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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第二章 幼少期・放浪開始
35/113

08 栄養剤をつくろう

 寒いよ!

 感想来て心が温かくなったよ!


 三十四話! 始まります

 薬屋には、昼過ぎである為か、休憩時間になっているのだろう。誰も居なかった。

 別に急ぎの用事では無い為、シノは待合室になっているソファーに腰掛け、誰かが出て来るのを待っていた。


 「さー、午後の営業開始かなっ!」

 「ねぇ」

 「うひぃ! ………こ、ども? えっと、何か用かなー?」

 「くすりやさんのラエナさんによばれた」

 「薬屋、ラエナって………師匠に、用? って呼ばれたって、昨日の………師匠(しっしょぉおおおぉぉ)! お客さん来ましたよー!!」


 直ぐにどたどたとした足音が響き、昨日宿であった赤髪の初老の男性が階段から降りてきた。

 印象的なのは、ラエナ爺が心なしかつやつやして微笑んでいるのに対し、弟子だと思わる者のほとんどが、目の下に隈をこしらえ、疲れた顔をしていることだろうか。


 「来てくれたか、さぁ、調合室へと案内しよう」

 「ん」


 二階へと上がり、調合室と書いてあるドアを開けると、かなりの異臭が漂ってくる。シノには懐かしいと感じるその臭いだが、初めてコレを嗅いだものは吐き気を催しもう二度と嗅ぎたくないと思うに違いない。様々な薬の調合。その最中に抜け出して来ればこのくらいの臭いになるのだから。

 薬屋は、全く顔をシノの様子に満足そうにうなずき、やはりかなりの手を持つ調合師の端くれなのだろうと確認し、そのまま自分の調合台へと案内する。


 「これが儂のすり鉢じゃな」


 その台に置いてあるすり鉢は数種類あり、そのどれにもさまざまな色の液体がこびり付いているにも関わらず擦り減ってはいても欠けてなどいない、そんな長年愛用してきたのだろうすり鉢が置いてある。


 「べつのも見せて」


 シノはそのすり鉢を一瞥して、すぐにそう答える。


 「ほぉ。おい、儂のお古をここへ持って来い」

 「つかってないやつ」

 「聞いたか? それでいいようじゃ」


 ラエナの弟子が用意したのは、誰も使っていない、過去ラエナが使っていたもの。つまりは、ほとんどがお古で、あまりにも老朽化していたり、使えない理由があったり、そういったわけあり物ばかりだ。

 そして、弟子が持ってきた一つのすり鉢に、ラエナは眉間にしわを寄せる。だが、何も言わない。


 「ん、きめた」

 「どれかの?」

 「コレ」


 シノが指を指したのは、ラエナが眉間にしわを寄せたすり鉢。


 「シノ、それが何か、分かっているのかな?」

 「ん」


 もともと、ラエナの秘蔵の品として蔵にしまってあったはずのものだが、弟子の誰かが興味をもって何かを作ろうと引っ張り出してきたのだろう。あとでその弟子には多大なる後悔を与えなければと、ラエナは眉間のしわをほぐす。


 「それは毒鉢だぞ?」


 調合師から薬師になる為に、一つだけ使いこなさねばならない機材がある。それが、毒鉢、と呼ばれる機材である。

 合わせ方によって毒にも薬にもなる薬草を扱う仕事だ、毒を作り出すこともできなければならないということで、自らの手によって作る鉢である。見た目は普通のすり鉢だが、普通のすり鉢は、木や石をくり抜いて作られているのに対し、毒鉢は毒を持っている魔物の体内にある、毒に耐性のある石をくり抜いて作るのだ。

 毒鉢は、もともと毒に侵されていた石故に、毒に強く、大抵の事では壊れない高い耐久性を誇る。


 「使いこなせるのか?」


 毒に耐性を持つということは、微量ながらその毒鉢は毒を持っていると言うこと。調合師の腕が未熟だったり、材料のあわせが悪かったりすると、毒鉢から毒が染み出して、薬になるはずだったものが毒薬に変わったなどということも珍しくはない。

