第4話:光の十字砲火、その名は『ロマンス』
「ブモォォォォォッ!!」
一級魔術師フィリアの炎を物ともせず、ミノタウロスが大地を揺らしながら突進してくる。
振り下ろされる巨大な鉄の棍棒。まともに喰らえば、人間の体など一瞬で肉片に変わるだろう。
だが、俺の視界は、信じられないほど冷徹に冴え渡っていた。
かつて、推しの秒単位のレス(目線)を勝ち取るために磨き上げた動体視力。そして、激しいモッシュやサークルの中で培った危機回避能力。それらが組み合わさった時、巨大な牛の動きは、まるでスローモーションのように見えていた。
「遅い。そんな大振りのモーションじゃ、最前列のオタクは剥がせねえよ」
紙一重のステップで棍棒の直撃をかわす。
鼓膜を打つ風圧。直後に背後の地面が爆発したかのように弾け飛んだが、俺はすでに次の予備動作に入っていた。
右手に握るは、相変わらず太陽のように激しく明滅を繰り返す、永久機関化した『大閃光サイリウム』。
魂の導火線が、一気にパチパチと音を立てて燃え上がる。
「捧げー! ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」
俺はすっと腰を落とし、上体を大きく反らせると、手にしたサイリウムをミノタウロスの巨体に向けて猛烈な勢いで突き出し始めた。
――オタ芸の華。愛と情熱の突撃演舞、『ロマンス』。
「お、おい、おい、おい! そいやささーっ!!」
上半身を激しく左右にしならせながら、狂ったような速度で光の棒を何度も何度も前方に突き出す。
異世界人であるフィリアの目には、その光景はもはや「人間の領域を超えた何か」に映っていた。
「な……ななな、何ですかあの高密度の光の弾幕は――っ!?」
フィリアが悲鳴に似た声をあげる。
俺がサイリウムを突き出すたびに、空間にまばゆい十字の光の紋章が爆誕し、そこから極大の熱線がミノタウロスに向けて超高速で乱射されていたのだ。
ズバババババババババババババンッ!!!
「ブ、ブモォォォォ!?!?モモッ!?」
ミノタウロスが、これまでに経験したことのない「光の十字砲火」を浴びて絶叫する。
一発一発が、先ほどのフィリアの最大魔術『フレイム・ランス』を遥かに凌駕する破壊力。それが秒間十数発の密度で、正確無比に急所へと叩き込まれているのだ。
空間を焼き尽くすオレンジの閃光。
俺が突きを放つ動きは、激しさと荘厳さがあり、背後に巨大な後光(神々しい推しの幻影)すら背負っているように見えるようだ。
「これぞ……文献に記されていた、魔力の散弾を一点に集約し、因果を穿つ超複合攻撃魔法……! その真の名は確か、古代語で『ロ・マンス』……!!」
フィリアは恍惚とした表情で、その光景を脳裏に焼き付けようと必死に目を見開いていた。
違う。それは前世のヲタクたちが、夜な夜な推しへの愛を叫びながら開発した魂のステップだ。
「はぁぁぁぁぁ……ッ、フィニッシュ!!!」
俺は最後の力を込め、サイリウムを大きく天へと掲げ、そのままミノタウロスの足元へと叩きつけるように振り下ろした。
その瞬間、十字砲火を浴びて満身創痍だったミノタウロスの体が、光の過負荷に耐えきれず爆発。
ドゴォォォォォン!!!
渓谷に凄まじい爆風が吹き荒れる。
煙が晴れた時、そこには消滅したミノタウロスの魔石だけが、ぽつんと地面に転がっていた。
「ふぅ……。やっぱりロマンスを打つと、一気に背筋にくるな……」
息を整えながら、バキバキになった筋肉をほぐす。
前世の運動不足が祟っているが、異世界の魔力を全身で循環させたおかげか、不思議と心地よい疲労感だった。
「あ、アキ様……。あなたというお方は、一体どれほどの深淵を覗いておられるのですか……」
フィリアがガタガタと震えながら歩み寄ってくる。彼女の自慢の魔法杖は、驚きのあまり落とした拍子に少しヒビが入っていた。
「いや、だからただのオタ芸だって。……よし、道が開けたな。フィリア、このまま一気に隣の街『ギルバート』へ向かうぞ」
「は、はいっ! どこまでもお供いたします、我が師!!」
こうして俺たちは、渓谷の主をあっさりと「出禁」にし、大都会ギルバートへと向かう街道を突き進むのだった。




