初任務1
「さて、クラージュにはこれから北方にある街に行ってもらうよ」
次の日の朝、初めての任務に行くはずなのだが、クラージュはレックスに呼ばれてチッタの街が一望できる部屋に来ていた。
「北方の街とは?」
「ルースと呼ばれる街だよ。ここでは最近、怪しい動きがあるみたいなんだ。クラージュたちにはその調査をお願いしたい」
ルースとはチッタから北側にある海岸沿いの田舎街である。
レザー素材の高級そうな椅子に座り、両腕を机の上に置きながら穏やかな口調で話すレックスの目の奥は初めて会った時と変わらず、鋭い。
レックスに自分の内を見透かされてる気がして落ち着かない。
思わず目を逸らしたくなるが、グッと堪える。
「わかりました。誰が一緒に行くんですか?」
その質問にレックスは椅子の背もたれに体重を掛けながら口角を上げ鼻で笑う。
…?少し含みがある笑い方だ。
「あぁ、今回はアミュザンがクラージュと一緒に任務に行くよ。普段は犬を連れて行くのだが、アミュザンがどうしてもと言うから特別だよ」
お願いを聞いてあげたのに挨拶にも来ないなんてとんだ部下を持ってしまった。レックスは顔を上に向けながら、独り言とは思えないほどの声量で呟く。
何か言った方がいいのか。
クラージュは眉を顰め、口を結ぶ。
昨日の歓迎会でも思ったが、レックスもまたアミュザンをよく思ってないようだ。アミュザンは誰とでも仲良くなれそうなんだが、レックスとの相性は良くないのだろうか。それに犬とは一体…?
「とりあえず、よろしく頼んだよ」
再びレックスはクラージュに目線を戻し、にこやかに笑う。クラージュは先ほどの独り言には触れず、わかりましたと言い部屋を出ようとした。
「そうだ。忘れていた。クラージュにこれを渡しておくよ」
「これは…」
「秘密部隊専用のハンディだよ」
レックスに呼び止められ、渡されたのはただのハンディだった。
見た感じ俺が持っているものと変わらない。特殊な細工でもしてあるのか?
色々疑問はあったが、何も聞けなかった。そしてレックスはそれ以上何も言わなかった。
「では、健闘を祈るよ」
ビダの外に出たクラージュは広場の中央に立っていたアミュザンを見つけた。
一陣の風が吹くなか、髪が舞わないよう右手で止める仕草にこの人が生物学上男なのが未だに信じられない。
「あ、やっと来たね」
クラージュを見つけるとアミュザンはにこやかな笑みを浮かべこちらに小走りで向かってくる。その姿もまたデートの待ち合わせで彼氏を見つけた時の彼女のようだ。ただ、クラージュはデートをしたことがないので何となくのイメージでしかない。
「お待たせしました」
「大丈夫だよ。どうせレックスの小言でも聞いてて遅くなったんでしょ?」
「はははっ」
身長が低いアミュザンはクラージュの顔を覗き込むように聞いてきたが、その質問にクラージュは乾いた笑いで濁した。何かを感じ取ったのか、アミュザンはどうでもいいけどとだけ言い、踵を返し広場を後にする。
質問に答えなかったせいで不機嫌になったのかと思い、慌ててアミュザンを追いかける。
「すみません」
「別に怒ってないよ。レックスの小言の内容は大体わかるから。それよりクラージュがあいつに汚染されないか心配しただけ」
「…そうですか」
不機嫌でないことがわかったクラージュは少し安心する。これから初任務なのにいきなり険悪な雰囲気は避けたい。
アミュザンもレックスのことは良く思ってないのかもしれない。クラージュが秘密部隊に入って日が浅いからよく知らないだけかもしれないが。
広場を離れ、十分ほど歩くと白い外壁の建物が見えた。建物と呼ぶにはあまりにも簡素な作りでとても駅の入り口には見えない。
ここであってるのか?
