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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第一章 幼少期・ガラム
16/113

11 歯車がかみ合った日

 友人に「お前、肉体年齢と精神年齢に差がありすぎw」と言われてしまった。

 仲がいい奴には幼稚で、第三者の前だと老獪であるらしい。


 中心人物三人が出そろった!

 第十五話、はじまりますよん

 クロが南の森に入って、丁度町と森の端の中心ぐらいの所で立ち止まった。

 普通ではありえない。帰りが遅かったら怒られることをよく知っているはずのクロが起こす行動にしては変だった。


 「シ、シノ? 何かあったのか?」


 クロの耳は何かを聞いているようにぴくぴくと動き、目線は前に固定したまま動こうとしないし、シノもクロに走るように言わないのだから、タクは不思議に思ったのだ。


 「なにかきこえる………?」

 「え? 何か聞こえるの?」


 耳を澄ますが、タクには何も聞こえない。

 クロは声の方向が分かったのか、ずいぶんとゆっくりとした仕草で森を進んでいく。


 「こども? のこえ」

 「ああ、俺にも聞こえる」


 クロの進む方向から何を言っているか分からないが、何かを言っている声が聞こえてくる。

 町から徒歩で半刻ほど離れている森の中。

 もちろん大人の足で半刻だから、歩幅が短い子供の足であれば単純計算でその倍ほどかかることが分かる。

 しかしそろそろ暗くなる時間であるし、南とはいえ森なのだ。普通は入ろうとしないし、親もそれを許さないだろう。

 遊びに行くなら森の奥、というシノとタクが変なのだ。


 「まさか、この時間にこんな場所をほっつき歩く奴なんて普通は………」

 「たすける?」

 「………」


 シノが助けるかどうかの判断をタクに任せる時は、少なくともその子供たちの声の中に大人の声が混じっていない、つまり大人がいない状況で子供たちが右往左往しているかもしれない、という危惧から来るときのみだ。

 もしかしたら大人の声がしないだけ、という可能性も考えられるが、子供の声が焦っている訳ではない状態で大人の声が聞えないことから、最初から大人がいないか、大人はいるが声を出せなくなった状況下で行動しているのだろう。


 「よし。見てみて、何事も無かったら親父に知らせて戻ろう」

 「もし、は?」

 「俺らで足りるなら介入、平気そうなら親父たち、だな」

 「ん。クロ、こえのほう。きづかれないように」


 徐々に鮮明になっていく子供の声。

 十数分でその声は完全に聞こえるようになった。


 「やばいよ! どうやって帰るんだよっ」

 「晩ごはんまでに返らなきゃ、おれ飯ぬきなんだけど………」

 「だいじょうぶだって! おれがあんないしてるだろー?」


 まだ幼いだろう少年たちの声。

 案内していると豪語する少年の声はなぜか森の奥へと消えていく。確実にその足は森の奥へと向いているころだろう。

 さらに数分近づいて、少年たちの姿を確認して、今後の方針を決める二人。


 「タクにいちゃん、わたしがのこってあんないする。クロといっしょにおやかたのとこにいって」

 「そうだな。あれじゃ面倒なことになりそうだし、手っ取り早いか」


 少年たちの格好は、明らかに普段町で見かける町民とはかけ離れていた。どう見ても貴族街に住むお坊ちゃんの服装なのだ。

 焦っている少年と少し腹が出ている少年の服装は、所々泥が付いているが真っ白だったことが分かるシャツに、体にぴったりとしている注文服(オーダーメイド)のベストにズボン。両方とも厚手で、きっと汚れなけれな光沢を放つような一品だったのだろう。なぜそんな服を着て森を歩いているか不思議な物だ。

 逆に案内すると言った、妙に陽気な声の少年は、変、としか言いようがない。

 奇抜な色のぶかぶかしたマントを羽織り、どこか度にでも出かけるようなカバンや器具を腰からぶら下げ、自分で破いたのだろうとわかる穴が、服のいたるところに見受けらっる。


