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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第一章 幼少期・ガラム
22/113

17 発光する風邪薬

 シノちゃん、動かし辛い……

 指がかじかんで打ちにくい………


 二十一話、はじまります。

 密封された部屋。

 奴隷の為の大部屋ではなく、個室なのはメティオノーラの「これ以上シノに迷惑をかけないでください」という発言によってあてがわれた二階の部屋であり、その厚意としか思えない行動になってしまっている上司の命令に委縮していた。

 今その部屋に居るのは、風邪を引いた奴隷の少年と、薬をもつシーブだけ。

 シーブは小皿に小瓶の中身を空け、そこに蝋で形を整えた芯を入れ火をつける。


 「どうだ?」

 「ん………え? いい、かおり?」


 少年は今まで感じなかった匂いに目を見開く。

 嗅ぎ慣れない強い匂いに顔をしかめるが、それ以上に鼻が通ると言うのが嬉しいようだ。


 「じゃあ、つぎはこれだ」


 無駄に発光している、王侯貴族でも飲むことができないだろう高級な風邪薬が混ぜ込まれた果汁が入ったコップを、少年に渡す。

 コップの中を覗き込んだ少年は眉をひそめる。

 柑橘系の果物の果汁であることは匂いで分かるが、その果汁が光っているのが何とも少年の不安を駆りたてるのだ。


 「うし、一気にいってみようか」


 薬と言われても、鈍く発光する飲み物を喜び勇んで飲む者はいない。

 少年は飲みたくないと目線で訴えるが、「飲め」と急かすシーブの笑顔に顔を青くしたままコップをあおり、一息に飲み干す。


 「おい、しい………」

 「よし、飲めたな」


 ドロリとしているのに、舌に残ることなくさらりと嚥下され、味は柑橘系のサッパリした甘味と酸味が出ていて、薬特有の苦さなど少年は感じなかった。

 くやしいほどに美味しかったのだ。

 少年はその余韻に浸る間もなく、襲ってきた強烈な眠気に逆らえず、泥のように眠った。


 「ふぅ………」


 シーブはコップを少年の手から剥がし、少年を布団の中にしっかりと押し込むと部屋を出た。


 「だいじょうぶだった?」

 「ああ、もうぐっすり。いい仕事だな、嬢ちゃん」


 部屋の外で待っていたシノは、シーブに自分の作った薬の効能を聞く。

 今回シノが作った風邪薬は、熱冷まし・咳止め。栄養補給を兼ねたもので、風呂から上がった後、シーブと共に作ったものだった。そしてカラッタは、鼻詰まり解消・精神安定・催眠作用を引き起こすものだったのだ。


 「シノ、今回の在庫はいくつですか?」


  使用人の館を出た直後、かけてきたメティオノーラがシノに尋ねる。


 「むっつ」


 そう言いながら、シノは腰に括り付けていた瓶を六本、メティオノーラに渡す。

 まだ数本シノの腰についたままだが、それについて聞く者はいない。聞かなくても用途は分かっている、と言った方が正しいのかもしれない。


 「では少しずつ混ぜて、残っている全員に食べさせましょう。一本はシーブ、あなたが持ち帰りなさい」

 「お、ラッキー。嬢ちゃん、コレはどのくらいもつ?」

 「かいふくやくとおなじ、だいたいひとつき」

 「なら冬の間はもつな」


 メティオノーラが言う全員とは、この屋敷に勤めている使用人全員ではなく、風邪を引いても絶対言い出さない奴隷たちの事である。

 使用人ならば、給料をもらっている為なにかあっても町の薬屋で薬が買えるし、治療院で治療してもらうこともできる。主人がいない今、全員休暇扱いである為、わざわざ薬を使ってやる義務もないと考えるところがメティオノーラらしい。

