歓迎会
「じゃ、一通りの説明も終わったことだし、食堂で歓迎会でもやろーか!」
「食堂!美味しいご飯が食べれるの?」
「もちろん!ここのご飯は美味しいんだよ」
「おっしゃー」
アミュザンとノイギーアは早速食堂に向かおうとしたが、それよりも早く入り口の近くに座っていたティミーは立ち上がる。
「私はこれから用事がありますので、お先にーー」
「おい、ティミー、せっかく新しいのが入ったんだ。お前も歓迎しろ」
すかさず隣にいたシンセロがティミーの肩に腕を回し、阻止した。
無理やり参加させるのはどうかと思うが、他の人たちも止めないみたいだから必須なようだ。
「わかりましたから……腕、どけてください」
シンセロは満足そうに頷き、肩から腕を退ける。深いため息を吐いたティミーはシンセロに連れられ、食堂に連行された。
「あははっ、ティミーは人付き合い悪いからこうでもしないと一緒にご飯も食べてくれないんだ」
「大変ですね」
ティミーが、とは言えない。この人たちと毎回ご飯を食べても落ち着かないだろう。特にアミュザンとシンセロとご飯なんてゆっくり食べれない。
「何か失礼なこと、考えてない?」
「……何も」
そう、とにっこり笑っているアミュザンだが、目が笑っていない。
クラージュは額に一筋の汗を浮かべ、食堂に向かう他の人たちに目を向けるが、あからさまに目線が合わない。
新人を見捨てるなんてひどい人たちだ。
再び、アミュザンの方に顔を向ける。
「……歓迎会、楽しみです」
「そうだね!みんなとご飯食べるの嬉しいよねっ」
「はい。とても嬉しいデス」
アミュザンは満足したように頷き、食堂に向かっていった。
これから気をつけないと。
「ここだよ」
連れてこられたのは、一つのフロアを使い切るぐらいの広さの食堂だった。
クラージュたちは窓際の長テーブルに座り、アミュザンは左腕のハンディを使って注文をする。
数十分後にテーブルの下から料理が出てきた。
ステーキや焼き魚、パスタや米などよくわからない組み合わせの料理だったが、特にみんなは気にしなかった。
「ここの食堂はちゃんと人が作ってくれるんだよ」
「珍しいですね」
左端に座っているサハジャは感心したように並べられた料理を見る。
一般的に手料理は珍しく、どの家庭にも自動調理AIが置いてある。エミやクラージュのように自分で料理を作る人はごく稀だ。
一通り料理や飲み物がテーブルに並んだのをアミュザンは確認して、グラスを手に取った。
「だいたい料理もそろったし、乾杯しよっか。そしたら乾杯の音頭は…サハジャ!よろしくね!」
「えっ!俺ですか!?何も考えてなかった」
サハジャは慌てて立ち上がり、えー、えー、とグラスを持ちながら視線を宙に彷徨わせている。
そもそも歓迎会をするなんて聞いてなかったし、適当に言えばいいのに。真面目だな。
サハジャは数秒考えた後にグラスを持ち上げる。
「えーっと、このたびはこの秘密部隊に入隊できて光栄です。これから色々お世話になります!よろしくお願いしますっ!かんぱーい」
「「「かんぱーい」」」
面白味がないとシンセロが愚痴るが、サハジャの性格上面白さを求めるのは間違っている。どう見てもそんな面白いことを言えるタイプではないだろ。
それぞれ持ち上げたグラスをそのまま口元に持っていき、一口飲んだ。
クラージュは手前に置かれていたミートパスタを自分のお皿によそい、食べる。
美味しい。自動調理AIで作られた料理より手料理の方が断然いい。
各々談笑している中、クラージュは斜め向かいに座って魚の骨を器用に取っているアミュザンに声を掛けた。
「それにしても、試験があるなんて聞いてなかったんですけど」
「あれ?レックス言ってなかったの?」
「言われてなかったです」
「もー、いつも言葉足りないんだから」
まったく、と頬を膨らませながらここにはいないレックスに文句を言う。
言葉足らずというか説明不足、それも大事なことを伝えないのは上司としてどうなのか。
アミュザンは申し訳なさそうに眉を下げる。
「ごめんね。変わってるやつだから、今後もそういうのあると思うけど、頑張って」
「いや、そこは直してほしいです」
「多分、無理。だからこっちが考える」
無理って…まあ、あの人に注意できる人はそうそういないのもわかる。レックスの有無を言わせない雰囲気にあの鋭い目。そんな人に対して言いたいことがあってもまともに言えないだろう。
アミュザンの右隣に座ってるジョンイーも諦めているのか、苦笑いをしていた。
「まあ、レックスさんのおかげでワフシュのことわかってきたところもありますし」
「それは研究部のおかげだからね」
アミュザンは眉間に皺を寄せながら焼き魚を食べる。クラージュとジョンイーは苦笑いでレモン水を飲む。
