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始まり

翌日、いつも通りに仕事を始める。警備員(パーチェ)の仕事は街の見回り、市民の安全確認が主だ。クラージュとマサは街を歩きながら不審な人がいないか見回る。


「キャー」


突然、女の叫び声が響いた。クラージュとマサは顔を見合わせると、声のする方へ駆け出す。

叫んでいた女はその場に蹲って震えていた。2人はすぐに女に駆け寄り、何かに怯えている女に声をかける。


「なにがあった?」

「いっ...家の中に....知らない人が...」


女はそう言って家の方を指す。クラージュは指された家の中を一通り見たが、人の気配は無かった。外に出ると、まだ怯えている女の元に向かう。


「誰もいなかったです。その人はどこに行ったかわかりますか?」

「わ...わからない...でも..その人..かお...変だった...」

「顔が変?どういう意味だ?」


マサは眉をひそめて尋ねる。しかし、女はその顔が脳裏に焼き付いてるのか、それ以上言葉を続けることはできなかった。

とりあえず、他の警備員(パーチェ)に女を任せ、二人は侵入者を探す。しかし、なんの情報もないためどうやって探すか途方に暮れていた。


「顔が変ってなんだよ。これじゃさっぱりわからねーよ」

「一通り街中を見て回るしかないか。もしかしたら森に逃げた可能性もあるからそっちも探そう」


マサは多少の苛立ちを見せながらクラージュに愚痴る。クラージュはマサを宥めつつ街中を探したが、それらしき人は見つからない。一通り探し終えた二人は、森の中に行くためゲートまで向かう。


(チッタ)も高い塀で囲まれており、出入り口にはセキュリティーゲートも設置されている。これは反逆者(トゥーラ)の侵入を阻止するためだ。このゲートを通過するには、軍人(ハーリス)のセキュリティチェックまたはこの街の市民として手に埋め込まれているチップが無いと出入りができない。

クラージュたちはゲートの横にある認証パネルに手をかざすと扉が開き、街の外が見える。白に統一された街並みとは違い、辺り一面は緑に覆われている。だが、その木々もまた規則的に並んでいた。二人はそんな広大な森の中へ足を踏み入れた。


「なぁ、(チッタ)から出れると思うか?あのゲートを抜け出すなんて無理だろ」

「でも、街の中にはそれらしい人物はいなかった。それに今は偽のチップも埋め込んで潜入するやつだってたくさんいる」


各街の市民のデータ管理は完璧なはずだが、そこを掻い潜って偽物のチップを作って侵入するケースは多少なりあった。マサは反逆者(トゥーラ)たちの執着に呆れ、ため息を吐いた。

森に入って少し歩いていると何人かの軍人(ハーリス)が警備をしていた。この間の反逆者(トゥーラ)を探すためだ。クラージュは軍人(ハーリス)にさっきあった出来事を話し、その侵入者も一緒に探してもらうように頼んだ。


「この森は(チッタ)を守るカモフラージュ用って言ってるけど、本当広いよな」

「今更、何言ってるんだよ」


マサは呑気に言っているが、この森はあまりにも広大なためマップで常に自分の位置情報を確認しないと迷ってしまうほどの広さだ。万が一反逆者(トゥーラ)たちが大量に侵入してしまった時に市民や統治者たちは森に逃げ、彼らの目をくらませるために作られたものだ。市民や統治者たちは逃げ道用の経路は把握しているが、そこから外れたら市民たちですら彷徨ってしまう。


二人が森の中を歩いていると、左側から木の枝が折れる音がした。音がした方を見るとそこには黒いパーカーを着た男が立っていた。男はフードを深く被っており、顔が見えにくい。


「ちょっといいですか?」


マサはそう言いながら男に近づく。

どこか気味悪く感じたクラージュはマサを止めようと声をかけようとした。

男はマサが近くに寄ったタイミングでこちらを見た。顔は不自然なほどこけていて、開かれた目は黒く沈み込み、その奥で白いものがかすかに揺れている。顔はこちらを向いているのに視線は定まらず、それでいて確かにこちらを見ているような錯覚を覚えた。

マサは思わず一歩下がろうと右足を引いた。しかし、そのまま動かなくなった。


「マサ...?」


突然動かなくなったマサに違和感を覚えて呼ぶが返事はない。マサに近づこうとして足を動かそうとしたが、その足は動かなかった。マサが血を吹き出しながら倒れたからだ。


「マサっ」


慌ててマサに駆け寄り呼吸をしてるか確認するが目を開いたまま息をしていない。身体を揺らし意識を戻そうとしたが、マサの身体はぐらりと力なく傾く。刺された場所に視線を落とすクラージュは目を見開いた。マサの身体が腰のあたりからほとんど真っ二つになっていていた。

なにが起きたか理解ができず、マサを真っ二つにした男を見る。男はうめき声を上げながら身体を縮こませる。


「っっ」


身体が小さく震え、肩がわずかに持ち上がり、その動きに合わせて服の縫い目が裂ける。腕の筋肉が異様に浮き上がり、血管が皮膚の上に浮かび出る。袖口が引き裂かれ、細長く伸びた指が露わになった。