 シノ作る風邪薬は、かなり高品質なトゥーを扱っている為、予防薬としても機能するのだ。


 「じゃ、俺は帰るわ。新作もあと少しで完成できそうだし」

 「がんばって」

 「おう! 嬢ちゃんも風邪ひかないようにな」

 「くすりつくれる」

 「確かに!」


 シーブは、それでも気を付けることはしておいた方が良いと言いながら、シノの頭を撫でる。

 なすがままになって言葉を発しないシーブは思いついた言葉を投げかける。


 「嬢ちゃんなら万能薬でも作れそうだもんな」

 「………」

 「冗談だよ! いつか作れるようになるかもな」


 言ってからシーブは思い出したのだ。

 白魔女は、万能薬が作れたと実しやかに囁かれていたということを。

 だが、そのシーブの母親の事を思い出させないように、という気遣いも微妙に外れていた。シノが黙ったのは、万能薬を作ろうと思えば作れるが、材料が手元に無い為、作れることを証明する手段が無いから。

 ただ、作れるということが「良いこと」でもないことをこの一年半でメティオノーラに教わっている為、とっさに言葉がでずに沈黙という選択肢をとるしかなかったのだ。


 「んじゃ、冷やかしてから帰るわ。また明日な」

 「ん」


 シーブはまだ厨房で研鑽を積んでいる部下たちを冷やかしてから帰るようだ。


 「メティ」

 「はい、なんですか?」

 「もりにいってくる」

 「………狩人の所ですか?」

 「そう」

 「………この前の雷小僧がいないとも限らないので、十分気を付けてくださいね」

 「ん」


 いつもなら、ただ一言「いってらっしゃい」と言うだけのメティオノーラが、長々と話したことに意外感を感じながら、シノは使用人の館の裏手に回り、南の森へと出て行く。

 屋敷の裏口と狩人の家が密集している場所は、町の南門まで行くのの二倍の距離である。少し歩けば見えてくる狩人の家々からは、丁度夕飯時なのか、飯炊きの煙がもくもくと上がっている。


 「おやかた」

 「おう、いらっしゃい」


 周囲の家は美味しい匂いが立ち込めているのに、親方の家は煙など立っていなくて、不思議に思ったシノだったが、中に入って、居間の机の上で手仕事をしている親方を見て、直ぐに理解することになる。


 「タクにいちゃんは」

 「町だ」

 「ゆうはん?」

 「ああ」

 「てつだう」

 「………頼む」


 いつも夕飯を作っているのはタクなのだ。

 町に行ってまだ帰って来ないタクのかわりに作ろうとしたと思える痕跡があるが、親方は早々に諦めたのだと分かる。親方は捌くのは得意なのだが、料理という分野はどうも苦手なようで、野菜は切っただけ、肉は焼いただけ、という感じになってしまうのだ。肉だと焼き加減がいまいちで腹を壊したり、焼きすぎて炭になっていたりと、振れ幅が大きいのも問題の一つだ。


 「ざいりょう」

 「勝手に使ってくれ」

 「ん」


 シノに変わっても、ある材料で作るだけなので、内容に変わりようはないのだが、香辛料で下味をつけたり、煮たり置いたりしてひと手間を加える為、味は格段に良くなる。

 シノが料理を始めたことで、親方は少しは自分の料理スキルを上げようと覗き見るが、早々に諦めまた手仕事に戻る。


 「………」

 「………」


 シノと親方の間に会話は無い。

 ただ単に放つ必要が無いから話さないだけなのだが、二人の人がいると言うのに、ここまで会話が無いと、かなり寂しい。


 「あ、かりは?」

 「動物がいないからな」

 「そう」


 アキが雷を遠慮なくぶっ放してくれた為、あれからひと月半経った今でも森に動物が戻る気配はない。雪も降ってしまって、特にやれることもない親方はひたすら手仕事をするしかないのだ。

 南の森にいる狩人のうち半分は、町の周囲の山や森に出かけて、洞窟や掘立小屋などで冬を過ごしている。冬の間の獣たちは身が締まっていて美味しいのだ。そして、残っている半分の狩人たちだが、動物がいないのと雪のせいでやれることはただ一つ。木材加工である。


 「どうぶつ?」

 「鹿だ」


 今親方がやっているのも木材加工の手仕事の一つで、拳大くらいの精巧な動物の彫り物を作っている。

 料理は苦手なのに、なぜか細かい精密作業は得意という親方だが、この親方の作品、建築ギルドに持ち込まれ、木材屋で売られることになるのだが、かなりの人気作品なのだ。狩人が作っているということで買いたたかれるが、それでも普通の町民が作って売る金額の倍は貰っているという人気ぶり。

