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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第4章「凍える大地に、コールは届くか」

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第55話:部族長会議、決裂寸前

「本日をもって、正式な長老会議を開く」


グドムンドの声が、広場に響いた。


七部族の長老たちが、それぞれの椅子に着いていた。フィンの姿もあった。そして、その隣には、ジークリンデも立っていた。


「議題は一つ。エルドラド王国、及びルミナ教との、正式な同盟について」


俺たちは、広場の中央に立たされていた。周囲を取り囲む、無数の視線。冷たい空気が、これまで以上に張り詰めていた。


レナが、俺の隣で、小さく息を吐いた。「なんか、裁判みたいな空気だな」


「似たようなもんかもしれない」


ツバキも、緊張した面持ちで、俺の反対側に立っていた。フィリアは、羊皮紙を握りしめたまま、微動だにしなかった。


「まず、意見のある者は、申し出よ」


その言葉に、真っ先に反応したのは、フィンだった。


「私は、賛成の立場を取りたい」


フィンの声は、堂々としていた。


「異国の使者たちの演舞、私はこの目で見た。確かに、我らの流儀とは異なる。だが、そこに込められた心は、本物だと感じた」


「戯言を」


低く、鋭い声が響いた。


ジークリンデだった。


「感情を垂れ流すことの、どこに価値がある」


「価値は、あるはずだ」とフィンが、負けじと言い返した。「見よ、子供たちの反応を。あの護符を、喜んで受け取っていたではないか」


「子供は、未熟だ。判断力がない」


「未熟だからこそ、素直に感じ取れるものがあるとは、考えないのか」


二人の議論は、次第に熱を帯びていった。



「聖歌隊の力を、我らが受け入れれば」とフィンが続けた。「エルドラド王国との交易も、開ける。北方の暮らしも、豊かになるはずだ」


「豊かさなど、戦士には不要」


ジークリンデの声は、あくまで平坦だった。だが、その言葉の端々に、譲らない意志が滲んでいた。


「我らは、これまで、独立を保ってきた。他国に頼らずとも、生きてこられた」


「時代は、変わっている」


「変わる必要が、あるのか」


議論は、平行線を辿った。


長老たちの間にも、意見が割れているのが見て取れた。フィンに賛同するように頷く者、ジークリンデの言葉に深く頷く者、そのどちらでもなく、ただ黙って様子を見ている者。


グドムンドは、その様子を、静かに見守っていた。


「グドムンド殿は、どちらのお考えなのですか」とフィンが、思い切ったように尋ねた。


グドムンドは、しばらく沈黙した。


「儂は、まだ、決めかねている」


その言葉に、広場の空気が、さらに重くなった。


「儂とて、変化を恐れているわけではない。だが、この地には、この地の歴史がある。軽々しく、それを手放すわけにはいかぬ」


「歴史を守ることと、新しいものを拒むことは、違うと思います」と俺は、思わず口を挟んだ。


グドムンドの視線が、俺に向いた。


「若い者は、そう言う。だが、儂ら年長者には、年長者の責任がある」


その言葉に、俺は、何も言い返せなかった。



「待ってください」


俺は、思わず、声を上げた。


「これは、争うことじゃないと思います」


全員の視線が、俺に集まった。


「俺たちは、力比べをしに来たわけじゃない。ただ、心を届けたいだけです」


「それが、争いを生んでいる」とジークリンデが、冷たく言った。


「争いを生んでるのは、俺たちの存在そのものじゃなくて、意見の違いだろ。それは対話で埋めるものだ」


「対話で、埋まらないものもある」


ジークリンデの目が、まっすぐに俺を見据えた。


「価値観の違いは、言葉では、埋まらぬ」


「そんなことない」


「では、どうやって埋める」


俺は、言葉に詰まった。


正直に言えば、明確な答えはなかった。ただ、諦めたくない、という気持ちだけがあった。


「時間をかければ、きっと」


「時間の問題ではない」


ジークリンデは、静かに、しかし、はっきりと言った。


「根本の価値観が、違う。そなたたちは、感情を表に出すことを、良しとする。我らは、それを恥とする。この溝は、言葉を重ねたところで、埋まりはしない」


「……」


俺は、何も言い返せなかった。


その通りかもしれない、という思いが、頭の片隅をよぎった。


フィリアが、隣で、心配そうにこちらを見ていた。ミレイも、シルも、固唾を呑んで見守っている。誰も、この空気を、どう変えればいいのか分からずにいた。



「ならば」


ジークリンデが、静かに、剣の柄に手をかけた。


その動作に、広場の空気が、一瞬で凍りついた。


「力で、決めよう」


「力、って」


「そなたたちの言う、心の力とやらを、真に信じるなら」


ジークリンデの声は、あくまで冷静だった。だが、その言葉には、明確な挑戦の色があった。


「我らの戦士と、正面から、力比べをしろ」


「戦えって、ことか」


「戦いではない」ジークリンデは、首を振った。「北方には、古くからの、試練の儀がある。それに挑み、認められれば、七部族すべてが、その者の言葉に耳を傾ける」


「試練の儀」


「厳しい試練だ。並大抵の覚悟では、乗り越えられぬ」


長老たちの間に、ざわめきが広がった。


「試練の儀とは、久しく行われておらぬはず」と、これまで沈黙していた別の長老が、初めて口を開いた。「ジークリンデ殿、本気で申されているのか」


「本気だ」


ジークリンデは、揺るがなかった。


「異国の者たちが、本当に、心の力とやらを信じているなら、この試練を恐れる理由はないはずだ」


「ジークリンデ殿、それは、あまりに」とフィンが、慌てた様子で口を挟んだ。


「これ以上の、公平な方法はない」ジークリンデは、動じなかった。「言葉で決着がつかぬなら、行動で示すしかない」


俺は、その提案を、しばらく反芻した。


(試練の儀、か)


危険な香りがした。だが、このまま議論が平行線を辿るよりは、何か、前に進む道が見えるかもしれなかった。


「アキ様」とフィリアが、小声で呼びかけてきた。「本当に、お受けになるのですか。詳細も分からぬ試練です」


「分からないから、逃げるってのも、違う気がする」


俺は、フィリアを見て、それから、メンバー全員を見渡した。


レナが、小さく頷いた。「あたしは、乗る方に賛成だ」


「わたしも、ここまで来て、逃げるのは……」とミレイも、緊張した声で続いた。


シルが、こくりと頷いた。ツバキも、深く息を吸い込んでから、静かに頷いた。


「……分かった」


俺は、静かに、頷いた。


「その試練、受けて立つ」


ジークリンデの目に、初めて、何か鋭い光が宿った。


「後悔するなよ」


「後悔なんてしない」


俺とジークリンデの視線が、真っ向からぶつかった。


広場に、重い沈黙が落ちた。


グドムンドが、静かに、片手を上げた。


「では、決まりだ。三日後、試練の儀を執り行う」


その宣言に、長老たちの間に、再びざわめきが広がった。賛同する者、不安げな者、様々な反応が入り混じっていた。


七部族の運命を賭けた、大きな賭けが、今、始まろうとしていた。


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