02 氷村カゾス
シノちゃんが洞窟を出たよ!
二十八話! 始まります
まだ広げ始めたばかりだったせいか、かたづけは早々に終わった。
彼らが乗ってきた馬は近くの木に繋がれていて、荷物持ちを思われるもう一頭もそこにいた。
「クロ」
シノがクロを外に出すと、見るからに繋がれた五頭の目に怯えが走った。
それを無視しながらシノはクロの馬具の確認をして、軽くまたがると、『森の探索者』たちの所へと近づいて行く。
「シノちゃん………その馬って………」
「黒曜馬の幼生体、か?」
シノは生まれてからずっと世話をしてきた馬でしかないので、彼らが何に驚いているのかが分からなかったが、馬という単語から、きっとクロのことを言っているのだろうと考える。
「しのちゃん、一体その馬をどうやって、いやどこで手に入れたんだい………」
「そだてた」
「キミが?」
「ん」
彼らは驚いていた。
その理由は沢山あるのだが、クロに関して言うならば、成体になるとBランクパーティーで討伐依頼が出る雑食の魔物である黒曜馬の幼生体が居るということ、しの黒曜馬がありえない程シノに懐いていること。さらには、Aランクパーティーがテイムした黒曜馬を荷物運びに使っているという話を聞いたことがあった為、クロの積載量に驚いていた。
シノにとってはお産の時からの付き合いである為、普通の馬となんら変わりのない相棒でしかないのだが。
「育てたのか………一体キミは何者なんだろうな」
「んーふつうのひと」
それは違うと突っ込みたかった面々だが、冒険者見習いとして町をお出された経緯だろうと思っている面々が、勝手に貴族の落胤として勘違いをし、幼いのに放り出されたことから、きっと両親の顔も知らないだろうと思われ、シノに質問が来ることもそれについてさらに追及してくることも無かった。
「とりあえず行こう。急げば夜明前にはつける」
シノはそんなに遠いのか、と思いながら、一番後ろをクロに乗ってついて行く。
クロという存在が真後ろにいて、他の馬たちはかなり急いでいた。普通じゃなかなか出さない速度に『森の探索者』たちは馬たちを哀れに思いながら、それでも全く速度を落とさずについて来るシノとクロに恐怖すら感じるのだった。
「ココが俺たちの拠点。カゾス村だ」
既に日は暮れ、点には星が瞬いていたが、拠点と紹介されたカゾス村には灯りが灯っていた。それも一つや二つではない。地にある星々の様だとも言えるだろう。
「ここは氷の産地として有名なんだぜ。お前ら、防寒具は羽織ったか?」
「もう来てるわぁー、早くいきましょぉ~」
四方を山に囲まれた、湖の周囲に作られた村がこのカゾスであり、一年で一番温かい時期であるハズにも関わらず、地面は白く覆われ、家々からは氷柱が垂れ下がっている。
なかなかに幻想的な風景だ。
「あかり?」
「ああ、あれはランプをでっかくしたヤツだ。地下に魔力だまりがあるらしくてな。そこから魔力を吸い上げて、光の魔術陣を刻んだ結晶を氷の中に入れて、ああやって光らせてるんだ」
シノはカゾスがどういうところなのか、という話を『森の探索者』から聞く。
農耕国家シシラギアの属国に値する商業都市国家ディルエバース、そのディルエバースの中央山岳地帯のほぼ中央に存在するのが、このカゾス村らしい。ちなみに首都のエビュリーズは東方山岳地帯の北部に存在するため、このカゾスからすると東北東に首都が存在することになるらしい。
それぞれの町や村に、普通ではありえない程特徴的な特色が存在している国、ディルエバーズの中でも、山々に囲まれた辺境に在りながら、かなりの利益を毎年上げているカゾスは、それなりに有名な土地らしい。
場所が場所であるが故に、なかなか連絡が付きにくく、情報に遅れ気味というきらいがあるが、ほぼ自給自足ができる為、それを気にする者はかなり少ない。
「さて、クロはあっちだな。俺たちの馬と一緒にいてくれ」
中央広場の冒険者ギルドについた面々は、厩舎の方へと馬を繋ぎに行く。
既に厩舎を使っていた馬たちがクロを見た瞬間に目に怯えを走らせたことに、『森の探索者』たちが、悪いことをしたな、と心の中で思っていた。
冒険者ギルドの中は外と比べて暖かく、シノと『森の探索者』たちは上着を脱ぎ脇に抱える。決して聞き手に持たない所がなんとも冒険者らしい。
「おう、『森の探索者』じゃねーか! 今回もいい成果だったんか?」
「ぼちぼちねぇ~、今回は女の子を拾っちゃったわ」
