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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第一章 幼少期・ガラム
18/113

13 迷子の子供たち

 三人の少年が何で森にいたのか、という説明回。

 因みにアキ以外の少年たちの名前はありませぬ。


 第十七話、始まるよ!

 三人の少年は、この町に住む貴族の子供である。

 貴族が平民と共に遊ぶなどあってはならないことだとされる風潮は、そう簡単に覆せるものでもなく、少年たちはいつものように、彼らの中で一番家が広い少年、アキの家で『勇者』ごっこをしていた。

 いつものように奇抜なマントを着て、使えもしない短剣を腰に下げて、なんちゃって旅装束に身を固めたアキの世話を二人の少年はため息をつきながらしていた。

 そして今日、いつもどおりの『勇者』ごっこするために集まり、目付役が居なくなった瞬間、アキは二人に向けてこう言ったのだ。


 「『ゆうしゃ』いっこうのおれたちなら、もりのまものもたおせるよな?」


 これが、単なる貴族の一員、男爵の位を持つ者の息子の、下級貴族の戯言として扱えたのなら、その時点で話は終わっていた。


 「はい?」


 事実、共に遊んでいる二人は、子爵の子供。

 もしアキがただの男爵の子供であったら、頭を下げなければならないのはアキの方なのである。

 しかし、そこには複雑な事情が絡んでくる。


 「もりですか?」


 二人の父親は、共に子爵の位を持つ者で、男爵であるこの町の領主の部下でもあるのだ。方や文官長、方や騎士団長。上の決定に逆らえない中級貴族である彼らが男爵位である領主に頭を下げるのは当たり前だが、公の場では必ず昇順で扱われるのだから子供たちはそのままの位で接するはずなのだ。

 そこに複雑な事情が組み込まれていく。

 このアキという少年、相当両親に甘やかされて育っているのと同時に、猫かわいがりしてくる母方の祖父が居るのだ。その母方の祖父は中央で実験を握る侯爵で、男爵に子爵を部下として与えたその人であったりもする。

 さらにその侯爵現役で、普段は有能な武を統括する人物なのだが、孫が関わると人が変わる。

 そんな侯爵を主と定めて今まで行動してきた子爵ら二人は、敵に回したくないと息子たちに言い含めたのだ。絶対に男爵の息子の期限を損ねるな、と。


 「そう! もりにいこーぜ!! じゅんびしてくるから、おまえらもひがしもんでしゅーごーな!」


 最初は新天地で不安もあった二人だが、家の中に引き籠って家庭教師に勉強を教わることになど、生活に関してはほとんど変わりなく、同い年で同じ立場の幼馴染が一緒に町に来たのだから、寂しいなんて思わなかったし、逆に二人だから新しい町にも馴染むのが早かった。

 そこに言い渡された三つ下の領主の息子のお世話。ちょっと生意気な弟のお世話を頑張ろう、程度で割り切って二人は接してきた。


 「え? ちょっ」

 「行っちゃった………」


 しかし、ひと月前からアキの様子が変わった。

 何が変わったのかと聞かれても悩むばかりだが、明らかに『勇者』という存在に熱中しており、三人で遊ぶ時も、以前ならチェスなどの戦略ゲームをしていたのに対し、まるで少女がおままごとを好むように『勇者』ごっごという仮想の敵を倒す行動ばかりするようになったのだ。


 ―――おれは『ゆうしゃ』としてえらばれたんだ!


 そんな妄言を吐く様になり、すぐ飽きるだろうとたかをくくって付き合っていた二人だったが、いつの間にか奇抜な色のマントを用意し、変な道具入れを使用人に作らせ、挙句の果てには的だと感触が分からないと言い出し、立場的に逆らうことのできない使用人を的にして『勇者』ごっこは続けられた。

 何度か、使用人を使うのは止めた方がいい、使うなら的の方がいろんな意味で安全だと話して聞かせたのだが聞いてもらえず、両親に機嫌を損ねない範囲で進言してもらっても上手くいくことは無かった。

 そして、動かない使用人()に飽きたのか、動く的、魔物を倒しに行こうと言われ、回避し続け今日に至る。


 「どうする?」

 「とりあえず行くしかないよ、父さんたちを困らせるわけにはいかないし………」


 とりあえず二人とも父親宛てで、「男爵の息子たっての願いで森に行ってきます。定刻を過ぎても帰らなかった場合、捜索隊の派遣を考えてください」と手紙を書き、一旦帰ったときに使用人に父親が家に帰ってくるまでに帰って来なかったらこの手紙を渡してくれと言い含め、憂鬱な気分になりながらも東門へと向かった。


