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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第3章「異国(とつくに)の現場(ステージ)、踏破す!」

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第43話:全員(オールスタンディング)で、コールしろ!

瘴気の柱が、震えた。


柱の中心から、何かが、ゆっくりと形をなしていく。人型でも、獣型でもない。無数の黒い触手のようなものが絡み合い、その中心に、一つの巨大な「目」のようなものが浮かび上がっていた。


「あれが……ナイアル……」


フィリアの声が、震えていた。


その目が、開いた。


瞬間、聖地の広場全体が、重い圧力に包まれた。ヤマトの民の何人かが、膝をついた。太陽神教の神官の何人かが、後ずさった。


「ひ……っ」


ミレイが、思わず声を漏らした。


俺は、その圧力の中で、サイリウムを強く握った。前世で一度も経験したことのない重圧だった。でも、退く理由にはならない。


「怯むな」


「無論よ」とアルベルトが、杖を構え直した。「これしきで、退けるものか」


「あたしも、まだ立ってる」とレナが、剣を構えた。その声に、震えはなかった。


シルが、サイリウムを両手で掲げた。ツバキが、深く息を吸った。ミレイが、震える手を、もう一度強く握り直した。


「行くぞ」


俺は、コールの構えを取った。



「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー!」


サイリウムの光が、夜の聖地に爆発した。


「ダイバー! バイバー! ジャージャー!!!」


純白の光が、瘴気の柱に向かって、まっすぐに突き刺さった。


柱が、揺らいだ。


「今だ! 続け!」


レナが、剣を掲げながら叫んだ。ミレイが、声を張り上げた。シルの倍音が、広場全体に響いた。ツバキの、心の込もった歌声が、その全てに重なった。


四人の力が、光となって、瘴気の柱に食い込んでいく。


だが。


「ぐ……ぅ……」


柱は、揺らぐだけで、崩れなかった。


「足りない……!」


フィリアが叫んだ。


「四人だけの力では……ナイアル本体には……!」


その言葉に、俺は、振り返った。


広場に集まった、何百人という人々。


「みんな」


俺は、声を張った。


「力を貸してくれ!」



一瞬の静寂があった。


それから。


「「「おおおおおおっ!!!」」」


広場全体が、声で満ちた。


ヤマトの民が、両手を掲げた。太陽神教の神官たちが、祈りの言葉を唱え始めた。エルドラドの騎士団が、剣を掲げて雄叫びを上げた。


「タイガー! ファイヤー!」


俺のコールに、ヤマトの民の一部が、見よう見まねで唱和し始めた。


「タ、タイガー……! ファイヤー……!」


最初はぎこちなかった。発音も、リズムも、バラバラだった。


でも、それが、少しずつ、揃い始めた。


「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー!」


太陽神教の神官たちの祈りの声が、そのリズムに重なった。ヤマトの民の掛け声が、それに続いた。エルドラドの騎士団の雄叫びが、地響きのように響いた。


「ダイバー! バイバー! ジャージャー!!!」


何百人という声が、一つになった。


聖地の広場に、光の柱が、立った。


俺たちの光と、何百人の声が重なった、巨大な光の柱だった。



「これは……!」


アルベルトが、目を見開いた。


「儂の見たこともない規模の……光の奔流……!」


瘴気の柱が、その光に押されて、大きく揺らいだ。


ナイアルの「目」が、初めて、明確な苦悶の色を見せた。


「ば、馬鹿な……! この程度の人間どもの声が……!」


「人間どもの声、じゃない」


俺は、光の中で、はっきりと言った。


「一人一人が、それぞれの理由で、ここに立ってる。守りたいもののために、信じるもののために。それが集まったら、お前の瘴気なんかより、よっぽど強い」


ゴエモンが、刀を掲げながら叫んだ。「せやせや! 舐めたらあかんで、俺らを!」


「儂の信仰も、伊達ではない!」とアルベルトが続いた。


ヴァルターが、剣を高く掲げた。「近衛騎士団の誇りにかけて!」


ツバキが、深く歌い続けながら、涙を流していた。「わっちの歌も……もう、独りよがりではありんせん……!」


シルの声が、これまでで一番強く、広場に響いた。


「みんな……とどけ……!」


その声に呼応するように、光が、さらに強くなった。



「和MIXだ!」


俺は、叫んだ。


「ヤマトの言葉のコールを、みんなに教える! 俺に合わせろ!」


和MIXは、前世で培ったコールをヤマト風に読み替えたものだ。この国の民には、こちらの方が声に出しやすいはずだった。


「虎! 火! 人造! 繊維!」


俺が声を張ると、最初はヤマトの民が戸惑った顔をした。意味の分からない言葉の羅列に聞こえただろう。でも、リズムだけは、体で感じ取れたはずだ。


「「「虎! 火! 人造! 繊維!」」」


ぎこちなかった発音が、二度目、三度目と繰り返すうちに、揃い始めた。


「海女! 振動! 化繊飛除去!」


「「「海女! 振動! 化繊飛除去!」」」


ヤマトの言葉のコールが、広場中に響き渡った。


エルドラドのスタンダードMIXと、ヤマトの和MIXが、混ざり合った。


二つの国の声が、一つの光になった。


瘴気の柱が、悲鳴のような音を立てて、大きく揺らいだ。


「ば、馬鹿な……ばかな……!」


ナイアルの目が、光に呑まれていく。


「ここまで……人間の声が……集まるとは……!」


「集まるんだよ」


俺は、光の中心で、静かに言った。


「一人のヲタクの推し事が、世界中の声を集めるまでになった。それが、今日、証明された」


光の柱が、天まで届くほどの高さに、伸びていった。


聖地の夜空を、純白とオレンジの光が、埋め尽くしていった。


これまでのどんな戦いよりも、大きな、光の奔流だった。


広場に集まった何百人の顔を、俺は見渡した。


誰もが、光を見上げていた。恐怖ではなく、希望を込めた目で。


ナイアルの目が、その光に呑まれながら、最後にもう一度、声を絞り出した。


「小癪な……小癪な人間どもが……! だが、これで終わりだと思うな……儂は、また……」


その声が、光の奥に、溶けるように消えていった。


瘴気の柱が、音を立てて崩れ始めた。黒い靄が、まるで悲鳴を上げるように四散し、夜空に溶けて消えていく。


広場に、静寂が戻った。


だが、それは、恐怖の静寂ではなかった。


安堵と、達成感に満ちた、温かい静寂だった。


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