地底湖があった分、見ずには事欠かず、ほぼ毎日体を洗っていたシノだが、その髪は半年で大分伸び、前髪は顎あたりまでのび、顔を覆い隠す程度にはなっていた為、まだ誰もシノの素顔を見ていない。
「女の子? 迷子でもいたのか?」
「うーん、ちょぉっと違うみたぁい。フクザツな事情ってモンがあるみたいでねぇ~」
「ふーん、それは大変だな」
シノの素顔を見たとしても、貴族の落胤という勘違いを上塗りするだけであろうが、それを知らない為にかなり友好的に話は進んでいた。
「シノちゃん、まずは冒険者登録をしてしまおう」
「みならいだよ」
「あーいや、俺が後見人になるから、Fランク冒険者になっちまおう」
「ん」
受付に向かうジムの後ろについて行くシノ。他の面々は備え付けの酒場に駆け込み既に酒を注文している。
「あいつら………」
ちょっと羨ましそうに仲間たちを見るジム。
シノはそれはそんなことはどうでもいいと、周囲をもの珍しそうに見渡していた。
受付には三つ窓口があり、左から冒険者登録、依頼受注、達成依頼という札がかかっていて、奥の方を示す矢印の下には素材買い取りカウンターと書かれている。
「すまん、『森の探索者』リーダー、ジムだ。この子の冒険者登録をしたい」
向かったのは冒険者登録と書かれた札が下がっている受付。
最初はなぜ拠点登録をしているCランクパーティーのリーダーがわざわざ来たのかと疑問に思っていた受付嬢だったが、この子、という言葉に視線を下に向けて、納得したように頷く。
「はい。でしたらここに名前と………」
「いや、この子、見習いのタグを持ってるんだ」
ジムがシノに、冒険者見習いのタグを出すように言う。
その言葉と、実際に目の前に差し出された見習いのタグに受付嬢は目を見開き、目を見張る。
「え、あ、はい。では冒険者見習いのシノを、Fランク冒険者に格上げします」
「ん」
「何歳ですか?」
冒険者見習いのタグには、名前と種族しか刻まれていない為、本来の冒険者タグに記載しなければならない内容は、名前、種族、年齢、ランク、戦闘方針である為、シノに聞いたのだが。
「ろくさい」
「えぇっと、文字とか書いたり読めたりするかな?」
「ん」
「なら、これに書いてくれるかな。名前と種族以外は任意なんだけど、出来たらかいてね」
「ん」
シノはペンを受け取って、シノ、人間、六、と書き、戦闘方針は空欄のまま提出する。
その年齢に似合わない綺麗な文字にジムと受付嬢は驚き、受け取った用紙の内容の控えを作成する受付嬢。
「はい。じゃあ、丁度明日のお昼から新人冒険者の講習をするので、隣の集会場に来てくださいね。これを受けないと冒険者として認めるわけにはいきません。その時新しいタグを渡しますので、この冒険者見習いのタグは必ず明日持ってきてください」
「ん」
出現する魔物の量が極めて少ないシシラギヤより、更に少ないディルエバースだからこそこの対応であるが、別の国、魔王が住むと言う魔境と呼ばれる土地に近い魔道国家フェデリントや神聖帝国フロウェルなどへ行くと、大抵の場合、適当年齢以下の子供に冒険者のタグを渡すことはしない。
冒険者の役割が、国によって大きく異なるのは、出現する魔物の量と質に比例する。
「シノちゃんはお金とか持ってる?」
「ん、すこし」
遠出の旅であることで準備していた屋敷の面々だったが、シノの荷物に財布は無かった。
シノを送り出した使用人からすれば、財布などはもうすでに持っているだろうからわざわざ渡すのもいかがな物かと考えた、という面があり、他の三人にしてみれば、自給自足できるシノが町に行くのはまだ先の事だろうと思って、子袋に少しの金銭を入れて渡しただけだったのだ。
当然彼らは冒険者ギルドに置いてお金を預けられるという仕組みも知っているし、シノが自給自足で野営ができることを知っているので、財布なぞなくても大丈夫だろうと、大して気にしなかった、という面もあるのだが。
「じゃあ宿も紹介するから。ちゃんとした所だから安心して」
「わかった」
「あー、報告がまだったったね。報告してくるから、そこの椅子にでも座って待っててくれる?」
ジムが指す先にあるのは併設されている酒場。
シノは軽く頷くと、髪を翻して酒場の椅子にちょこんと座る。
座ったのを見届けて、今度は達成依頼と書かれた受付へと向かうジム。懐から紙束を取り出し、受付に乗せる様子を黙ってシノは見ていた。
そのうち、ジムは受付嬢に何か言われ、二階へと登って行く。
「お嬢ちゃん、ここはぼ冒険者ギルドだぞー」
「ちっさい子が来る場所じゃないぞ?」