 益になる薬だけを作るのならば、ある意味不必要、調合師によっては嫌悪の対象にしかならない毒鉢を選び取ったが故に、ラエナは心配になってしまったのだ。


 「ん」


 こともなげに頷くシノ。

 このすり鉢を指差しただけで、決して持ち上げないことから、既にこの鉢のことを分かっているのだろうとは思っていたラエナだが、ここまでとは思っていなかった。

 なにせ後ろで弟子のひとりが呻いているのだ。毒鉢を素手で掴んで持ってきたが故に、手が荒れているのだろう。


 「でも、これはかなりりっぱ」

 「そうじゃの。手放すのが少し惜しいぐらいじゃ」


 少し。謙遜でもなんでもなく、それはラエナが過去に自らの手で作り出した作品であるが、少々毒の要素が強すぎてお蔵入りを果たしてしまったすり鉢なのだ。

 ちゃんと使用できる者が居れば譲ってもいいと思っていたものでもあるから、別に痛手ではない。


 「とうか、こうかん」

 「む、その毒鉢は金で買うことはできないぞ」


 等価交換とシノが言って、直ぐに金を連想したラエナだが、もともと譲るつもりでいたのだ。すぐにそう連想してしまったのは、思っていた通りの高い評価が嬉しかったから、と言うのが妥当だろうか。


 「そざいか、わたしがくすりをつくる」


 それじゃあダメ? と首を傾げながら見つめてくるシノの様子にラエナがノックアウトされるが、そこは弟子の前。まだ師匠としての威厳を保っていた。


 「まずは素材を見せてくれるかの? 弟子たちの勉強にもなるからな」

 「わかった。べんきょうだい、ね」


 シノは一旦帰って素材を持ってくると言い、クロを連れて戻ってくる。

 ラエナはその間に調合室の空気の入れ替えを行い、弟子たちと共に荒れている調合室を整える。


 「これ、もって」

 「お帰り。よし。このカバンを持てばいいんだな」


 ラエナは弟子にクロの馬具の後ろについていたカバンを持たせ、調合室へと戻って行く。

 カバンを持った弟子は、大きさに対して、まるで何も入っていないかのように軽いそのカバンに首を傾げるが、開けようとしてもなぜか手が滑って止めているボタンを掴むことさえ出来ないので、諦めて調合室まで運ぶ。


 「ここに」


 シノは調合用の低い椅子に座り、ラエナが指し示す台の上に小瓶を大量に並べる。それぞれ小瓶の蓋の色が違うだけで、中に何が入っているかは見た目では分からない。

 瓶を買うことも作ることもしないシノにとって、メティオノーラが選んで入れたのは耐久性を第一に考えた焼物の瓶なのだ。中身が見えるはずもない。


 「これはどうやって見分けてるんだい?」


 弟子のひとりがシノに質問する。


 「ふたにしみこませてある。においといろではんべつ」

 「………だめだ、俺は全部緑色にしか見えない」

 「………いや、師匠と高弟の人たちは違いが分かるみたいだから、俺たちも修業すれば」


 中に何が入っているか、それぞれ蓋の色を見比べたり、その匂いを嗅いだりするが、経験のない物に分かるはずがない。

 コレはもう、冒険者登録でもさせてしまおうか、と悩むラエナ。


 「ラエナさん、そざい、これでぜんぶ。いまもってるのはこれだけ」

 「そうか、これだけ(・・・・)か。ここ(調合室)にある物よりも多い気がするがのぉ」

 「とうぜん。ふつうつかわないものもだしてる」

 「普通使わない物?」


 調合室にある薬の材料は、毎日のように作っている薬を生成する為に使う材料だ。当然量は増えるが、種類は少なくなる。

 調合室でしか薬草の類を見たことがない弟子のひとりは、普通使わない薬草、というものが分からなかったのだ。


 「トゥーとか、カラッタのようえきとか」

 「見せてもらっても?」

 「かまわない」


 シノは小瓶を全て脇へと押しやり、その中から何本か引き抜いてラエナに渡す。

 一本は深い緑色をした蓋で、他は元の蓋の色が茶色だからくすんで見えるが、黄色だったり、紫だったりと、もとはかなり明るい色だろうと想像できる色の蓋をしている。

 ラエナはそれぞれの蓋に鼻を寄せ、臭いをかぐ。


 「確かにトゥーだな。こっちの強い香りはカラッタと言ってもいいだろう」


 シノは、回してもいいか? と目線でと言わせてくるラエナに頷き、蓋を開けないことを条件にその瓶を渡す。弟子たちが論議を交わし、ラエナが講義を始めるという光景を見てから、カバンの中からシノは自分のすり鉢を取り出す。

