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試験

"では、また明日、ビダで会おう"


レックスとビダで別れて一度帰宅するクラージュだったが、エミのことが心配なため少しだけ様子を見に行った。エミの家の前まで来たクラージュは立ち止まる。マサのことが頭をよぎり、なかなか中へ入る勇気が出ない。


この扉を開けても、もうマサはいない。

それでもエミは、いつも通りに笑うのだろうか。

そう思うと、胸の奥が締め付けられる。入り口の前で立ち尽くしていたクラージュだったが、突然ドアが開き、中からエミが不思議そうな顔を覗かせた。


「クラージュ。どうしたの?そんなドアの前に立ってて。中に入らないの?今日もご飯あるけど食べていく?」


いつもと変わらない声。

そのことが、かえってクラージュの胸を苦しくさせる。


「え?ああ....そうしようかな」


いつもと変わらないエミは笑顔でクラージュを向かい入れ、いつも通りに椅子に座って待っててと言う。クラージュはエミの手伝いをしようとダイニングに行って料理を運ぶ。


「いつも疲れてるのにありがとう」


料理を運び終えて、クラージュ、エミとマリーはご飯を食べ始める。エミは今日の仕事のことを聞いてくるがクラージュはどこか気まずそうにいつも通りだったと言う。


「そっか。今日も平和で良かった。マリーもまだ小さいしなんか物騒なことがあったら大変だもんね」


マリーを見つめながら安心そうに言った後にあっと思い出したかのようにクラージュの方を見た。


「そういえば、今週末マリーの3歳の誕生日だけど今年もクラージュお祝い来るでしょ?」

「そうだった...今年は仕事が遅くまであるから難しいかな...」


警備員(パーチェ)の仕事だと濁したが、本当は明日からビダでの仕事に変わるためとは言えない。エミは悲しそうに顔を伏せ、残念そうにする。


「そっか...今年は2人なのね...毎年3人でお祝いしてたからちょっと寂しいね」


“毎年3人で”とエミは言ったが、本来ならマサも含めて4人で祝っていた。

マサのことを忘れていると実感して、心苦しい。マサのことを伝えたい。でも言ってはいけない。

クラージュはそんなジレンマを抱えたが、エミの笑顔を失うのは怖いとも思った。いつも笑顔でいて欲しい。

マサもクラージュもそんな思いでこの仕事をやっていたところもある。



夕食を食べ終えて、いつも通りにマリーと遊んでいたら、エミから泊まっていけば?と言われたが、クラージュはそれを断った。


"明日から仕事で出張に行くからしばらく遊びに行けないんだ"


クラージュは帰宅する前にエミにそう告げた。エミは一瞬言葉に詰まりながら小さくそうとだけ返した。

まだ幼いマリーは嫌だとクラージュの足にしがみつき、お仕事、行かないでと訴える。

クラージュはマリーの頭を撫でてすぐに帰ってくると言ったが、マリーは泣きながら駄々をこねる。そんなマリーを抱き上げてあやすエミの表情も寂しそうだった。


「ごめんね」


クラージュはそう言って家を後にした。

今のクラージュはエミやマリー、そしてマサのためにもやらなければならないことがある。

明日からの仕事に備えて早めにベッドに入ったものの、なかなか眠れなかった。

閉じるたびに、マサの最後の姿が浮かぶ。

やがて浅い眠りのまま、朝を迎えた。


翌朝、あまり眠れなかったクラージュだったが、これからの仕事に向けて気持ちを切り替えてビダに向かう。


ビダのゲートの前で軍人(ハーリス)からのセキュリティチェックを終えて、中に入る。ゲートの中は広場があり、そこには五十名ほどが集まっていた。クラージュもそこに加わり、指示を待つ。数分した後にビダの中から一人の男が出てきた。眼鏡をかけた長身の男で、整えられた髪と隙のない服装からも神経質そうな印象を受ける。どこか張り詰めた空気をまとったその男は、集まっていた人たちに向かって冷たい声で整列してくださいと言った。


「では、これより軍人(ハーリス)に入隊するための一次試験を行います」


てっきり今日から軍人(ハーリス)での仕事だと思っていたが、この男は一次試験と言った。クラージュは試験ってなんだと困惑したが、とりあえず話の続きを聞いた。


「まず、今から能力テストから始めます。あの森の中に行き、この実を取ってきてもらいます」


そう言って見せられた実はオレンジぐらいのサイズの白い色の実だった。


「この実は、ある特徴の木にしかありません。そしてその木にある実は一本につき二個しかない。君たちにはその木を見つけ出し、この実を取って帰ってくるのが最初の試験です」


