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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第一章 幼少期・ガラム
24/113

19 実力の差

 寒い寒い。

 こたつとみかんと緑茶が欲しい今日この頃


 二十三話、はじまりますよー

 木の棒によって切られた鉄の剣。

 その光景は、なんとも現実離れをしていた。


 「………うそ、だろ」


 男の目は、とんでもない物を見るような目で、きれいな切り口で折れた(・・・)剣を見つめていた。

 実際同じようなことを行える者は何人いるだろうか? 武人からすれば、それ自体が奥義と呼ばれる技の一つであり、危険すぎる(・・・・・)ため、そう簡単に伝授されるようなものでもない。

 タクに切りかかった男も、それなりの師匠の下で教えを乞い、それなりの剣の腕を持っていたが、タクのようなことはできない。教えてもらっても普通はできないのだ。

 その技を、子供たちが誰に教わるでもなく、自力で見つけて実践していると知ったら、男は一生立ち直ることができなかったのかもしれない。


 「つまんない」


 呆然と剣を見つめていた男の意識が戻ったのは、そんなアキの言葉が聞こえたからだろう。


 「おまえ、きょうでクビな。こどもにまけるけんしはいらないし」


 そんなアキの最終宣告に青を通り越して顔を白くする男。

 何せ男爵の懐でぬくぬくと生きてきたと自覚している男だ。当然のごとく、かなりの恨みを買っている。しかも、男爵の懐から放り出されてしまえば、その恨みをねじ伏せられるだけの力がないことが、今証明されたし、解雇されれば新しい武器を買うための資金すら捻出することも敵わないだろう。

 さらに、この町や男爵の息がかかった土地にいることすらできないだろうことを男は知っている。

 アキに刃向い首にされるということはそれほどのことなのだ。


 「そんなっ! 彼は………元とは言え、冒険者の息子。私の力が及ばなかった原因もひとえに――――」

 「なんですか? アキ様の命令にあなたは逆らうと? 男爵様に剣を突き立て敵対すると言いたいのですか?」


 必死で言い訳を探す男に引導を渡したのは、その場で黙って様子を見ていた女だった。


 「アキ様は決断を下されたのです。それに黙って従うのが使用人でしょう?」


 そう言う女の目には、嘲笑がはっきりと浮かび、追い打ちをかけるその様に、敵対していたとは言え、タクとアルテは同情の視線を送っていた。


 「アキ様、この護衛(下男)は、心の奥底まで腐った『悪』人のようですよ………一思いに成敗した方が、お父様である領主様の為になるかも知れません」

 「うん、そうだね。ここでしょぶんしちゃおうか」

 「ひぃっ!」


 男は知っていた。

 別にタクが嘘を言っていないことを。

 男が知ったのは偶然だった。知らないだろうとされていたから、アキの護衛の任務に就いていたのだ。

 だから、知らないふりをしなくてはならなかった。


 「あ、アキ様。私は何もしていませんよ? 私を殺してしまったら、アキ様が『人殺し』と呼ばれることになってしまいます」


 男が取った行動も、経緯(・・)を正しく知っている者からすれば、至極当然の対応だっただろう。アキが『人殺し』という言葉に非常に怯えていたのは確かだったのだから。

 しかし男は知らなかった。理由を得た時の、アキの残虐性を。


 「『わる』ものになるかもしれないやつをころすのはいいことだって、みんないってたじゃん」


 その回答に覚えがあった男は青ざめた。

 彼が森で雷撃を放ったと聞いたときに、ある少女に死ぬかもしれない傷を負わせたと聞いたときに、自分が行った言葉の一部なのだから。

 雷撃が森に落ちた日、叱られて目に見えて動揺するアキに使用人一同が言ったのだ。「人殺しにはなりたくない」けれど「悪人は殺さなきゃいけない」なら「人殺しを避けていたら悪人はいなくならない」と。だったら「悪人」を「殺す」のは「人殺し」にはならないと。

 癇癪をおこしてまた同じことをされてはたまらないと、理由を付けることを刷り込んだのだ。それを聞いたアキの両親も「それは正しい」として認めてしまい、翌朝一人の召使がもっともらしい理由で死んだことも知っていた。


 「このけんじゃ、いっかいできれないだろうけど、がまんしてね?」


 今度はアキが懐から、短剣を抜き、男に付きつける。

 アキの短剣には刃が付いていない。黙って撲殺されろと言われていることに身震いし、逃げようとしたが逃げられないことに気付く。原因を探って手足を見ると、蔦が手や足に巻き付いて、地面から離れないように動いている。