「さて、ここからリニアに乗ってルースに向かうよ」
「俺、初めて乗ります」
「え?クラージュ、乗ったことないの!?」
「まあ、機会がなかったので」
チッタに住む市民は誰かに会いに行くか、旅行目的以外、基本的に街の外には出ない。クラージュはチッタ内にしか知り合いもおらず、旅行にも興味がなかったため外に出る意味が無かった。
一度も街から出ない人は他にもいるし珍しいことではないんだけど。
「そうなんだ。リニア、めちゃかっこいいんだよ!なんてたって、フォルムがねーー」
「はいはい」
またどうでもいい話が始まったので足早に乗り場に向かうクラージュだったが、改札の前では軍人が荷物検査をしていたので足を止めた。
アミュザンは慣れたように軍人にハンディを見せる。それを見た軍人は一礼をする。
「お気をつけて」
「ありがとう」
そこまで大きな荷物は持っていなかったが、荷物検査は行われなかった。アミュザンも当たり前かのように改札を通り抜ける。クラージュも同じく改札を通るが、軍人は頭を下げたままだった。
「あの、何を見せたんですか?」
「ん?ああ、これだよ」
アミュザンが見せてきたのはいつも腕につけている小型のハンディだった。
「このハンディは秘密部隊のみが着けてる物なんだ。ほら、画面に紋章が見えるでしょ?」
よく見るとそのハンディの画面にはビダで見た紋章と同じものが映し出されていた。曰く専用のハンディには仲間内での連絡や位置情報、小型機の操作などの機能が搭載されているみたいだ。
「てか、なんで知らないの?」
「何も説明されてなかったです…」
「え?もう…」
アミュザンを宥めながらクラージュは歩いていると目の前に大理石で作られた大きな柱が見えた。上を見上げると柱の間にはそれらを繋ぐアーチがあり、壮大な空間に圧倒され思わず足を止めた。不意に足を止めたクラージュにアミュザンは顔を覗き込んでくる。
「ふふっ、初めてだと驚くよね!この駅は国一番を誇る大きさだからね」
「…凄いですね」
それぞれの柱には細工が施されていて、よく見ると一つ一つが違うデザインになっている。まるで何処かの城に迷い込んだような気分になる。そして地下にも関わらずまるで地上にあるかのような明るさがあった。
リニアも白い光沢のある外装で先頭部分は丸みがあり、それほど大きさはないが、どこか迫力を感じる。
「そろそろ出発だから早くリニア乗るよ」
クラージュたちは足早にリニアに乗り込む。車内はシンプルで全席が進行方向に向いていて椅子は背もたれが深くなっている。アミュザンは空いてる席に座り、隣にクラージュも腰を下ろす。
「だいたい二十分ぐらいで着くよ」
「早いですね。結構遠いのに」
「何言ってるの?普通だよ」
普通と言われても乗ったことがないからわからないと思ったが、黙っておく。
「その間に話しておきたいことがいくつかあるの」
「はい」
アミュザンは前を向きながら話を始める。
「まず、今回の任務はルースで起きている怪奇現象」
「怪奇現象?」
ここ数日ルースでは何者かが夜な夜な家に忍び込み部屋を荒らしているみたいだ。ただ、どの家も何かを盗まれたわけでもないようだった。
何かを探しているのか、それとも単に荒らし目的なのか。任務内容はワフシュ伐採だからあまり関係ない気もする。
「ただの窃盗類の事件ですよね?ワフシュに関係あるんですか?」
「それはわからない。ただ、警備員によると夜に見回りしても怪しい人物もいないし、防犯カメラにも映ってないって」
防犯カメラにも映ってないとなるとカメラの位置を把握しているか、もしくは街の住民の可能性もある。が、やはりあまり関係ない気もする。
クラージュの表情を見てアミュザンは大袈裟にため息を吐いた。
「少しでもワフシュの可能性があるなら調査しないと。何かあってからじゃ遅いんだよ?」
「……そうですね」
アミュザンの言葉にハッとする。
少しでも多くの国民を守らなければならない。今も平和だと思っている国民のためにも。小さな違和感を見逃しては誰も救えない。
クラージュは膝の上で拳を握る。
「あと、今回は私が一緒だけど、次からは別の人とペアで任務に行ってもらうよ」