背中がゆっくりと反り返る。

その動きに耐えきれず、背中の布がわずかに破れた。

服の隙間から見える身体は、すでに人間のものではなかった。

クラージュの身体にまとわりつくような不気味な気配を感じた。唖然としながら、その光景をただ見ていた。これは果たして人間なのか、一体何が起きているのか。クラージュは混乱した頭で考えるがなにもわからない。ただその場に立ちすくむだけだった。


"逃げろ"


頭の中でマサの声が響いた。クラージュは震える足で(チッタ)に逃げようとするが、マサを殺した化け物は追いかけてくる。

マップを見る余裕もなくただひたすら森を走り続けた。化け物は木々を薙ぎ倒しながらクラージュに迫ってくる。重い足音と木が折れる鈍い音がすぐ後ろで聞こえてくる。

このままでは自分も殺される。

クラージュは意を決して近くに落ちていた太い枝を持ち構える。


こんな頼りないものでなにができるのか。

だが、このまま無惨に殺されるぐらいなら

ーーマサの仇を討つ。

クラージュは枝を強く握りしめる。

化け物はクラージュに向かって腕を振り下ろすがそれを避けて、叫びながら化け物に向かって枝を振り上げた。

枝はクラージュの意思を呼応するように光に覆われ、剣のように鋭くなり化け物の身体を切り裂いた。真っ二つにされた化け物はそのまま灰となり消えた。


なにが起きたかわからずクラージュは灰になった化け物を唖然とした表情で見た。


「死んだのか...?」


呆然と立ちすくんでいたクラージュだったが、はっと我に返る。

マサーー。

マサを迎えに行こうとして歩こうとした。


「あの子ならもう回収したよー」


突然、間延びした声が木の上から聞こえてた。艶やかな長い髪を靡かせながら木から飛び降りてきたのは小柄で可愛らしい女だった。どこか少年のような軽い雰囲気をまとい、女は軽やかで無駄がない動きで、クラージュの目の前に綺麗に着地した。

警戒したクラージュは再び枝を持って女に枝先を向ける。


「怖がらないで。大丈夫。安心して?私は仲間だよ?」

「誰ですか?」


女は敵ではないと言っていたが、(チッタ)で見たことがなかった。そして今のクラージュには信用できない。あの化け物だって元は人間だったのだから。


「そんなピリピリしないでよ。てか、その枝でこいつ倒したの?凄いね!君はスヴェードが使えるんだ」

「意味がわかりません」


先ほどから意味のわからないことを言っている女は嬉しそうに話を続ける。クラージュは警戒を緩めないで女を睨みつける。


「え?知らないで使ったの?ますます凄いじゃん!君は素質があるね」


そんなクラージュとは正反対に女は笑顔でちょっと待っててと告げて、その場で左腕に付いているハンディと呼ばれる携帯を操作してどこかに電話をし始めた。

そうなんですよ。いい人材が見つかりましたと、女は誰かとの話をしている。

電話を切って、にこっと笑いながらこっちに来てと言い歩き始めた。クラージュは未だに信用できていないため渋っていたが、女は気にせずにクラージュに近づき、腕を掴みながら歩く。


「腕、離してください」

「えー?だって君逃げるでしょ?」


女は疑うような目を向けるが、クラージュは逃げませんと言って腕を引き剥がし、あとについていく。クラージュはマサがどこにいるか聞くが、女はついてきたらわかるよと言って、歩いて少しした場所に置いてあった小柄な体には似合わないような大型のバイクに跨り、後ろに乗ってと言ってきた。クラージュは渋々後ろに乗りそれを確認した女はバイクを走らせた。


森の中を通り抜け、着いた先はクラージュたちの住んでいる(チッタ)だった。女とクラージュはバイクから降りて、何もない塀に向かって歩き始める女をクラージュは呼び止めた。


「ここはゲートではないです。ゲートもっと東側..」

「ここでいいんだよ?ちょっと待ってて」


女はそう言ってただの塀に向かって顔を近づけた。塀に付いている小さなセキュリティカメラは女の顔をチェックをして緑のマークが表示さる。数秒後、ただの塀にドアが出てきた。それを当たり前のように通る女に慌ててついていく。


「一体なんですか。あのドアは」

「んー?これは一部の人しか知られてないドアだよ?なんか秘密組織みたいでかっこいいでしょ?」


女はふざけているのかこちらを振り返り大きな二重の目をウインクするように片目を瞑った。美少女のその仕草は一般の男性なら思わず頬を染める破壊力だが、クラージュはそれを無表情で素通りして、先に進む。無視するなーと言いながら女はエレベーターに乗り最上階で降りた。いくつかある内の一つドアの前に立った。


「ここだよ。じゃ私はこれで帰るけど…あとはよろしく!」

「貴方は入らないんですか?」

「入らないよ。私はこれから用事があるし」


「それにちょっと苦手なんだよね。あの人」


小声でそう言いながら、苦い顔をしていた。

女はそそくさと逃げるように頑張ってと言って去っていった。クラージュは疑いながらも女の言われた通りに一人で部屋の中に入って行った。

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