閑話 シノのクリスマス
SSと言ったな、それは嘘だ。
Shot Story になんてならなかったよ。川orz
本編と少しだけ関係してますが、読まなくてもぜーんぜん大丈夫なんで、なげぇよ! ってツッコミを入れた方は明日まで待ってくださいね。
更新しますから、おそらく、きっと、たぶんっ!
来年はエドワル本家の御息女であるクリュエル様の誕生日会で主人が居ないからさらに盛大にできるだろうが、今年は数日後に帰ってくるだろうからそこまで盛大な物にはできないだろう。
今回は商人としての外出な為、この屋敷の主人代理はエヴァンスになっている。
「ことしは、くりすます、できないね」
と、空を見てどこか悲しそうに言うシノの姿を見て、使用人たちはその訳の分からない『クリスマス』という家の中で行う何かの祝い事のようなそれを実行するために努力をすることに決めた。
そして、絶対に失敗しないように首脳陣が前日から話し合っているのだ。
「いいですか皆さん。『くりすます』とは、家族で食事をし、一年の始まりを祝う為に掃除をし、それぞれが思い思いに贈り物を贈る日です」
「食事の担当はもちろん厨房だ」
「飾りつけは俺たち執事がやっとく。暇だし」
「ならば家政婦は掃除と贈り物の準備ですね」
いろいろと混ざった、シノからもたらされた、シノの母親が言っていたと言う知識を元に、全員が動き出す。
たとえ屋敷の主がいない時でも小屋と厩舎から出ることはないシノを、もっとこちら側に引っ張る為に。
その動きに狂いは無かった。
□ 厨房 □
厨房では、全員が初めて見るレシピに目を通していた。
食前酒は置いておいて
卵と酒と牛の乳を使って作る『エッグノッグ』。
前菜になるサラダ類には
新鮮な魚を切って野菜を乗せ、香草と果実を絞った油で作ったソースをかけて食べるサラダの一つ『カルパッチョ』
塩漬けにされた魚を細かく切って油と酒を加えたソースで野菜を混ぜ合わせ、盛り付けてから焼いた鳥のもも肉を添える『シーザーサラダ』
一種類の野菜を基本として作り、香草と少量の具材で味を調えた『チュウのスープ』と『ポロシのスープ』
サラダにも、腹にも溜まる、卵とポロシを中心にして作る『ガレット』
メインとして
ミミを丸々一匹焼き上げ、腸を取り出した空間に香草で和えた野菜を詰め込んだ『ローストチキン』
外側をしっかりと焼き上げ、塩とファマンと香草で周りを味付けしただけのマメロの肉塊『ローストビーフ』
牛の乳から作る製品をふんだんに使い野菜や海産物をあえて、上にチーズを振りかけて焼き上げる『グラタン』
そして最近シノと共に作り上げた、細く固い麺を茹でて、様々なソースをかけて食べる『パスタ』
ほかには細々としたものを作り、沢山の種類のデザートで机を彩る。
それが、今回厨房が一手に背負った料理の数々だ。
「調理長」
「なんだ」
「この量………本当に作るんですか」
「当たり前だ。当主がいないからこそできる、この屋敷ならではの祭だぞ、全力を尽くせ」
「は、はい!」
シーブのいつになく真剣な目に、その料理人はそこまで人いないし難しいんじゃ………と思っていたが、直ぐに考えを改めさせられた。強制的に。
「料理長!」
「おう」
「この『ろーすとびーふ』と言う料理のソースですが、この前料理長に合格をもらったあのソースを使っていいでしょうか!」
「そうだな、甘くて辛いソースならお前のものも合うだろう、任せた」
「はい! 任せてください!!」
そう言った感じにてきぱきと、自分の担当の料理が決まっていく厨房の面々。
「所で料理長」
「んあ?」
「料理長は何を?」
「俺はこの『ろーすとちきん』だな」
そう言って『ローストチキン』のレシピを手に持つシーブ。
「それはなぜ………」
「じゃあ聞くがお前ら、馬と同じくらいの高さの鳥を絞めて殺した後、腹を掻っ捌いてちゃんと調理できるか?」
「………」
それは忌避されている狩人の仕事だ。
