成されるため、最低三人以上で登録することを推奨している。
二人でも一応パーティーは組めるが、ギルド長から見たネヴィは、とてもじゃないが前衛をできるような姿には見えなかったのだが、シノのことを話で聞く限り前衛をさせるしかないのではないか、と思ったのだ。
盾にするしか使い道がないのではないか、と思ったのも一つの理由だろうが。
「ちがう。わたしはこどもだから、そのかわりをさせる」
「成程。確かに実力がどれほどあろうと、普通六歳の子供が冒険者として稼いでいるなんてことは、変としか言いようがないものな」
「こうしょうやくとしてどれいがほしい。けど、ふつうのどれいじゃ、どうなるかわからないから、だからほしい」
ネヴィの実年齢は誰も知らないが、少なくとも青年には見える。
六歳の子供であるシノよりは、上手く対応することが出来るだろう。
しかし、交渉役として魔族の奴隷を欲しがる子供というのも、面白いとギルド長の顔には笑みが走る。
「分かりました。なら、彼も冒険者として登録した方がいいだろう。来月の冒険者講習会まで、君が彼に必要なものを教えなさい」
「ん」
退室許可が出た事で、シノは応接室から出て行く。
秘書も部屋から出て行って書類の整理をするようにとギルド長は命令をする。
「魔族に味方をした、という噂が大きくなれば、ほぼ間違いなく帝国の本部から抗議文が山のように来ますよ?」
副ギルド長は、面倒臭そうにため息をついて今までシノが座っていた、ギルド長の対面に座る。
「別にいいんじゃない? 魔族って言っても、そう大したもんじゃないし。実際の魔族で危ない奴なんて、本当に少ないよ?」
「そう言う事実を言っているんじゃないです」
飄々と言ってのけるギルド長の態度に、額に青筋を浮かべながら副ギルド長は続ける。
「魔族というのは、帝国の教義によれば、人類種最大の敵にして最悪ですよ? そんな立場のモノを味方にしたとなれば………」
ギルド長はこの村出身の冒険者にして、今は村長をしている。
その旅の中で様々な物に出会い、人に出会い、学んできた。沢山の友人もできたし、沢山の死を見送ってきた。そこには当然人間だけでなく、魔族や獣人族や妖精族などもいた。
だからこそシノの、奴隷の種族的付加価値を全く気にしていないという態度に大きく好感が持てたのだ。
□■□■□
冒険者時代にギルド長が拾って育てた息子が豹人種のヴァナグだ。
息子同然に接し、冒険者としてはとても大切な直観に優れたヴァナグの感覚を、何よりもギルド長は信頼していた。
「あの娘、すっごく面白いですよ。しかも、多分本気でやりあったら私より強いでしょうね」
元とは言えBランクの冒険者だった男だ。
力だった負けないだろうが、それ以上に隠し玉が多く、勝てる気がしない、とヴァナグが言ったのだ。
「凄かったぜ、雪豹を倒す瞬間!」
「どんな風に?」
「昨日の土人形を人に見立ててナイフを投げた話はしただろ」
「そうだね、怖かったよね。久々にヴァナグの耳が垂れてて面白かったよ」
家に帰ったら、耳を垂らしたヴァナグが迎えてくれて、なんて息子は可愛いんだろうと思ったのは秘密だ。
可愛いなんて言ったらこの子は一週間ぐらいは無視してくるし。それは私が寂しい。むさ苦しくなったけど、いつまでたっても子供は可愛いな、うん。
「忘れろ。でだ、雪豹の様子が少しおかしかったとは言え、正確に狙ってきた噛み付きをギリギリかわした挙句、後ろに下がった勢いを利用して雪豹の額にナイフを突き立てたんだ」
「突き立てた? 投げたって報告だったけど」
「あー、どっちも合ってる。性格には突き刺さった、だな。でもあの距離と傷の深さからしたら突き立てたって言った方がしっくりくると思う」
「そうだね、あのナイフが柄の所まで綺麗に入っていたもんね」
雪豹の死体は既にギルドが押収していた。
大きさはまだ小さい方で、山小屋よりも二回り程小さかったが、それを考えても、あの鮮やかな切り口には驚いた。
「後はあれだな、パーガスに気が付かせなかった神経毒。他にもいろいろ持ってそうだけどな」
「そうだね」
パーガスは今顔全体が紫色に腫れていて、すごく痛そうだ。
本人喋ったり触ったりするとものすごく痛むらしいけれど、放置している。構ってる暇なんてないし。
「ま、強いことに変わりはないさ」
