16 薬の調合
なんとなくでいろいろ設定考えてたら止まらなくなっている今現在。
そろそろノートでも買って内容を整理した方が良いかもしれない………
二十話! はじまりまーす
雪が降り、町が一面白く染まった頃、シノとクロは森の中に来ていた。
屋敷から出さないようにしていたシーブとメティオノーラだったが、奴隷が風邪を引いてしまい、その薬を作れるシノが森へと出るのは仕方のないことだった。
「どこかな?」
風邪という、頭痛や鼻詰まり、のどの痛みや咳、熱や倦怠感など、様々な症状を併発する病気は薬師泣かせとも言われる病気である。症状に対する緩和薬は検証されているが、風邪に効く特効薬などは存在しない。
原因が分からない病は、基本的に風邪に分類されるのだが、「風邪」の悪化で治療院に預けられるということも少なくない。
外的要因による、破裂や裂傷などを簡単に治してしまう治癒魔術では治せない病のほとんどは、かかってしまったら最後、自らの自己治癒力に任せるしかないのである。
「トゥーがあれば………オベカも」
普通に薬を買って処方すればよいのだが、奴隷という立場が邪魔をする。
屋敷で仕える奴隷のほとんどが子供で、薬を定期的に買えるお金など持っておらず、屋敷からでることも契約で禁じられている為治療院にいく事もできない。治療院の快癒結界に入れてもらえたとしても、完治するかは分からないのだが。
「サララもほしい………」
そんな状況で、調合の知識があるシノが、足であるクロと共にひとっ走り森に薬草を摘みに行くのは、最善で当然のことなのである。
さて、奴隷の症状だ。
高熱と咳と鼻詰まり。
今は主人がいない為あまり仕事もなく、寒ければ使用人の館に閉じこもっても文句をいう者など居ないのだが、連日のように降る雪に浮かれ、体に冷えが襲ってきても好奇心に負けた奴隷の少年がばっちり風邪を引いたのだ。
高熱だけでも十分だと言うのに、止まらない咳に喉を傷め、鼻も詰まっているのでろくに食事が通らないばかりか、呼吸すら辛そうなのである。
「クロ、あっち」
良くも悪くも奴隷は「商品」である為、主人が帰ってくるまでに死なれたら困る。しかし薬などを買ったら、後で主人に無駄使いだと責められることになるのは必須。回復薬を与えても、所詮は特効の傷薬でしかなく、喉の腫れは癒せても咳が止まるわけでも、風邪が治るわけでもない。むしろ回復薬を飲みすぎると回復薬に対する耐性が付いてしまって、薬そのものが効かなくなることもあるのだ。
「あそこ、ありそう」
前回タクと共に来た南の山麓よりも先。町から測るなら、その倍の距離をクロの健脚で踏破し、古木が生い茂る場所まで登ってきたのだ。
川を上り、岩が増え、湧水の池にたどり着いたとき、シノの目当てもものが見つかった。
「トゥー………おおめにとってこ」
トゥーとは、苔の一種である。
湧水が出ているような、清浄な空気である場所に自生する苔で、採取するのか大変な薬草の一種である。
きちんと処理すると、トゥーだけで熱を下げる効果が見られるのだが、いかんせん乾いてしまうとその効能が無くなってしまうので一般に広まることのない希少な薬草として薬師の中では知られている苔である。
生えている場所から持ち帰ることが難しい、ということもあるが、このトゥーという苔、湧水の周囲をテリトリーにしている大蛇トゥーラエが通った跡にしか生えないという特性あることから、冒険者ギルドに採取依頼が出されてもそれを受ける者は少ない。
うまい話には裏があるように、トゥーを削っていて後ろから大蛇に丸呑みにされたと言う話は誰もが知る話だ。
「クロ、けいかい。よろしく」
シノはクロに警戒を頼み、そのままトゥーを岩から剥ごうとナイフを当てて削っていく。
シノの腰にはいくつかの瓶がぶら下がっており、その一つの中に削り取ったトゥーを湧水でゆすぎ、突っ込む。
「『“Aqua” quasi ad repraesentandum effectum expestationem. Humidification. 』で、ふた」
シノとしては、加湿である『Humidification. 』ではなく、保湿を示す『Nam umor retentione. 』と唱えたいのだが、一節の変化ならば何回が連続でこなせるものの、二節では倒れる一歩手前まで魔力と体力を削られ、三節となると成功失敗関わらず倒れてしまう為、こんな場所では使用できない。
山の中で無茶をするほどシノも馬鹿ではない。
ついでとばかり湧水に水筒を浸し、水を補給し、いくつかの小瓶にも湧水を入れ腰にぶら下げていく。
「つぎ………クロ、いくよ」
トゥーラエに遭遇しなかったことに少々安堵しながら、シノはクロの背に飛び乗ると、その場を後にする。