実は前日までに情報屋を巻き込んで、過剰戦力組で野生の肉は生け捕りにして外壁と内壁の間に放し飼いにしてあったりする。
翌日情報屋が情報屋としての仕事ができない程、魂が口から出て行ったような状態になっていたのは致し方ないことかもしれない。
「適材適所だ。俺も分からないところがあるが、聞いてくれればなんとかする。さあ、夜が期限だ。作るぞぉ!」
「はいっ!!」
元気のよいいい返事の下、覚書に等しいそのレシピと睨めっこをしながら料理を作っていくシーブたち厨房の料理人。
外壁と内壁の間で嬉々としてマメロやミミを捌く料理長を見て、捌き方を学ぶために同行した料理人は飛び散る血しぶきに耐えられず、失禁して気を失ったとか。
「料理長! この、角が立つ少し前ぐらい、と言うのはどういう状態なのでしょう」
「それか。それはこうやって泡だて器を持ち上げた時にピンと立つだろう?」
「はい」
「完全に泡だった状態、つまりこのピンとたった状態の時が角がたった、と言う」
「はい」
「角が立つ少し前、と言うのは、ピンと立ってはっきりと固まっていたはずの状態の者が緩やかに崩れていくぐらいの固さだ」
「はい! わかりやすい解説ありがとうございます! やってみます」
「頑張れよ」
という、若手の料理人の質問から。
「料理長、この『かるぱっちょ』ですが」
「何か問題か?」
「果実を絞った油、と言うのがですね。いつも使っている油は動物性の物なのでそれで作ってみたのですが、臭みがひどくて、食べられた物ではありません」
「そうか………どうしたものか」
「あ! もしかしたらあれが使えるかもしれません、少し待っていてください!」
「おう」
そう言って走って行った料理人が、目に青あざを作って大事そうに一本の透き通った瓶を抱えて戻ってきた時は、全員でこの短時間に何があったのか目を剥いた。
「これ、僕の故郷の油なんです。ピルゥって言う植物魔物から採った油なんですけど、臭いが少ないから手の荒れを押さえるのに使ってる物なんですけど………」
「でかした!」
「はい! 是非使ってみてください! もし使えるのであれば故郷の特産品にもなりますし!」
「そうだな。料理に使う油が動物のものだと臭いを取るのに一苦労するからな。この油が使える様だったら、俺が調理ギルドの方に正式使用を打診してみよう」
「わあ! ありがとうございます!!」
「さぁ、作ってみてくれ!」
「はい!」
と、新しい特産品が生まれていたり。
「本当にミミを一頭使うんですね………」
「ああ。羽もも毟ったし、内臓も全て摘出して洗ったら、ここからならしょんべん出さなくても見れるだろう?」
「は、恥ずかしいんで言わないでください」
「ははは、頑張ろう」
「そこは確約してください………」
ミミの首と足先は切り落とされ、調理用の糸で首の穴は縫われ、内臓が詰まっていた場所に刻み香草と植物油で和えた野菜がこれでもかと詰め込まれていく。
「コこれは一発勝負だからな。スープ類や『ぐらたん』の下味のソースのように作り直しができない」
「………」
「まあ、きっと大丈夫だろう。気を付けなければならないのは窯の温度調節だ。一定の温度を保って一刻程度焼き続けなければならない」
「はい」
「八刻を示す鐘が鳴ったら窯に入れて、九刻を示す鐘が鳴ったら窯から出さなきゃならない」
「料理長」
「なんだ」
「料理長が詰め込んでいる間に八刻を示す鐘が鳴りました」
「………」
「………」
「窯に火を入れるんだ! 急げ!!」
「はいぃいぃぃぃぃ」
コントみたいな光景が厨房で行われたり。
少しずつではあるが、料理が形になって来た。
□ 庭 □
庭では、エヴァンス率いる比較的暇な執事組が、以前家政婦たちが作った拳大の飾を庭の木に飾り付けていた。余った布で作った作品で、ほとんどは使用人の館のカーテンを閉める為に使っていたものだったり、
「執事長………」
