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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第二章 幼少期・放浪開始
38/113

11 はぐれ者

 痕跡を全く残さずに家へと侵入し、その甘さをあざ笑うかのように枕元にブツを置いて行く窃盗犯を捕えましたか?

 え? 捕えられなかった。それは残念でしたね。また来年もその窃盗犯は侵入すると思うんで、その時まで英気を養っておきましょう。

 ふむ、なぜ私が彼を窃盗犯と知っているか、ですか?

 それは………っと、来客が来たようです。


 三十七話となります。メリークリスマス!

 ネヴィは普通の人間と同じくらいの力しか生まれつき持っていなかった。


 □■□■□


 魔物として討伐対象にもなるオーガの一族に生まれたネヴィ。

 生き難い世の中だから、と両親は気味が悪いと蔑みながらもネヴィをオーガとして少しの間、成人になるまでは育てた。

 しかし、普通のオーガと見た目が大きく異なり、深緑で堅い皮膚も、真っ赤な瞳も、生き物を捻りつぶせる腕力も持っていない、病的なほど真っ白な柔らかい肌に、金色の瞳、白銀の髪を持ち、種族の誇りと言ってもいい角を持たないネヴィは、当然仲間だとは思って貰えず、早々に村から追い出された。


 「人間なら………」


 しかし所詮ははぐれ者。

 スラム街に住みつき、人間の言葉を覚え、仲良くしようと努力をし、近所付き合いをしようと笑顔で接することを覚え、人として生きようとしたが、よそ者に向ける優しさをその町では持ち合わせていなかった。

 その働きぶりで良く思ってくれる人たちは少なからずいたが、それ以上にその病的なまでの白さの肌は恐れられ、人が寄り付くことは無かった。

 あれよあれよと言う間に騙され、気が付けば奴隷となって売られていた。


 「まだ、頑張れる」


 最初にネヴィを買った人間は、男性としての体力をあてにしていた。しかし、人間と同程度の体力しかなく、十分な食事も与えられないネヴィは、その主人の望む成果を上げられずに奴隷商の下に戻された。

 魔力の保有量は多かった為、次の主人はネヴィに魔術を教え込んで弟子にしようと考えていたようだったが、いくら練習しても弱々しい初級魔術しか扱えなかった為、別の奴隷商に転売された。

 それから何度も売られたが、どこへ行ってもはぐれ者。自分の居場所を見つけることが出来なかった。

 そんなある日、奴隷を運搬している馬車に盗賊が襲い掛かってきたのだ。


 「へぇ、魔族じゃん」


 盗賊の頭領をしていると名乗った男は、共に乗っていた女性の奴隷を部下らしき男共に下げ渡し、男にも盗賊になるか死ぬかを選ばせ、生き残った男も部下に下げ渡した時、ネヴィを見てそう言った。


 「へぇ、魔族が奴隷をしてるなんて、珍しい物があるもんだ」


 その男パーガスは、首にある『所有印』に自分の血を垂らすと、盗賊『黒羊』へようこそ、と笑顔を向けてきた。


 「お前は今日からネヴィって名前だ。いいな?」


 パーガスは下げ渡された女に飽きた部下たちを集め、新しく加わった奴隷たちを紹介する。


 「あー、ネヴィは何ができるの? 魔族を仲間にしたことは流石に無いんだよねー」


 自分にも分からないと言うと、以前商人から奪った笛があると言い、命を削る代わりに魔力を放出し魔物を呼ぶ、という効果ある笛を出してきた。

 それを吹くと魔物が集まってきて、なぜか魔物が懐いた。


 「僕たちが吹いたときは敵対されたんだけど………まぁ、それが魔族の特有能力なのかなー」


 それからは、魔物を呼び寄せけしかける、という役割をもらった。

 当然魔物を操る盗賊団としてかなり有名になり、仲間の盗賊も増え、パーガスの首にかかった賞金はどんどん上がっていく。

 所詮は奴隷。

 いつ殺されるかビクビクしながら、笛を吹き続ける。


 ■□■□■


 血を流しすぎて蒼白になってるシノは、無茶な要求をヴァナグに押し付けていた。


 「盗賊を倒したと言っても信用はもらえない、知っているのはギルドだけでいいから、その代わりにこの魔族を渡せ、と」

 「ん」

 「しかしね、この男は魔族である前に奴隷であり、盗賊の一味なんだ。奴隷商の元まで行った時点で犯罪歴が出るだろうし、そう簡単に渡せるもんじゃない」

 「そこをなんとかすればいい」

 「無茶言わないでくれ。パーガスの賞金と名誉だけじゃ足りないな」


 ネヴィは、今自分の置かれている状況を上手くつかめなかった。

 いつの間にか現れた豹人の手には、最近パーガスと良く酒を飲んでいた男と、以前盗賊一味から抜けた女が引きずられていた。しかもあんなに強かったパーガスは、子供に一蹴され伸びている。

