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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第一章 幼少期・ガラム
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09 勇者物語

 寒くなってきた。

 最近急な雨と気温の変化についていけない。

 老体じゃないのにっ


 十三話~、はじまるよっ!

 昔々ある所に、至って普通の夫婦がいました。

 それほど豊かとはいえない村で生活していましたが、夫婦仲は良く、大層幸せに暮らしていました。

 そんなある日、とても元気な男の子が夫婦の間に生まれたのです。なかなか子宝に恵まれなかった夫婦は大層喜び、その男の子をめいいっぱい可愛がって育てました。

 ディートと名付けられたその男の子はすくすくと成長し、十五歳になるころには村で敵う者がいない剣士になっていました。


 「そんなにつよかったの?」

 「村で一番と国で一番と言うのは大きな差がありますが、少なくとも村に常駐している警備隊員よりも強かったのでしょうね」


 父親は村で経営する商店の店長だった為、村の外に出ることはあまりありませんでしたが、店の商品に興味を持ったディートリントは父親の後を継ぐためにも、世界中を回って物を見ようと決めました。

 そこで彼は冒険者ギルドで、ティーという名前で登録し、幼馴染と共に世界中を旅する事にしたのです。


 「おさななじみ?」

 「幼い頃から一緒に育った血のつながらない兄弟みたいなものです」

 「タクにいちゃんみたいな?」

 「そうですね、そんな感じです」


 ディーが旅をすると決め、村を旅立ったその日。

 世界中の国々で神託が下され、教会は恐慌の渦に巻き込まれました。

 『魔王』が蘇り『勇者』が生まれた、と。そう神は仰ったのです。


 「きょうかい?」

 「ああ、今は医療施設として扱われている教会ですけど、昔は神を崇め奉る集団がいる場所だったんですよ」

 「いまないの?」

 「そうですね。南の方にある帝国は宗教国家ですけど、他の国では政治に食い込むことはないですね」

 「なんで?」

 「よく戦争の理由になったんですよ。考え方の違いで命を奪う行為がどれだけ愚かなのか、命を賭けない者たちが上にいるからそうなったんだ、と国民に言われて国教という考えを無くしたんです」

 「でもていこくはこっきょうあるでしょ?」

 「そうですね、帝国は国のあり方が宗教そのものですので変えることができなかったんじゃないかと思いますよ」


 あらゆる国の王たちはお触れをだします。世界を混沌足らしめる『魔王』を倒す『勇者』よ、王城へと参上されたし、と。その技量を王都の武闘大会にて見聞し、今世の巫女たる者が見定めよう、と。

 それを見たディーは、賞金も出るし、腕試しとして損はないと、武闘大会への参加を決意しました。

 ティーとその幼馴染は冒険者ギルドで王都武闘大会への参加申し込みをし、予選を受けますが、予選相手の男が卑怯者で、幼馴染を人質にとった挙句、負けを認めることを強要されます。

 ディーは大切な幼馴染の命には代えられないと、その勝負を諦め、予選敗退となりました。


 「ひきょうもの?」

 「はい。ディーに、幼馴染を殺されたくなければ戦いから手を引けと言った者です。相手は不戦勝で、その時ディーは逃げた、と揶揄されたようですよ」

 「おさななじみは?」

 「残念ながら殺されてしまっていたようです」

 「やくそくまもったのにころされたの?」

 「そうです。そこが卑怯者と言われる所以でもありますね」


 予選落ちとなり、武闘大会には出られないと肩を落すデイーでしたが、ある侯爵に拾われ、別の王都で行われる予選に参加されてもらえることになりました。

 実力があったディーは、その予選を見事勝ち抜き、本選に出ることが叶います。

 本戦では大きなアクシデントなどは無く、見事優勝して、姫巫女のお眼鏡にも叶い、『勇者』の称号を貰い受けることができました。


 「なんで『ゆうしゃ』なの?」

 「称号が、ってことですか?『魔王』を倒す役目を与えられた者ですからね。国を挙げて探した強者だったんですから、『勇者』という称号だけで十分だったのでしょう」

 「じゅうぶん?」

 「はい。各国が協力して出した『勇者』には様々な恩恵がもたらされますし、戦争の多かった時期ですから、各国を好きに渡れる称号としては最高のものだったでしょう」


 『勇者』は、共に『魔王』を倒す仲間を集める為に世界を廻ることになりました。

 様々な国を廻り、『勇者』は優秀な仲間たちを集めます。大森林の奥地にあるエルフの国の大弓と短剣の使い手、鉄鋼の算出量が世界一であるドワーフの国の大槌の使い手、魔術学園で好成績を収めて実戦でも優秀な成績を残していた魔法使い、旅人で、ドラゴンと人との間の子、竜人である大楯を持った片手剣の使い手。

