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ブラッディ―メイデン  作者: しましまましま
第Ⅰ章 プリンセス オブ ブラッド

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第90話 ドワーフの鍛冶師

 戦闘の後、ライカはポーラーに機械の男のことを詳しく話した。

 金属の骨格。歯車と管で構成された体。魔術式の紋様が刻まれた肌。科学と魔術を融合させた、人間の形を模した機械。雷撃の魔術で一時的に停止したが、魔術式が再起動して動き出したこと。そして、上空に現れた魔術式に包まれて姿を消したこと。

 ポーラーは話を聞きながら、何かを考えこむように眉をひそめていた。


「科学と魔術の融合……。わたくしの知識では、そのような技術は聞いたことがありません。アンティグア王国にはそのような技術を持つ者はおりません。ですが、機械のことであれば、ドワーフの鍛冶師に心当たりがあります」


 ポーラーが口にしたのは、テリンスという街の名前だった。リファランから南東に数日ほどの距離にある。アンティグア王国の山岳都市だ。山の麓に広がる小さな街だが、腕の良いドワーフの鍛冶師たちが集まることで知られている。


「テリンスにシュミットという鍛冶師がいます。ドワーフの中でも特に名の知れた方で、機械や金属に関してはこの国で一番の見識を持っていると聞いています。あの男の体の構造について、何か分かるかもしれません」


 ライカは頷いた。イルドブルへの道を少し逸れることにはなるが、あの男の正体を知る手がかりは一つでも多く欲しい。何も分からないまま先へ進むのは危険だ。

 リューネットがメガネを押し上げた。


「あの機械の男の体に刻まれていた魔術式は、古代語で記されていました。魔術式の専門家であれば解読できるかもしれませんが、機械そのものの構造はドワーフの鍛冶師の方が詳しいでしょう。行く価値はあります」


 ラミーナも頷いた。


「あの男がまた現れた時のためにも、弱点を知っておきたいです」

「うん。ポーラー王女、ありがとう。テリンスに寄ってから、イルドブルへ向かうね」


 翌朝、ライカたちはリファランを発った。

 街道を南東へ進むと、次第に景色が変わっていく。平地が減り、岩肌が露出した丘陵きゅうりょう地帯に入った。道の両脇に灰色の岩山がそびえ、空気が乾いてくる。アンティグア王国は山岳地帯と森林が広がる国だ。リファランのような平野部を離れると、すぐに険しい地形が現れる。

 時折、鍛冶の煙が山の向こうから立ち上るのが見えた。テリンスが近い。

 テリンスは、山の麓に張り付くように広がっていた。石造りの建物が斜面に沿って段々に並び、あちこちから金属を叩く音が聞こえてくる。街の規模はリファランに比べれば小さいが、活気がある。鍛冶師たちの工房が軒を連ね、武具や工具を売る店が通りの両側に並んでいた。

 ドラコの日記にも、テリンスのことは書かれていた。フローレンスの事情でルートを変更した際に、テリンスを経由することになったのだ。ドラコは「テリンスには腕のいいドワーフの鍛冶師がいると聞いたことがある。新しい銃器を作ってもらいたい」と書いていた。結局、その時は別の事情で寄れなかったようだが、ドラコが行きたかった鍛冶師の元に、今、ライカが代わりに訪れようとしている。不思議な巡り合わせだった。

 シュミットの工房は、街の奥まった場所にあった。他の工房よりも一回り大きく、煙突から黒い煙が絶えず昇っている。入口に掲げられた看板には、金床とつちの紋章が刻まれていた。長年のすすで黒ずんだ壁が、この工房の歴史を物語っている。

 ライカが扉を開くと、中から太い声が返ってきた。


「開いてるぞ」


 扉を開けると、熱気が押し寄せてきた。炉の火が赤々と燃え、壁一面に工具が掛けられている。金属の塊や半完成の部品が所狭しと並んでいた。

 奥に、一人のドワーフがいた。

 シュミットだった。背丈はライカの腰ほどしかないが、腕の太さは常人の倍はある。白い長髭を胸まで垂らし、革のエプロンをつけている。鍛冶の煤で顔が黒ずんでいたが、小さな目は鋭かった。

 シュミットはライカたちを一瞥し、それからライカの帽子と白い髪に目を止めた。一瞬、何かを認識したような表情が過ったが、すぐに消えた。


「客か。見慣れない顔だな。何の用だ」

「わたしはライカ。こちらはラミーナとリューネット。ポーラー王女からの紹介で来ました。機械について、お聞きしたいことがあって」


 シュミットの目が僅かに細まった。ポーラーの名前を聞いて、警戒が和らいだようだった。作業台の上の工具を脇に寄せ、椅子に腰を下ろした。顎鬚を撫でながら、ライカを見上げる。


「王女殿下のご紹介か。まあ座れ。話を聞こう」


 ライカは向かいの椅子に腰を下ろした。ラミーナは立ったまま壁際に寄り、リューネットはライカの隣に座った。

 ライカは機械の男のことを話した。金属の骨格と歯車で構成された体。人間の形を模した灰色の肌。狙撃銃の弾丸すら貫通しない硬度。魔術式の紋様が体中に刻まれていたこと。雷撃の魔術で一時的に停止したが、魔術式が再発動して再び動き出したこと。そして、空中に現れた魔術式の光に包まれて消えたこと。

 シュミットは腕を組み、黙って聞いていた。話が終わると、しばらく沈黙が続いた。炉の火が爆ぜる音だけが響いている。


「……機械の体に、魔術式か」


 シュミットが低い声で呟いた。顎鬚を指で梳きながら、考え込んでいる。


「ワシは長年、金属と機械を扱ってきた。ドワーフの技術は蒸気機関を中心に発展してきたが、お前さんが言うような、魔術式と科学を融合させた機械の体なんぞ、ワシの知識の範囲にはない。ドワーフの鍛冶技術でも、そんなものは作れん。金属の体に魔術式を刻んで動かすなど、ドワーフの常識では考えられんことだ」

「では、心当たりは全くないですか」


 リューネットが尋ねた。シュミットは少し間を置いてから、口を開いた。


「一つだけ、気になる噂がある」


 ライカの瑠璃色の瞳が、シュミットを真っ直ぐに見た。シュミットは炉の火に一瞥をくれてから、低い声で続けた。

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