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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第4章「凍える大地に、コールは届くか」

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第48話:行商人バルトロ、口八丁で乗り込んでくる

「では、単刀直入に申し上げます」


バルトロは、荷車を教会の庭に停めると、両手を揉み合わせながら切り出した。


「聖歌隊様のお名前で、正式な記念の品を、お作りになりませんか」


「記念の品、ですか」とミレイが、警戒した顔で言った。


「はい! 今、街で出回っているものは、正直に申しますと、品質がまちまちでしてね。彫りが甘いもの、色が剥げやすいもの、中には形すら怪しいものまであります」


バルトロは、荷車から一つの木彫りを取り出した。


「これなど、ご覧ください」


その木彫りは、確かにひどかった。女神像のつもりらしいが、顔の造形が完全に崩壊している。目の位置が左右で明らかに違い、口元が異様に大きい。


「……これ、ルミナちゃんか?」


「そのつもりで彫ったそうです」


「……気持ちは伝わるけど」


「でしょう? 気持ちは本物なんですよ。ただ、腕が追いついていない」


バルトロは、その崩壊した木彫りを、そっと荷車に戻した。


「わたくしは、これまで王国中を回って商売をしてきました。腕のいい職人も、質のいい材料も、どこで手に入るか知っております。ですから」


バルトロは、俺を見た。


「聖歌隊様の名に恥じない、ちゃんとしたものを作らせていただきたい」



俺は、しばらく黙って、その男を見ていた。


軽薄で、金の匂いに敏感で、明らかに商魂たくましい。


だが、さっきの崩壊した木彫りを扱う手つきが、意外にも丁寧だった。金にならない不良品なら、投げ捨てても不思議じゃないのに、そうしなかった。


「一つ、条件がある」


「なんなりと!」


「作るなら、本気で作れ。適当なものは絶対に出すな」


「もちろんです!」


「それと」


俺は、荷車の光る棒を手に取った。


「これ、サイリウムに似せてるけど、俺のとは別物だ。同じものだと誤解されるような売り方はするな」


「と、申しますと?」


「俺のサイリウムは、この世界のマナと同期して、勝手に光ってる。これは、発光石を仕込んで光らせてるだけだろ」


「その通りでございます」


「なら、それを正直に言え。『聖下の光を模したもの』として売れ。『同じ力がある』とは、絶対に言うな」


バルトロは、少し驚いた顔をした。


「……よろしいのですか? 『聖下と同じ力が宿る』と謳ったほうが、遥かに高く売れますが」


「売れなくていい」


俺は、はっきりと言った。


「嘘をついて売ったものは、いつか必ず、応援してくれてる人を裏切る。そういうのは、ヲタ活じゃない」


バルトロが、ぽかんとした顔で俺を見ていた。


それから、ゆっくりと、口の端を上げた。


「……いやはや。商人を三十年やっておりますが、そんなことを言う方は初めてですよ」


「そうか」


「面白い。実に面白い」


バルトロが、深々と頭を下げた。


「その条件、お受けいたします」



こうして、公式の記念品計画が始まった。


問題は、そこからだった。


「では、まず商品名を決めましょう!」


バルトロが、意気揚々と羊皮紙を広げた。


「名前が肝心なんです、商売は! 人の心を掴む、覚えやすくて、ありがたい響きの名前が必要でして!」


「なるほど」


「アキ様、わたくしに案がございます!」


フィリアが、勢いよく手を挙げた。


俺は、嫌な予感がした。


「どうぞ」


「『御・他・活・成就 護符おたかつじょうじゅごふ』でいかがでしょう!」


「長い」


「では『ワシンジ聖護符せいごふ』は」


「まだ長い」


「『ワシンジまもり』」


「なんか呪われそうだな」


バルトロが、目を輝かせながら口を挟んだ。


「いえいえ、聖下! むしろ長くて、意味の分からない、ありがたそうな名前のほうが売れるんですよ!」


「そうなのか?」


「はい! 人はですね、意味が分からないものほど『きっと凄いものに違いない』と思うのです!」


「……前世でも、それは、まあ、あったな」