 「おそいぞ! はやくいこう!!」


 そこには、『勇者物語』の挿絵にあるような『勇者』の格好をした、すごください少年がいた。挿絵はかっこよく書かれているが、それを立体にしたらこんなに残念になるのか………と、二人は幼くして学ぶことになる。


 「なんだよ! そんなそんびでまものをかりにいこうなんて、おまえらなめてるだろ」

 「いえ、ですから………」

 「『ゆうしゃ』いっこうにけいごはだめだぞ! なかまはけいごなんかつかわないぞ!!」

 「………分かった」


 貴族街の東門を使用したことに二人は安堵しながら、これからどうするかアキに尋ねる。

 この町にある正式な東門は、活気が無いとはいえ倉庫が連なり、それなりに人通りがある場所だ。こんな奇抜な格好のやつが貴族だと、そしてその格好のやつと一緒に居るなんてことは、何が何でも避けたかった二人である。


 「じゃあ、きたのもりにしゅっぱーつ!」


 二人はぎょっとするが、東門を出て左に曲がったことでほっと胸を撫で下ろす。

 左に行けば東に行くだろうという考えなのだろう。短絡的で、貴族としては将来がかなり危ぶまれるが、今回ばかりはそれに救われたのだ。

 安堵した二人は、腰に括り付けた剣を確認し、そのままアキの後ろで護衛代わりを務める。


 「つまんねーの! なんもでてこないじゃん!!」


 一刻程歩いても何も出てこないことに、二人は安堵するが、アキはむくれて文句を言い続ける。


 「今日はあんまり魔物も元気がないのかもね?」

 「そうそう、いくら『勇者』でも魔物がむこうからよってくるわけじゃないし」

 「むしろ『勇者』だったら逃げて行きそうだけどな」

 「そうだね」


 まあ、南の森に来ている時点で普通の魔物に会う訳もないのだが、そう言うことは言わずに早く帰りたい思いを押し込めて二人で冗談を言い合うのだが、アキは詰まらないと連呼し始め、むくれて喋らなくなってもそのまま突き進む。

 そして、いくばくかの時が過ぎ、目の前を一体の野菜が通りかかる。


 「まもの!」


 そう言いながらアキは腰に付けた短剣を引き抜き、振り回しながら追いかけていく。

 

 「え? あれ野菜………」


 走っていく野菜はロマフェと呼ばれる、比較的珍しい自走野菜。自走野菜の中でもかなりの足の速さをほこり、日光ではなく魔力を糧に生きる野菜にしては珍しく、追われたら逃げる野菜だ。


 「ちょ、置いてくな!」


 二人の声も虚しく、逃げるロマフェを追って森の奥へと飛び込むアキ。

 まだ発生したばかりの株だったのだろう。子供の全速力でぎりぎり追いつけない程の早さで逃げ回るロマフェにまかれ、アキは肩を落す。

 しかも人の話を聞かないアキが全速力で走り回ったせいで、周りの確認がおろそかになり、現在位置を完全に見失った三人は文句を言いながらも湧水を見つけて一息ついていた。


 「クソッ、腹減ってきた………」

 「どうする? ここどこかわかんないけど」


 疲れている二人とは違って、初めて共をつけないで入った森に大興奮のアキ。


 「え? 何してるんですか?」

 「けいごはダメなんだぞ!」

 「えっと、何してんの?」

 「『ゆうしゃ』がせんとうしたのにきずをおってないのはおかしいだろ?」


 きれいな服の袖をびりびり破き始めるアキに呆れる二人。


 「さー! まものをさがしにいくぞー」


 アキの掛け声に答えず、町に帰る為に、目印になるようなものを探す二人。

 しかし、平日の昼過ぎであるためか、煮炊きの煙も、人の匂いも感じられず、延々と時間だけが過ぎていく。

 日が傾き、流石に帰らなければと焦りはじめた二人は、アキに帰ろうと進言するが、アキは聞く気を持たず、延々と歩き続けることに。


 「とりあえず人に助けを………」

 「そんなかっこわるいこと、『ゆうしゃ』がするわけないじゃん! おれがちゃんとまちまであんないしてやる!!」


 とりあえず町に帰るということを納得させた二人だったが、迷ったという認識のないアキは、どこまでも楽観的だった。

 ここで反論すると何とも言えない雰囲気になるので、普段よりも大きめの声で会話することを二人は選択する。喋りつづけていれば、通りかかった誰かが、こんな時間にこんな子供が三人だけで居るのを不審に思って近寄って来てくれるかもしれない、という望みを託して。