レックスのことはあまりよく思ってないのか。
「まっ、そんなことはどうでもいいから、クラージュは恋人、もしくは結婚とかしてるの?」
アミュザンの急な質問にクラージュはグラスに口を付けたまま止まった。一瞬考えてからグラスをテーブルに置いて、アミュザンのにやけた顔を見る。
急に何を聞いてくるんだ。この人は。
「……なんですか、突然」
「えー、だって恋バナは団結力を高めるんだよ?」
そんなことないだろう。そういうのは女同士で話して欲しい。それに今まで恋バナと言ってもマサがエミの話をするからそれを聞くぐらいで自分の話なんてしたことがない。
困惑するクラージュは視線をジョンイーに向けたが、こちらも恋バナが苦手なのか、黙々とご飯を食べている。
確かに苦手そうではあるが、少しぐらい助けてくれてもいいんじゃないのか。
クラージュの視線に気づいたアミュザンは顎に手を乗せ、何か考えていた。そしてジョンイーに話を振る。
「確かジョンイーは恋人いなかったよね?いいなとか思う人とかいないの?」
ジョンイーは口元に運ぼうとしたフォークを止め、チラリと笑顔のアミュザンを見た。 しばらく見つめあっていたが、ジョンイーは諦めたように手に持っていたフォークをお皿に置き、渋々答える。
「いないです。そもそも恋愛とか興味ないです」
「もう…そんなこと言って。ジョンイーは綺麗なんだからその気になればすぐに見つかるでしょ」
「いらないです」
ジョンイーはこれ以上話す気はないのか再びご飯を食べ始める。そんな態度にアミュザンは小さく首を振り、クラージュに目を向けた。
「で、クラージュは?」
……はあ。こちらに話を戻さないで欲しい。
クラージュは心の中で舌打ちをした。
「結婚してないですし、恋人もいません」
「ふーん。好きな人は?」
まだ続けるのか……。
ふとエミの顔が出てきたがそれを振り払う。
「……いません」
「ふーん」
アミュザンはなぜか含みのある笑みを見せてきたが、クラージュはグラスを煽り、それ以上何も言わないことにした。
今はそんなことを考えている暇はない。
クラージュはグラスを置いて、アミュザンに目線を合わせる。
「そんなこと言うアミュザンは恋人とかいるんですか?」
大して興味もないが、一応聞いとく。もう自分の話はしたくない。
アミュザンは目を細め、見た目に似合わないぐらい妖艶な微笑みを浮かべた。
「いるよ。最高にかっこいい奥さんが」
独身かと勝手に思っていたのだが、既婚者とは意外だ。
突然、隣に座っていたジョンイーはやや前のめりでクラージュに詰め寄る。あまりの近さにクラージュは身体を背ける。頬が微かに熱い。
そんなクラージュに気づいていないジョンイーはさらに顔を近づける。無表情なのに心なしか目だけは輝いて見えた。
「アミュザンさんの奥さんは今は現場を離れてるけど、現役の頃は何体ものワフシュを怪我一つなく倒したり、一日にいくつもの任務をこなしたりしてたの。そして、あの大陸から生きて帰ってこれた数少ない人なんだ」
「そ……そうですか」
顔が近過ぎて何も情報が入ってこない。普通、もう少し男に対して警戒心とかないのだろうか、それともあまり気にならないタイプなのか。
クラージュは戸惑い、横目でアミュザンに助けを求めた。その視線に気づいたアミュザンは片眉を上げる。
「ジョンイー。クラージュが困ってるよ」
「え?ああ、ごめん」
アミュザンに諭されて、ジョンイーは椅子に座り直した。
変に意識されても困るが、されなさ過ぎても困るな。それに美人の顔は近ければ近いほど迫力があるからあちらはなんとも思ってなくてもこっちが変に意識してしまう。それともこれは経験が浅いせいだからなのか。
そんなことを考えているクラージュをよそにアミュザンとジョンイーは奥さんの話で盛り上がっている。
「でも、本当、素敵な人ですよね」
「ねー。あんな人、他にいないよ。自慢の奥さんだよ」
奥さんという言葉でふと現実に戻る。奥さんということは同性婚か。異性婚の方が多いが、特に同性との結婚は珍しいことではない。
「結婚してたんですね。意外でした」
「そうだよ。こう見えて既婚者です」
アミュザンは首元に下げていたチェーンを引き出す。その先にはシンプルな指輪が通されていて、指輪には細かな擦れがあった。
肌身離さず着けているのだろう。大切な人がいることはいいことだと思う。
クラージュはステーキが盛られたお皿の隣に置いてあるバスケットからパンを取り、食べる。
「それにしても本当に見た目が正反対ですよね。傍から見たら男女逆に見えます」
「…は?」
アミュザンはよく間違えられると笑っているが、聞き間違いだろうか。
男……?この人が……?