 しかもその子供は、ネヴィが魔族であることを知っているのにも関わらず、身柄を欲しがって来たのだ。魔族に悪い意味での縁があって、殺すためにその身を差し出せと豹男に言うならばまだ分かる。

 しかし子供は、奴隷として魔族を欲すると言ったのだ。


 「なら、ストーリーをつくればいい」

 「ストーリー?」

 「しゅぼうしゃと、きょうりょくしゃと、はんぎゃくしゃ」


 それぞれ、首謀者に棟梁のパーガスを、協力者に『森の探索者』の二人を、反逆者に魔族のネヴィを、指を指して指名するシノ。


 「ここにいるのはわたしたちだけ」


 口裏を合わせれば誰も知らないことになると、そう告げるシノ。

 シノの言いたいことはヴァナグもよく分かっていた。

 元々、『森の探索者』が盗賊に協力しているという事実は、冒険者ギルドとしても知っていたのだ。しかしながら『森の探索者』はそれなりに実力のある、極平和なディルエバーズでは珍しいCランクパーティーだ。その情報がどこからか洩れれば彼らは直ぐに逃げるだろうし、無用な軋轢を生みたくなかったギルドは放置した。

 こうも簡単にヴァナグの手に二人が収まっているのは、シノと言うイレギュラーがギリギリになって介入してきたから、と言える。


 「要するに、だ。奴隷で魔族であるこの男が、勇敢にも盗賊の頭領の元まで君を案内し、君が私に連絡をして、危ないところを助け、パーガスはお縄についたと。そういうストーリーを広めてしまえばいいと?」

 「いろんなところにおんがうれる」


 ギルドとして、魔族と結託して一つの盗賊団を打ち滅ぼしたとすれば、魔族を毛嫌いするような連中からは不興を買うことになるだろうが、逆に少なく差別され気味な魔族の冒険者を確保することができ、同時に魔族と確執を持つつもりはないとアピールすることでさらなる戦力の確保を期待できる。

 それは、魔族の冒険者が様々な功績を打ち立てている今、冒険者で高ランカーだった者がが盗賊に手を貸していたという事実よりも大きく世間に伝わることになるだろう。


 「はぁ………仕方ない。報酬の件はそういう方面で上に通してみよう。君の成功報酬は無くなるがいいのかい?」

 「いらない、さんかほうしゅうだけでいい」


 参加しただけで銀貨一枚がもらえたのだ。

 そう言えばそうだったとヴァナグはため息を付き、ネヴィを近くへと手招きする。


 「人は見た目を気にするもんだ。その男にシノを抱えて村まで戻るか」


 ヴァナグはパーガスに近寄り、体のそこかしこに仕込んであった武器を数々を取り外すと、軽そうに肩に担ぎ、乗ってきた馬に縛り付ける。『森の探索者』たちは首を引きずられた状態のままだ。


 「そういえばどうして?」

 「ふむ。………そこらへんでうろうろしていたからな。とっ捕まえて尋問したら仲間の一人だっていったから当身を食らわせて気を失わせている」

 「ふーん」


 クロはシノを心配そうにシノを覗き込む。

 普通に会話をしているシノだが、コートのあちこちから血がにじみ出ていて、右足の太ももには大きな穴が開いてしまっている。


 「だいじょうぶ、くすりはのんだよ」


 それでも心配なクロ。


 「どれ、見せてみろ」


 パーガスへの縛り付けが、絶対に緩まないように調整し終えたヴァナグが、シノのコートを引っぺがす。

 抵抗しない、抵抗するような気力が残っていないシノは、そのままコートを引っぺがされ、寒さに体を震わせる。


 「おいおい、軽装備にも程があるだろ………こんな装備で賞金首相手にしてたのか………」


 シノは防具らしい防具は身に着けていない。

 唯一全く損傷が無いのはメティオノーラがくれた手甲だけで、チュニックもズボンも、かなりの損傷で破れそうになっていた。

 一番安い皮鎧でも着込んでいるのだろうと思っていたヴァナグは青ざめる。もしパーガスがシノを侮っていなければ、ここで倒れていたのはシノだったのだから。


 「パーガスの武器には毒が塗られていたようだが………大丈夫なのか?」

 「ん」


 通常攻撃に使っていた片手剣はもちろんの事、シノの足に刺さったナイフにもそこまで強くはないが、即効性の毒が仕込まれていた。常に自分の作った薬を飲んでいるシノは毒に強かったから即効で効果が表れず、現れてもすぐに毒消しを飲んだからすでにその効果は消えている。

 そしてもう一本、アルテからもらった回復薬を飲んでいた。完全に治すまでの効果は出ないが、太ももの穴を埋めるくらいには治してくれている。

 しかし、それらで処置をしたとしても、体外の毒が消えるわけでもなく、血の流れが完全に止まるわけではない。毒消しの効果が薄まれば、傷口周辺から再び毒が体内に入り込むことにもなりかねない。


