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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第4章「凍える大地に、コールは届くか」

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第47話:これは、何のお守りですか

坂を下りたところに、露店が並んでいた。


正確には、昨日から気になっていた。教会の周りに、いつもより多くの物売りが出ている。旅の疲れも癒えないうちから、朝食もそこそこに、俺は様子を見に行くことにした。


「アキ様、これを」


フィリアが、興奮した様子で駆け寄ってきた。手には、木彫りの小さな女神像を持っている。


「これは」


「露店で売られておりました。『聖歌隊お守り』と称して」


「聖歌隊……お守り」


俺は、その木彫りを手に取った。


素朴な作りだった。粗削りだが、丁寧に彫られている。台座には「光の女神ルミナ聖歌隊」という文字が刻まれていた。手のひらに収まるほどの小ささなのに、彫り師の思い入れが伝わってくるような仕上がりだった。


「誰が作ったんだ、これ」


「街の職人のようです。詳しく聞いてみましょう」


俺たちは、坂の下の露店に向かった。



露店は、思ったより数が多かった。


一つは木彫りのお守りを売る店。一つは、聖歌隊メンバーの似顔絵を刺繍した布を売る店。そして、教会前で見つけたものと似た、光る木の棒を売る店もあった。


「あの、すみません」


俺が声をかけると、店主の中年男が振り返った。


「おや、これはこれは! 聖下ではありませんか!」


「これ、勝手に作って売ってるんですか」


「勝手だなんて、とんでもない!」男は、大慌てで首を振った。「街のみんなで、聖歌隊様への感謝の気持ちを込めて作ったんですよ! 邪神教団から街を……いや、王妃様のご快癒から始まって、今度は異国の女神様まで……こんな凄いことをしてくださった方々に、何かお礼をしたくて」


「……そうだったんですか」


「もちろん、ちゃんとした許可もいただかず、申し訳ございません! でも、これがまた飛ぶように売れるもので……街の外から来た旅人たちも、面白がって買っていくんです」


俺は、光る木の棒を手に取った。


木彫りの棒の先端に、小さな発光石の欠片が埋め込まれている。振ると、ぽうっと淡い光が灯った。


「……サイリウム、意識してますよね、これ」


「はい! 聖下がいつも掲げているあの光る杖を真似て、子供たちが作り始めたのがきっかけで」


「杖じゃなくて、サイリウムです」


「サイリウム! なるほど、正式な名があったのですね!」


俺は、その光る棒を眺めた。


前世の記憶が、じわりと蘇ってくる。


ライブ会場の外に並ぶ、公式グッズ売り場。ペンライト。缶バッジ。うちわ。タオル。応援シャツ。ブロマイド。


推しの武器グッズは、単なる商品じゃない。ファン同士を繋ぐ、大切な媒介だった。会場で同じ色のペンライトを振る、あの一体感。あれもまた、ヲタ活の一つの形だった。


(……これ、ちゃんとやったら、面白いことになるんじゃないか)


心の中で、何かが、静かに動き出した。



「アキ様、いかがなさいましたか」


フィリアが、俺の顔を覗き込んだ。


「いや、なんでもない。ちょっと考えごとをしてただけだ」


「考えごと……もしや、これもワシンジの深い教えに関することでしょうか」


「違います」


「では、この木彫りのお守りは、ワシンジ的にはどう解釈すればよろしいのでしょうか」


「解釈しなくていいです」


「いいえ、解釈します」


フィリアは、羊皮紙を広げて、勝手に書き始めた。


「『聖なる意匠を模した護符』……これはすなわち、信徒が己の信仰心を形に残そうとする、極めて自然な営みであり……つまり、これぞ『公式ワシンジ護符』と呼ぶべきものであると……!」