 彼らは『勇者』が望むならと、共に旅に行くことを望み、さまざまな国を廻った『勇者』一行は、『魔王』が住むとされる城へとたどりつきます。


 「なかまがあつまるのはやいね」

 「きっと『勇者』の何かに惹かれたんでしょうね………詳しいエピソードは飛ばしましたけど、聞きたかったですか?」

 「いらない」


 『勇者』一行は、その恐ろしい城へと踏み込みます。

 『魔王』がいるはずの王座まで、様々な魔物が立ちはだかり、一行は切って捨てて行きます。しかし城を守る魔物の前に一人、また一人と『勇者』の仲間たちは散って行きます。

 そして『勇者』は『魔王』の前にたどり着いたのです。


 ―――よく来たな、『勇者』よ


 仮面を被り、漆黒のマントを羽織った男が椅子に座っていました。

 その男は散漫とした態度で立ち上がり、仮面を外します。『勇者』は『魔王』の素顔を見て大層驚きます。なんと『魔王』の顔は『勇者』と全くと言ってもいいほど同じだったのです。


 ―――お前………?


 『勇者』は、鏡に映ったようなその顔に唖然として、自らの顔をまねられたのだと、怒りに狂います。『勇者』に対して非協力的な場所もあったのです。それはこの目の前にいる『魔王』が自らの使命を邪魔しようと仕掛けてきた罠であったと気が付いたのでした。

 『魔王』は『勇者』の様子を冷たい目で見降ろしていたと言います。


 ―――そうだ、俺が『魔王』だ


 『勇者』と『魔王』は戦いました。

 その戦いは周囲に大規模な破壊をもたらし、城を含め、周辺の土地を死地へと変えてしまう程のものとなりました。

 その戦いで『魔王』を滅ぼし、自身も多大な傷を負った『勇者』は告げます。


 ―――恐ろしい相手だった………『魔王』は撃ち滅ぼした


 世界中が湧き立ちました。

 世界に悪を蔓延らせていた『魔王』は『勇者』によって打ち滅ぼされたのです。

 後に『勇者』は、貧しい自治区を統合し、魔道国家フィデリントを建国します。フィデリントの王は今でも『勇者』の血が受け継がれています。


 「けっきょく『まおう』はなにしてたの?」

 「んー各地で災害を起して居たりしたそうですよ」

 「でも、『まおう』も『ゆうしゃ』もしょうごう、でしょ?」

 「称号ですけど、『魔王』は『勇者』と違って王のようなものですからね。遥か昔には極悪な王が『魔王』の称号を得たという話もあるくらいですよ」


 魔道国家フィデリントは魔術に関して、学園都市国家スコルダスと同格の技術を誇っていると言われ、各国との友好に一番初めに乗り出した国であり、その技術力は他国のはるか先を歩んでいると言われている。


 「さて、………あれ? 寝てしまいましたか」


 シノはしっかりと夢の中に落ちていた。

 枕を背に座っていたシノを抱き上げ、きちんとベッドに寝かせると、少し格好に不満があったのか身じろぎをしていたら、起きるほどではなく一定のリズムで寝息を立てる。

 メティオノーラは、半分ほど読み聞かせた本を本棚に戻し、自らは何を読もうかと思案する。


 「物語とは言え、ここまで話が変わってしまったらもはや嘘としか言い様がありませんけど、ね………」


 数々の吟遊詩人が語った『勇者』の話をまとめた『勇者物語』。その成功物語は、誰もが絶賛し、嫉妬し、崇める内容だ。

 王族に生まれた『勇者』、孤児であった『勇者』、普通の民であった『勇者』、在り方は様々だが、彼らは一様に『魔王』を殺すことで世界平和を得た者たちとなっている。

 しかしそれらが事実かと問われれば、そうなのかもしれない、としか言いようが無い。物語に必要なのは事実ではないのだ。必要なのは面白さ。歴史は勝者が刻むように、物語は希望のみを綴った真実を紡ぐ。その話が奇抜で面白ければ何でも言いのだ。