シノが去った後、入れ替わるように普通よりも三倍は大きいトゥーラエがその場に現れるのだが、シノの運がいいかそうでないかは、不明だ。
「オベカ。サララ。あった」
オベカもサララも、山まで来なくても生えている香草である。当然のごとくシーブの家でもエイファ監修の下育てられているが、町で育ったものと、山の厳しい環境で育ったものだと、やはり山で育ったものが強い。
共に乾かして細かく切ると料理に仕える香草として、トゥーと共にすり潰せば、オベカは滋養強壮薬へ、サララは咳止め薬へと変化する。
オベカとサララをすり潰すと、男性の夜のお供になったりもするので、薬師を目指す者は、資金稼ぎにそれを大量に作ったりもする。需要がある為、いくらあっても困らないのだが、新人が作る物という意識があるので、熟練者が作ると変態扱いされてしまう薬だったりもする。
トゥーがなかなか手に入らないこともあり、この手の毒にも薬にもならない物は薬屋で一般的に出回っている。
「あとは………クロ、はなばたけ」
シノの指示で、クロは日当たりがよく小高い丘のようになっている、シノが花畑をよんでいる一面に花が咲く原っぱへと駆ける。
シノとクロだけが知るその場所には、本来生えるはずのない花や草が生えていて、どんな季節でも温かく、枯れることなく咲き誇っているという異常な場所なのだが、何度か行っているシノとクロは被害が無い為特に気にすることも無くその場所を訪れる。
困ることと言えば、花がそこらじゅうに咲いている為、目当ての花を探し積むまで他の花をなるべく踏みつぶさないように歩くことだろうか。
当然のことながら、この場所に雪はひとかけらもない。
「カラッタ………これ? で、いいよね」
カラッタとは、強い香りを放つ花の総称である。
その種類は多岐にわたり、同じ種類の花でも生えている地域によりカラッタになったりならなかったりと変化する為、薬師が「特に香りが強い花」という枠組みでカラッタという言葉を作ったと言われている。
当然のことながらカラッタと言われても、ほとんどの人は首を傾げる。知っているのは薬師か薬師を目指している調合師あたりだろう。
シノは見つけた紫いろのカラッタを小瓶に入れ、その中に透明な液体を注ぎ込む。
「『“Ignis” quasi ad ripraesentandum effectum expectationem. Heating. 』と『“Aqua” quasi ad ripraesentandum effectum expectationem. Extractionem. 』かな?」
小瓶が徐々に温まるのを感じ、他の小瓶と同じように腰にぶら下げる。
「………かえる? はしる?」
シノの保存方法ならまず焦って帰る必要はないので、クロに遊んでいくか? と問うシノ。シノが治療院に入って以来の遠征である為、クロはシノに一度すり寄ると、シノの周りを駆け回る。
「そこでちょうごうしてる、あそんでおいで」
シノはクロの首から下げさせていたカバンを受け取ると、花畑けの中央の方にある大岩の上に座り、カバンの中身をその上に出す。
クロはシノが着々と調合の準備を進めるのを確認した後、花畑から離れて森の方へと駆けて行った。
「んー………」
調合に必要なのは、分量を間違えない技量と根気だ。
産まれてこの方薬師であった母に徹底的に叩き込まれた調合技術は、五歳にして最高峰と言ってもいいほどであり、難があるとすれば、固い物を砕く筋力や、物を潰せる自重が無いことだろうが、それを補助するのがシノの使う魔術だ。
「おわり」
カラッタ以外を混ぜ合わせ、チョット発光している怪しげな色の薬が完成する。
発光するのはトゥーの効果で、高品質のモノを使用すればするほどその光り方は強いものとなる。高品質なトゥーしか使ったことのないシノは、発光しないものを作る方が珍しいので、これが普通の現象だと思っている節がある。
誰もその認識が違うと説明できるものがいないので、気が付かないし、だれも何も言わない。
「………? だれ?」
調合が終わって一点集中が切れたところで、シノは誰かに見られているような感覚に襲われて周りを見渡す。しかし、視線は感じるものの、誰もいない。
よくよく集中して視線を探ると、複数の視線があることに気が付く。
一番強い視線は町の方から送られてくるもの。完全にこちらを捕捉しているわけではなく、何かを探すようにふらふらと行ったり来たりしている視線だ。探すようにしているせいか、その視線は強く、シノにはねばっとしたものに感じられ、嫌な汗をかく。
次に強い視線は背後、それもかなり近くから。
こちらははっきりとシノを見つめていて、シノもその視線がどこからきているかを追える。