ある特徴のと言われてもどんな木なのかも知らないクラージュだが、それはどの受験者たちも同じらしく、どんな特徴か教えて欲しいと声が上がった。


「それは教えられません。自分たちで"感じて"探し出してください」


その回答に色々と疑問視する声が上がったが、男は無視をして裏口のゲートから森に入るよう指示をした。受験者たちは裏口のゲートに向かうが、男はさも忘れていたかのように受験者たちに言い放つ。


「言い忘れていましたが、試験時間は二時間です。二時間以内に戻ってこない者は失格になります」


その言葉を聞いた受験者たちは一斉に走り出し、森へと向かった。クラージュも一緒に走り出して森の中へと入っていった。


森に入ったが、問題はどうやってある特徴のある木を見つけるか。受験者たちは一つ一つの木を見ながら探す。そして広大な森の中で木の実を探すため次第にバラバラになっていく。


クラージュは森の奥へと進んでいく。チッタの街を隠すために作られた森で、どの木も同じように揃えられてる。しかし緊急事態の場合の逃げ道の目印として市民にのみ教えられている木がある。それはこの森に生えている木とは違い、幹が細くなっているのが特徴だ。

この街の市民でもあるクラージュはその違いをわかっているので、自分が見たことのない木を探す。しかしいくら探しても見つからない。

制限時間もあるためクラージュは走りながら辺りを見渡すがどれも同じ木しかない。


クラージュは一旦立ち止まり、息を整えるように顔を上に向けた瞬間、上から人が降ってきた。


「うわっあぶねっ」


男は空中で回転しながら真下にいたクラージュを避けて地面に着地した。危なかったと言いながら着地した男は、どこかやんちゃな雰囲気をまとっていた。幼さの残る顔立ちだが、整った目鼻立ちは将来は端正な顔になることを思わせる。少し跳ねた無造作な短髪が、その性格を表すようだった。

そんな男はごめんねとおちゃらけた口調で言う。クラージュは何だこいつと怪訝そうに降ってきた男を見た。


「いやー、木の実探してたんだけど、なかなか見つからないからとりあえず木の上登って上から探そうとしたんだけど、ぜっんぜん見つからなくてさ」


男は参った参ったと言って頭を掻いていた。クラージュは時間も限られているので無視して木の実を探そうとその場を離れようとしたが、男はちょっと待ってと言ってクラージュの腕を掴み、一緒に探そうと言う。


「これは個人で見つけるものだから一緒には探せない」


クラージュはそう言い放ち、掴まれている腕を離そうとしたが、男はなんでよと不満そうに言いながらクラージュの腕にしがみついてきた。


「いいじゃんか。一緒に探そうぜ。二人で探した方が絶対早いよ」


頼むからぁと言われたクラージュはしがみついて離れない男をうざいと思いながらもこれ以上時間をかけられないと思い、一緒に探すことにした。


「俺、ノイギーア。よろしくっ」

「クラージュ。よろしく」


2人は森を歩きながらひとまず情報交換をした。

ノイギーアは森の上から見た感じだとどの木からも木の実らしき物は生えておらず、一面が緑だったみたいだ。クラージュも今まで探してきた木はどれも同じで木の実らしい物は見つかっていないと報告する。


「本当に白い色の実が生えてる木なんてあるのかぁ?」


ノイギーアは両腕を組みながら唸りながら歩いている。クラージュは森に生えている木を見るて考える。この森は街を隠すために作られた森。

つまり計画的に作られている。そんな森に特徴がある木なんて存在するのか?自然に生える可能性もあるが、果たしてそんな木をあの人たちは知っているのか。クラージュは木ではない別の何かに特徴があるのではないかと思い、足を止める。急に止まったクラージュにノイギーアも立ち止まり、どうしたの?と聞いてくる。


「なぁ、もしかしたら見た目でわかる木なんて無いのかもしれない」

「え?どういうこと?」


ノイギーアは言っている意味がわからないのか、首を傾げながらクラージュを見る。


「この森は街を隠すために計画的に作られた森だ。そんな森に特徴のある木なんて生えていると思うか?」

「んー、確かに、そうなのか?じゃどうやって探す?だよ?」


そこまではわからないと言い、再び考え始めるクラージュ。この試験はワフシュを倒すため、つまりハーリスになるための試験。

そしてあの男が言っていた"感じて"探し出せ。

クラージュはワフシュと戦ったことを思い出す。あの時は無我夢中だったため記憶が曖昧なところはあるが、ワフシュを目の前にした時に感じた身体にまとわりつくような不気味な気配、倒したあと灰になったワフシュ。