 直ぐに原因は分かった。アキの後ろで女がぶつぶつと呟きながら、嗤っているのだ。


 「ばいばい」


 家族を思った。

 男は今までしてきたことを悔やみはしなかったが、ここの領主に仕えた事だけは後悔した。

 抵抗しても無駄だと分かった男は、目を閉じ、家族の幸せを願う。

 自分が最低でも、家族はきっといい人生を送ってくれると。


 「そのひとはめいれいにしたがういぎはないでしょ? もうかいこされてる」


 死を受け入れようとしたときに聞こえた少女の声。

 シノは男を一瞥して、アキと目を合わせる。


 「きにいらないなら、わたしがあそんであげる。きをうしなってもかまわないなら、だけど」

 「おう! いいぜ。いいよな?」

 「ええ、どうぞ。私は証人になりましょう」

 「じゃあ、「あそんで」あげる」


 アキは、嬉しそうに笑いながらシノに短剣を降り下す。

 前回は貴族であることを考慮して避けた。しかし今回はそうするつもりもない。


 「なっ」


 シノは地面に落ちていた木の棒を蹴り上げてその手にとり、アキの剣を弾き飛ばし、再度打ってくるのを待つ。

 しかしアキは剣を拾おうとはせず、ぶつぶと詠唱を唱え始める。笑っている少年と無表情な少女の対比は、共に将来が楽しみな造形であるがゆえにうすら寒いものをタクは感じた。


 「―――しょうかん! こうえっが、ふ………」


 最後の結びを言おうとしたとき、アキが倒れた。

 血などは出ておらず、ただ単に気絶しただけ、に見える。


 「アルテ、今いくつシノが打ったように見えた?」

 「えっと、左右から二回?」

 「だよな、そう思うよな………アレ、喰らうと分かるんだけど、左右二発ずつ打ち込んでんだ」

 「え………」


 タクとアルテが背後でそんな会話をしているのを、シノはなんとなく聞きながら、目の前に白目をむいて倒れているアキを見る。

 木の棒はシノの手の中で、役目を終えたとばかりに木端微塵に弾け飛んだ。


 「もう、いいよね?」

 「………ええ、そうね。今の、魔術かしら?」

 「つかってない」


 女の問いに、シノは感情の無い目で応える。

 シノからしてみれば、直ぐに折れないように少しだけ魔力で強化した木の棒を早く動かしただけでしかないのだ。

 事実、シノはタクより試合という意味合いに置いて勝っている。暇な時間をほぼ全て、木の棒を剣に見立てて振り続けていた結果であり、才能があったとしても、それは努力の結果である。ただ愚直に努力するしか、シノは生き方を知らないのだ。


 「………そう。明日の正午の鐘が鳴ったとき、中央広場に来なさい。アキ様の命令よ」

 「たいべんはむこう」

 「ここを襲撃して欲しいなら止めないわ」

 「………わかった」


 女はにっこりと笑い、何やら詠唱をしてアキを空中に浮かべると、そのまま町へと去って行った。

 その場に残ったのは、行くあてもない男とシノたちである。


 「おい、おい! オッサン!! あんたはどうすんだ?」

 「あ………そうだ、な。どうしよう、かね」


 いくらなんでも様子がおかしいと、アルテは怯える。

 この町の領主が変わって、援助が打ち切られて、孤児院が自給自足のような状態になったとは聞いたが、別に大きな問題は見られないと思っていたのだ。そう言うこともあるだろう、としか思っていなかった分、この男の怯えようは異質に目に映った。