 方位でさえ間違えるアキが、ちゃんと町までたどり着けるとは微塵も思っていなかったのだ。事実この時、森の奥へと三人は歩いていた。


 「わたしはシノ。あなたたちをまちまであんないする」


 そんな中現れたシノに、二人は救われたと思った。

 こんな小さい少女がいたのだから、そんなに町から離れた場所に居るのではないと安心した二人だが、アキは何が気に入らなかったのか拗ねてしまう。

 とにかく迷子になったから町まで案内して欲しいと告げると、シノは頷き歩き出す。そこに今まで黙っていたアキが口をはさんだのだ。


 「おんなとうぞくのシノだな! おれとしょうぶだ!」


 まず二人は止めた。

 貴族の一員として、無駄に暴力を振るってはいけないと二人は親に言われて育ってきていた為、町民と貴族の違いをただ単なる生まれの違いと認識していたのだ。しかしそんな教育を受けていないアキは違う。


 「とうぞくのくせにうそをつくんだな! せいばいしてくれる!!」


 止める中で、確かにアキのお気に入りの『勇者物語』の一部に同じような状況があったのを思い出す。

 先代の『勇者』が仲間の一人を助ける為に森へと入り、その仲間を助けるという話。そこには女盗賊改め、怪盗アンジェラが以前助けてもらった『勇者』に借りを返そうと『勇者』達の前に現れるが、所詮は盗賊という事で切り伏せられるというお話でもある。

 賊はそこにいかなる理由があろうとも、罪を犯して逃げ回り、悪びれもせずそれを繰り返す集団、そこに人間の心が残っていても賊がしてしまったことは変わらない為、感情を殺して一思いに殺してしまうのが最善の選択である。という教訓に扱われることが多いお話で、騎士になることが多い貴族の少年は必ず聞かされるお話である。。

 だから、アキがまた『勇者』ごっこを始めたよ………、と最初は呆れていたのだ。だがその真似は、常軌を逸していた。短剣を振り回し、助けに来た少女に本格的に攻撃を仕掛けたところで何かがおかしいと思うが、それが魔術を唱え始めたことでそのまままねようとしているという事に気が付く。


 「―――しょうかん、らいてい! せんめつせよ!!」


 『勇者』が盗賊の隠れ家に放ったとされる一撃を、少しつっかえながら詠唱し切ったのだ。『勇者物語』の中には、「盗賊が居たとされる洞穴を含め、山ひとつを巻き込むほどの雷撃が空から舞い降り、終わった後に立っていたのは『勇者』のみ。森も、木も、山でさえ、まるでそこになかったような大きな大穴が盗賊の末路をあざ笑うかのようにぽっかりと空いていた」とある。

 アキが魔術に興味があって、最近祖父お抱えの魔術師がアキにいろいろと教え始めたのは知っていたが、まさかそんな大技を放てるとは思っていなかった二人。

 考える間もなく雷撃が視界を焼き、痺れが残る中気合で目をあけあたりを見回すと、気が付くとナイフを手にしたアキが、助けに来てくれた少女に突き刺そうとしているところだった。


 「おんなとうぞく! このないふのほうがおまえをくるしませられるな!! なんたってなんじゅうねんもつれそっただいじなぶきなんだろう? そのぶきでいためつけられるんだから、かんしゃしろっ!」


 『勇者』が女盗賊が扱っていた短剣を手に女盗賊に止めを刺そうとする台詞。


 「はんざいしゃに、おんなじあかいちがながれているなんてふかいだよ!」


 『勇者』が女盗賊に止めを刺した後に言った言葉。

 二人は、動かない体を懸命に動かそうとしたものの、できたことは目を見開くことのみ。目の前で少女が痛めつけられる様を見ているしかなかった。

 さらに突き刺そうと構えるアキにシーブが蹴りを食らわせたのはその直後。


 □■□■□


 「と、言うわけなんだ」


 話を聞いていたタクは、「そうか」と呟き、ナイフを研いだことを悔やんでいた。もしナイフをあそこまで研がなければシノの体を貫通するほどの威力は出なかったのかもしれない。しかし悔やんでも後の祭り。今はシノが無事治療院に収容されたことを願うしかない。


