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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第2章「聖歌隊(アイドル)、爆誕!」

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第22話:ライバル宗教(邪神教団)、宣戦布告してくる

合宿が終わって三日後の朝。


教会の前に、人だかりができていた。


合宿中の野次馬とは、明らかに様子が違った。誰も歓声を上げていない。誰も手帳を広げていない。ただ、重い沈黙だけがあった。


「アキ様、これは……」


フィリアが、人だかりの中心を見て、声を震わせた。


人だかりの真ん中に、一枚の羊皮紙が、教会の門に打ちつけられていた。近づいて、文字を読んだ。血のように赤い染料で書かれた、荒々しい筆跡だった。


『光の女神の偽りの教えよ。我らが主の名のもとに、貴様らの聖地を滅する。逃げ場はない』


署名はなかった。ただ、紋章だけがあった。黒い、八つの目を持つ蛇が、円を描いて自分の尾を喰らっている図。


「フィリアさん、この紋章は」


「……邪神教団です」


フィリアの声が、初めて聞くほど硬かった。


「邪神教団……?」


「太陽神教や、わたくしたちのようなまっとうな信仰とはまったく違う、闇に堕ちた者たちです。詳しいことは、わたくしも文献でしか知りません。ただ……五十年に一度、各地で大規模な災厄を引き起こす、危険な集団だと」


「五十年に一度の……」


ふと、頭の中で何かが繋がった。


「リプレの村で出た暗黒竜、あれは」


「……邪教徒の召喚によるものでした。当時は単独犯と思われていましたが」


「今思えば、邪神教団の仕業だった可能性が高いってことか」


フィリアが、青ざめた顔で頷いた。



「これは、太陽神教の仕業じゃないのか」とレナが羊皮紙を見ながら言った。


「太陽神教とは、また違う組織のようです」とフィリアが答えた。「ですが……」


「ですが?」


「先日、王都で気になる噂を耳にしました。太陽神教のアルベルト大神官長が、最近様子がおかしいと。急に強硬な発言をするようになったり、これまでの方針からは考えられないような判断をしたり」


俺は黙って聞いた。


「もしかすると」とフィリアが続けた。「アルベルト様は、邪神教団に何らかの形で操られているのではないか、と」


ミレイが小さく息を呑んだ。「操られてる……?」


「確証はありません。ただの噂です。ですが……今回のこの宣戦布告と合わせて考えると」


礼拝堂の中が、しんと静まり返った。シルが、サイリウムをぎゅっと握りしめていた。表情は変わらないが、握る力が強くなっているのが分かった。


「もし邪神教団が本当にこの教会を……いえ、ギルバートの街全体を狙っているとしたら……わたくし、わたくしたちは……」


フィリアの声が、震えていた。その先の言葉を、続けられなかった。


「具体的に、何が起きるんだ」


俺がそう聞くと、フィリアは少し躊躇してから、苦しそうに答えた。


「五十年前、王国の南にあったメリオールという町が、邪神教団の標的になりました。当時の記録によれば、ある朝、町の周りの土が音もなくひび割れて、そこから黒い瘴気が立ち上ったそうです。瘴気は風もないのに、町全体を覆うほどの速さで広がりました。それに触れたものは、人であれ建物であれ、輪郭から黒く染まり、崩れるように溶けて消えていく。叫び声を上げる暇もなかったと。」


フィリアの声は、抑えていても震えていた。


「町に駆けつけた救援隊が見たのは、何もない更地でした。家も、人も、井戸も、何一つ残っていなかった。人口三千の町が、夜が明ける前にそうして消えました。生き残ったのは、たまたま隣町に出ていた数人だけ。今もメリオールの跡地には、何も生えず、立ち入ることが禁止されています。」


礼拝堂の中が、しんと静まり返った。


「フィリアさんも、その記録を読んだとき怖かったか」


「……はい。今でも、思い出すと手が震えます」


俺は、フィリアの顔を見た。いつも自信満々で、勘違いの持論を堂々と語る一級魔術師が、今は本当に怖がっていた。震えていた。


それを見て、俺の中で、何かが固まった。



「フィリアさん」


俺は静かに言った。


「俺がここまでやってきたのは、何のためだと思う」


フィリアが、俺を見た。


「ルミナちゃんを、トップに押し上げるためだ。布教のためだ。教会を直して、聖歌隊を作って、王国に公認させて……全部、その一歩一歩だった」


俺はサイリウムを取り出した。懐から、何百回と握ってきた、永久機関の光。


「ライブを潰しに来る奴がいるなら」


俺はそれを、まっすぐに見た。


「容赦しない」


その言葉には、いつものヲタクのノリも、ギャグの匂いもなかった。ただ、静かな決意だけがあった。


フィリアが、目を見開いて俺を見た。


「教会を壊させない。聖歌隊を潰させない。お前らを、誰にも傷つけさせない」


レナが、腕を組んだまま、こちらをじっと見ていた。ミレイが、魔術書をぎゅっと胸に抱えていた。シルが、サイリウムを両手で握り直した。


「俺たちは、まだ何も成し遂げていない」


俺は三人を見渡した。


「ルミナちゃんを世界一の女神にするって決めたのに、まだギルバートの教会一軒だ。お前らの声も、まだ完璧じゃない。聖歌隊として、まだ何も本番をやってない」


「……そうだな」とレナが言った。


「やってないですね」とミレイが言った。


シルが、こくりと頷いた。


「だったら、ここで終わらせるわけにはいかない」


俺はサイリウムを強く握った。


「邪神教団が何だろうと、知らない。だが、ルミナちゃんの教会を、勝手に終わらせていい場所にした奴は、誰もいない」



夜、教会の外で、俺は一人、空を見上げていた。


ギルバートの夜空に、星が出ていた。前世の都会では見られなかったような、たくさんの星だった。


後ろから、フィリアが歩いてきた。さっきよりは、少し落ち着いた顔をしていた。


「もう怖くないか」


「怖いです、正直」


フィリアは隣に立った。


「ですが……お言葉を聞いて、思い出しました。あなたは、これまでも何度も、無謀に見える戦いに挑んでこられました。暗黒竜、ミノタウロス、王宮での公開試験。そのすべてで、退かなかった」


「そうだったか」


「ご自分でも気づいていないのですね、本当に」


フィリアは少し笑った。


「わたくしは、ついていくと決めた日から、ずっとそうでした。怖くても、あなたが前を向いているなら、ついていく。それだけです」


「ありがたいよ」


「それと」


フィリアが、ふと真剣な顔になった。


「邪神教団について、もう少し調べてみます。王都の知り合いの魔術師に手紙を送って、過去の災厄の詳細を集めます。何か対策が見つかるかもしれません」


「頼む」


「お任せください」


フィリアは、いつもの調子に戻りつつあった。


「……それにしても」


「ん?」


「『容赦しない』と仰ったとき、少し、格好良かったです」


「……そうか」


「お顔が赤いですよ」


「気のせいだ」


俺は星空を見上げて、それきり何も言わなかった。


ギルバートの夜は、いつもより静かだった。でも、その静かさの中に、確かに何かが近づいてきているのが分かった。


「ルミナちゃん」


俺は小さく呟いた。


「お前の現場を、誰にも潰させない」


星が一つ、ゆっくりと流れた。


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