「………どうしよ」
後ろを向くシノの目に映るのは、大きな洞。
クロに大岩の所で調合しているから遊んでおいでと言った手前、その場所から割と離れている洞に行くわけにはいかない。
「んー、むし」
どうしようかと洞を見つめていたシノだが、面倒臭そうだと判断し、洞から視線を逸らし、その視線をないものとして意識を切り替える。
そんなシノの態度に驚いたのは視線の主の方だったのだろう。戸惑ったように視線は右往左往と揺れ、それからも興味深そうにシノを見続け、ある程度余力を残して帰ってきたクロと共にシノが去るまで、その視線は見つめ続けていた。
「クロ、ぜんそくりょく」
クロは一つ嘶き、ものすごい速さで森を突っ切って行く。
クロに乗るシノには、まるで木の方が避けているように見えただろう。
町からの視線は既に途絶えており、あの視線がもう一度こちらを向く前に帰ろうという判断で、シノはクロに全速力を提案したのだ。
なにかを探していたねっとりとした視線は、大岩でシノが確認した限り、直接街を与えるようなものではないようだったが、回避したいと思う程には気持ちが悪かった。
クロの全速力とは言っても、音より速く動くことも、空間ごと移動するわけでもないので、かならず一刻はかかってしまう。普通に比べればかなり早いのだが、またあの視線がこちらを向くかもしれない、という思いから、その速度でも安心しきれず、かなり焦っていた。
「みゃ!?」
クロに乗って駆ける姿を誰かに目撃されるぐらいには。
一瞬の事だった為、見た者は、何か黒い物が真横を通り過ぎたとしか思わなかっただろう。整備されている街道を使わず森の中を踏破するような人はなかなか居ない為、シノも気にしなかった、というのも見られた原因かもしれない。
「な、なんだったのにゃ………」
出会うべきではなかった邂逅はどちらの意識にも残ることなく終える。
シノは気が付いたが、追って来ないことを確認すると、クロの腹を一度叩き、更に早くと支持を出す。クロはシノの望む通りに速さを上げる。
普段なら町の近くに来たら速度を落として、普通の馬であることを装うのだが、狩人は森に獲物がいない為臨時休業中であるため、南の森には誰もいない。
人目を気にする必要がないクロは、全速力のまま外壁を飛び越え、クロの背に立って準備していたシノは、その背を蹴り内壁をも飛び越える。
「のわっ!」
「ただいま」
「おかえりなさい、シノ」
自らの背よりも高い外壁を飛び越えたクロ。
外に誰も見ている者がいなかったからいいものの、すこし小柄な馬がその高さを飛び越え、それに乗っていた子供が更に倍以上の高さを誇る内壁を飛び越えるという現場を見ていたら、例外なく腰を抜かしただろう。
飛び越えた先で、それを見ていた奴隷たちのように。
「かぜぐすり、つくってきた」
静まり返る敷地内。
シノに答えるのは当然のごとく
「それはなによりです。さあ、準備をしましょう」
「嬢ちゃん、屋根に着陸して怪我でもしたらどうすんだ………」
メティオノーラとシーブである。
シノは内壁を飛び越え、内壁に近く、内壁よりも低い使用人の館の屋根でほとんどの速度を殺し、最後に壁を蹴って衝撃を散らし、使用人の館の前でメティオノーラと話していたシーブの目の前に着地したのだ。
「けがしない」
「ほおー。この前治療院で集中治療してたのは誰だっけなー?」
「あれはあいてがきぞくだったから。しかたない」
貴族に逆らうのは得策ではない。
母親が殺された大元は貴族に逆らったからだと思っているシノにとって、貴族に逆らうことイコール死、とまではいかないが、それに準じる考えになっている。
「また快癒結界にお世話になりたいのか」
「ならないから、だいじょうぶ」
「ったく………」
シーブとシノはいつも通りである。
快癒結界で治療したことにより、普段受けていた暴行の怪我も完治したようで、シノは普段よりもかなり大きく動く様になっていた。人間離れしれいるシノの身体能力にシノの母を知らない者は舌を巻く。実は獣人だと言われても皆納得しただろう。
メティオノーラは知っているし、シーブは妻から聞いているのだ。シノの母、白魔女の奇行の数々を。
「シーブ、クロを厩舎に。シノ、それだけ暴れたんですから、お風呂に行きますよ」
「ほい。ってか、クロは外壁を飛び越えたのか………」
「………」
「嬢ちゃん、大人しく風呂に入ってこい」
「シノ?」
「………はい」
シノの風呂嫌いは治らない。
「嬢ちゃん、風呂に入ったら厨房な」
「ん」
シーブは使用人の屋敷の裏手に。
シノはメティオノーラに引きずられて、お風呂へと連行された。
二十話も書いたのか………
よくかけたな、自分
さー、明日更新できるかな?