 「タクにいちゃん、できたら………」

 「おう、あのおっかない家政婦長さんだろ? 伝えとくぜ」

 「ん。きをつけてね」


 シノはひらりとクロの背から飛び降り、一人で明らかに場違いな集団の方へと向かっていく。

 タクはなんであんなに自然に飛び降りる事ができるのだろう………と無駄なことを考えながら、クロと町の方へと駆ける。

 音で少年たちに変な期待を抱かせないように、クロの歩調も音をたてないようにゆっくりとしている。声が聞こえない位置まで来たら駆けることになるだろう。


 「わたしはシノ。あなたたちをまちまであんないする」


 シノが三人の少年の前に出る。


 「なんだ、おまえ? ―――」

 「町まであんないしてくれるのか! 助かった!!」

 「うしっ飯、抜き、かいひー!」


 奇抜なマントの声を遮り、他の二人が発言する。


 「いやーマジ助かった!」

 「どんどん奥に入ってきて、道が分からなかったから助かったよー」


 いい意味で貴族の子供らしくない二人の少年の言葉で、シノはなんとなく状況を察する。

 それからも二人の子供は話し続け、シノは、彼らが森に遊びに来たは良いが、帰り道が全く分からないただの迷子であることが分かり、大人の同伴はおらず、子供たちだけで来たということを聞いた。

 シノが話を聞いている間、仲間外れにされたと少々不機嫌になっていたマントの少年は、何かを思いついたように口の端を吊り上げる。


 「親にばれたくないから、しゃれいとかは払えないけど、町までお願いできる?」

 「ん。ついてき」

 「おんなとうぞくのシノだな! おれとしょうぶだ!!」


 付いて来て、と言うつもりだったのに、なぜか遮られ、マントの少年はシノを盗賊だと言い勝負を仕掛けてきた。さらにその手には、刃が付いていないとは言え、それなりの重量があるとわかる短剣(ダガー)が握られている。

 そんな声が帰ってくるとは思わなかったシノは、マントの少年を見て、既視感を覚え、メティオノーラに読んでもらった『勇者物語』の挿絵を思い出す。


 「ちょっ、よせよ」

 「ダメだって」


 シノの側で事情を話していた二人は、のたまうマントの少年にかけよりその意志を変えさせようと声をかけるが、マントの少年はにやにや笑ってシノを見るだけでその行動に変化はない。

 貴族とわかる格好の二人の少年は、シノが案内しようとしていたことをちゃんとわかっていたのにも関わらず、もう一人の奇抜なマントの少年はそう思えないらしい。もし盗賊だったら気付かれなかった最初のうちに縛り上げてアジトかどこかへ連れて行くと思うのだが、この少年はそういうことを考えないのだろうか? と少々失礼なことをシノは考えがら、反論しないのも変だと思ったため、とりあえず応える。


 「ちがう。わたしは………ちょうみん。おばさんがさ」

 「とうぞくのくせにうそをつくんだな! せいばいしてくれる!!」


 人の話を聞かないマントである。

 町民と言うのも行ってしまえば嘘であるため否定できないが、盗賊ではない。

 しかも盗賊ならもっといい嘘を付きそうなものだ。盗賊が嘘を付かないときなんて、上司に報告するときぐらいではないだろうか。

 シノはマントの少年を無視することにし、他の二人に視線を合わせて声をかける。


 「………まちにかえる?」

 「あ、ああ」

 「おれのなかまをたらしこむなんてどんなてをつかったんだとうぞくめ! こうしてくれる!!」


 マントの少年が短剣を振り上げ、シノに向かって振り回す。

 重いのだろう。へっぴり腰で振り回される剣を避けるのは、シノにとってかなり簡単なことだ。しかも、ちゃんとした訓練を積んでいないのか、振り上げるにしろ振り下ろすにしろ、ふらついてしまって剣の軌道が揺れている。剣に関してはかなりの素人であるシノから見ても、剣を習っているはずの貴族の少年とは思えない残念具合だ。


 「あ! よけるな!!」

 「………いたいの、イヤ」

 「くそぉっ! こうなったおくのてだ!!」


 避けるなとは、ずいぶんおかしいことをいう少年だな、とシノは考える。避けなかったら打ち身は確定。そんな攻撃をわざわざ受けてやるほどお人よしではないし、受けてやれるほど被虐趣味があるわけでもない。

