二次試験
クラージュたちがビダに着くと、そこには二十名ほどの受験者たちが既に戻っていて、それぞれ白い実を手に持っていた。時間を確認したら残り三十分を切っていた。
「いやー、危なかった。あとちょっと遅れたら失格だったな」
「お前のせいだろ」
ビダに帰る途中でノイギーアはうわ、この枝かっけぇ形してるとか、見ろよ。この虫すげぇ触覚なげぇなどと無駄な寄り道のせいでここまで戻ってくるのにだいぶ時間がかかったのだった。
クラージュはノイギーアの小学生レベルの趣味に呆れていた。
「二時間経過したので、これで一次試験を終了とします。白い実を持っている者はビダの中に入ってください。持っていない者はこの者に付いて行ってください」
試験官はそう言ってビダの中へと入っていく。それについて行くクラージュたち。失格者たちはまだ数名森の中にいるが、集まり次第別の人にどこかに連れて行かれるみたいだ。
ビダの中は広く、床が大理石になっていて、全ての物が白で統一されていた。
「うわ。あの紋章かっけぇ」
ノイギーアは入り口を入って目の前の紋章を見て興奮していた。クラージュも無言でその紋章を見上げ、わずかに目を細める。どこか惹かれるものを感じていた。
「では、これより第二試験を行います。この武器の中から自分に合いそうなものを選んでください」
別の軍人が持ってきたものは剣、銃、縄など様々な武器のようなものだが、どの武器にも本体とも言える刃、ヘッド、鞭身がなく柄の部分しかない。
クラージュたちは戸惑いながらも目の前に置かれた柄しかない武器をそれぞれ手に取りながら自分の感覚に合ったものを選ぶ。
「おっ、これかっけぇ。俺、これにしよ」
ノイギーアは意外にも迷うことなく一つの剣の柄を手に取った。クラージュは迷いながらも一番感触の良かった剣の柄を選ぶ。
「選び終えたら、こちらについて来てください」
それぞれ武器を選び、再び試験官について行く。
試験官は奥にあるエレベーターに乗りそのまま地下へと向かった。
地下に降りると先程のビダの入り口とは打って変わり、一面コンクリートで覆われており、薄暗くそして肌寒い。受験者たちはどこか薄気味悪さを感じ、これから行われる二次試験に不安を覚える。
「ここはここで雰囲気あってかっけぇな。な?クラージュ」
「空気読めよ」
ここでも相変わらずなノイギーアにもはや関心を覚えるクラージュだったが、そんな二人の雰囲気をよそに徐々に緊張感が高まってくる受験者たち。
「ここです」
試験官は一つの大きな扉の前で止まり、クラージュたちを見る。
「これより第二試験を始めます。受験者たちにはまずこの中にいる、ある化け物に会ってもらいます。檻の中に入っているので襲われる心配はありません。そして、その化け物を見て自分たちが持っている武器に”自分の能力を込められるか”が今回の試験内容です」
化け物ってなんだと受験者たちから疑問や不安な声が上がる中、クラージュは化け物の正体は既に知っているためさほど驚きはない。
しかし、あの時咄嗟に出したスヴェードの出し方の感覚を未だ掴めていなかった。
「無理だと思う者は棄権も構いません。この国を真の意味で守れる者だけがここに残ってください」
試験官は中指で眼鏡を軽く押し上げて言い放つ。冷たい言い方かもしれないが、それは正しい意見だ。
ワフシュは元は人間だけれども、もはやあれは人間の領域を超えている。マサが簡単に殺されたのを目の当たりにしているクラージュは、彼が自分たちに、命を賭けてでもこの国の民の平和を保つ意思を持てるかどうかを試していると思ったのだ。
受験者たちは怯んだ様子ではあったが、この国を守るために戦う意思はあるようだ。
しかし、二十人程度の受験者たちのうち五人はこの時点で棄権して、その場で帰っていった者もいた。
