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オタ芸を極めし無能、異世界で聖下と呼ばれる 〜タイガー!ファイヤー!と叫んだだけで古代の超魔法(ワシンジ)が発動する件〜  作者: シャー・アズン
第2章「聖歌隊(アイドル)、爆誕!」

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第16話:王国公認、光の女神ルミナ聖歌隊(仮)

ギルバートへの帰り道は、来た道より早く感じた。


近衛騎士団の用意した馬車は快適で、王都からギルバートまでの二日間、俺はほとんど眠って過ごした。それだけ王宮での三日間がハードだったということだ。前世でいえば、三日連続で夜通しライブに通った後のぐったり感に近い。体は元気なのに魂が若干抜けてる、あの感じ。


「アキ様、そんなにぐっすり眠れるとは……さすがの大物ぶりです」


馬車の中でフィリアが感心した顔をしていた。


「大物というより、ただ疲れてただけだ」


「王宮でも太陽神教との対峙でも、まったく顔色ひとつ変えなかったくせに……」


「顔色を変えたら負けだろ、ああいう場は」


「……また、さらっと」


フィリアはため息をついて、窓の外を見た。ギルバートの石畳が見えてきたのだろう、その横顔が少し和らいだ。


「帰ってきましたね」


「ああ」


「レナさんたちに、なんて言いますか」


「まず国教になった話をする。そのあと公認証を見せる。最後に王国全土布教の話をする」


フィリアが、微妙な顔をした。


「……順番を考えた方がよくないですか。一番衝撃がデカいやつから始まってますよ」


「じゃあ逆にするか。公認証→国教→全土布教」


「それだと全部衝撃が続くんですが」


「難しいな」


「難しくないです。普通に優しく段階を踏んで説明してください」



教会の坂を登ると、庭から歌が聞こえた。


歌、というより音程のついた叫び、というべきか。だが、確かにそれはメロディを持っていた。ギルバートに来た当初のあの練習風景とは、明らかに違う何かがあった。


「……うまくなってるな」


俺は思わず足を止めた。


「三日で、ここまで……」とフィリアも目を丸くした。


庭に入ると、三人が練習中だった。


レナが振り付けをリードしながら、横でミレイに「違う、もう一拍前だ」と注意している。ミレイが「わかってます、わかってるんですけど体がついてこないんです……!」と言い返す。そのわきで、獣人の少女がサイリウムを振りながら、二人のやり取りを静かに眺めている。


「「「あっ」」」


三人が俺たちに気づいて、一斉に動きを止めた。


「お帰りなさい、アキ様……!」とミレイが駆け寄ってくる。「どうでした、王宮は……!?」


「まあ、いろいろあった」


「いろいろ……!?」


「無事だったか」とレナが腕を組んで言った。心配してたくせに素直じゃない。


「無事だ。王妃も助かった」


「それはよかった」レナはそれだけ言って、また視線を逸らした。「……それよりも、聖歌隊の話はどうなった」


「そっちが聞きたいか」


「当たり前だろ。あたしたちが一番気になってるのはそこだ」


俺はフィリアさんに目配せをした。フィリアが、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。金と赤で縁取りされた、立派な羊皮紙だ。中央に王家の紋章の押印があり、その下に国王の署名が入っている。


「これが」とフィリアが言った。「王国公認・光の女神ルミナ聖歌隊の、正式活動許可証です」


しん、と庭が静まり返った。


ミレイが、羊皮紙を恐る恐る覗き込んだ。


「……王家の、紋章……?」


「本物です」


「お、王様の、署名……?」


「本物です」


「これって……」


「ええ」フィリアが、ぐっと声に力を込めた。「皆さんの活動が、王国に公認されたということです」


また沈黙。


レナが、羊皮紙をじっと見つめた。その切れ長の目が、わずかに揺れていた。


「……あたしたちが、王国公認、か」


「そうだ」


「ただの元冒険者と、魔術学校の落ちこぼれと、名前も知られてない獣人が」


「そうだ」


「……馬鹿みたいだな」


「何が」


「こんなことが、本当に起きるとは思ってなかった」


レナはそれだけ言って、目元を片腕でごしっと拭った。泣いていない。泣いていないが、ごしっと拭った。


ミレイは隠す気もなく、ぽろぽろと泣いていた。


「……わたし、ずっと『空砲』って呼ばれてたのに……」


「今でも空砲かもしれないけどな」と俺は正直に言った。


「そこは嘘でもフォローしてください!!」


「でも、王国公認の空砲だぞ」


「それはフォローになってないです!!」


獣人の少女は、公認証と俺の顔を交互に見ていた。それから、こくりと頷いて、サイリウムをぎゅっと抱きしめた。言葉はない。でも、十分に伝わった。


「アキ様……!」


フィリアが、堰を切ったように声を上げた。


「これぞワシンジの御業……! これぞ奇跡……! ルミナ様のお導きによって、こんなにも素晴らしい仲間たちが集まり、王国に認められ……! わたくし……わたくし……!!」