「そっか」
「それ以上に面白いヤツってことで覚えておいて」
「分かった」
それが、面接が終わった後、二人だけになった時に交わされた会話。
その後ネヴィ君を連れて飲みに行ってしまって返ってこなかったが、まあ大丈夫だろう。
「おや、お前さんもきたのか」
「まあね、一応様子は見ておいた方が良いかなって」
その後、副ギルド長と秘書に全権を任せて向かったのは、目の前の治療院。
まだ目覚めていないというシノちゃんを見に行ったのだが、なぜか教会の神官だけじゃなく、ラエナもいた。
「はぁ………一体この子はどんな風に生活してきたんでしょうね」
「いや、冒険者見習いだったって聞いてたからそれなりに覚悟はできてたよ」
「ん? どういうこと?」
話の流れが分からなくて、聞くと、神官もラエナもため息をついて、シノに目をやる。
「見てみろ」
ラエナは躊躇わずにシノに着せてある、治療院の孤児たちのワンピースをめくり上げる。
「躊躇いないな」
「お前はこんな子供に欲情するのか? それより見てみろ」
「………これは」
まず、腹にある深い刺し傷の跡が目に入る。他にも古い細かな傷や裂傷が見られ、今回パーガスに切られたのであろう真新しい傷がそこかしこに広がっていた。
近くに置いてある、山に向かう時に来ていた服も、かなり修繕を必要とする状態で、どれほどの戦いの中にその身を投じたのか、がよく分かる。
「普通に暮らしてたら、こんな風にはならん」
「普通でなくても、ですよ。一体どんな生活をしたらこんなに傷だらけになるのか、想像もしたくありません」
「そう、だな」
歴戦の戦士がその傷を負っていたならば、まだ分かる。
しかし目の前にいるのは、まだ年端もいかぬ少女で、普通ならこんな傷を負うような生き方はしていない。
これほどの傷を負いながらも戦い、勝利をもぎ取った精神力は、もはや普通ではない。
「ヴァナグから聞いたんだ。この子、毒を食らったんだって」
「ああ、綺麗に拭きとられていたな」
「殆ど毒は残っていなかったわ」
「毒消しを飲んだらしいんだけど、そのあとヴァナグが消毒したらしいんだよね」
「消毒?」
「そう。持ってた酒を振りかけて布で拭ったって」
「なっ」
傷に塩を塗り込むのも、強い酒を傷の上にかけて放置するのも、拷問として扱われる民間療法の一つだ。大人だって泣きそうになるのに、シノちゃんは上半身と太ももを拭くまで、身じろぎはしたものの唇を噛むだけで、泣きもしなければ喚きもしなかったらしい。
「痛みに耐えたのは凄いって言ってたけど、こんな傷を負うような生活をしていたのなら、少しは耐性持っててもおかしくないね」
「………」
悲しそうにシノを見る三人。
「この子の薬の効果は儂が認める」
「ラエナ?」
「家で作ったんじゃ。普通とは言えない薬を手軽に作ったよ、この子は」
「それは………」
それは初めて聞いた。
いつもほぼ採れたての薬草で薬を作っているラエナの所のことだから、ラエナの薬草を使ったのだろうが、それでもラエナが褒めるモノを作り出すことが出来る時点で変だ。この村を出て行って、いまだにラエナにしかられている弟子のひとりである宮廷薬師がいるのだ。
「こっちが与えた薬草で作ったんじゃないかって? いや、あの子は全て自分の手で採取したモノを使って作りおった。もしもそのセンスだけで、実力が無かったら、儂の弟子として、いや娘として側に置きたかったよ」
「………」
「儂にはこの娘を引き留めることができんよ」
何かにずっと怯えてるように見えるが、それが何かわからないから何とも言えないともラエナは言う。
このシノと言う少女は訳が分からないと言った方が正しいのかも知れない。
そして、少女の行先を心配する。
まだ幼いから他のギルドに行けば冒険者として依頼を受けることすら困難になるだろう。旅人として生きて行こうとしても、幼いが故に宿にも入れてもらえない可能性がある。実力があっても、年齢が全てを邪魔するのだ。
■□■□■
少し昨日あったことに思いを馳せていたが、副ギルド長の顔がイラついているのが分かり微笑んでみると、更に青筋を浮かべてきた。
「聞いていませんでしたね? ともかく、私はエビュリーズの本部へ行って、今回の件を報告してきます」
「そうですか、よろしくおねがいします」
