21 少女の旅立ち
一章残り二話!
だれかこたつください。
二十五話! 始めます
シノが手記を全て伸ばし終えた頃、小屋の外には人だかりができていた。
「………?」
「シノ、準備は終わったんですか?」
「ん」
最初に目に入ったのは、メティオノーラ。その横にはシーブとエヴァンス。
その揃いぶりに呆気にとられていると、旅装が完璧になされたクロが頬ずりしてきた。
「シノ、その馬具は私からです」
メティオノーラがそう告げる。
「そのカバンには見た目より多くのものを入れられるように加工したので、是非使ってください」
「ん」
その馬具は、素人目のシノにも分かるほど、かなり優秀な物だ。流行りとは違うが、全て革製で、全体に防水に近い耐水魔法処理が施されているのだから、かなり高価な馬具であろう。しかも、鞍の後ろについている、同じく革製のカバンにも同じ処理が施されているようである。
サイドに一つずつあるそのカバンは、クロの体に見事にフィットしていて、かなり大きく見えるのに、その動きを阻害していない。普通馬の機動力を殺してしまうため、こういう装備は人を乗せない荷運び用の馬に着けるものだ。
「嬢ちゃん、鞄の中身は俺からだ」
今度はシーブがそう告げる。
「俺が直接詰め込んだのは調理器具と食料だな。香草とか肉なら調達できるだろうから、少しの粉ものとパンぐらいしか食料は入れてないけどな」
「ん」
「他にも調合器具やら、野営道具なんか突っ込んであるからな」
「後でちゃんと確認してくださいね」
「ん」
見た目は、シノにとって一抱えあるティエリアと同じくらいの大きさのカバンふたつ。中身は、小屋一軒分の収納がされているらしい。
シノは、どうやって中から物を取り出せばいいか分からず、首を傾げながらもとりあえず頷いた。
「シノ嬢、俺からはこれだ」
今度はエヴァンスが前に出てきて、シノの前に片膝をたててしゃがみこむ。
手に持っていた紙袋から、丸い黒石と、丸い木片が交互に組み合わさって数珠繋ぎになった装飾品が出て来る。目を凝らすと、両方共に細かい模様が刻まれていて、魔術具になっているのがシノでも理解できた。
「これはな、アンクレットって言って、足首につける装飾品なんだがっ」
エヴァンスがシノの右足を持ち上げようとしたところで、その頭に二つの拳が落される。頭を抱え唸るエヴァンスを冷たい目で見下ろす元凶。
「痛ってー………こうやって、つけるんだ」
今度は左足を持ち上げ、アンクレットをシノの足首に通す。
一瞬光、アンクレットはシノの足首ぴったりの大きさに縮み、意識しないとつけていると認識できないくらいの重さへと変化する。
「その石は魔力を保存したりできるものだ。保存する量が多いと色が変わる。黒が何も入ってない状態、そこからどんどん色が明るくなって白が満杯って言われている。満杯になったら一粒白金貨一枚で売れるらしいから、生活の足しにでもしてくれ」
詳しいことは後で呼んでくれと、折りたたんだ紙を渡される。
「あとは、その黒い石の間に入ってる木片。十個のうち四個の木片には、俺たち三人の固有魔術式が刻まれてる。流石に本物とは段違いに性能が悪いけど、それなりに仕えるレベルの能力だから、上手く使ってくれ。他の六個の木片に関してはその紙に書いてあるから」
「ん」
確認して、これからに役立ててくれ。とエヴァンスは言って後ろに下がる。
「あのっ、僕たちからもっ」
比較的若い使用人と奴隷。シノは全員の顔だけは覚えていた。言葉は交わさないまでも、合えば会釈するほどには顔を知っている者たちだ。
彼らは手に持った物をぎゅと握りしめると、数人が前に出る。
「いままで、いろいろ助けてもらったのに、助けられなくてごめん。………だから、持って行ってほしいんだ」
シノが起こした行動のすべては、自分がこの屋敷に居る為の対価だと思っている節があるので、彼らに感謝されるいわれはない。
だから驚いて目を丸くしていたのだが、彼らはそれを許可だと受け取ったらしい。
「私たちで作ったり、皆で集めたお金で買ったりしたの。着てくれると嬉しいな」
持つのは、上下の服と靴とコート。
「これっ、僕が編んだんだ!」
草編みの靴。
「僕の故郷で有名な編み方なんだ。ちょっと加工とかしてもらったけど、雪の上でも使えるんだよっ!」
ただ草で編んでいるものと侮るなかれ。
