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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第3章「異国(とつくに)の現場(ステージ)、踏破す!」

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第40話:太陽神教と光の女神、手を取る

村を出て、宵ノ國に戻る道すがら、アルベルトは終始無言だった。


肩を並べて歩くヴァルターが、時折心配そうにアルベルトを見ていたが、何も声をかけなかった。ゴエモンは、治療を受けた肩をぐるぐると回しながら、「まあ、動くには動くわ」と呟いていた。完全に治ったわけではないが、命に別状はなさそうだった。


レナが、その様子を横目で見ながら「無理するなよ」と言うと、ゴエモンは「お前に言われとうないわ、さっき無茶しとったんお互い様やろ」と返した。二人のやり取りに、いつもの空気が少しだけ戻っていた。


シルとミレイは、少し離れた場所で歩きながら、静かに肩を寄せ合っていた。今日の戦いの余韻が、まだ二人の中に残っているようだった。


「大丈夫か」


俺が声をかけると、アルベルトは小さく頷いた。


「儂のことより、聖下」


「なんだ」


「王都には、儂が正気を失っている間に指示を出した神官たちがいる。おそらく今頃、太陽神教の各所で、邪神教団に通じる動きが広がっているだろう」


俺は、足を止めた。


「……どういうことだ」


「儂の名で、王国各地の神殿に、密使を送っていた。ルミナ教への敵対行動を強めよ、と」


フィリアが、青ざめた。「それは……」


「儂が、意図してやらせたことではない。だが、儂の名で発せられた指示だ。それを止めなければ、太陽神教全体が、知らぬ間に邪神の手駒になりかねん」


アルベルトの声には、深い悔恨があった。


「一刻も早く、王都に戻り、儂の口から訂正を伝えねばならん」



宵ノ國に戻ると、ツバキが用意していた宿で、俺たちは今後について話し合った。


「王都に戻るのは、儂とヴァルター殿だけでよい」とアルベルトが言った。「聖下たちは、ここヤマトでの使命を果たされよ」


「一人で大丈夫か」


「儂は太陽神教の頂点だ。神官たちを説得するのは、儂の役目であり、儂にしかできぬ」


その口調に、迷いはなかった。俺が王宮で見た、あの「見下ろす者」の眼光が、今は違う方向を向いていた。


「分かった」と俺は言った。「でも、一つだけ」


「なんだ」


「王都に戻る前に、一つやってほしいことがある」


アルベルトが、俺を見た。


「太陽神教とルミナ教が、正式に手を組んだという証を、ここヤマトで示してほしい」


「……証、とは」


「あんたの言葉で、直接、それを伝えてほしい。太陽神教の頂点が、俺たちを認めたと」


アルベルトは、しばらく黙っていた。


それから、深く頷いた。


「よかろう」



その夜、宵ノ國の広場に、簡素な祭壇が組まれた。


ヤマトの民、エルドラドから同行した聖歌隊、そしてアルベルトと、ヴァルターが立ち会った。


アルベルトが、祭壇の前に立った。


「儂は、太陽神教大神官長、アルベルト・ゼノン」


声が、静かな夜に響いた。


「今日ここに、光の女神ルミナ様と、その聖歌隊に対し、正式な謝罪を述べる」


アルベルトが、深く頭を下げた。二百年の歴史を持つ宗教の頂点が、他宗教に頭を下げる。それがどれほど異例なことか、周囲の空気で分かった。


集まったヤマトの民の中にも、ざわめきが広がっていた。異国の宗教同士の対立と和解という、彼らにとっても馴染みのない光景を、固唾を呑んで見守っていた。


「儂は、己の心の隙を邪神に付け込まれ、聖歌隊とヤマトの民に、大いなる災厄をもたらすところであった。この過ちは、太陽神教の名において、深く恥じるべきものである」


アルベルトが、顔を上げた。


「だが」


その声が、力を増した。