主に国として扱われているのは、六百年程前に建国された魔道国家フィデリント、五つの国を一つの教えの下に統一した神聖帝国フロウェル、広大な土地と水資源を持つ農耕国家シシラギヤの三国である。
他にも国としての体制を取っているが国ではなく、都市国家と呼ばれているのが、シシラギヤの属国である、商業都市国家ディルエバーズ、獣人都市国家ラーデラ、妖精族の国である鉱床都市国家ギルドーナ、それと独立していてどの国からも干渉を受けない学園都市国家スコルダス。
それぞれに冒険者本部が設置してあり、本部同士で会話ができる装置が一つずつ存在し、定期的にその装置で会議を行っている。
国や都市によってこの運営体制は違うが、その意志は同じとしている為、今回の「魔族を味方につける」という意見を他のギルドにも伝えなければならないのだ。
ディルエバーズではその集落の長となる者がギルド長を務める為、本部から必ず赴任してくる副ギルド長が上への報告責任を負っている。今回派遣されてきた副ギルド長は少々口うるさいが、必ず自分の意見を持ち、人の意見を聞く耳を持っている分、ギルド長は楽が出来ていた。
―――僕が殺した人には、申し訳ないと思っています
副ギルド長が応接室から出て行って、昨日の会議室で最期にネヴィに聞いた質問の答えを思い出していた。
―――でも、それは生きる為にしたことです
おどおどしていたが、それが本心だということは伝わった。
―――奴隷として、一人の男として、生きるために人を殺しました。殺してしまった人には悪いですけど、僕はそれを恥だとは思っていません
ネヴィと言う魔族の青年は、自分が集落のはぐれ者だったことも、人間に騙され奴隷となってから現在に至るまで、その生い立ちに関することも含め質問にまっすぐ答えてくれたのを思い出す。
―――生きていくのに背負うべき責任の一つだと考えています
冒険者ギルドでは、EランクからDランクへ昇格するときの試験に、盗賊狩りと言うものをさせる。人を、同族を殺すということに、多少の嫌悪感を持ちながらも、将来殺される側に回るかも知れない、という現実を再認識させる為に行うのだ。
極稀に、ただの作業として行う者や、嬉々として楽しんで行う者などもいるが、そういう将来に不安がある者を早期に発見し、監視下に置くと言う意味でも、この試験は重宝されている。
その試験で合格した者の目を、ネヴィはしていたのだ。
「さて、将来有望そうな青年君は、規格外の少女の下でどんな人生を送るんですかね」
『所有印』のある、犯罪奴隷以外の奴隷は、特に何もなく主人の意に沿い続けられれば、五年で一回目の更新期を迎える。そこで主人が再契約しなければ奴隷商の下へと渡り、再契約したらもう数年奴隷として奴隷商の教育下で過ごすことになる。また、解放という手段もあり、主人が奴隷商に金を払い『所有印』を消してもらい奴隷という立場から解放する、というのもある。
「きっと何事もなく五年間を追えるだろうな」
ギルド長は立ち上がり、応接室から執務室に戻る。
いい主に巡り合えた魔族の青年の今後が素晴らしい物になりますようにと、柄にもなく祈ってしまったことに口の端が吊り上る。
「さて、仕事仕事」
いくら村がお祭り騒ぎだと言っても、役場の機能を兼ね備えている冒険者ギルドのギルド長の机には、今日中にこなさねばならない書類が溜まっている。
コレを片付けた後、祭りに参加できるかどうかは、ギルド長の処理能力と、積みあがっている書類の種類、つまりは運にかかっている。
「あれ? 仕事中?」
「おかえり、ヴァナグ」
結論から言ってしまえば、執務室に屋台で買った多くのイロモノを差し入れに持ってきたヴァナグという愛する息子と先日送られた酒を開けることになり、義親子で酒盛りを始めてしまい、秘書に義親子そろって怒られるという一幕があるのだが、それはどうでもいい話だ。
ギルド長は紛うことなく人間種です。
ヴァナグは冒険者として旅をしている時に拾いました。
怖いことがあると、未だに家族の前で耳をペタンと頭に付けます。
義父に撫でられてうれしいと、ゆっくりと尻尾が降られます。
驚くとピンと尻尾がまっすぐ立ちます。
そのどの状態でも顔は無表情を貫きます。
そんなところが女性に人気があるそうです。
更新は明日ーだと思われw