クラージュは思わず、パンを食べようとした手を止めた。目を見開き、アミュザンを凝視する。
「……男だったんですか?」
「そうだよ!正真正銘、男です!」
アミュザンはウインクをする。
衝撃の事実にクラージュが持っていたパンはお皿に着地した。
いや、どう見ても女でしょ……。
「まぁ、私はそこら辺の女性より見た目には気を使ってるからねっ」
ちょっとは私を見習いなさいとアミュザンは説教じみたことを言っているが、ジョンイーは興味ないですと言い、ステーキを食べる。
ジョンイーは気にしてないわりには綺麗な髪や肌をしている。
アミュザンの長く伸ばされた髪も毛先まで艶があり、近くにいると少し甘い香りがする。肌もちゃんと手入れをしているのか、きめ細かい。それに仕草や話し言葉は女そのものだ。
まさか男とは思ってもみなかった。
「えぇ!?アミュザンさんって男だったんですか?」
こちらの話が聞こえてきたのか、テーブルの端にいたサハジャは立ち上がり、驚いた表情でアミュザンを凝視している。隣に座っていたノイギーアは肉を食べながら、不思議そうにサハジャを見上げた。
「?気づいてなかったんだ」
クラージュたちは一斉にノイギーアを見る。
え?なんでわかるんだ。こんなの初見でわかる人いないだろう。
サハジャは感心したようにノイギーアの肩を叩く。
「お前、凄いな!なんでわかるんだよ」
「へ?んー、なんとなく?」
雰囲気?とノイギーアは頭を傾げながら考えている。
野生の勘は鋭いようだ。
サハジャの向かいに座っていたシンセロは両腕を組み、頷く。
「物好きな女性はこの世の中にはたくさんいるからな。良かったな。アミュザン。いい人に恵まれて」
嫌味っぽい言い方ではあるが、口調からして多分素直にそう思っているみたいだ。いらない一言を言うあたり、あのドラマを見て一体何を学んだのか。
「そうだね。シンセロみたいなのを好きになってくれる物好きな人もきっとこの世に一人ぐらいはいるんじゃない?」
「運命の相手だけってことだろ?」
「ソウデスネ」
アミュザンの悪意のある嫌味が伝わらないのか、シンセロは何処にいる、俺の運命の女性はと叫んでいた。サハジャ以外はみんな引いた目でシンセロを見ている。
「シンセロさんはどんな人が好みなんですか?」
「そうだな。髪が長くて、顔立ちがはっきりして、高身長で、胸とお尻がそれなりに大きくて、家庭的で俺に尽くしてくれる女性だな」
「な…なるほど」
サハジャも流石に軽く引いていた。結構はっきりと好みがあるシンセロに果たして運命の人は現れるのか。
アミュザンは小声で一生独り身だなと呟いていた。
そんな騒がしい空気の中、クラージュは一切こちらの会話に入ってこないティミーを見る。サハジャとは反対のテーブルの端でいつの間にか別に注文したであろう料理を一人で食べていた。
「なんか、無理やり参加させてしまってすみません」
「いえ、大丈夫です」
ティミーは淡々とご飯を食べており、クラージュはちらりとティミーのお皿に目をやる。
そのお皿の上には意外なものが置かれていた。
「え?これ全部ケーキですか……?」
「何か問題でも?」
「いえ、別に……」
ティミーはそれ以上何も言わずフルーツタルトを食べ続ける。
無表情なのは想像ついたが、食べているものは意外だ。甘いものは苦手そうな見た目なのに。
「もー。そんな甘いものばっか食べてたら身体壊すよ」
「その時はその時です」
いつの間にか現れたアミュザンはそう忠告しているが、ティミーはいつものことかのように聞き流している。
ティミーがみんなとご飯に行かないのはこの偏食について色々言われるからか。