 「ハルトは最期まで弟のことを気にかけてましたし」


 メティオノーラは、もう大分昔になってしまった思い出を引っ張り出す。

 見習い商人として様々な国を訪れ、その縁を作り上げたのにもかかわらず、その全てを弟にぶち壊された被害者であった一人の男。

 それでもなお弟の事を信じ、愚直に行動していた一人の男の思い出。


 「大虐殺者ディートリント、彼は最終的に連合国に殺されたんでしたっけ?」


  愚直な男の未来を壊して回った弟の最期。


 「ま、ハルトが幼馴染の為に捧げた国の名前を勝手に変えた罰でしょうね」


 魔道国家フィデリント。

 その建国にまつわる書物を読めば、ある事実が浮かび上がってくる。


 ―――若くして亡くなった友人の名を捧げる。


 まだ建国する前の会議、国名を決める段階で『彼』はそう言って、凶手の手によって殺されてしまった友人の名を上げたのだ。


 ―――フィデリオ。ここは魔道国家フィデリオだ。


 建国に大きくかかわったのが、エルフとドワーフといった妖精族の亜人たち。それに差別意識が現代でも根強く残る、旅人を続けるしかなかった魔物と人の間の子供である竜人などの少数民族。

 彼らは『魔王』を倒して帰ってきたと言う『彼』の大きく変わった性質に驚いた。しかし、それだけ心が疲弊するような出来事があったのだろうと、心を癒してもらおうと彼から距離をとり、落ち着くまで身をひそめることになる。

 数か月後、憑き物が落ちたかのように性格が変わった『彼』の下、建国したまま放っておかれた国家体制を整えるのに彼らは尽力する。


 「本当の嘘つきは誰なんでしょうかね」


 『勇者』と『魔王』。

 光と影のようにそれらは存在させられ続ける。

 人々が忘れたころに出て来る『魔王』という存在。それと同時に様々な国の神殿に下される『勇者』が現れたという神託。

 ため息をついて、分厚い、本家本元の『勇者物語』を見つめる。


 「大賢者ガルド、一体あなたは何がしたくて、こんな話を書き残すように命じたんですか」 


 『勇者物語』第一巻、著者ガルド。

 最初に吟遊詩人らを集め、『勇者物語』を執筆した男。人間のくせに長生きで、今の魔道書のほとんどに関わっているであろうと言われる過去の実力者。

 今にも先にも、魔道の深淵に触れると言われている賢者の称号のさらに上を行く、大賢者の称号を得る者はいないだろうと言われている、そんな魔道を極めた人間の男。

 彼自身三代目『勇者』の仲間、魔術師として『魔王』を倒した者で、その時の生き残りは『勇者』と大賢者のガルド、それに旅に同行していた聖女であったと記されている。


 「………シノの寝顔でも眺めた方が有益ですね」


 考えても無駄なことは考えない。

 メティオノーラはふかふかのベッドに埋もれるように眠っているシノの寝顔を眺めながら、ベッドサイドの椅子に座り適当に見繕った本をランプのある机に乗せる。

 本日の本のタイトルは、「バラ色の学園生活Ⅳ あいつってもしかして………」。学園都市国家スコルダス発祥の女性を中心に人気の小説「バラ色の学園生活」シリーズ最新刊である。姉妹本として「モモ色の学園生活」シリーズと「ユリ色の学園生活」シリーズも出版されているが、客層が大きく異なっている為か、あまり人気ではない。

 まだ高級とは言え、本に使うくらいには普及するようになった紙。今ではさまざまな娯楽本が出回っているが、貴族を中心とした富裕層しか購入できないので読者数はあまり増えていない。

 蔵書の数は、メティオノーラがただの家政婦ではないことを物語っている。


 「知識はいくらあっても困りませんからね」


 真面目に知識を取り入れようと本に集中する家政婦の姿がそこに在った。

 メティオノーラは眠る必要が無い。

 たまにシノの寝顔を確認し、新しい本に持ち替えながら、時間は一刻一刻と過ぎていく。

 寝る必要がない人造人間(ホムンクルス)の一夜はこうして過ぎた。

 メティオノーラさんは多分シノが眠そうにしてることに気が付いて端折ったんだろ―な。細かいところを飛ばして読むとこうなる。


 だーいぶ先に学園都市国家スコルダスにもシノちゃん行きますね。

 予定ですけど。


 更新は明日だ!

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