豪雪地帯で育った彼が作った草網の靴は、水を吸い込まず、何十にも編み込まれたその靴の性能は普通の皮靴と同等と言ってもいい位だ。底の部分には、滑り止めと補強を兼ねて革が打ち付けられているが、それ以外は全て草だ。
目立たないように茶色く染めてあるので、革のブーツにも見えなくもない。
「これは………俺の故郷で売ってたやつだ。使ってくれ」
こちらは布のズボン。
薄いが品があり、防寒と防水の術式が編み込まれているようで、上手くワンポイントの草や花の詩集に紛れている。まだ駆け出しの魔術技師が手慰みに作った作品らしい。
その使用人の故郷ではかなり安く売られている品らしいが、それでもその術式の組み込み方は画期的ともいえる。魔力を流し込まずにもその効果が持続しているもの、と言うのは、今までほとんどなかったのだ。
「わ、わたしからはコレをっ………私が作ったものですが」
そう言ったのはピリ辛のソースを作った料理人。
持っているのは蜘蛛糸のチュニック。
糸の中でも、その頑丈でしなやかな蜘蛛糸は、荒事用の服にも好まれ、旅人の必需品とも言われる、安くはないが見た目ではそれと判断できない防具としても流通している。
染色蜘蛛と呼ばれる、食べたものによって糸の色を変える、観賞用の蜘蛛の糸で織った作品で、胸元に小さ目のフリルが付いていたりと、茶銀色だが可愛らしい作品となっている。彼は知らないが、食べさせたものの硬度がその服に反映する為、軍用にも飼われている蜘蛛であるのだが、その耐久性はシノが攻撃を受けないと分からないだろう。
「私からはコレを。私の兄さんが狩った魔獣の革で作ったコートよ」
綺麗に鞣されたコート。
フードの周りとその中、更に袖周りに、その魔獣の体毛が縫い付けられており、とても温かそうだ。長袖だが、肩口から取り外すこともできるようになっていたり、目立たない色に染めてあったり、ずいぶんと工夫がされた作品の様だ。
体毛は根本が白く先が青い。鞣して加工している分黒っぽくなっているコートの色によくあっている。
「さあ、着てみて」
それらを手の上に押し付けられたシノは目を白黒させながら、小屋へ戻り、着替える。どれもサイズ補正の術式が裏に書かれていたのか、シノが触れた途端サイズが変更され、着れなくなったらどこに売ろうか考えていたシノは面食らう。
出てきたシノをその場に集まった者たちは笑顔で迎え、シノはなんだか居心地が悪くなってきた。口々に、似合うだの、可愛いだの、と言われ、言われ慣れていない言葉の数々に、シノは青ざめる。
「最期にこれだ」
まだあるのかと、シノは三人を見る。
その辟易した表情をみて三人は苦笑し、最後となる贈り物を渡す。
「ほれ。このカバンは普通のもんだ。とくになんも加工はしてねーよ。嬢ちゃんの大事な物を持ち運ぶのにでも使ってくれ。それと、いつものナイフだな」
渡されたのは、実用性に特化したショルダーバック。既に中には少量の酒と空瓶、水筒に清潔な布など、ちょっと遠いところに外出できるようなこまごまとした、有った方が良い物が入っている。
シノが持ち歩いていたナイフは、包丁と共にシーブが管理していた。一度シノの血を吸ったナイフだが、シノにとっては唯一の、見たこともない父親に繋がるものであったりする。アンカライトナイフをカバンの肩ひも部分に括り付け、抜きやすさを確認するシノ。
「アクセサリーばっか渡してると、変態みたいだな、俺。………まぁいいや、コレは冒険者見習いのタグだ。さすがに年齢的に冒険者になるのは認められないらしいけど、それがあれば最低限の身分証明になる」
変態だよ? そうじゃないとでも思ってたの? というシーブとメティオノーラのツッコミに項垂れながらも、エヴァンスはシノの首にネックレス状にしたタグをかける。ネームタグは、他の皆が持っているような金属製ではなく木製だが、書いてある内容は大差ない。必要事項が極端に少ないだけで。
「さ、シノ。付けてください。コレに固有名はありませんが、それなりの逸品です。上手く使ってくださいね」
指無グローブ、と言った感じだが、腕のあたりまで覆う形になっているからには手甲と言った方が合っているかもしれない。
細かな鎖で結い合わされ、薄い布で覆った形のその手甲はシノのてのサイズにぴったりと合う。やはりサイズ補正の術式が組み込まれているのだろう。ぴったりの大きさに縮まり、手に馴染む。
「いってらっしゃい、シノ。私たちはいつまでも貴女の居場所です。例えここでなくとも、私たちは貴女の帰れる場所でいますから」