「文句を言わずに付けろ。まだまだあるぞ」
「あの、全部つけてしまったら室内に飾る分が無くなるのでは」
「………その考えは無かった。そうだな、室内に飾る分も残さなければ」
庭の低木の葉が見えないくらいに付けられた飾に、そんな変なものは無いはずと思っていた執事たちは、若い執事長の暴走の収束にほっと溜息を落す。
「そうだな、俺の思う物とお前らの思うものは違うかもしれない、何が案は無いか?」
飾で木を覆い隠す、という暴走は止まったものの、それがダメなら案を出せと行って来たエヴァンスの強制的な提案に、必死に頭を動かす執事たち。
「あ、夜が本番でしたら、木の端々に光玉を置いてみてはいかがでしょう?」
光玉とは、溜めた魔力の量に比例して光り続けるように術式が描きこまれた拳より二回りくらい小さい魔石である。
屋敷の部屋の中は全てこの魔石の光で補っており、特殊な装置の中に入れなければ、魔力を放出し続け、光り続けると言う魔石である。
「そうだな。なら倉庫にあるまだ使用済みのものも未使用のも含め全て持って来い」
「ひぃ」
ここの執事はそれなりに若い者が多いとは言え、ほとんどの者の年齢は、それなりである。
石が大量に入った箱を全て持って来いと言う肉体労働がどれほど大変なのか、それは年をとってみないと分からないことだろう。
「どうした? この前破棄した魔石がいくつかあったな。よし、それらに術式を書き込んでもらいに行ってくるから、お前らは光石を使用中のもの以外全て集めてここで魔力を込めていろ」
「あ、執事長っ」
「足早いっ」
執事たちが止めようとしたとき、既にエヴァンスの姿はそこに無かった。
もちろん彼が行ったのは情報屋の家だ。
魂が抜けたように椅子に座っていた情報屋は、「付かれたときはホットミルクが一番ですよ」と言われ、そうなっていた元凶にそのミルクを拭きだし、その償いの為にこの町で公認ではない術式彫刻ができる刻印系の職人を紹介し、この町で不要な魔石がどこに運ばれ、どうやったら手に入れられるかを吐かされる。
翌日になって、あれは全てエヴァンスの策略だったんじゃないかと思う情報屋だが後の祭りだ。
「よし、倉庫へと行こう。とにかく持ってこなければ」
「そうだな」
倉庫はシノのいる小屋よりしっかりとした作りになっていて、雨漏りもしなければ風が吹き込むことも無い、そんな埃をかぶった荷物が陳列している倉庫の中から目当てのモノを見つける。
「コレを運ぶのは流石に無理があるぞ」
「だが、この箱が無いと中の光石に込められている魔力は放出していってしまうだろうから、このまま運ぶしかないぞ………」
執事たちは、三人がかりで持ち上げるのがやっとな、光玉が入った箱を目の間に唸る。どうにかしてあの場所まで運ばなければさらに辛い要求がエヴァンスから突き立てられるかもしれない。
それだけは避けたい彼らは、救世主の登場に天を仰ぎたくなった。
「………どうした、の?」
四歳の、ほぼ人形と変わりないシノが倉庫の執事たちを、その透き通った青い瞳で見つめていた。
今ならエヴァンスのシノ=天使説もなんとなく分かると頷いた彼らは、『くりすます』の事はぼかして、運びだす手段が無いかシノに尋ねる。
シノはそれを一通り聞いて少し悩むと、シノでも使えるように勝手に首脳陣が改造した荷車を持って来る。
「これ、つかって」
「ありがとう」
「使わせてもらうよ」
それで何とか庭の低木の所まで運び、腰を下ろして休憩がてら厨房からもらった軽食を食べながら使用済みの光玉に魔力を込めていく。
一定の量以上になると、内側から溢れ出してくる魔力を押さえながら込めなければいけないから大変だ。
「まりょく、いれるの?」
荷車がどうなったか見に来たシノに無事につけたお礼を言い、魔力を込める球がまだまだたくさん積みあがっているのを見て、ため息を付く執事たちの姿を見て、シノが手伝うと言い出したのだ。