 「あ! 灯りだ!!」 


 森を踏破し、門に付けられた灯りが暗闇の中輝いて見える。

 門の前にはシーブと警備隊、それに野次馬が集まっているのがよく見えた。


 「あ、ヤベ。捜索隊でちゃってる………え? 父上?」


 既に二人の父親は捜索隊を結成して周囲の森の警邏をしていたらしく、二人の見覚えがある人間が、南門で彼らの父親であろう上質な服を纏った子爵様に報告を行っていた。


 「では、とりあえず詰所まで来てもらいます」


 警備隊の男がそう言い終わるか終らないかのタイミングで、縛られているアキに詰め寄るふくよかな女性がその男を突き飛ばした。


 「アキちゃん! まぁまぁこんなに縛られて!! 痛いでしょう? 今外しますからね」


 その女性は呆気に狩られている一同を差し置き、側に使わせていた使用人らしき男からナイフを受け取ると、危なげな手つきでロープを切り、アキを開放する。


 「ママぁ!」

 「アキちゃん! 本当に良かったわ! もりに連れていかれたと聞いたときは、本当に心配したのよ!!」


 この言葉を聞いて、タクの側にいた二人は驚いて父親を見るが、その父親でさえ唖然としているのを見て、アキの母親がそう言っているのが、父親がそう伝えたわけではないのだと理解する。


 「さ、アキちゃん帰りましょう? 今日はね、アキちゃんの好きな香草焼きよ! あら、そこ退いてくださる?」


 その女性はアキの手を取り、警備隊をどかそうと試みるが、警備隊も仕事であるため、なんとかその女性をなだめながら、明日詰所に向かわせる、ということを約束させ、女性はアキと共に去って行った。

 野次馬も面白いものが見れたと大分いなくなったところで、子爵も自分の息子の所にかけより、差別対象である狩人の親方たちに対して素直に頭を下げ、今度謝礼をすると言い帰って行った。


 「無事、とは言えねぇけど、嬢ちゃんは治療院に任せてきたぜ」

 「良かった………関係ないけど、聞いていいですか?」

 「? なんだ?」


 タクはずっと気になっていたのだ。

 シノを傷つけたアキへの怒りの感情の次に意識を占めていた一つの疑問。


 「あの、商人の屋敷の料理長なんですよね? 一体今までどんな職についてたんですか?」


 徒歩で半刻、その距離を全速力でタクを乗せて走りきったクロと並走して、さらに速力を上げ飛び蹴りをアキに食らわせたシーブ。

 親父は元冒険者だから、あの速さについてこれるのもまだ分かる。だがしかし、普通の料理人が会話をしながら馬と並走し、息を切らさずに走り抜けるなんてことは異常としか言いようが無い。

 しかもだ。アキに飛び蹴りを食らわせ、空中に浮いたナイフを取り、シノのすぐ側に着陸するという、何とも人間離れした運動神経。

 鮮やかすぎて、一瞬何が起きたか分からない程、手慣れた動作だった。

 シーブは人の悪い笑みを浮かべて、人差し指を口元に当てる。


 「ヒ・ミ・ツ」


 タクは笑ってない瞳に、これ以上聞くものなら殺されそうだと感じ、顔を青くさせながらも頷く。

 タクの隣では、少ないながら事情を知る親方が息子の様子を見てため息をつく。


 「んじゃ、俺も行かねば。そろそろ着替えたいしな」


 後で荷物を受け取りに行く、と言い残して消えたシーブに、再度親方はため息をつき、来るなら酒を持って来いと言う。

 こんどはいつものようにへらへらと笑いながら、門をくぐり町の中へとシーブは消えて行った。


 「………帰るぞ」


 なんだかまだ終わっていない気がしながらも、タクは親方と共に森へと帰っていく。

 家まで付いて、投げ出された水筒を確認する。

 水を入れた水筒は蓋が空き中身のほとんどが消えていたが、兎肉と野菜がたっぷり入ったスープが入った水筒の蓋は開いておらず、夕食として食べることになった。

 いつもなら美味しいと舌鼓を打つその味は、なんとなくしょっぱく、家の中の空気を重くしたとタクは感じる。

 二人の貴族の少年たちの言葉が感じになっていたりなっていなかったりするのは仕様です。決して変換ミスというわけではありません。


 次回更新は明日だと思われ。

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