 すると、今度は短剣を放り出し、シノに掌を向け、なにやらぶつぶつと呟き始める。


 「やばい!」

 「じょうだんにならないよ!?」


 マントの少年が何をしようとしているのかが分かったのか、横にいた二人の少年は急いでマントの少年から離れ、シノのいる方へと走り出す。

 わけが分からないが、とりあえず距離を開けるべきだと判断したシノは、目線は少年に固定したまま後ろへと下がる。

 少年が呟く言葉に同調するように、少年の体から不可視の何かが立ち上るような気配を感じたシノは、判断をし損ねた。


 「―――しょうかん、らいてい! せんめつせよ!!」


 ふと空が曇り、何かが光ったと思うまもなく、シノの目の前は真っ白になった。


 □■□■□


 町では、南の森に雷が落ちたと大騒ぎになっていた。

 さっきまで雷が落ちるような大きな雲が見られなかった晴天の空。それが今ではどんよりと曇っていて、何やら心まで重くなりそうな雰囲気である。


 「どうしたのかしら………精霊たちからは何も聞いてないけど」


 空を見てそうつぶやく彼女の後ろから声がかかる。


 「おや? エイファちゃんの天気予報も今日ははずれかな?」

 「うーん、今日は自信あったのになー」

 「ははは、仕方ないさ。天気なんて神様の気分か、魔道師様の極大魔術でしか変わらないもんだろ」


 宗教が表立ってなくても、宗教心が消えるわけでもなければ、稀に神託が降りるからには民も神を信じている。そして、なんでもできそうな魔術ではあるが、大抵の人は魔術を扱える程の魔力を保有していない為、呪文を言えば簡易的な天候の操作が訳もなくできるということを、大抵の民は知らない。


 「………そうね。さ、無駄口叩いてないでちゃっちゃと仕事に行きなさい!」

 「ああ! 俺の休憩時間(エロ本)がっ!! エイファちゃん、あとちょっとだけでいいから」

 「アンタ? 仕事、まだ終わってないだろ?」

 「ひぃ!」

 「あ、奥さん、お出迎えご苦労様です」

 「ごめんね仕事の邪魔するような亭主で。こってり絞っておくわ」

 「ふふ。お手柔らかに」


 憩いの資料(エロ本)を、奥さんに見せるわけにもいかないエイファは、奥さんに見られないように隠し、仲良しな夫婦を見送る。


 「でも、なんで?」


 異様な空模様に不安が駆られる。

 近場の精霊を捕まえて問いかけるが、返ってきた答えは「自然現象ではない」ということだけ。なぜ森に雷が落ちたかは分からないらしい。


 「ふぅ、また修業でもしなきゃならないかしらね」


 仕事場に戻りながら、彼女が考えることはただ一つ。


 ―――今日はシノちゃんが森に行ってませんように


 □■□■□


 町の一角。シーブは次の創作料理の為の買い出しに来ていた。

 在庫と注文数の折り合いをつけようとして店主が店の奥へ入ったところで、空が曇り、魔力が変に渦巻いているのを感じたシーブは空を見上げる。

 そしてその中心に膨大な魔力が一か所に集まったと感じた瞬間。


 「うぉ!?」


 一瞬の閃光。

 それは魔術的要素によって引き起こされた落雷であると、シーブは理解する。


 「まじかよ………いったい誰が」


 彼が知る中で、あの規模の落雷を扱えるような知り合いは、この町にはいない。

 威力こそ持っていなかったが、シーブから見た魔力の広がり方からすると、広域殲滅魔術に分類されるような、一つの町を更地に変えてしまえるような、そんな規模の魔術。普通なら数人の魔術師が一緒に長い詠唱をして起こすような魔術。前線で何度も煮え湯を飲まされた覚えがあるから、断言できるほど、あの魔力の広がり方には覚えがある。

 もしあれが人の起こす魔術でなかったら。

 ユニーク系の魔物が扱う魔術だろう。さすがに冒険者として多くの魔物と対峙してきたわけではないから詳しいことは分からないが、ユニーク系の魔物は一匹で広域殲滅魔術を放つこともあると、聞いたことがあった。しかしながらそんな魔物の高ランクの魔物がこんな辺境に来るはずがない。


 『戻りなさい』


 永遠とまとまらない思考に割り込んできたのは、屋敷に居るはずの上司(メティオノーラ)の声。

 近くに姿が無いことを確認し、こんな魔術も使えたのかよと内心呟きながら、まだ続きそうな声に意識を少しだけ向け、思考を現実へと引き戻す。


 「ほれ、42だ」

 「えーまけてよ。35」

 『南の森に雷が落ちました』 


 いつもの冷淡な声ではなく、何か焦っているような声。

 シーブは店主と会話しながら、メティオノーラが何を言いたいのか考える。

 二発目を睨んでいるのか? あの量で魔力を消費したら、というか魔物なら魔力の補完に時間が必要になるだろうし、人なら魔力量の関係で同じものを再度撃つことはできないだろう。