「光あるところに影あり。影が深いほど、光は強く輝く。太陽神教もまた、光を信じる者たちだ。ならば、我ら太陽の信徒も、光の女神の聖歌隊と共に、邪神に抗おう」


集まった人々から、どよめきが起きた。


「異国の二つの宗教が、手を組むというのか……!」「太陽神教が、頭を下げるとは……!」


アルベルトは、俺を見た。


「聖下」


「はい」


「儂からも、一つ、聞きたいことがある」


「なんだ」


「なぜ、儂を助けた」


俺は、少し考えてから答えた。


「あんたは俺にとって、最初はただの邪魔な権力者だった。公開試験のときも、正直、面倒な奴だと思ってた」


アルベルトが、かすかに口の端を上げた。


「でも」


俺は続けた。


「あんたの信仰は本物だった。二百年、太陽神教を守り続けたのは、あんたの矜持だ。それを邪神なんかに好き勝手させたくなかった。それだけだ」


「……そうか」


アルベルトが、目を閉じた。


「儂は、聖下のことを見誤っていたようだ」


「よく言われる」


「ふ……」


アルベルトが、初めて、小さく笑った。



儀式が終わったあと、ツバキが俺の隣に来た。


「見事なものでありんしたね」


「そうだな」


「太陽神教の頂点があのように頭を下げるとは、想像もしんせんでした」


「アルベルト大神官長も、大変だったと思う」


「……わっちも、少し分かりんす」ツバキが、静かに言った。「己の信じてきたものを、一度捨てて、新しく歩み出す辛さが」


俺は、ツバキを見た。


「あんたも、その一人だ」


「わっちのことは、まだ小さな話でありんす。でも……アルベルト様の姿を見て、わっちも今の自分を誇りに思いたいと、そう思いんした」


ツバキが、少し笑った。


夜空を見上げると、星が瞬いていた。


「フィリアさん」


俺は、羊皮紙を抱えたフィリアに声をかけた。


「太陽神教との和解、記録しといてくれ」


「もちろんです……!」フィリアが、目を輝かせた。「これぞワシンジと太陽の教えが結ばれた、歴史的瞬間……!」


「いつもの解釈だな」


「いつものです……!」


その軽いやり取りに、緊張が少しほぐれた。



翌朝、アルベルトとヴァルターは、王都へ向けて発った。


「聖下」


出発の前、アルベルトが最後に言った。


「邪神ナイアルとやらは、まだ姿を現していない。あの使徒は『余興』と言っていたが、それが本気で動いたとき、儂らの想像を超える災厄が来るだろう」


「分かってる」


「太陽神教は、王国での備えを固める。何かあれば、いつでも呼んでくれ」


「ありがとう」


アルベルトが、深く頷いて、馬車に乗り込んだ。ヴァルターが、最後にもう一度こちらを振り返り、小さく敬礼をしてから、御者台の隣に腰を下ろした。


馬車が、朝靄の中を遠ざかっていく。


その背中を見送りながら、俺はサイリウムを握った。


レナが、隣に並んで言った。「あの爺さん、思ったより骨のある奴だったな」


「あの爺さんって、大神官長にそんな言い方していいのか」


「本人がいないんだから構わないだろ」


ミレイが「レナさん、それはさすがに……」と苦笑いした。シルが、こくこくと頷いていた。同意しているのか、面白がっているのか、判断がつかなかった。


ツバキが、静かに言った。「和解の証を見届けられて、よろしゅうありんした」


「そうだな」


太陽神教と手を組んだ。宗教対立の伏線は、ここで一つ、区切りがついた。


だが、本当の脅威は、まだ姿を見せていない。


「フィリアさん」


「はい」


「ルミナちゃんについて、調べは進んでるか」


「まだ、これといった手がかりは……」


「そうか」


俺は、空を見上げた。


なぜ、ルミナちゃんがナイアルにとって唯一の脅威なのか。


その答えに、まだ手が届いていなかった。


「……次は、ルミナちゃんの謎に向き合う番だな」


夜明けの光が、宵ノ國をゆっくりと照らし始めていた。


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