 ラエナ程ではないが、それなりの回数薬を調合してきたのが分かる一品だ。


 「おや。何か作るのかい?」

 「ん。どくばちのおれい」

 「ここで見させて貰ってもいいかな?」

 「かまわない」


 高弟の一人が、講義に熱が入ったラエナに苦笑しながら、シノの調合を見守る為にシノの側に腰掛ける。

 その高弟は、今ラエナが抱えている弟子の中で一番の実力を持った弟子であり、弟子の誰もが兄貴として尊敬できるだけの技量と人柄を持っていた。だからと言うか、初めての場所で調合するシノの為に少しぐらい便宜を図ってやろうと、その高弟はシノの側で見守ることにしたのだ。

 当然技術を盗もうなどとは思っていない。

 師匠が優秀な才能の塊を連れてきた、程度にしか思っていないのだから。


 「………何をするんだい?」

 「あっためてる。そうしないとくすりのいたみがはやくなる、から」


 シノはすり鉢に薬を入れるのでは無く、両手で包み込むと言う奇行をしたのだ。そう聞きたくなるのも当然だろう。

 高弟は知らなかった。

 薬の劣化が変わるような条件は聞いたことも無かったし、教えられてもいない。素材が大量に手に入る村の薬師であるからには、劣化したら捨てて新しい薬を作ればいいと考えるのが常識であるから、気にする必要もなく、考え付かなかった、と言うのが正しいのかもしれない。


 「『“Stone” quasi ad repraesentandum effectum expectionem. Calefiebat.』」


 小声でつぶやかれたその詠唱は高弟の耳には届かなかった。

 すり鉢はシノの手の中で、一定の温度を保ち続ける。

 シノはすり鉢を机の上に置き、いくつかの薬草を中に入れ、丁寧にすり潰していく。そのままペースト状になるまですり続けるシノ。


 「ラエナさん、トゥー」

 「おお、すまんすまん。ほれ」

 「ん」


 トゥーの小瓶を受け取ったシノは、ためらいなくその蓋を開け、中の液体をすり鉢に注ぐ。

 その光景に、ラエナも含め、この場にいるもの全員が目を見開いた。


 「光ってる………?」

 「いやまさか、光る水? ってなんだよ………」

 「あれの中ってトゥーだろ? なんで水が出て来るんだ?」

 「トゥーって苔じゃなかったっけ? 俺が使ったことあるの、乾燥しかけてたけど、光ってたことなんてないぞ………」


 弟子の驚きは、トゥーが入っていると言われていた小瓶から光る水が出てきたこと。


 「完全な保存状態での、水分放出………成功した者はだれもいない、伝説的なものだって………」


 弟子は、その高弟の呟きに首を傾げる。シノ側に座っていた高弟は、ラエナと共に洞窟に行ってトゥーを採取した最後の弟子だ。ラエナが自分以上に驚いているのを見て、これがどれほど凄いことなのか、改めて考える。

 トゥーはかなり繊細な苔で、トゥーラエの這った岩の受けに群生し、トゥーラエが通り過ぎると、最速半年で全滅する。トゥーそのものにも大量の水分が含まれており、その水が無くなると薬として扱う事はできなくなる。つまり、トゥーが重要と言われているが、本来使用したいのは、トゥーが自身の体内で変質させる水の方なのである。

 保存方法も過去何例も考えられ、魔術による水柵でトゥーを保存しようとしたものが一番友好的だったが、トゥーの劣化が止められる、ということは無く、まずトゥーが劣化する前に魔術師の魔力が枯渇する事態に陥ってしまったために断念されることになる。


 「できた、えいようざい」


 シノの手元にあるのは、鈍い光を発する、どろどろの液体状の何か。

 まず発光している時点で食指は動かず、弟子たちは口に入れる物ではないと本能的に判断すが、たえなは嬉々とした顔でそれを匙で救い、少し舌に垂らす。


 「うぅ………これ、は………」


 苦しそうな顔をしているが、その効能を実感し、ラエナは胸を押さえてうずくまる。

 しかしその様子に高弟は明らかに師匠が歓喜しているのを感じ取り、自らも同じように舌に少し垂らし、その場に倒れた。


 「つよすぎた………」


 シノが呟いた言葉は誰にも届かない。

 原液はそれなりに苦いので、今までシノの周りには何かに混ぜて薄めてからしか飲ませたことが無かった為、こんな強い効果が出るなんで考えたことが無かったのだ。

 ラエナの弟子たちは慌てて高弟を担ぎ上げ外へと運びだし、胸を押さえ相変わらずうずくまる師匠に水を差し出す。それを煽るようにしてラエナは何杯目か分からない程の水を飲み干した後、シノへと目を移した。