 特に人気なのが動物シリーズで、既にシーブがかなりの値を払って予約している。直に生まれる子供の為に、ということらしい。


 「おやかた」

 「………ん?」

 「しおは」

 「おう………ほれ」

 「ありがと」


 手元にない塩のありかが分からず親方に尋ねたシノ。

 そして親方が塩を出してきたのは棚の上。

 普段使ってないだろう、と目を細めて親方を見ると、親方はばつが悪そうに目を逸らして手仕事に戻って行く。

 シノは下味をつけおわると、水の入った鍋に、腰にぶら下げた小瓶の中身を投入し、ゆっくりと混ぜ込んでいく。混ざった所で火にかけ、野菜や肉などを入れて、塩や持ってきた香草で味を調節していく。


 「んーだよっ! いいじゃんかぁ」

 「あのなぁ………親父がなんて言うか………」

 「おっじゃましまーす!」

 「家族より先に入るな! ただいま」


 ノックもせずに入ってきたのは二人。

 一人はタク。もう一人は孤児院のアルテだった。

 調理場でシノが料理をしているとは思っていなかったタクが固まる。


 「タク、お前………」

 「な、なんだ」

 「通い妻が」

 「シノは妹だ」

 「冗談だって、本気にすんなよ」


 そんな会話がなされたとか。


 「おかえり」

 「あ、あぁ、ただいま」

 「シノ! 久しぶり。タクん家来たらシノにも合うとは思ってなかったよ」


 まだ動揺しているタクを面白がりながら、アルテはもう一度家主である親方にお邪魔しますと言い、勧められた椅子に座る。


 「シノ、今日は何しに来たんだ?」

 「おすそわけ」


 シノはもう中身が入っていない小瓶を振って見せる。

 アルテは、何が「おすそ分け」なのか、小瓶に入るくらいの液体の高級食材でも手に入れたのかと思案するという、見当違いなことを思う。高級食材ではなく高級薬と言うところがシノらしいといえばシノらしい。

 以前も同じようなことがあったタクは、薬草がたくさん入った料理でも作るのかな? と、あたりをつける。間違ってはいない。


 「ありがと。それが必要だった人は大丈夫なのか?」

 「ん。ゆっくりねてる」

 「ならよかった」


 以前シノが小瓶を持って来た時のことを思い出すタク。

 その時も知り合いがひどい病を患ったとかで、シノが狩人全員に薬を飲ませる為に、炊き出しの中に薬をぶち込み、一時剣呑な雰囲気になったことがあったのだ。狩人からは疎んじられたシノだったが、それから少しして、町の中が病で大騒ぎになっていた時、シノの薬がぶち込まれた炊き出しを食べた狩人は何ともなく、普段通りに生活できたことから、言葉が足りないものの善意の厚意だったと狩人たちは理解し、シノに謝り倒すということをしてのけたことがある。

 もしシノがその薬を炊き出しにぶち込まなかったら。病に倒れ、優先度がかなり低い狩人という立場にいる以上、治療院に入れないばかりか、薬屋で薬を買うことさえ出来なかっただろう。


