表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第3章「異国(とつくに)の現場(ステージ)、踏破す!」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/59

第44話:女神ルミナ、すべてを語らず微笑む

瘴気が完全に消えたあと、聖地の広場に、静寂が満ちた。


誰も、声を上げなかった。それぞれが、自分の中で今起きたことを、ゆっくりと噛み締めているようだった。


「終わった……のか」


レナが、剣を下ろしながら、小さく呟いた。


「終わった……と、思いんす」


ツバキが、まだ夢の中にいるような顔で答えた。


シルは、サイリウムを胸に抱えたまま、空を見上げていた。


その視線の先で、何かが、光っていた。


「……あれは」


俺は、その光を見た。


夜空の一点から、金色の光が、ゆっくりと降りてきていた。



光は、広場の中央に、降り立った。


人の形になった、その瞬間。


集まった人々全員が、息を呑んだ。


金色の長い髪。柔らかく微笑む目元。前世で何千回と見上げた、あの顔だった。


「……ルミナちゃん」


俺は、思わず呟いた。


「ルミナ様……!」


フィリアが、その場に膝をついた。周囲の人々も、次々と跪いていった。ヤマトの民も、太陽神教の神官たちも、エルドラドの騎士団も。


アルベルトでさえ、深く頭を垂れていた。太陽神教の頂点である彼が、異国の女神に対して自然と敬意を示す姿は、この数日の変化を物語っていた。


ゴエモンだけが、少し呆けた顔で立ち尽くしていた。「……ほんまに、女神さんやったんか、あれ」と誰にともなく呟いていた。


ルミナは、その光景を、静かに見渡した。


それから、俺を見た。


「よく、頑張ったね」


その声は、耳ではなく、胸に直接届くような、あの声だった。


「俺だけの力じゃない」


俺は、正直に言った。


「みんなが、力を貸してくれた」


「知ってるよ」


ルミナは、微笑んだ。


「みんなの声が、ちゃんと聞こえてたよ」



「ルミナ様」


アルベルトが、震える声で言った。


「あの邪神は……ナイアルとは、一体……」


ルミナの表情が、少しだけ、翳った。


「古い、古い話だよ」


ルミナは、静かに語り始めた。


「大昔……この世界がまだ形になったばかりの頃、光と無は、対になる存在だった。光が何かを照らせば、無はその影を広げようとした。それは、争いというより、世界の均衡そのものだった」


「均衡……」


「でも、あるとき、無は、均衡を壊そうとした。すべてを、無に還そうとした。それを止めるために、光の側の存在たちが、力を尽くした」


「その光の側の存在の一人が……ルミナ様、あなたなのですか」


ルミナは、答えなかった。


ただ、少しだけ、寂しそうに笑った。


「全部は、まだ話せない」


「なぜですか」とフィリアが、思わず声を上げた。


「わたし自身にも、まだ、はっきりしないことがあるから」


その言葉に、俺は、少し引っかかった。


「はっきりしない、って」


「うん」


ルミナは、俺を見た。


「わたしにも、忘れていることがあるの」



「なぜ、ナイアルは、聖歌隊を……ルミナ様を、そこまで執拗に狙うのですか」


アルベルトが、重ねて聞いた。


ルミナは、少し考えるように、目を伏せた。


「わたしの力は、ナイアルにとって、唯一、対抗できるものだから」


「対抗……?」


「無に還そうとする力に、光で応える。それができるのは、わたしだけ。だから、ナイアルは、わたしを恐れてる」


「では、なぜナイアルは完全に滅びないのですか」


フィリアが、そう言い直してから聞いた。癖で「様」と呼びそうになったのを、自分で止めたようだった。


「ナイアルは、完全には滅びない」とルミナが続けた。「無というものは、消し去ることができない。光がある限り、影も、必ずある」


「じゃあ、これからも……」


「うん。また、来るよ。今日よりも、もっと強い形で」


その言葉に、広場に緊張が走った。


「でも」


ルミナが、微笑んだ。


「今日みたいに、みんなの声が集まれば、何度でも押し返せる」



「ルミナちゃん」


俺は、他の誰にも聞こえないよう、小さく言った。


「……前世のこと、知ってるんですか」


ルミナは、俺の方に、一歩近づいた。


「もう少しで、思い出せるよ」


その声は、俺にだけ聞こえる声だった。


「あなたも、わたしも」


「……どういう意味ですか」


「今は、まだ言えない」


ルミナは、悪戯っぽく笑った。あの、前世のルミナちゃんがファンを焦らすときの、あの笑い方だった。


「でも、もう少しなの。あなたが、世界中に光を届け続ければ、きっと」


「きっと、なんですか」


「全部、思い出す」


ルミナの体が、光に溶け始めていた。


「待ってください、まだ――」


「また会おうね」


ルミナの姿が、夜空に溶けていった。


最後に残ったのは、あの、優しい微笑みだけだった。



広場に、朝の気配が近づいていた。


人々が、少しずつ、立ち上がり始めた。


「……終わったんですね、本当に」とミレイが、大きく息を吐いた。


「終わってない」とレナが、剣を鞘に収めながら言った。「また来るって言ってた」


「そうだけど……今は、少し休みたいです」


「それは、同感だ」


ツバキが、静かに空を見上げていた。「ルミナ様の御姿……忘れられんす……あのように、優しく、それでいて計り知れない御方だったとは」


「わっちも、まだ驚いておりんす」とツバキが続けた。


アルベルトが、俺の隣に来て言った。「聖下。今日という日は、儂の生涯において、忘れ得ぬ日となった」


「大袈裟だ」


「大袈裟なものか。二百年の太陽神教が、初めて異国の女神と肩を並べて戦った日だぞ」


アルベルトは、そう言って、静かに笑った。


シルが、俺の袖を、そっと引いた。


「アキ、だいじょうぶ?」


俺は、少し考えてから、頷いた。


「大丈夫だ」


でも、心の中では、ルミナの最後の言葉が、ぐるぐると回っていた。


「もう少しで、思い出せるよ。あなたも、わたしも」


思い出す、というのは、どういうことだ。


俺の前世の記憶と、ルミナちゃんの正体が、何か繋がっているのか。


答えは、まだ出ない。


でも、確かに、何かが近づいてきていた。


夜明けの光が、聖地の広場を、静かに照らし始めていた。


少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、毎日の更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