 「………うちに来るか?」

 「へ?」


 この男をどうしようかと決めあぐねていた時に口を開いたのは、親方だった。


 「………狩人になるか?」

 「………」


 男は剣士だった。

 少なくとも、アキが生まれるまでは普通の剣士だった。


 「やめときます」


 救いだろうその答えに、だれも驚かなかった。しかし、他にどんな手があるのだろうと考える顔ばかりである。


 「俺は、あんたらに剣を向けた。勝者が敗者に許しを請うなんて真似は………落ちぶれてもできねぇ」


 男の目には生気が戻っていた。

 彼は町を出るだろう。その先にどんな困難が待っていても。


 「ここからにげるにしても、じょうほうはだいじ」

 「はっ。貴族から締め出しを食らったんだ。もともと平民でしかない俺には………」

 「にしのさんぱつや」

 「西? 西区画の散髪屋?」

 「じょうほうをかえばいい。「シノのしょうかい」っていえばうってくれる」

 「………なぜ」

 「あなたのじゆう。それいじょうはしらない」


 男を置いて、全員小屋の中へと戻る。

 中で話し合われるのはアルテの今後。

 シノたちにとって男のことなど、もはやどうでもいいことでしかない。


 「さて、アルテ。木の棒を振り回してみてどうだった?」

 「どうと思えるほどのことなど無かった気がするけど?」


 あまりにも元通りにアルテが戸惑う。


 「あー、その魔力を這わすっての? よくわかんないかな」

 「うん。練習あるのみなんだけどさ」


 タクは目の前のコップを手につかむ。


 「いまからやるのが、魔力制御の一番簡単な方法」


 大抵の人が持っている魔力。

 魔力は普段から放出されており、枯渇すると死に至る生命力と等しいものである。


 「コップを手でつかんで、魔力を流すんだ」


 コップの中には水が入っている。

 百聞は一見にしかず。タクは水の入ったコップを持って、集中する。

 すると、動かしていないのにも関わらずコップの中の水にさざ波が生まれ、徐々に大きな波となって現れる。


 「うわぁ………」

 「ふぅ………俺は集中しないとできないけど、慣れれば息をするようにできるようになるらしい」


 タクは真似を使用と自分のカップを引き寄せて集中するが、今まで意識したことのない力をいきなり動かそうとしてもよくわからない。


 「………むしろ動かせるほどの魔力って俺にあるの?」

 「ゼロでないかぎり動かせるから」

 「魔力の流れってどうやって理解すればいいのかわかんないんだけど………」

 「あー………シノ、お願いできる?」


 シノは一つ頷き、アルテの側に行く。


 「りょうて」

 「うん? ほい」

 「シノと手を繋いで。そ。それで逆らおうとしないでリラックス」


 タクはアルテの後ろに回り、アルテの肩に手をつき、一定のリズムで肩を叩く。

 アルテは言われたように肩から力を抜き、シノと手を繋ぎ、輪のような形を作るが、良くわからない、とタクを振り返る。


 「逆らわない?」

 「うん。無理に逆らうと死ぬから」

 「………」

 「いい?」

 「おう………」


 少し緊張するアルテ。

 手を繋いでいるせいか、じんわりと体温が移ってくる。


 「じゃあ、ちから、ぬいて」


 そこで気が付く。

 普通はここまで手が熱くなることはない。

 ふいに、右手が押され、左手が引っ張られるような感覚を感じて、シノを見る。


 「どう?」

 「うん? シノ、手、引っ張ってる?」


 聞かれたシノはふるふると首を横に振る。

 しかし、その感覚は消えず、アルテは首を傾げる。


 「あー、それが魔力の流れなんだ。今シノが、左手で自分の魔力をお前に押し込んで右手でお前の魔力を引っ張ってるんだ」

 「? じゃあ、肩を触ってるタクは何してんの?」

 「俺はお前の中に流れる魔力の操作の補助………一階離れてみるか、苦しくなるだろうけど、絶対に留めようとするなよ」


 アルテは押されて引っ張られている感覚しか感じず、魔力の流れと言うのがイマイチ分からない。

 しかし、タクが肩から手を放したところで、嫌でも溢れようとする何かを理解できた。


 「ぐ………つ、らっ………これが、まりょ、く?」

 「そう。シノ、いったん休憩」


 シノがアルテの手を放す。

 特に体を動かしたわけでもないのに、倦怠感はかなりのモノだった。


 「大丈夫か?」

 「………平気だ。何、コレ、タクもシノもやったの?」

 「かあさまがやってくれた」

 「俺は親父に無理やり」

 「………必ず通る道ってか」


 アルテは一度机に突っ伏し、がぱっと勢いよく顔を上げる。


 「………続ける?」

 「おう。せめて今日で動かせるぐらいにはなってやるさ」

 「そっか。じゃあ、コップのやつもう一回見せるから、それでちょっと回復したらシノと手を繋いでもう一回行ってみよう」


 魔力の精密操作。

 それは本来魔力が普通以上あり、魔術師となって中級以上の魔術を扱うことになって初めて覚えることである。

 魔術を扱う者にとって、魔力とは魔術を使う為に一方的に排出するものであり、循環させるものではないのだ。


 「右手から左手に流すように、ぐるぐる回して、体からこぼれないようにするってのが最初の段階かなー」

 「ぐるぐる………こぼれない………」

 「て、つなぐ」

 「補助は任せろー!」

 「おう………ぐるぐる………」

 「今日は水面に波を出すのが目標かな?」

 「おう………ぐるぐる………」


 アルテが習得するのはそんなに遠い未来ではないのかもしれない。

 教え合う弟子たちを見ながら、親方はそう思った。

 実際、帰るまでにほんのわずかなさざ波を立てることができたアルテは、なんとなく感覚が分かってほっとしていた。

 イメージはかの有名な念能力の修業方法みたいなもんですね。

 ただ、魔力に質は無いんで。

 得意属性が分かれてくるのは、また後程お話の中で。


 明日更新できると―――

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