 「これは、何の効果があるんだね?」

 「たくさんのえいようがとれて、かぜのよぼうになる」

 「一滴でかなりの効果が見込まれているようだが」

 「ふつうはおおきいなべにひとさじいれる」


 普通の人は原液をそのまま飲んだりしないとシノは訴える。


 「ほぉ………こりゃ、毒鉢だけじゃ採算があわないのぉ」

 「べつにいらない、もらえればいい」

 「そうかい」


 ラエナがうずくまっている間に既に小瓶をカバンにしまっていたシノは、鈍く光るその薬液を、ラエナが水を飲んでいたコップへと流し込み、すり鉢を洗う。布でふいてカバンへとしまうと、その布にトゥーの水をしみこませ、それで毒鉢を包むと、カバンの中に入れる。


 「あ、トゥーはこさじで五テルってほんと?」

 「あ、あぁ。普通の冒険者たちが持って帰ってくるトゥーはこんな感じなんじゃよ」


 ラエナはシノに、『森の探索者』が持ち帰った、もうあまり効果が見込めないトゥーを見せる。それはシノが持っているようなトゥーではなく、きれいな緑色をしていないし、瑞々しくも無ければ、乾燥して少し茶色っぽくなっていた。

 シノが持っているトゥーは、瓶の中でめきめきと成長を続けており、その表面からは水が放出され続けていて、弱まる処かどんどん逞しくなってきている。


 「しかし、そのトゥーはまず持ち込んでもトゥーだとは思われんだろなぁ。こういう自然の中で暮らしている薬屋はともかく、街中の薬屋やギルドに持ち込んでもまず買収すらしてくれないだろう」

 「うるつもりない」

 「そうじゃの。特に保存方法に関しては極秘事項と言っても過言ではないからの。なるべく自重して使いなさい」

 「ん。………まだいっぱいあるから、いる?」


 小瓶を羨ましそうに見ていたラエナの視線に耐えかねたシノは、ラエナに小瓶を渡すことにする。一年以上は持たないと告げ、シノはクロと共に薬屋を後にした。


 「凄いですね! この薬」

 「いやー、やっぱトゥーって凄いんだな! 俺も早くトゥーを扱えるようになりたいっ!!」


 そう口々に叫ぶ弟子たちに、ラエナはため息をつく。

 トゥーは最も扱いにくい薬草の一つだ。大蛇の住処でしか見つからず、それも山奥に自生しているから、というのが一般的に知られている扱いにくいとされている理由だ。川を上流まで遡り、湧水が出ているところに自生していることが多い為、決死の覚悟を持って行けば、気力のみでたどり着けるのだ、けっして採取そのものが難しいわけではない。

 本当に扱いにくいと言われる理由はそこではないのだ。

 採取しにくいというのは表向きの理由で、保存方法がない、調合時トゥーを調合する場合は一定の温度に保たなければならない、などなど、上げていくと果てしないほどの問題点が見つかる。他の薬草とすり合わせてしまえばあまり気にすることでもないと言われるが、その効力は大きく変わる。熟練の調合師であれ、トゥーの扱いは最高難度を誇っていると言われているのがそれらが原因だ。

 温度の調節に関しては、トゥーを扱う時だけ木のすり鉢を使うが、それでも上手くいかないことが多い。金属や石のすり鉢だと温度調節が難しく、一定の品質の薬を作ることさえ出来ない。


 「シノはこれから大変じゃろうのぉ………貴族の権力闘争なんかに巻き込まれなければいいが………」


 ラエナは、弟子たちに今日見たことは心の内に止めておくようにと厳命し、夕食にしようと弟子と共に食卓へと着く。

 既に暗くなりかけている室内に、シノが作った栄養剤が入ったコップが鈍く光輝いていた。

 ラエナの妹弟子って誰なんだろ―なー(白目)

 トゥーが凄いのではなく、シノも凄いんだけれども、一番凄かったのはシノの使う調合魔術(古代魔術)だと言う話。


 栄養剤の行方は………また今後のお話で。


 明日投稿するはずー

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