 「40、屋敷のだろう?」

 「37、今旦那サマがいないから使用人ばっかでチップスら出して貰えねーの」

 『発生源には子供が四人いたと思われます』

 「なら38だ。文句はあるまい」

 「ありがとよ」

 『急ぎ戻りなさい』

 「今日はやけに引きが早ぇな。まあ? 今後ともひいきにしてくれんなら、これからもサービス精神満載でいこうじゃないの」

 「じゃあ」


 ―――その中の一人に、シノが居ます


 「どうした? いきなり顔を青くして」

 「―――ッ! そのサービス、今もらう。コレ、屋敷に運んどいてくれ。後で40払うから!!」

 「へ? あ、おい!」


 引き留める八百屋の店主の声を置いて、いつものように値引き交渉に目を輝かせていた周りの観客の訝しむ目線など気にも留めず、南門に向かって一直線にシーブは走り出した。


 □■□■□


 南の森の入り口付近、狩人の集落。

 親方は、修理から戻ってきた大斧を手に馴染ませようと素振りを繰り返していた。昼過ぎには同僚もやってきて、簡単な打ち合いなどをして親方は大斧の感触を確かめていたのだ。まあそれは建前で、本当は遊びに行った子供たちが帰ってくるまでに腹を空かせておこうという魂胆だったりする。

 妻を早くに亡くし、息子と二人暮らしで、息子こそ文句は言わないが、ガサツな自分が作る飯ではなくちゃんとした料理を食わしてやりたいとは思っているが、それはそう簡単なことじゃない。

 狩人の仕事は一定の金額が絶対に得られるような仕事でもないし、それなりの実力があって稼いでる自分の場合はかなり堅実性の高く育ってしまった息子の手によって貯蓄に回されてしまう。そんな中現れたのがシノだった。

 家で料理を作っていくことは少ないが、息子と森に遊びに行った日なんかには、息子が森での話とともに、有り合わせで作ったと言う料理を水筒に入れて持ち帰ってきてくれるのだ。

 その有り合わせの完成度に舌を巻いてしまうが、料理長をしている友人(シーブ)の血縁だからと思えば、それも納得できる。

 恥ずかしながら、あの娘の作る料理のファンなのだ。


 「親父っ」


 息子の声と共に強力な魔力の収縮を肌で感じ取り、放った雷光に、召喚された雷ではないかとあたりをつける。

 そんな強力な魔術師がこの町に来ていたのか、と思うとともに、あれだけの雷を落されてしまってはひと月は近場に獣が寄り付かないだろうな、と思いながら息子へと声をかける。


 「おかえり………シノは?」


 そこにシノの姿は無かった。

 シノの愛馬のクロと、その背に乗るタクしかその場にいない。


 「うそだろ………シノっ」


 しかも息子は森を振り返って慌てている。

 言葉から察するに、あの雷が落ちた方向にシノが居るのかもしれない。


 「説明しろ」

 「あっ。俺たち迷子を見つけて、シノがその迷子を町の方へと誘導するから反対側から親父を案内役にだそうって………」


 森で迷子とは何とも間抜けな子供たちだ、と思うがそれは焦る理由にならないだろうと聞き返そうとする。


 「それ」

 「クロッ!」


 聞く前に知己(シーブ)の声が乱入する。

 こいつの作るツマミは美味い。


 「タク君、嬢ちゃんは」

 「子供たちと一緒に………」

 「チッ」


 何やら分からないうちに話が進んでいることを親方は理解する。

 クロに目を移すと、なるべく身を軽くしようとしているのか、カバンを地面におろし、それを見た息子も持っているカバンや水筒を地面へと投げ捨てる。

 衝撃で水筒の蓋が外れて水がこぼれ出しているが、気にした様子はない。


 「タク君、君は乗っていろ。クロ、案内できるな? 全速力だ」

 「なにが」

 「親方(おまえ)も行くんだよ! もしものことがあってからじゃ遅ぇんだ!!」


 何も持たず走り出す。

 かなりの速さで駆けるクロに並走する料理人(シーブ)

 その姿にかなりの意外感を覚えながらも、とりあえず走ってついて行く。

 森の奥から焼き焦げるような臭いと、血の臭いだんだん強く漂ってくる。


 ■□■□■

 「―――召喚、雷帝。殲滅せよ」

   →「詠唱、魔術分類、術名、気分」

 と、なっております。


 明日投稿できるかな?

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