そして、シノが触った瞬間、それ以上魔力を込められない程に魔力が込められ、光り出す光玉を見て、唖然とする一同。
「ダメ、だった?」
首を傾げるシノに、そんなことは無い、助かった、と言うと、気を良くしたシノは、使用済みの光玉に魔力を込めまくり、全部が光り輝くと同時に倒れる。
「お前ら、何してんだ?」
そんな中帰って来たエヴァンス。
片眉を吊り上げ、手ぶらで帰ってきたエヴァンスは、ブチ切れる一歩手前という雰囲気で、泣きそうになる執事たち。
「いえ、どうやら光玉に興味があったようで、ともに魔力を込めたのですが、多分込めすぎたのでしょう。魔力切れと思われる症状で倒れました」
「………そうか」
「ええ、それで今介抱しようかとメティオノーラ家政婦長に指示を仰ごうかと話していたところです」
「よし、俺が家政婦長にシノを届けよう」
エヴァンスが強引だがそっとシノを自分の腕の中に奪い取る。
「所で、外での成果はどうでしたか?」
比較的若い執事の一人がそう言ったところで、周囲の執事たちは「おいバカやめろ」と叫びそうになったが何とかこらえる。
「それがな、使用済みの魔石は粉々に砕かれた後でな。刻印技師の情報まで奪い取ったのに、その刻印技師は腕を折っていて使い物にならなかった。まったく散々だったよ」
その答えかたが、何とも思っていない淡々としたものだった為、無茶な要求はされなさそうだと安心して息を吐く。
「ああ、そうだ。俺が家政婦長の所にシノを連れてく間、その光玉全部色が変わるようにと、空中にも浮かべられないか考えておいてくれ。その方が派手で綺麗だしな」
「あ、執事長っ」
「足早いっ」
シノを抱えてゆっくり歩いていたはずのエヴァンスの姿は既に無く、残った執事たちは、頭を抱えてどうしようかと話す。
色を変える事は簡単だ。光玉の一部にへこみが付いていて、そこに顔料を一定の量垂らせば紅玉は色を変化させる。
誰もいない屋敷の中の、カール坊ちゃまの趣味の一つであるお絵かきの顔料を少しばかり拝借し、色を付けることには成功する。
しかし、空中に浮かべる、ということに対してはいい案が浮かばず、結局エヴァンスが連れてきた、海辺に家があったと言う奴隷の少年に丸い球を落さない為の結び方を教わり、空中に光玉をとどめておくことに成功する。
もっと派手にしようと言っていたエヴァンスを止めることが一番大変だった執事たちである。
□ 食堂 □
尊敬できない主人か暮らす本邸の方を掃除する必要はありません。
すこし汚れていたとしても気が付かないような、そんな方ですから。
とにかく今はこの使用人の館を綺麗にしなければならない。
「いいですか、あなたたちは、全ての部屋において、埃ひとつ残すことは許しません」
「はい」
「そしてあなたたちは、この時期に欲しいと思うでしょうセーターやニット、手袋などを編みなさい」
「はい」
「では、何か分からないことがあったら私に直接聞きに来なさい。私は食堂で机にかけるレースを編んでいますから」
メティオノーラの解散! という声できびきびと散って行き仕事に取り掛かるメイドたち。
「メティオノーラ家政婦長」
「何でしょうか」
「全ての廊下の掃除が終わりました。私の担当場所が終わったので、編み物を手伝ってもよろしいでしょうか」
一番早く掃除が終わったその家政婦が、他の仕事をくれと頭を下げる。
基本的にメティオノーラが抱えている家政婦たちは、若い人材が多いせいか、素直でよく話を聞く者が多い。来年には本家のほうから熟年の家政婦と交代でここから居なくなってしまうが、とても優秀な家政婦だ。
「いいですよ」
「はい!」
「ああ、そうだわ」
確か、この子は木片の細工が得意だったはず。
「はい?」
「もし自分が作れるもので、もらって嬉しいような物があれば作っておきなさい。全て包んでしまうからそれにあたるかどうかはわかりませんけど」
「はい! やってみます!!」