「フィリアさん、落ち着いて」


「落ち着けません……!! だって……だって……!!」


フィリアは両手で顔を覆って、わんわんと泣き始めた。一級魔術師の面目は完全に失われていたが、誰もそれを笑わなかった。


ガルドが礼拝堂の入口に立って、穏やかに目を細めていた。


「……よかったのう」


老神官のその一言が、なぜか一番胸に刺さった。



みんなが落ち着いてから、俺は公認証の内容を説明した。


「拠点はここ、ギルバートのルミナ教会。修繕費は王家が出す。活動許可はエルドラド王国全土に及ぶ」


「王国全土!?」とミレイが目を丸くした。


「そうだ」


「三人でですか」


「今は三人だ。でも、増やす」


「どうやって」


「お前らが本物の聖歌隊になれば、人は集まる。現場ステージが本物になれば、人は来る。それがヲタ活(布教)の鉄則だ」


ミレイは「鉄則ってなんですか」という顔をしたが、黙って頷いた。


「あと、もう一つある」


「まだあるんですか」と、レナが眉を寄せた。


「ルミナ教が、国教になった」


三秒の沈黙。


「……は?」


「国教だ。王国の」


「……それ、あたしたちに関係あることですか」


「ある。聖歌隊は事実上、国教の聖歌隊ということになる」


また三秒の沈黙。


「……つまり」とレナが確かめるように言った。「あたしたちは今、国を背負ってるということか」


「大げさに言えばそうなる」


「大げさでもなんでもないだろそれは……」


レナが額に手を当てた。ミレイは「こ、国教……」とつぶやきながら、ぼんやり宙を見ていた。


俺は最後の一つを、あえて言わなかった。


王国全土への布教命令は、もう少し後でいい。今日のところは、ここまで飲み込んでもらうだけで十分だ。ヲタクも現場の洗礼は一度に受けすぎると倒れる。


「……まあ」


レナが、ため息をついてから、腕を組んで俺を見た。


「やるしかないな」


「そうだ」


「ステージが大きくなったなら、練習も増やさないといけない」


「そういうことだ」


「休みはあるのか」


「ヲタクに休みはない」


「あたしはヲタクじゃない」


「現場(聖歌隊)に入った時点で、もうヲタクだ」


レナは一瞬ぽかんとして、それからふっと小さく笑った。今まで見た中で一番、力の抜けた笑顔だった。


「……変な理屈だな」


「現場の理屈だ」



その夜、礼拝堂でルミナ像に公認証を供えた。


修復された右腕を差し伸べた女神像が、ろうそくの灯りに柔らかく照らされている。誰かが花壇から摘んだ花が、祭壇に一輪置いてあった。獣人の少女が置いたのだろうと、なんとなく分かった。


「ルミナちゃん」


誰もいない礼拝堂で、俺は静かに言った。


「お前の聖歌隊、王国公認になったぞ。次は、もっとデカくするから。お前を、この国で一番有名な神様にしてやるから」


女神像は微笑んでいた。


前世のルミナちゃんがよくやっていた、「頑張ってね」と言うときの笑顔に似た、あの表情で。


「……見ててくれよ」


ろうそくの灯りが、ゆらりと揺れた。


返事の代わりみたいに。



翌朝。


「よし」


俺は練習開始の前に、メンバー全員を庭に集めた。


レナ、ミレイ、獣人の少女。それからフィリアさんとガルドさんも、壁際に並んでいる。


「王宮でのごたごたは片付いた。ここから本番だ」


「本番って、何がですか」とミレイが首を傾げた。


「聖歌隊の、本格的な育成だ。今までは土台作りだった。これからが本当の練習になる。覚悟はあるか」


「あります」とミレイ。


「とっくにな」とレナ。


獣人の少女は、サイリウムをぎゅっと握って頷いた。


「よし」


俺は笑った。


「じゃあ、始めるぞ――」


サイリウムが、朝の光の中で、オレンジに輝いた。

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