「公式にしないでください、勝手に」


「もう遅うございます、アキ様。わたくし、既に商人組合に話を通してしまいました」


「え」


「昨日のうちに、露店の元締めの方と話をつけて参りました。『公式ワシンジ教典の品』の展開について……!」


「フィリアさん、いつの間にそんな暴走を」


「昨晩、アキ様がお休みになっている間に、いても立ってもいられず……!」


俺は、頭を抱えた。


だが、頭を抱えながらも、心のどこかで、これは面白いことになりそうだ、という予感があった。



「アキ様、ご覧ください!」


フィリアが、羊皮紙に描いた設計図を広げた。


「これが、公式記念品第一弾の草案でございます!」


そこには、木彫りのお守り、光る棒、刺繍布、それぞれのデザイン案が、几帳面な文字と共に描かれていた。


「刺繍布のデザインは……レナさんは剣を模した意匠、ミレイさんは魔法陣、シルさんはサイリウムの光、ツバキさんは扇でどうかと」


「案外ちゃんと考えてるな」


「わたくし、こういうことは得意なのです」


フィリアが、少し胸を張った。


「それで、お守りの文言なのですが」


「文言?」


「『御・他・活・成就おたかつじょうじゅ』というのはいかがでしょう。ワシンジの根本理念である『他者のために己を尽くす誓い』を、簡潔に表現できるかと」


「そのネーミングセンス、どこから来るんだ……」


「アキ様のお言葉を参考にしております」


「俺、そんなこと言ってない」


「言っておられました。『ヲタ活とは、他者のために己の全力を尽くす、崇高な誓い』であると」


「言ったけど、それとは違う……いや、まあ、いいか」


俺は、その羊皮紙を、もう一度見た。


正直、フィリアの誤訳センスは相変わらずめちゃくちゃだった。でも、根っこにある「聖歌隊を応援したい」という気持ちは、間違いなく本物だった。


前世のグッズ展開だって、最初はこういう、ファンの手作りから始まったものが多かった。


「よし」


俺は、頷いた。


「やるか、これ」


「本当ですか!?」


「ただし、ちゃんと考えてやる。適当にはしない」


「もちろんです……!」


フィリアが、目を輝かせた。



「で、これからどうするんですか」とレナが、腕を組んで聞いた。


俺たちは、教会の庭に集まっていた。フィリアの設計図を囲んで、みんなで相談していた。


「まず、ちゃんとしたグッズを作る。今の手作りのやつは、正直出来にバラつきがある」


「出来って……」ミレイが、苦笑いした。「アキ様、そういうところ本気なんですね」


「本気だ。中途半端にやったら、応援してくれてる人たちに失礼だろ」


「……まあ、それは、そうかもしれないです」


シルが、光る木の棒を手に取って、じっと見つめていた。それから、こくりと頷いた。


「いいと、おもう」


「シルもか」


ツバキが、刺繍布のデザイン案を見て、少し照れたように言った。「わっちの意匠が、扇とは……なかなか粋な思いつきでありんすね」


「フィリアさんのセンスは侮れない」


「いつもの解釈は暴走してますが、こういう時は的確なんだな」


「フィリアさん、聞こえてます」


「聞こえてもいいです」


その時。


坂の下から、聞き覚えのない、やけに調子のいい声が響いてきた。


「おやおや、こちらに聖歌隊様がいらっしゃると聞いて参りましたよ!」


俺たちは、一斉にその声の方を見た。


坂道を、小柄な男が、やたら軽い足取りで登ってくるところだった。


派手な色合いの服、荷車いっぱいの商品、そして、如何にも「儲け話がありますよ」という顔。荷車には、木彫りのお守りや光る棒が山のように積まれていた。露店で見たのと、明らかに同じ品だった。


「初めまして! 行商人のバルトロと申します!」


男は、満面の笑みで、俺たちの前に立った。両手を揉み合わせながら、値踏みするような目で俺たちを見回している。


「聖歌隊様の記念の品の展開、儲かる話だと小耳に挟みまして……ぜひ、わたくしめにも一枚噛ませていただけないかと!」


俺とレナは、同時に顔を見合わせた。


「……なんか、来たな」


「来たな」


「あの荷車、もしかして」とミレイが、荷車を指差した。


「あの露店の商品、あの人が卸してたんじゃないでしょうか」


「……図星っぽい顔してるな」


バルトロは、指摘されても悪びれもせず、にこにこと笑っていた。むしろ「よく気づきましたね」とでも言いたげな顔だった。


フィリアが、羊皮紙を握りしめながら、値踏みするような目でバルトロを見た。


「アキ様、この方、信用できるのでしょうか」


「分からん」


「分からないのですか」


「見た目は胡散臭いことこの上ないが、まあ、話くらいは聞いてみるか」


俺は、バルトロに向き直った。


「一つ聞きたいんだが」


「なんなりと!」


「あんた、聖歌隊のことをどれくらい知ってる」


バルトロは、ぴたりと動きを止めた。


それから、少し考える顔をしてから、答えた。


「正直に申しますと……儲かりそうだ、というのが最初のきっかけでした」


「正直だな」


「ですが」バルトロは、荷車の上のお守りを一つ手に取った。「これを作った街の職人たちの顔を見ましてね。みんな、本当に嬉しそうに彫っておりました。ああいう顔を見ると、こちとら商売人でも、ちょっとばかり心が動くもんでして」


その言葉に、少しだけ、噓がないように聞こえた。


「まあ、それでも半分は金儲けが目的なのは、否定しませんがね」


「正直すぎるだろ」


「正直者が、一番信用されるんですよ、この商売」


バルトロが、にっと笑った。


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