メティオノーラがにっこりと笑って言った言葉に、感情のまま微笑み、その若いメイドは、メティオノーラが集めてきた、様々な形木片などが置いてある場所に座ると、細かい作業に没頭していく。
「あ、あの」
「どうかしましたか?」
そんな時、メティオノーラに話しかけたのは奴隷たちだ。
仕事を与えられずにぼうっとしていたのだが、全てを綺麗にしろと言われた家政婦たちに部屋を追い出されてしまって、右往左往していたのだ。
「僕たちにも、その、仕事をください」
「そうですか、では」
メティオノーラは立ち上がる。
ビクッとする子供たち。
「皆さん、このレースの続きを編める者はいますか?」
「はい! 私が編めます!模様の所は拙くなるかも知れませんがいいでしょうか?」
「ええ、いいでしょう。大きさはこの机をはみ出すぐらいです。私は、この奴隷たちを綺麗にしてきます」
「いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃいませ!」
食堂に居る家政婦たちの一糸乱れぬ頭を下げるという行動に目を白黒させながら、メティオノーラは奴隷の子供たちの服をひん剥いて、地下の浴場へと放り投げる。
「みなさん、そこに在る者は何でも使って構いません。身綺麗にしなさい」
「は、はい………」
「いいですか、彼らも綺麗にする対象です。一つの穢れも許しません。では、この子たちの服を買いに私は町へと行ってきます」
「いってらっしゃいませ!」
「いってらっしゃいませ………?」
奴隷の子供たちの服を買いに、中古の服屋へと向かうメティオノーラ。
情報屋の所によって、一番安価でしっかりした服の手に入る所を教えてもらった方が良いかもしれないと考えたメティオノーラだったが、既に何度も彼を頼ってしまったこともあり、なんとなくそこまで頼るのは癪に思えた為、情報屋の所に駆け込むなんてことは無かった。
「すみません」
「はい、いらっしゃい」
「子供服が欲しいんですが」
「女の子ですかな? 男の子ですかな?」
「そうですね、両方います」
「そうですか! ではこちらの服はどうでしょう」
服屋の店主は、カモが来たと一番高い服を売りつけようとした。
「こちらの服は、あなたほど美しい女性の息子さんなら絶対に似合うと思いますよ。新しい製法を使っていて、最近貴族にはやっている、裏側のお洒落という、服の裏地にちゃんとした布を扱っている服となっておりまして………」
ぺらぺらと話し続ける店主は放っておいて、メティオノーラは勝手に店内にある服を物色し始める。
「………と、なっているんですが、どうでしょうか?」
「そうですね、それは要りませんので、ここの棚からここの棚までの子供服、全て購入します」
「………はい?」
店主は耳を疑った。
最初は服を要らないと聞こえたのだが、まさかのまとめ買いのお客様だとは思っていなかったのだ。
「はい? 聞こえませんでしたか? ここの棚から、この棚までの子供服、全て買うので包んでください」
「えっと、お金はあります?」
「いくらですか?」
「ええと………」
かなり大量になる服を全て引っ張り出して、一つ一つの金額を確認し、袋に詰めていく。もしこれで「要りません」なんて言われたら怒る自信があると、そう思いながら、全ての子供服の金額を算出する。
「は、8306メクと3テルとなっています………」
「そうですか」
そう言って、メティオノーラは金貨を五枚、こともなげに置く。
少し大きいかもしれませんが、大丈夫ですよね? と首を傾げるメティオノーラの様子に店主は唖然を通り越して蒼白になりながら、お受け取りしますと幽鬼のようになりながら言い、お釣を返す。
「お、お釣の、1693メクと7テルです………」
「ありがとう」
メティオノーラは、銀貨八十四枚と、大銅貨二枚、銅貨三枚をもらい、じゃらじゃらしたその袋をエプロンのポケットに突っ込む。