 「応急手当だ」


 ヴァナグはネヴィにシノを押さえているように言い、シノのチュニックを破き、ズボンの破けているところを切り取ると、懐から酒が入った水袋を取り出す。


 「痛くても我慢しろよ」


 ヴァナグは口に酒を含み、飲み込んでしまいたい衝動に駆られながらも、シノの傷口に吹きかける。それを清潔な布でふき取り、大きな傷の場所は別の布で丁寧に圧迫していく。

 痛みで体を離そうとするシノをがっちりとネヴィが掴んでいて、その場で唇を噛んで耐えることしかシノにはできなかった。何度か同じことが繰り返され、ヴァナグの終わりだ、という声でシノは息も絶え絶えに倒れそうになった所をヴァナグに抱えられ、ヴァナグのコートに包まれる。


 「うし、良く耐えた。ネヴィ、だったな。この子を抱えて付いて来い」

 「あ、ハイ」


 ネヴィは、コートに包まれたシノを受け取って驚いた。

 あんなに勇猛に戦っていた少女は、本当に子供だったのだ。大人が傷を付けようと思えば簡単に傷つくだろう、細く折れそうにも思える、その肢体。

 一度目を開いたシノだったが、ネヴィが予想以上に混乱してどうすればいいのか慌てている様子に目を細め、安全だと判断しその腕の中で意識を沈ませる。

 クロはシノが静かにネヴィの腕の中で寝ていることを見て、ネヴィを危険ではない者、として判断し大人しく村へと下るヴァナグとネヴィの後ろについて行く。


 □■□■□


 腕の中には今にも崩れ落ちてしまいそうな少女、前には屈強で頭領と剣戟を交わしていた協力者を軽く伸してしまえるだろう強者の獣人、後ろには少女が乗っていたどう見ても普通の馬とは思えない従魔の印が付いている魔物らしき馬。


 「どうしてこうなった………」


 はぐれ者は、人間の少女を抱えてただ混乱していた。

 山を下ると、仲間だった盗賊の死体と自分が呼び寄せた魔物の死体が多く転がり、中には完全に武装している冒険者らしき者も無様に転がっていた。

 生きている者は総じて上から降りてきたヴァナグを見て安堵した表情となり、縛られた賞金首のパーガスを見て歓声を上げる。

 盗賊団を打ち滅ぼした、という成果は誰の目にも明らかで、ネヴィが魔族であることを誰も気にも留めなかった。

 むしろ、小さい子供を守った勇気ある者として、褒めてくる人間が多くてネヴィは混乱したほどだ。


 「とにかくギルドに向かう。君の処遇について上と話し合わなければ」


 ヴァナグに言われるがまま、初めて人間の村に、歓迎される形で入るネヴィ。


 「盗賊の脅威は消えた! 皆自分の家に戻って良しっ!!」


 中央広場で集まってきた人々にそう告げたヴァナグの声に、一泊の間の後、歓声を上げる住民。

 近くにいる者の肩をたたき合い、恐怖で目から滲んでいた涙を笑いながら拭い、良かった良かったと口々に言って喜び合う。酒だ宴だと、方向性が変化した歓声に苦笑するヴァナグ。

 ネヴィは、その雰囲気に触れるは初めてだった。

 盗賊の時は感じたことのない高揚感が、ネヴィを襲う。


 「おい、こっちだぞ」


 ネヴィは呼ばれないと反応できないほど呑まれていたことを認識し、羞恥に少し頬を染めながらヴァナグの入って行った建物の中に入る。

 中に居た人にヴァナグは巻き込まれ、すぐに見えなくなってしまった。

 どうしようかとネヴィがおろおろしていると、老人が近づいて来て、腕の中のシノを受け取って神官のような白く長い服を着た女性と共に階段を上がっていく。


 「お主もこっちに来い。ヴァナグも早く来るんじゃな」


 一階でもみくちゃにされるヴァナグを置いて、ネヴィは先に二階へと上がった。

 二階の会議室と書かれたところまで来たときにはヴァナグが追い付いた。

 中には一人の老人と、その秘書と思われる人が待っていた。


 「では、今回の件。詳しく話してもらおうか?」


 にっこり笑ったその老人に、まるでパーガスのような凄みを見て、ネヴィは青ざめる。死を宣告されたような、冷たい声に突き刺されたような感じを味わいながら、普通に説明を始めるヴァナグに追従するように全てをさらけ出すネヴィ。


 「そうだったか。さて、ネヴィ君」

 「は、はい………」

 「ようこそ、カゾス村へ。歓迎するよ」


 なぜか頬を温かいものが流れる。

 ネヴィの運命は、ここから動き出した。

 この時のシノの装備は、奴隷たちの作ってくれた草編みの靴に、クロのカバンの中に入っていた量産品のコートとチュニックとズボンなので、耐久性はありません。

 生きててよかったね、シノちゃん!

 そしてまさかのクリスマスに仲間が増えたよ!

 ここに当たるとは思ってなかった(゜。゜;)


 明日更新できるかな?

 さて、クリスマスSSでも準備するか………

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