「なぁ?どうした?また考え込んで」


ノイギーアはワフシュについて知っているのか。クラージュはノイギーアに聞いてみた。


「ノイギーアは"ワフシュ"って知っているか?」

「ワフシュ、、?」


ノイギーアは誰?なにそれ?と言いながら考え込む。やはり知らないのかとクラージュは思った。

この世界は平和そのものである。反逆者ならまだしもワフシュは人間ではなく化け物だ。誰もがそんなものがこの世に存在するとは微塵も思わないだろう。ただ、皆んな国民を守る軍人(ハーリス)に憧れて試験を受けにきているのかもしれない。

ノイギーアもそのうちの一人の可能性もある。クラージュはワフシュについて話そうか迷っていた。


「クラージュ?なぁ、ワフシュってなに?教えてくれよ」


なぁなぁと言いながらしつこく聞いてくるので、クラージュは濁した言い方でワフシュについて話す。


「...ワフシュはその...不気味な感じの..物体みたいなやつ」

「え?不気味な感じ?身体がゾクゾクするような?」


まるで知っているかのような物言いにクラージュはやっぱり知っているのかと聞いたが、ノイギーアは名前は知らないと言った。


「ただ、俺の住んでた街にもたまに変な気配?こう身体に巻き付いてくる感じの不気味な人がいたんだよ。周りは全然わかってなかったけど」


ノイギーアは気持ち悪かったと言って自分を抱きしめるように身体を振るわせる。


「でも、それとこの試験になんか意味なんてあるのか?」

「多分だが、あの試験官は"感じて"探し出せと言っていた。もしかしたらあの気配を感じ取ってそこに実があるんじゃないかと思って」


ノイギーアはなるほどと言って掌を叩き、納得した。早速ノイギーアはその気配を探るべく目を瞑り、集中しはじめた。クラージュも同じく目を瞑り、ワフシュが纏っていた気配を探す。


右奥側に微かだが、気配を感じる。クラージュとノイギーアは二人揃って右を指差して、あっちだと言った。二人は急いで気配のする方へと走ると一つの木の前にたどり着いた。


その木も他の木と何ら変わりはないが、この木には明らかにワフシュの気配を感じた。クラージュはその木を見上げると枝の間に白い色をした実が挟んであった。クラージュは木を登り、挟まっていた実を二個取って木を降りた。一個をノイギーアに渡して二人はビダへと向かう。


「それにしても珍しい木の実かと思ったら、枝に挟まってただけののオレンジかよ」

「きっとこの試験のために置いたんだろうな」


ノイギーアは珍しい木の実かと思っていたみたいで取った実の中を開けてみたら、ただのオレンジを白く塗ったものと分かり、落胆していた。


「なんだよっ。街のみんなに自慢したかったのに」

「なんでノイギーアはこの試験を受けようとしたの?」


クラージュはワフシュを知らなかったノイギーアに質問をした。


「え?なんでってかっけぇじゃん!軍人(ハーリス)!国を守ってるって感じで」


ノイギーアらしい単純な理由だった。クラージュはワフシュのことを聞いて怖いとは思わなかったのかと聞いた。


「まぁ、実物を見てないからわからねぇけど、化け物を退治するとかもかっこいいじゃん!なんかワクワクしてきたぜ」

「そっか」


実際、本物のワフシュを見たらノイギーアがどうなるかはわからないが、クラージュは初めて見た時はあの見た目や凶々しい姿に立ちすくんだ。

あれはこの平和な世界にいていいものではなかった。


「さっ、早いとこビダに戻ろう。急がないと失格になっちゃうぜ」

「そうだな」

「ところで….ここどこ?」

「は?」


ノイギーアはマップを見ずに森の中で探し回っていたみたいだ。クラージュは呆れたようにちゃんと位置情報は確認しとけと言い、自分のマップを見てビダの方向を確認する。


「こんな広い森なんて来たことないからしょうがないだろ」

「いや、行ったことのない場所なら位置情報は常に確認するだろ」


二人は足早にビダへと戻った。


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