荷物はあまりにも多いので、屋敷の門の前においてもらえるように頼み、同じように水を良く吸収する清潔な布を大量買いして、屋敷に戻る。
その布と服を数人の家政婦と共に持ち運び、綺麗にされて浴槽に浸かっていた奴隷たちを引っ張り出し、奴隷と同じ人数の使用人に頭を体をその布でふかせて、一人ひとり、服を二枚ずつ選ばせる。
そして、片方の服を部屋に置いてまた食堂に来るように言い置いて、その場を離れると、二階の部屋で悲鳴がし、向かってみると、掃除中の部屋の中でごそごそと何かを探す男。
「何をしているんです?」
「いえ、ちょっと荷物を探しに………ここらへんにあったはずなんだけどなぁー」
「はぁ………」
「あなた、一発拳を打ち込んで正気に戻ってもらいましょう」
「はいっ!」
右目が少し変色しましたが、どうやら隣の部屋と間違ったようで、いつも目印にしてある扉にかけてあるプレートがこの部屋にかかっていたから間違えたのだと話して、緑色で透き通っている液体の入った瓶を抱えて隣の部屋から出て行った。
「さあ、仕事の続をしましょう」
「はい!」
少しすっきりとした顔をしたその家政婦に安心し、一階の食堂に戻るメティオノーラ。
そして、身綺麗になった奴隷たちにどんなことが出来ることが聞いている時に、シノを抱えたエヴァンスが入ってくる。魔力をいきなり大量に使ったことで倒れたと聞き、今しようとしていることを聞き、役に立ちそうな奴隷の少年をエヴァンスと共に行かせる。
「さあ、料理もあと少し出来るそうです。ラストスパートですよ!」
「はいっ!」
シノを抱えて、メティオノーラは自分の部屋へと入り、シノをベッドに寝かせる。
料理が運び込まれるまで何もできることが無い為、シノの側で本を読むことにするメティオノーラ。
■ シノ ■
目を覚ますと、豪華な部屋で、暖かい布団の中で目覚めた。
「おはようございます、シノ」
「………おはよ、う?」
「さぁ、『くりすます』パーティーが始まりますよ。食堂に行きましょう」
メティオノーラに手を引かれ、シノは食堂へと入る。
中には、この屋敷のすべての使用人が居た。
厨房に詰めている料理人から、屋敷の管理をしている家政婦に、主人を公私共に支える執事も、雑用を一手に任されている奴隷でさえも、この空間には和気あいあいとした、何かを達成したかのような雰囲気が漂っていた。
「どうも皆さん、この屋敷の管理人代理であります、エヴァンスです!」
演技の入ったその様子に、使用人のいたるところからヤジが飛ぶ。
「はいはい、食事したいですよね、そうですよね。では、本日の『くりすます』パーティーのメイン料理! 怪鳥ミミを丸々一羽を焼き上げた『ろーすとちきん』!!」
食堂の入り口がバーンと大きく開き、シーブが両手でギリギリ抱えられる皿を持って入ってくる。
「どうだぁ! ミミの『ろーすとちきん』だ!!」
ドンっと机の上に置かれたその大きな鳥だった者は湯気を出して、美味しそうな匂いを発していた。
「では皆さん、パーティーの開始の合図に、グラスを持ってください。さぁ、全員持ちましたか? 俺は持ってなくても平気だぜなんて顔は止めてくださいねー」
笑いが巻き起こる。
「では、無礼講の、皆で作り出した『くりすます』パーティーに、乾杯!」
「かんぱーい!!」
男も女も、少年でも壮年でも、奴隷と貴族でも、この屋敷に仕える者たちは全員、今この会を満喫していた。
「シノ嬢、どうだ? 俺たちが作った『くりすます』パーティー」
「嬢ちゃん食ったか? どれも厨房で試行錯誤したんだぞー!」
「シノ、どうですか? 『くりすます』パーティーです」
シノは茫然としていた。
いろいろと母親から話されていたが、シノにとって、クリスマスとは、薬品を整理し、薬品をしみこませたお守りを贈りあって、母親特性の木の模様をした『ケーキ』を二人で食べて、その夜はいっぱい本を読んでもらう、そんな日だった。
「あ! 雪だ!」