「そういえば、レックスさんもそう言ってましたね。確か…犬って」
犬と聞いたアミュザンは眉間に皺を寄せ、大きくため息を吐いた。
何かいけないことでも言ってしまったのだろうか。でもレックスは確かに犬と言っていた。
「犬って…クラージュ、私が言うペアは死刑囚のこと」
「え?死刑囚……?」
クラージュは思わずアミュザンの肩を掴む。
死刑囚…殺人やハッキング、禁止されている酒や薬物の摂取などをした者だ。そして捕まれば問答無用で死刑執行だったはず。一緒に行動するなんて危険にも程がある。
「死刑にはしてなかったんですか?」
「死刑にする前に人体実験して、そこである条件を満たした死刑囚だけはこちらの協力者として一緒に任務についてきてもらってる」
とりあえず手を離して、とクラージュの腕を退ける。
もし、何かあればこちらを殺そうとしてくるかもしれない。
それにーーー
「ワフシュになったらどうするんですか?」
「それは大丈夫。ワフシュと違ってちゃんと理性があるし見た目も人のまま」
「人のまま?」
実を食べてもワフシュにならない?どういうことなのか。
クラージュは眉間に皺を寄せる。しかし、例え理性があろうと重罪を犯した奴に理性などあってもなくても関係ない。
「正確には人の形をしたままワフシュになってる感じかな。どんな条件でなるのかはわかってないけど、今のところ死刑囚がそれになる確率が高いみたいだね」
負の感情が強いからだろう。そんなの分かりきったこと。そんな奴らと一緒に任務をするより自分一人でやる方が安全だ。
アミュザンは眉を下げ、乾いた笑みを向ける。
「それにその人たちはワフシュになる前の人間がわかる特殊な能力を持っているんだ。それがあれば無駄な調査も減る」
「嘘つくかもしれませんし、何よりこちらの安全はどうするんですか……」
「心配しないで殺されることはないから」
「そんなの信用できないですよ」
「とりあえず、この任務が終わったら強制的に会わせられるよ」
「でもーー」
「あとは」
クラージュの言葉を遮り、アミュザンは鞄の中を漁り始める。クラージュはまだ聞きたいことはあったが、これ以上何も答えてくれないと察して黙る。
「これ渡しておくね」
「なんですか?これは」
アミュザンが取り出したのは小型の円盤だった。円盤の中心には赤いコアがついていた。
「転送装置だよ。もしワフシュが街中で現れたらこれを投げてワフシュを街の外に転送するの。あともし危険を感じたらちゃんと私を呼んでね。このハンディで私もすぐに転送するから」
「わかりました」
クラージュは円盤を受け取り上着の内ポケットに入れると同時に車内アナウンスが流れた。
「もうすぐルースに着くから準備して」
ルースの駅はチッタの駅を見てしまったあとだからか柱や壁には一切の細工もなく、作りもシンプルだが、青く塗られた壁の色は目の前に広がっている海のようで目を引いた。
クラージュたちは改札口に立っていた警備員にハンディの画面を見せ街に入る。
ルースの街は海岸沿いの斜面に広がる街である。そのため坂道が多く、狭い路地が入り組んでおり、地図がないと迷ってしまいそうだ。ただ、街から見える海はどこまでも平坦に広がっていた。
「よし。とりあえず街中を調査しようか」
「はい」
クラージュたちは街中の見回りを始める。
住民はほどほどにいるとは聞いているが、この入り組んだ道のせいかポツポツと人を見かけるぐらいで、そこまで多く感じられなかった。
クラージュたちが坂道を歩いていたら、杖をついた白髪混じりの高齢の女が話しかけてきた。
「あら、見かけない顔だね。旅行者の人たちかな?」
「そうなんです!初めて来たのですが、なんだか落ち着く街ですね」
アミュザンは人懐っこい笑顔で女と話す。よく見ると女は立ち姿のわりに顔は意外と若く見えて、なんだかアンバランスであった。
「そうかしら?私が言うのもあれだけど、この街は旅行者が来るような観光スポットがあるわけじゃないから、そう言ってもらえて嬉しいわ」