そういえば、意味不明な横文字を並べた化粧品ほど高く売れる、という話を聞いたことがある。異世界でも人間の心理は変わらないらしい。


「では、フィリア様の案を採用いたしましょう!」


「待ってくれ」


「はい?」


「意味不明で売れるのはいいが、意味が間違ってるのは駄目だ」


「と、申しますと」


「『御他活』ってのは、フィリアさんの独自解釈なんだ。俺が言った『ヲタ活』とは、そもそも意味が違う」


「では、正しい意味とは?」


「推しを応援する活動のことだ」


バルトロとフィリアが、同時にきょとんとした顔をした。


「……推し?」


「心から応援したい誰かのことだ」


その言葉に、バルトロが「ほう」と唸った。


「それはまた……いい言葉ですねぇ」


「そうか?」


「ええ。人が金を払うのは、結局のところ『応援したい』という気持ちのためですから。それを表す言葉があるというのは、実に商売向きです」


「商売向きって言われると、ちょっと引っかかるな」


「褒め言葉です」



商品名の議論は、その後も一時間ほど続いた。


最終的に決まったのは、こうだった。


木彫りのお守り——『推し護符おしごふ

光る棒——『聖光棒せいこうぼう

刺繍布——『聖歌隊 応援布おうえんぬの


「ちょっと安直じゃないか、これ」と俺は言った。


「安直が一番でございます!」バルトロが、力強く頷いた。「覚えやすく、口に出しやすく、意味が分かる。これに勝るものはありません!」


「フィリアさんの案は、どこ行った」


「……わたくしの案は、少々凝りすぎていたようです」フィリアが、しょんぼりと肩を落とした。


「まあ、また次の機会に」


「次があるのですか!?」


「作るものは、まだいくらでもある」


フィリアの目が、また輝いた。この人、切り替えが早い。



次は、デザインの話になった。


「では、各メンバー様のご意匠を決めていきましょう!」


バルトロが、羊皮紙を広げた。


「レナ様は、剣のご意匠でよろしいですか」


「あたしはなんでもいい」とレナが、腕を組んだまま答えた。


「では、大剣を交差させた紋章で」


「……交差?」


「かっこいいでしょう?」


「……まあ、いいんじゃないか」


レナの耳が、少しだけ赤くなっていた。まんざらでもないらしい。


「ミレイ様は、魔法陣のご意匠で」


「わ、わたしですか」ミレイが、慌てた顔をした。「そんな、わたしなんて……」


「何を仰いますか! 空砲のミレイ様から、届ける声のミレイ様へ! その成長物語こそが、皆様の心を打つのです!」


「な、なんでそんなことまで知ってるんですか!?」


「商人の情報網は、王宮の密偵より広いのですよ」


バルトロが、にやりと笑った。恐ろしい男だった。


「シル様は、光のご意匠でよろしいですか」


シルが、こくりと頷いた。それから、地面に指で文字を書いた。


「サイリウム、いれてほしい」


「おお、素晴らしいご要望! サイリウムを中心に、光が広がる意匠で!」


「ツバキ様は……」


「わっちは、扇でお願いいたしんす」とツバキが答えた。


「では、扇と椿の花を組み合わせた意匠で!」


「椿の花」


「ツバキ様のお名前から。粋でしょう?」


ツバキが、少しだけ目を見開いた。


「……悪くありんせん」


その口元が、わずかに緩んでいた。



「では、アキ様のご意匠は」


バルトロが、俺を見た。


「俺のは要らない」


「え?」


「俺はプロデューサーだ。表に立つのは、こいつらだ」


その言葉に、メンバー全員がこちらを見た。


「……アキ様」とフィリアが、何か言いたそうな顔をした。


「なんだ」


「いえ……なんでもありません」


バルトロが、しばらく俺を見てから、頷いた。


「かしこまりました。ですが」


「ですが?」


「街の方々は、聖下の意匠も欲しがると思いますよ。断言いたします」


「そうか?」


「商人の勘です。これは外れたことがありません」


俺は、少し考えてから、答えた。


「……もし本当に欲しがる人がいたら、その時考える」


「かしこまりました」


バルトロは、羊皮紙を丸めながら、満足そうに笑っていた。


その顔を見て、俺は思った。


この男、口は軽いが、意外と、仕事はちゃんとするのかもしれない。


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