自分の命の方が大事だと思うことはおかしくない。今まで自分の命が危うくなることなんて重病以外一度たりともないはずで、ましてや命をかけて武器を使い化け物を倒すことはよほどの意志がないとできないだろう。
残った受験者たちは持っている柄を握りしめ、扉の中へと入っていく。
扉の中は広く、四方を鉄でできた壁で覆われている。そして部屋の半分を鉄製でできた檻で区切られていた。
その檻の中には三人の犯罪者が手足に鎖が付いている状態で立っていた。
受験者たちは一体この人たちは何者なんだ、と思いながらもその不気味なほどにただ、まっすぐ前を向いている犯罪者に怯えていた。
不穏な静けさの中、一人の犯罪者が急に唸り声を上げながら身体を縮こませる。
骨が軋むような音が室内に響き、背中が不自然に盛り上がる。皮膚の下で何かが蠢き、腕が異様な角度にねじ曲がる。
そして残りの二人も触発されたようにワフシュへと姿が変わっていく。
その異様な光景に何人かの受験者たちは悲鳴をあげて扉へと向かうが、鍵がかけられていて外に出ることはできない。閉ざされた空間に恐怖が一気に広がる。
しかし、クラージュはワフシュには怯えず柄を構えた。
ノイギーアは初めて見たにも関わらず口角を上げ、目を輝かせていた。他にも数名ワフシュの見た目に屈せず柄を構え、檻の中のワフシュを睨む。
ワフシュは唸り声を上げながら檻に体当たりをする。鉄の檻が軋み、床に振動が走る。そして――
檻の中にいるワフシュが拙い声で喋り始めた。
「コロス、、イラナイ。ミンナシネ」
掠れた小さな声が室内に不気味に響いた。
次の瞬間、ワフシュが檻を両腕で掴み、力任せに引き裂いた。鉄が歪み、けたたまし金属音と共に檻が崩れる。
一部の受験者たちは一斉に逃げ出す。
一人の受験者が逃げ遅れ、振り下ろされた腕により身体を真っ二つにされる。血や内臓が飛び散り、胴体は左右に分かれて落ちた。
その光景を横目にクラージュは歯を食いしばる。
スヴェードを出さなければ。
だが、どう出したのかわからない。
焦りが胸を締めつける。
あの時は――
マサの仇を討つことしか考えていなかった。
「クラージュっ!後ろ!」
ノイギーアの叫び声に我に返り、振り返った瞬間、ワフシュの右腕がクラージュに襲い掛かる。
クラージュは咄嗟に横に飛び退き攻撃を避けるが、腕を掠めた。鋭い痛みと共に血が滲む。
ノイギーアはすでにスヴェードを発動していた。
光で出来た刃でワフシュの攻撃を受け流しながら戦っている。他の数名もスヴェードを使い、怯える受験者たちを守っていた。
ノイギーアはワフシュの攻撃を上に飛び退いて避けるが、背後からもう一体のワフシュがノイギーアに腕を振りかざす。
「やべっ」
ノイギーアは咄嗟に防御態勢を取ろうとしたが、その瞬間、横から伸びた光の刃がワフシュの腕を切り裂いた。
「大丈夫か」
体格のいい男が、無駄のない動きでワフシュの注意を引きつける。
「助かった!」
ノイギーアは着地と同時に踏み込み、バランスを崩してるワフシュの隙を逃さず、腹部を切り裂く。
ワフシュは叫び声を上げながら灰となって崩れ落ちた。
一方でクラージュはスヴェードを出せないでいた。
自分だけが足手纏いになってはいけない。
ワフシュの攻撃を避けながら右手に持った柄を強く握りしめる。
出さなければ。
だが、出せない。
このままでは――また守れない。
マサの姿が脳裏に浮かぶ。
目の前で真っ二つになったあの光景。
また同じことを繰り返すのか。
また誰かを守れずに終わるのか。
違う。
違う。
「……守るんだ」
クラージュは柄を両手に持ち構える。
"クラージュ。お前にならできる"
マサの声が響く。
その瞬間――
柄の先から光が溢れ出した。
ワフシュが右腕を振り下ろす。