そう言って駆けだしたのは、やはりまだまだ子供である奴隷の少年。
それにつられるように、飲み物や食事を手に持ち、外へと繰り出す使用人たち。
空から白い雪が降り、使用人の館の一番上の真ん中の部屋、メティオノーラの部屋から伸ばされた紐に美味いこと括り付けられた様々な色の光玉が白い雪を照らし輝く。
「シノ嬢?」
「嬢ちゃん?」
「シノ?」
やはり何か違うことがあったのかと、三人は三者三様に不安な顔をシノに向ける。シノの為を思ってやった事だったが、他人の感情の機微に疎く、サプライズという言葉とは無縁の環境で生きてきた三人にとって、あまりにも無謀な物だったのだ。
「こんな、クリスマスは、はじめて」
そう言ったシノの感情の籠らない声に、三人は失敗したと思った。
一芸に秀でていても、やはり、ダメなのかもしれない、と。
「たのしい、ありがとう」
その言葉で三人は打ちのめされる。
その言葉だけで嬉しいと。
三人がシノから抜け出せなくなった瞬間だった。
□ 後日 □
シノは親方の小屋に遊びに来ていた。
親方に剣を教えてもらう為である。
「シノちゃんは何してたんだ?」
「このまえ、クリスマスパーティーやった」
「へぇ、生誕祭か………誰の?」
「? ………わたし、の?」
「え!?」
タクは焦る。
シノは、首脳陣が自分の一言で始めた企画だから、それは自分の為に始めたのだと思っている。間違いではない。間違いではないが、タクの勘違いは深まっていく。
「やっぱり、プレゼントとかもらった、のか?」
「ん」
頭を抱えて項垂れるタク。
「だい、じょうぶ?」
「んーあー。うん。そうだ、俺からもプレゼントやるよ!」
「でも、クリスマスは、おわっちゃった、よ?」
「あーいいのいいの。}誕生日が過ぎても気持ちはいつだって渡していいんだから」
そう言って、タクは、この前冬の手仕事で手伝った分の給金で買ったナイフを、自分の寝床の下から取り出す。
「はい」
「? もらって、いいの?」
「やる! 今度来たときまでに剥ぎ取り用の小さ目のナイフ作っといてやるから! とりあえず今はそれで!」
耳まで真っ赤にしながら立派なナイフを差し出してくるタク。
「ありがと、う?」
シノは、そのアンカライトナイフを鞘から引き抜き、鈍く光る刃を見つめる。
「気に入ったか?」
「ん」
タクもきっと、この時こぼれたシノの微笑みにやられたことだろう。
■ 後日談 ■
成人している者たちは酒を飲み浮かれ、中には泥酔した者もいて、屋敷中の模様替えが大幅に遅れ、屋敷の主人たちが帰ってくるその時までずっと片づけを続けていた。
色を付けた光玉の色が戻らなくなってしまい、騒いだ証拠隠滅ができないと、困った使用人たちだったが、首脳陣の発言で救われた。
「カール坊ちゃまのお誕生日にお出しする料理や飾り付けの準備を皆で一丸となってしていたのです。その結果このようなことになってしまいました。お許しください」
「そうか。では、必ずカールの誕生日会を成功させろ。成功しなかったらお前たちはクビだ」
もちろんカール坊ちゃまの誕生日会は大成功を収めました。
心のこもっていない料理の数々は、あの『くりすます』パーティーで出された料理に少しも及ばず、精緻に飾られる飾りからは思いなど全くなく、使用人たちからしてみればかなり味気ないその誕生日会だったが、それを知らないカールからすれば、過去最高の誕生日となりましたとさ。
結局コレ、だれ視点なのかよく分からない………
ぶっ続け三時間で書いちゃいけないんだ。
因みにちょっと先を予告すると、一章&二章がシノ中心のお話、三章はタクの話で、四章は決まってなくて、五章はシノ中心で中核の面子が揃う! って感じなよてい☆
今思った。
クリスマスでSS(嘘)上げたってことは、次は正月?
正月のSS考えなきゃならんのか!?二章がギリギリ終わるか終らないかぐらいにまた閑話かー………がんばろー