確かにルースは他の観光地とは違い、特別何かがある街ではないが、この膨大に広がる青く澄み切った海を見れる街は他にないだろうから何かがきっかけで旅行客にも人気が出るのではないだろうか。
ただ、こちらは観光に来たわけではないので早く調査を始めたいが、アミュザンはまだ女と話していた。これ以上世間話している暇などないのに。
「よかったらうちに寄っていかないかしら?この街はほんと何もないからね」
「いえ、俺たーーー」
「いいんですか?ありがとうございますぅ」
当然、断ろうとしたが、アミュザンはそれを遮り、女の提案にのる。
女は嬉しそうに自分の家へと二人を案内し始め、アミュザンはついて行こうとするが、クラージュはアミュザンの腕を掴んで引き止める。
「アミュザーー」
「いいから。行くよ」
クラージュ一人でも調査に行こうと考えたが、知らない街で単独行動は難しいと思い直し仕方なく二人について行く。
この先が不安しかないが、アミュザンは考えなしに行動はしないだろう。
「ここよ」
女の家は歩いて数分のところにあった。平屋で、チッタにある家よりも少し広さを感じる。どの家も同じ作りになっている。青色の外壁で家同士の間隔が広いため敷地に余裕がある。色が褪せているのはこの日差しと潮風のせいか。
「素敵なお家ですね。玄関に置いてあった車の模型もかっこいいです。SUVのヴェスタですよね?」
「そうなの?ごめんなさい。私、車には詳しくないの。ずっとそこに置いてあるからそのままにしているのよ」
捨てるのもなんかね、と女は小さな模型を優しく撫でる。クラージュたちは何も言えずただその横顔を見ていた。
「私、物を捨てられないのよ」
女は笑って触っていた模型から手を離し、クラージュたちをリビングに案内した。
玄関から見て右側にキッチン、左側には大きな棚が置いてあり、びっしりと本が並んでいる。中央には丸いテーブルがあり、三つの椅子が置いてある。その奥には大きなガラス窓になっていて、窓の外には先ほど見ていた海が見える。
本が置いてあるのは珍しくないが、基本的に電子本で読むのが主流だ。ここまでの量の本が一般家庭にあるのは珍しい。よほど紙の本が好きなのか。
「そこに座って待っててちょうだい」
女は持っていた杖を窓側の椅子に立てかけるとゆっくりとリビングの右端にあるキッチンまで歩き、お茶を入れ始めた。
そこが定位置なのだろう。
「あの…何か手伝いましょうか?」
「あら、ありがとう。そしたらこの淹れたお茶とお菓子を持っていってくれないかしら?」
「分かりました」
クラージュは女が淹れたお茶とお菓子をお盆に乗せてテーブルまで運ぶ。
「うふふっ、何だか嬉しいわ。こうやって若い子に手伝ってもらえるなんて」
「普通ですよ」
「そんなことないわよ。家庭用ロボがあるからみんな手伝うなんて発想はないわ」
どの家庭も基本的に家事全般はロボットに任せているから家にいても何もしない。ただ、クラージュの家やエミの家には家庭用ロボがない。昔から両親たちから自分のことは自分でやれと言われていたからだ。
変わった親だとは思っていたが、自分でやった方がやりがいを感じるので今もそうしている。
女は感心したようにクラージュを見る。
「珍しい子ね。こういう子がきっと将来いい旦那さんになるのね」
「ははは…」
どうだろう。ただの変わり者として見られそうな気もするが。
そんな話より早く今回の事件について聞きたいが、急にその話をしても怪しまれるので様子見をするしかない。
クラージュは横目で見る。アミュザンは呑気にカップに入ったお茶を飲んでお菓子を食べてリラックスしていた。
緊張感のなさに呆れるが、これも調査のためと思い、一口お茶を飲んだ。
「申し遅れてごめんなさい。私はラッカよ」
ラッカは左足を庇いながら椅子に腰を下ろす。
左足が悪いのだろうか。白髪混じりの髪ではあるが、顔立ちからしてそこまで歳を取ってるようには思えない。
「足、大丈夫ですか?」
「ええ、昔から左足が悪くて…記憶にはないんだけど、転んで靭帯を痛めたらしいの…お医者さんには派手に転んだせいで記憶が飛んだのかもしれないって言われて」