付属で小さかろうが、普通は寝ているはずの夜中であろうが、そこは酒場である。
そしてカゾスは、シノが暮らしていたガラムよりも治安が悪い。
ガラムは首都からまっすぐ街道がのび、農場もあれば定期的に肉を狩ってくる狩人もいた為、食糧事情的にかなり安定していた土地で、荒くれ者が滞在するどころか、発生することもないのんびりとした町であった。
しかしカゾスは一年中を通して寒く、自給自足ができると言ってもそれなりに厳しい環境下におかれている為、町に住むものだけでは生活ができず、冒険者という宿なしの荒くれ者という雑用を引き受けてくれる人材を常に欲しているのだ。
当然彼らが来れば、治安は悪化の一途をたどるだろう。シノに話しかけたのは、まだカゾスを拠点に決めて浅い冒険者たちであった。
「お嬢ちゃんは酒のみにきたのか~?」
「そんな小さい時から飲んでたら馬鹿になっちまうぞー」
こういう完全にはた迷惑な荒くれ者はあまり推奨された者ではないが、彼らにも役割がある。新人冒険者に、現実そう簡単に稼げるようなものではないということを知らしめるのに体よくギルドに黙認されているのだ。
それを知らない彼らは威張り散らし、酒を飲みながらシノを馬鹿にし続けた。
彼らの不幸は、シノを連れてきたのがここら辺ではかなり高ランクに該当する『森の探索者』だったことだろう。しかもリーダーであるジムの個人的なランクはB-と言った評価であることを知らなかった。
「ただい………シノちゃん、絡まれ中?」
「たぶん」
「優男め、俺らに難癖つけんのか? あぁ?」
「俺らはDランクの『狼の牙』だ。下手なこと言うと、その首噛み切るぜ」
下品に笑い、唾を飛ばす男たち。
「ほぅ、それは怖い。シノちゃん行こうか、待たせてごめんね」
「だいじょうぶ」
「おい、先に宿行ってるから! ある程度飲んだら戻って来いよ!」
「おう」
「りょぉ~かいっ」
「………」
「じゃ、行こうか」
全く歯牙にもかけないジムの態度に『狼の牙』の二人は茫然としていた。そのため、ジムが仲間たちと喋っている時に割り込むなんてこともできなかった。
「ちょっ! おい、待てよっ!」
後ろで叫ぶ男たちの声を聞きながら、シノとジムは仲間たちと合流し宿へと向かうのだった。
「クロ、きゅうしゃにいれてだいじょうぶ?」
「うん? ああ、怯えてたもんな………これから行く宿ならきっと大丈夫だと思うぞ」
「しりあい?」
「うーん、知り合いと言うか、この村を拠点にしてる時期は必ず泊まってる宿だからな」
「ふーん」
そんなこんな喋っていると、後ろから馬が追いかけてくる。
「お前ら………飲んでくるんじゃなかったのか?」
「いやーほら、狼のなんたらが絡んで来てさ。いい加減うざかったからのしてきちゃったんだよね」
てへっと可愛くない微笑みでそう告げる剣士。
「だってぇ~、私のお尻触ろうとしてきたのよぉ~」
「触られたのか?」
「触らせるわけないじゃなぁーい! ちゃぁんと頬っぺたにエロガキって書いてきたわよぉ」
「魔剣でか」
「魔剣でよぉ~」
下種の血が付いて可哀そうだから綺麗に磨いてあげなくちゃぁ~、と笑顔で言い切る魔剣士。
「お前は大丈夫だったのか?」
「………」
「何もなかったんだな」
「………」
「あ、足を凍らせてたわよぉ~」
「は!?」
「いや、こいつの杖を蹴ろうとしたんだよ。だからじゃないか?」
「そうなのか?」
「………」
無言は肯定だぞ、と言われ、目線を明後日の方向へと逸らせる魔術師。
「まぁ………シノ、ここが宿だ。個性的だろ」
言いあいしながら着いた宿の外観は、かなり個性的なものだった。
壁が光輝いているのだ。
きっと村中に設置してあるランプと同じものなのだろうが、それでも奇抜だ。壁一面が光り輝き、中には色つきの氷が混じっていることから、一つの絵画が出来上がっていると言ってもいい出来だ。
「これ、毎月変わるんだ。俺らが見たことあるのは十七種だけど、最低でも二十種はあるらしい。イベントで変わったりするらしいから、もっと多いかもしれないな」
「ふーん」
馬を厩舎へと連れて行き、シノと『森の探索者』はそろって宿へと入る。
シノは、壁をこんな風に飾り付ける人の頭を心配しながらついて行く。
『森の探索者』→(少々)キチガイ
『狼の牙』→かませ役←しかも自分では気が付いてない痛い子
さて、シノちゃんが冒険者になりました!
駆け出しだからFランクだよ!
ジムさんはB-。
親方は辞めた当時B+でA昇格考査中でした。
親方は有能だね!
明日更新できるはず。