「この町には寄り辛いと思うけどよ、家ならいつでも来て良いぜ。いつでもうまい飯を食わしてやる。むしろ来てくれるのを待ってるぜ、嬢ちゃん」
「さよならじゃないからな、また、いつか合えるのを楽しみにしてるよ。シノ嬢」
口々に別れの言葉をかてくる皆に送り出されて、シノはクロに乗って正門から屋敷を出る。
一度目は、母が居なくなって行き場が無い時に拾われ通ったもん。二度目は、家主から追い出されるというのに、どこか爽快な気分でくぐる門。
なかなか帰ろうとしない見送りの者たちをシノは振り返り、言う。
「また、ね」
シノはそのままクロを走らせ、町をでる門へと向かう。
屋敷の正門の前に集まった面々は、その姿を唖然と見ていた。
普段全く動かない表情。この時ばかりは、その顔に喜色が浮かんでいたのだ。綺麗に整ったパーツを持つシノの無邪気な微笑みによる破壊力は絶大だった。
「どこからでようか」
中央通に出たは良いものの、どの門から出るかで迷うシノ。
一番近いのは南門だが、そこから出てしまうと、容姿からタクが疑われる可能性がある。南の森を利用することも多い分、地理的にかなり優位なのだが、追ってくる集団によっては今回の装備だと捕まってしまう可能性もある。しかも、親交があったタクと親方に被害が行くだろう。それだけは避けたいシノは南門だけは選択しない。
北門は魔物対策と貴族街に一番近い門である為、選択肢には入らない。
残るは西門と東門。西にはエビュリーズへと向かう街道があり、東は魔道国家フィデリントと海運を行っているロルネラへと続く街道がある。
「………ひがし、にしがいい」
東からフィデリントへと亡命しようと考えたシノだが、今の身分証だと余程の幸運が無ければ船に乗ることすらできないだろう。渡されたカバンの中に入っていた金銭ではせいぜい一人分。クロを連れていくことはできない。
しかも、東にある倉庫街は夜中でも警備の目がある。その眼に映らず行動するなんてことはシノにできるはずもない。
「あれ? シノじゃん。こんな夜中にどうしたの?」
「アルテ………」
「今から帰るのか? つか立派な馬に乗ってんだな」
「もういくの」
「は?」
クロの鼻面を撫でていたアルテの手が止まる。
「まち、でてくの」
「え!? ナニソレ聞いてない」
「いまいった」
「町出てくの? あ、じゃ、ちょっとまって! 今すぐ持ってくるからっ」
今日はよく待たされる日だな、と思いつつ、シノはアルテが帰ってくるのを月に照らされない暗い影で待つ。
「シノ? あ、いた」
アルテが持ってきたのは、いくつかの小瓶だった。
「本当は明日タクに預けようと思ってたんだ。なんかあいつヤバそうだったし。孤児院の皆で作った回復薬だぜ」
「ありがと」
「普通のヤツよか効果は落ちるけど、使えるはずだから。使ってくれ」
「ん」
シノは、ショルダーバックに小瓶をしまう。
回復薬の作り方は冒険者ギルドで販売しているのだ。高いため、個人で購入するようなものはいないが、冒険者ギルドに売ったり、顧客を得られればそこで収入が得られるようになるのだ。これからの孤児院の基本的な収入源になるかも知れない。
「タクには言ったのか?」
「いってない」
「………俺から言っとくわ」
「ん、ばいばい」
「おいっ、今生の別れとかじゃねーんだから」
「………またね?」
「おう! またいつか会おうぜ、シノ」
「ん」
宵闇に紛れて、クロとシノは西門を越える。
ある程度街道に足跡を付け、そこから森に突入すると、森に入り、山へと駆け登る。何があるか分からない森であるが、シノとクロにとっては不確定の人が通る街道を通るより森の方が安全だと考えたが故の選択だった。
「にかいやまをこえたら、どうくつをさがそう」
クロは鼻を鳴らして応え、かなりのスピードで森を突っ切っていく。荷物の重さを感じさせないクロの走りに安心し、シノは周囲を見渡し、松明の灯りや、魔術師の使い魔がいないかなど確認していた。
夜中に抜け出したこともあり、シノを追ってくるような者は居なかったが、シノはそのまま日が昇るまでクロの背に揺られていた。日が昇り切った所で洞窟を見つけ、安全を確認してからその洞窟で眠りにつく。
「おやすみ」
一人と一頭は旅立った。
なんかいい所で終わってるけど、まだ町の話を書くんだぜ
彼らとはいったんお別れ。
シノが直接顔を合わすのは、(話中で)数年後になるかと。
明日も更新!