 「皿か? どれ使う?」

 「これと、これ」

 「分かった洗っておく」

 「お前ら、まるで夫婦じゃないか」


 机に片肘付いてタクとシノの様子を見つめるアルテ。


 「いや、小瓶振っただけで病人がいたってことが分かったり、シノちゃんがちょっと視線動かしただけで皿が必要だって分かったり………普通はそこまでかんがえるかねーよ」

 「そうか? 親父ともこんな感じだぞ?」


 話を振られた親方は「何?」とでも言うようにタクを見るが、別に言うことがないタクは首を振って「なんでもない」と答える。

 その様子を見ていたアルテは「良くわからん」と眉をひそめる。


 「そうだ、アルテ、親父に話があるんだろ?」

 「そうだった! あの、タクの親父さん!!」

 「?」


 木彫りの手を止めて親方はアルテを見る。

 ただ見ただけの眼力に目を逸らしたくなるアルテだが、懸命にこらえて立ち上がり、頭を下げる。


 「俺に、剣を教えてくださいっ!」

 「わかった」

 「俺、守る為に剣を………って、いいんですか!?」

 「………飯だ」

 「えぇっ?」

 「………座れ」

 「あ、はい」


 ほぼ茶番と化したアルテの決意は、シノが用意した四人分のスープにとってかわられる。地味に発光しているのだが、部屋の中が明るい為か誰も気付かない。

 どうしたらいいかわからないと腰を浮かせたり座りなおしたりと忙しいアルテにタクがフォローを入れて夕食が始まった。


 「………うまい」

 「ん」

 「な? 似てるだろ」

 「確かに………」


 単語の応酬で意志が伝わっているという状況に付いていけないアルテだが、懸命に理解しようと頭を働かせる。ちゃんと意志を伝えてもらえるか、という点で、剣を教えてくれと頼んだことを早くも後悔し始めていた。


 「ところでシノ、コレ何?」


 タクがスープの中から細長い何かを持ち上げる。


 「おいしくない?」 

 「いや、美味しいんだけどさ」


 食べたことのない、細長いもちもちした食感のものをすすって食べるタク。

 親方は気にせずどんどん食べ、二杯目をシノに入れてもらっていたりしていることからかなり気に入ってるのがタクにも分かる。

 アルテも気にせず食べているが、こちらどんなものでも食べてきた孤児院の者らしい経験から、気にしていないだけなのだろう。


 「シーブさんか作ったの?」

 「そう」

 「ふーん」

 「………シノが捏ねてたぞ」

 「うん? シーブさんが作ったんじゃ………」

 「レシピ」

 「そっか」

 「タク、説明してくれ。俺は付いていけない」


 親方とシノの言葉に納得していたタクは、理解しようと懸命に頭を働かせているアルテの様子に苦笑する。


 「多分だけど、シーブさんっていう、かなり料理美味い人がいて、その人が作ったレシピの再現をシノがしたんだと思う」


 実際はシノの母親が残した手記を解読し、シノがシーブに教え、シーブがこの町のもので作れるように改良し、今日都合がいいと作ってみたのだが、タクが言ったように誤解されるように言っている為、間違ってはいない。

 丁度パンが無かった為、余っていた食材で作ってみたのだ。

 今回スープに入れたのは、料理長が作った新作のニョッキもどきの生地に香草を混ぜて、細切りにしただけのもの。その時点でアレンジ料理なのだが、普通の料理人には合わせの野菜やスープの味の微妙な変化を考えながら試し無で作るなんて無謀なことはしないし、できない。シノの味覚再現能力と言うか、飛び抜けた感覚をもってして成せた料理だろう。


 「へぇー………孤児院でも作れるかな」

 「できる」


 ぼそっと呟かれたアルテの言葉に答えるシノ。

 そこから、シノの言葉の足りない作り方の解説にタクがフォローを入れながら、何とか作り方を覚えたアルテ。

 覚えたからと言って作れるかは、また別な問題なのだが。同じ味を再現しようと思わなければ十分美味しい物が作れるだろう。


 「親父は驚いてなかったけど、食べたことあんの? コレ」

 「ない」

 「似たようなモノなら食べたことあるって感じ?」

 「そうだな」

 「冒険者時代に作ってくれた人がいたとか?」

 「………ああ」


 そこでシノを見る親方。

 シノは目線を合わせるものの、首を傾げて自分のスープに目線を落す。

 タクもその視線の意味を計りかね、首を傾げる。


 「剣、振ってみるか」


 団欒も終わり、食器も片付けたところで、小屋の外で剣を振ってみようという話になり、全員小屋の外にでる。

 比較的まっすぐな木の棒を渡されて、剣ではなかったのかと首を傾げるアルテにタクが苦笑する。

 久々にアルテ君登場。

 将来の目標は戦える孤児院経営主ですかね?


 一般的な薬師の薬は光りません。

 山で忍んで生きている薬師が作れるものとされていて、薬屋を経営するようなちゃんとした経験を積んだ薬師の間には『仙薬』と呼ばれています。


 明日更新します!

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