本当に転んで記憶がないのかもしれない。ただ、記憶操作をされている可能性もある。
「ほんと珍しいわ。旅行者なんて。ほら、みんな基本的には街から出ないでしょ?それにもし旅行するならもっと楽しい街に行くだろうし」
「この街もいい場所ですよ。こんなにゆっくりできる場所もなかなかないですし、それにこの街から見える海は見惚れちゃうほど綺麗ですから」
「アミュザンちゃんは嬉しいことばっかり言ってくれるわね。でもここ最近は物騒なことが多いの…あなたたちも気をつけてね」
「物騒なこと、とは?」
ラッカは深刻そうな顔でカップを見つめる。
クラージュたちは一応何も知らない旅行者という体なので知らないふりする。
「それがね、家の中を荒らす人がいるみたいで、でも何かを取られたわけでもないみたいなのよ」
今までこんなことなかったのに、と言いラッカはお茶を飲む。
何か盗むにしても見た感じこの街は全体的に素朴で住民も派手な感じはしないし、何か高価なものを持ってる感じもしない。
「家中ですか?」
「それが玄関からリビングの周りだけなの。怖いわ」
「ラッカさんの家は大丈夫なのですか?」
「ええ、でもいつ来るかわからないから念の為、玄関にアラーム付きのカメラを置いてるわ。さっきアミュザンちゃんが見てたあの模型に仕込んだの」
「そうなんですね」
流石に対策はしているか。ラッカは多分一人暮らしだし、もし犯人が侵入してもきっと助けも呼べない。アラームが鳴れば近所の人が気づいて助けに来てくれるだろう。
そんな中、アミュザンはカップを静かに置き、ラッカに顔を向ける。
「ラッカさん、一つ、重要なことをお聞きしたいのですが……」
「?何かしら?」
アミュザンはラッカをじっと見つめる。
何か気になることでもあったのか。今の会話だけで何か掴めたのだろうか。その表情はやけに真剣だ。
「めっっっっちゃお肌綺麗ですよね。ぜひ、その秘訣を聞きたいのですがっ」
「あら!嬉しいわ!」
……本当に何しに来たんだこの人は。
「あの、ちょっと本棚見てもいいですか?」
「もちろんよ」
あまりのくだらなさにクラージュはアミュザンたちとは別に、気になっていた本棚を見始める。本棚には小説をはじめ、料理系、歴史系、そして車関連の本が置いてあった。
クラージュは目についた本を一冊手に取り、適当に捲る。
百年前に出版されたものか。よくこんなに集めたな。それに興味がないとは言っていたが、こんなに車関連の本もある。
一方でアミュザンたちはキッチンで何やら盛り上がっていた。
「…これですか?」
「そうよ。この街ではよく食べられている果実なの。私はこれをすり潰して、海藻のジェルを混ぜてパックにして毎日お肌に塗っているわ」
「私も欲しいです!」
「アミュザンちゃんはもう十分お肌綺麗よ」
「いえ、年々肌の衰えを感じてますから…」
「そんなことないわ」
嫌でも聞こえてくる会話にアミュザンの目的はこれかと確信した。
クラージュは一人ため息を吐き、引き続き本棚を調べる。
SUVについて書かれている本を捲っていると、一枚の紙がクラージュの足元に落ちた。
それを拾い上げ、折り畳まれていた紙を広げる。そこには歪んだ大きな窓の中に塗りつぶされた青い景色。そして窓の前で車のおもちゃを持って手を広げ笑顔の小さな男の子とその両側に笑顔の女と男ーーー。
「では、私たちはこれで」
「あら、もう行ってしまうの…」
「はい。残念ですが…もう少しルースを散策します」
「そう…楽しんでちょうだいね。あとこれ、よかったら食べて」
「えー!ありがとうございます!これでラッカさんのような美肌目指します」
流石にこれ以上話をしていたら日が暮れてしまうので、クラージュたちは引き続き調査をするためラッカの家を後にする。
帰り際にもらった紙袋は先ほど話していた果実だろう。
アミュザンはもらった紙袋を大事そうに持つ。
任務のことは覚えているのだろうか。
「何しにこの街に来たと思ってるんですか」
「まあまあ、貴重な声も聞けたし、いいじゃん!」
“貴重な”お肌の情報だけね。
つい口に出してしまいそうになったが、ギリギリで止めた。また不機嫌になったら困る。