クラージュは横に跳び、間一髪で避ける。床に叩きつけられたワフシュの右腕でコンクリートがひび割れる。
続けてワフシュが左腕を振り払う。クラージュはスヴェードで受け止めるが、凄まじい力に押し返され、数歩後退する。
重い。
腕が痺れる。
それでもクラージュは柄を握り直す。
ワフシュが再び突進してくる。クラージュは一歩踏み込み、右腕を切り裂いた。しかし、ワフシュは怯まず、残った左腕で薙ぎ払う。
クラージュは身を低くして避け、そのまま懐に潜り込み、胴体をスヴェードで切り裂く。
ワフシュは叫び声を上げ、灰となって崩れ落ちた。
クラージュは灰になったワフシュを見つめ大きく息を吐いた。右手に持っている柄の先に光は無くなっていた。
「お疲れ。クラージュ。急に檻から出てきてびっくりしたな」
「ああ、ノイギーアは大丈夫だったか?」
「まあ、なんとかね。こいつがアシストしてくれたからなんとか倒せたよ」
ノイギーアはそう言ってワフシュを倒したもう一人の体格のいい男を指した。
男はがっしりとした体格をしていたが、整った爽やかな顔立ちをしており、戦闘直後にも関わらず穏やかな表情を浮かべていた。白い歯を見せながら軽く笑う。
「こういう時は協力が大事だからな」
男はそう言ってノイギーアと握手をした。
クラージュも男に礼を言い握手をする。
「俺、サハジャ。よろしく」
扉が開き中から軍人が入ってきて死傷した受験者たちを運ぶ。入れ違うように試験官の男も中に入ってきた。
「すみませんでした。こちらのミスで貴方たちを危険な目に遭わせてしまいました」
試験官はクラージュたちに頭を下げた。
今回の騒動は果たして偶然だったのだろうか。もし偶然なら檻が壊された瞬間に入り口の扉を開けることも可能だったはずとクラージュは考えたが、この慌ただしい空気感はとてもわざととも思えない。
そんなことをクラージュが考えている中、ノイギーアはどうせこれからもこういったことはあるから気にするなと笑う。サハジャも同じく頷きながら今回は苦戦してしまったが次は一発で仕留めると言った。
「頼もしい限りですね。君の腕の傷は大丈夫ですか?」
「これぐらい大丈夫ですよ」
念の為、治療してくださいと言われクラージュは別の軍人にその場で軽い手当てをしてもらう。
治療をしてもらっている間にクラージュ含め数名の合格者が試験官からの今回のワフシュについての説明を受けている。
重傷を負った残りの合格者に関しては軍人になる覚悟があるか確認をしてからこの説明をするようだ。
説明が終わり部屋から出ようとしたクラージュたちだったが、試験官に待ってくださいと言われ、クラージュ、ノイギーア、サハジャはその場で立ち止まる。
「貴方たちは別の仕事についてもらうので、こちらについて来てください」
試験官は三人を引き連れて別のエレベーターに乗る。
「なぁ、別の仕事ってなんだよ?俺たちは軍人になるために受験したんだけど」
ノイギーアは不満そうに試験官に言った。確かに今回の試験は軍人になるための試験だったはずなのに別の仕事とは一体なんなのか、クラージュも疑問に思った。
「そうですね。確かにあの試験は軍人になるためのものです。しかし、我々は別の人材も探していました。それは国を守る者です」
「何が違うんですか?」
サハジャは首を傾げる。試験官は上に上がるエレベーターの階表示板を見ながら違いますと言う。
「軍人はあくまで国民一人ひとりを守ること。国を守るとは国家、国そのものを守るということです」
「??」
ノイギーアとサハジャは訳分からないと言った表情でお互いに顔を合わせたが、クラージュは試験官の曖昧な言い方に疑問を持った。
「今、この国に何が起きてるのですか」
「……それは後で説明します」
エレベーターは目的の階に着きドアが開く。試験官はそのまま無言で降り、クラージュたちも後につく。




